超B(L)級 ゾンBL - 君が美味しそう…これって○○? -

4章:新人類 - 5 -

「でも……」
 視線の強さに怯んだ広海は、落ち着きなく視線を宙に彷徨わせた。
「ロミ、ほしい」
 切羽詰まった口調でいうと、レオは素早く貫頭衣をめくりあげた。素肌に手を這わせながら、ふと眉をひそめる。
「……アルコールで消毒した?」
 広海は緊張に強張った。谷山に乳首を舐め回されたあと、部屋にあった除菌シートで、念入りに拭いたのだ。
 レオは怒りを押し殺したように黙りこむと、胸の先端を指でひっかいた。
「んぁっ」
 反射的に仰け反る広海を眺めおろし、差しだされた胸に顔を沈める。
 乳首をちゅっと吸われた瞬間、腰に愉悦がはしった。
 そんな場合じゃないのに、淫猥いんわいな躰は、簡単に火がいてしまう。
「レオ……ッ」
 広海はレオの髪に指を差し入れ、弱々しく首を振る。このままでは溢れてしまう――
「飲ませろよ……頼む」
 熱を帯びた金緑のひとみが、上目遣いに訴えてくる。葛藤に揺れる広海を見つめながら、切なく震える乳首をそっと指で挟みこんだ。
「っ」
 淫らな刺激に、広海はきつく唇を噛みしめる。
 赦しを得たと思ったのか、レオは、息を喘がせる胸に顔を伏せた。片方を指で弄りながら、もう片方の乳首に舌を伸ばす。白い歯に甘噛みされ、乳暈ごと強く吸引される感覚に、広海は屈した。
「あ、あっ、んぁ……ぁ……ッ」
 咥えこまれた乳首から、まるで射精のように白蜜が噴きあがる。
 かつえる遭難者のように、レオは喉を鳴らして飲み干していく。こぼすまいと唇をぴったりつけて、熱に浮かされたみたいに夢中になって吸いあげている。吸って、舐めて、甘く歯を立て……味わい尽くしてから、吐息と共に唇を離した。
 解放された乳首から、一筋の白蜜が滴り落ちる。
 淫らに濡れそぼった突起から、広海はそっと目を逸らした。全身が熱い蜂蜜になったみたいで、切なく疼いてたまらない。
「はぁ……こっちもいい?」
 右の乳首をそっと摘まれて、広海はびくりと怯んだ。
「まだ……?」
「ン……飲みたい」
 拒むべきか迷っているうちに、ぷっちり盛りあがった蜜を、尖らせた舌に舐めとられた。
「ぁ……」
 あえかな声を引き金に、舌は激しさを増す。膨らんだ胸を揉みしだきながら、紅い粒をしゃぶりたて、甘噛みされると、射精するように乳が迸った。
「んぁっ、あぁッ!」
 広海はレオの肩を掴んだ。きつく掴んだつもりが、そっと手を添える程度の力でしかない。快楽の波に攫われそうになって、内腿をすりあわせてしまう。
 それに気がついたレオは、脚の間に膝をねじこみ、股間を刺激しながら、もっとよこせとばかりに強く吸いあげる。容赦なく舐め溶かされ、広海は啜り泣いた。
 左右の乳首を代わる代わる舐めしゃぶり、少しも滲まないと判ると、ようやくレオは顔をあげた。
「……ン、ごちそうさま」
 濡れた唇を親指でぬぐい、満足そうに、嫣然えんぜんと微笑する。
 艶めいて、美しく明るんだ表情に、思いがけず見惚れてしまい、広海は誤魔化すように視線を逸した。
 空腹を満たしたレオは、部屋の硝子棚を物色し始めた。何かを探しているようで、ガチャガチャと器具の音が鳴る。間もなく、注射器と飴色の瓶を手に戻ってきた。
「何それ?」
「次はロミの番。ドーピングしてやるから、腕だして」
「ドーピング?」
 聞き返しながら、広海は素直に腕だした。
