FAの世界

1章:楽園の恋 - 2 -

 ふたたびアーシェルを見たとき、彼という存在を強く意識した。
 世にもまれな輝く麗人は、決して幻想ではなく、確かにここに存在しているのだ。
 ――訳が判らない。
 虹は今、仄青い湯煙の漂う広い温泉に胸まで浸かっていて、頭上には星のちりばめられた果てしのない夜空があり、かる壮麗な巨大星雲が宝石のように輝いているのだ。
「……何だこれ……」
 唖然呆然、虹は、ぽかんと空を仰ぎ見るしかない。
異国とつくにからいらしたばかりで、混乱されていらっしゃるのですね」
 アーシェルは安心させるように優しくほほえんだ。
「え……」
 ――こんなところにきた覚えはないのだが。
 幻覚イリュージョンでも見ているのかと疑いそうになるが、冴えわたる五感が覚醒世界だと訴えてくる。それに、官能的なキスの余韻が、くちびるにまだ残っている……ひとさし指で触れると、碧い眼差しにくちびるを愛撫されるのを感じた。
「愛しき方。私は貴方様の水晶もり、忠実なしもべでございます。何なりとお申しつけください」
 そっと掌を重ねられて、虹は呼吸を止めた。しかも彼は、その手を壊れものを扱うかのように優しくもちあげて、甲に唇を押し当てた。
 凍りつく虹を、魔性の瞳が見つめ返してくる。
 星明かりに縁取られた玲瓏れいろうたる姿……その美しさと、正体不明の困惑に慄然りつぜんとなる。
「ですが……餓えが限界です。どうか、その芳醇な蜜を授けてくださいませ」
 深い渇望と憧れの滲んだ声だった。夜闇のなかで尚明るい眼差しが餓狼がろうのようで、虹は得体のしれぬ恐怖に駆られた。
「……芳醇な蜜とは?」
「水晶の君の可憐な双粒ふたつぶからほとばしる、甘くて白い乳でございます」
「ち、乳? でません、そんなもの」
 彼にとられている手を引き抜こうとしたが、ぐっと強く掴まれた。
「ですが、とてもいい匂いがします。きっと、甘くて濃くて……果実にかけても乙なのでしょうが、先ずはどうか、のまま飲ませてくださいませ」
 仰ぎ見るように、懇願の眼差しを向けられ、虹のくちびるが戦慄わなないた。
「ちょっと待ってください、僕ちょっと混乱していて、何がなんだか」
「千年お待ちしましたよ、水晶の君」
「千年?」
 どういう意味だろう? 千年もの間、虹を待っていた?
 完璧な美貌は若々しく、目にも口元にもしわ一つなく、二十代半ばに見える。しかし、ありえないと思いながら、碧い瞳の奥処おくかに宿る深い叡智と霊光オーラに、幾世紀もの年齢を感じた。
「どうか、くちびるをつけるお赦しをくださいませ」
 アーシェルは柔和な表情のまま、つ、と虹の胸に掌をすべらせた。ひっ、と虹はおののく。
「あの……?」
 薄い胸を喘がせると、宥めるように、ゆっくりと触れてくる。長い指先の合間からのぞく乳首が、いつになく尖っているように見えた。小さな器官に全身の血潮が集まっているみたいで、そっと指に挟みこまれたとき、虹は嬌声をこらえて唇を噛み締めた。
「あぁ、だめ……っ」
 色づいた突起を親指の腹でくりくりと擦られて、えもいわれぬ悦楽に貫かれる。身をよじって逃げようとするが、力の入らない躰をくねらせたに過ぎなかった。
 青碧せいへきの眸が、じっと虹の痴態を見ている。
 美しくも捕食者めいた眼差しに捕らわれ、虹は己が無力な仔羊になった気がした。
 アーシェルはその美貌をゆっくりとさげ、舌を伸ばした。勃ちあがった乳首を、つんと突く。
「ぁっ!?」
 たったそれだけの刺激で、虹は視界に火花が散るほどの快感に襲われた。
「水晶の君……あぁ、千年欲した、これが……ようやく味わえる……っ」
 アーシェルは恍惚の表情で呟いた。形の良い指で、柘榴色の肉粒をこねて、摘まみ、そっと摩る。
「あぁっ、んっ! やめて……っ」
 繊細な指の動きのもたらす官能に、虹は絶望的な恍惚エクスタシーを覚えた。嫌悪との板挟みになりながら、羞恥に濡れた声は、かすかに欲望もまじっていた。
「なんて甘い匂い……水晶の君……早く、蜜を……っ」
「だめですっ、手を離して!」
 甘痒い疼痛とうつうに苛まれ、胸の奥が熱く疼いている。人生最初の乳首にあるまじき性の戦慄わななき、高まる射精感に戦慄せんりつする。こみあげる危険な感覚に抗おうとしたが、
「ぁっ!?」
 とぷっと白いものが、乳頭から飛び散った。
 唖然となる虹を、アーシェルは昏く翳った瞳で見つめたまま、くちびるの端に付着したそれ・・を、艶めかしく舌で舐めとった。
 ぞく……っとした震えが、虹の全身を貫いた。
 心臓を鷲掴まれたような衝撃に襲われて、呼吸の仕方が思いだせない。鼓動が強く跳ねては止まり、また跳ねて止まるを繰り返す。
「何、今の……」
 虹は震える声でいった。
 美貌をゆっくりと伏せるアーシェルを見て、このあとに何をされるのか、嫌でも想像がついた。
「だめ……」
 渾身の力で彼を押しのけようとするが、実際は、たくましい肩に軽く手を添えただけだった。止める間もなく、花びらのように美しいくちびるが、虹の乳首をそっと挟みこんだ。
「ぁっ!」
 反射的に腕をつきだすが、びくともしない。鋼鉄の如し膂力りょりょくに跳ね返され、あるはずのない乳の水脈みおを追って、じゅっじゅっと吸われてしまう。
「ひぅっ、嘘っ、あ、あぁ!!?」
 混乱の極致に突き落とされながら、快感のあまり、涙が溢れた。
「嗚呼、水晶の君っ……なんて甘い、美味しい……っ」
 アーシェルは感極まったように囁き、飽かず舐めしゃぶる。赤子が吸いつくのに似ているが、成人した男の強さで、よこしまな興奮もあらわに吸いついてくる。
「あぁっん、やめっ……! 放せぇ! あぅ、んッ!」
 左を吸われ、今度は右を吸われ、また左を吸われる。吸われるほどに、欲望の波が体内を渦巻いて流れ、躰が疼いた。
「ふぅっ、ぃやッ……ンン、離して!」
「……うまし蜜に感謝を……御恵みめぐみ深き、我が水晶の君。嗚呼、至純の霊液でございます……ンッ」
 恭しく囁きながらアーシェルは、淫らがましく乳首を吸いあげる。もう片方もくにくにと指で揉みしだき、突起からあふれた乳が白い筋をひいた。
 ぽたり……ひとしずくの乳が湯に溶けた瞬間、温泉はきらきらと輝き、仄碧い光を明滅させた。
 不思議な現象だったが、考えている余裕はなかった。
 背をしならせ、悪徳の意識と愚かしさと不安とかすかな期待のまじりあう、暴力的な悦楽にいきりたっていた。
「ああぁんッ!!」
 輝かしい絶頂の一瞬一瞬が絶えず繰り返されて、視界が白く ける。
 まったき解放感――双粒ふたつぶから乳を溢れさせながら、ふぅっと魂が躰から遊離していく思いがした。