 レオはやたら慣れた仕草で広海の腕の静脈を確かめ、アルコール液で消毒をし始めた。
「レオ、注射できるんですか?」
「おう」
「何の注射ですか?」
 恐々訊ねる広海を見て、レオは、謎めいた笑みを浮かべた。
「インフルエンザの予防接種より効果あるオリジナル・ブレンド」
「?」
「アドレナリンや栄養、糖分を補給するナノマシン。精神機能を向上させるヌゥートロピクス、クロルプロマジン塩酸塩、それからベンゾジアゼピンを少々」
 なんのことやらさっぱり判らない。
 訝しげな顔つきでいた広海は、腕に冷たい針が触れると、慌てて視線を逸らした。針が肌に刺さる瞬間を見るのが、昔から苦手なのだ。
 痛みに身構えていたが、レオの手際は、感動的に素晴らしかった。微塵も痛みを感じなかったのだ。
「すごい、ちっとも痛くなかった」
 感動したようにいう広海に、レオは覆いかぶさった。
「抱きあげるぞ?」
 レオは子供を抱きあげるように、片手で広海を持ちあげた。背は高くないとはいえ百六十センチある男子高校生を、軽々と持ちあげられる彼の膂力りょりょくは、人間離れしている。
「重くありませんか?」
「ヘーキ。掴まってろよ」
「はい」
 早くも薬の効果が顕れ始めたのか、躰に力が多少戻ってきた。自分の意思で、レオの頸に腕を回すことができる。
「この警報は何なんだろう」
「感染者隔離区域のロックが解除されたらしい」
 広海はぎょっとした。
「どうして?」
「さぁな。俺が侵入してすぐ警報が鳴ったから、気づかれたのかと思ったけど、違ったみたいだな。とにかく逃げるぞ」
 しかし、廊下を走って間もなく、鉄製の堅牢な扉に阻まれた。横に電子制御板と、指紋認証、網膜認証のカメラが設置されている。
 非常事態により、扉という扉に強制ロックがかけられたのだ。
 広海は不安に駆られたが、レオは、冷静に機器を一瞥した。電子音がピッとなり、解除されたことを示す緑色の光が点灯した。
「どうやったんスか!?」
 広海は驚いてレオを見たが、彼は正面を向いたまま、至って冷静に、
「解除した」
 果たして念力なのか、神の御業なのか、ともかく二人は立ち止まることなく走った。
 狂気じみた悲鳴にまじって、奇っ怪な唸り声、身の毛もよだつ断末魔、咀嚼音が至るところから聞こえてくる。
 こうなってはもう、感染を止める手立てはない。
 銃で武装した兵士が、仲間を喰っているのだ。
 通路は点灯した緊急ランプに照らされ、広海とレオ、倒れている人、それを貪る感染者――何もかもを朱く染めている。
 前方にある除染室の強化硝子に、突然掌が張りついて、ひっと広海は小さく悲鳴をあげた。防音で声は聞こえないが、誰かが必死に喚いている。
 通り過ぎる瞬間、男と目が遭った。見覚えのある顔だ。監視室にいた研究員の一人だ。黄色く濁ったガスが充満するなか、苦しげに藻掻いている。
 広海がレオを窺うと、彼は正面を向いたまま、欠片も除染室に注意を払っていなかった。広海は後ろめたい気持ちで、そっと顔を俯けた。
 鈍重になりかけた意識は、レオが急に立ち止まったことで、呼び醒まされた。正面を見て、思わず蒼白になる。
 なんてことだ――恐らく致死性のガスが、天井から噴射され始めたのだ。突っこめば、先程の男と同じ運命を辿る事になる。
 逃げ道を探して視線を彷徨わせた時、十メートルほど背後にある扉が開いて、野上が顔をのぞかせた。
「こっちだ! 早く!」
 レオは広海を抱えたまま、扉に向かって走った。