超B(L)級 ゾンBL - 君が美味しそう…これって○○? -

4章:新人類 - 3 -

 突然、部屋に入ってきた私服姿の谷山を、広海は茫然と見つめた。
「谷山さん……」
 どうしてここへ? 扉のカードキーを所持しているのか? メディカルチェックは終わったのだろうか?
 幾つもの疑問が同時に湧きあがった。
 谷山は部屋を軽く見回すと、小狡そうな目つきで寝台に近寄ってきた。
「手伝ってやるよ」
 そういって、困惑している広海の肩を掴み、いきなり押し倒した。貫頭衣の裾をめくられそうになり、広海は慌てて抵抗した。
「何するんですか!?」
「精液採取するんでしょ? 早くしないと野上サン、戻ってきちゃうよ?」
「ちょっと!? 野上さっ……ぐッ!?」
 叫ぼうとしたが、口にガムテープを張られた。谷山は、暴行常習犯のような手際の良さで、広海の両手首に紐を巻きつけ、寝台に結んだ。
「ン――ッ!」
 手首に走った激痛で、目から火花が飛び散る。涙目で藻掻く広海を見て、谷山は興奮したように笑った。
「暴れると怪我するよ」
 鈍色に光る刃を見せつけて、広海が怯んだ隙に、貫頭衣に鋏をいれた。
 布が裂ける音と共に、ひんやりとした空気が素肌に触れる。あっという間に半裸に剥かれて、露わになった胸に、生々しく手を這わされた。
「んぐっ」
 心底嫌なのに、刺激に弱い躰は、官能を拾ってびくびくと撥ねてしまう。
「野郎なんだけど……なーんか、イケナイことしている気分になるなぁ」
 追い詰められた小動物のような、か弱く震える姿が、谷山の嗜虐心を煽った。肉づきのよい胸を、いやらしい手つきで揉みしだく。
「んん゛ッ」
 乳首をきゅっと指で挟まれると、射精感が突きあげて、とろりと蜜が溢れでるのが判った。
「すげぇ、マジでおっぱいでんの?」
 谷山は弾んだ声をあげると、硝子のビーカーを掴み、胸に押しつけた。
「んぐ、ん――ッ」
 視界が屈辱に染まる。気持ちに反して白蜜は溢れでて、ビーカーに流れていく。
「あれ、精液を採取するんだっけ……まぁいいか」
 独りごちながら、谷山はビーカーの角度を調節している。
 溢れた白蜜が、脇の下へ流れ落ちるむず痒さに、広海はくぐもった声をあげた。
「こんくらいでいっか?」
 ビーカーをサイドテーブルに置くと、谷山は、強引に広海の脚を割り開いて、膝をねじこんできた。
「んんっ!?」
「じっとしてろよ、暴れると、間違えて噛み千切っちゃうかもしれないぜ」
 谷山は、ふざけてガチッと歯を鳴らした。
 おののく広海を満足げに見下ろし、身体の線を撫でおろしてから、ゆっくり胸に顔を伏せた。
「は――……俺も変態なのかもな。お前の匂い、ヤバいくらいクるんですけど」
 白蜜を滲ませる紅い肉粒の傍で、陶然と呟く。
 ぞぞぞ……っと広海の背筋に悪寒が走る。全力で藻掻くが、寝台の軋んだ音が鳴るだけで、ねっとり濡れた熱い粘膜に包みこまれた。
「ん゛――ッ」
 反射的に仰け反る広海を押さえつけ、谷山は一心不乱に舐めしゃぶる。
 嫌でたまらないのに、膨らんだ乳首を、熱い粘膜のなかで形が変わるほど、めちゃくちゃに捏ね回されると、躰は勝手に昂っていく。
 洟をすする広海に気がついて、谷山は咥えていた乳首から口を離した。兎のように赤くなった両目を覗きこみ、にぃっと口角を歪ませた。
「いいね~、その顔。すげーそそられる。普通につわ」
 愉しげに笑う谷山が、醜悪な怪物に見えた。自分がどれほど歪んだ笑みを浮かべているのか、彼は気づいていないのだろうか?
「ん゛、んんっ……!」
 再びむしゃぶりつかれ、聞くに耐えない淫靡な水音が、無機質な部屋に反響した。
 胸に柔らかな髪が触れてくすぐったい。感じたくないのに、嫌なのに、どうしても放熱を堪えきれない。
(嗚呼……ッ)
 絶望に浸されながら、湿った口内に吐精した。
 びくびく震える広海の胸にむしゃぶりつき、谷山は、喉を鳴らして嚥下しながら、反対の乳首も指で捏ね回して、さらに蜜を強請る。
「んぅッ……んんん」
 感じるまいとし、広海は必死にかぶりを振る。ぎしぎしと簡素な寝台が悲鳴をあげている。と、いきなり両脚を持ちあげられ、尻が浮きあがった。
「っ!?」
 あらぬところを凝視されて、広海は恐怖した。足を蹴りあげようとするが、谷山は信じられないほどの力で広海の大腿を押さえこみ、股間に顔を埋めた。
「ン゛――ッ!」
 下着にふわっと温かい息がかかり、じゅんと濡れて染みが拡がる。はぁはぁと荒い呼吸を立てながら、谷山は唇を押しつけてきた。
(嫌だっ!!)
 きざしている性器にそっと歯を立てられた時、野上が部屋に飛びこんできた。部屋の惨状を見て顔をしかめ、
「何をしている!」
 鬼の形相で谷山の肩を掴んで、振り向かせた。
「手伝ってやってたんだよ」
 谷山はにやにやしながら、降参というように両手をあげた。
「正気か? こんな真似をして、一体何を考えているんだ?」
「人のこといえるのかよ。お前だって同じだろ。変態」
 せせら笑う谷山を、野上は射殺さんばかりにめつけた。
 自分の白衣を脱いで、泣いている広海の躰にかける。憤怒を堪えるように唇を噛み締めながら、広海の両手首の紐をほどき始めた。
「大義名分ってやつだな。広海クン、そいつの股間が膨らんでいないか、気をつけた方がいいぜ」
 谷山は陰険で悦に入った声でいった。興奮した調子で続ける。
「ビーカーさしだして、精液ください! だもんなぁ、最高に笑える」
 もの狂いじみた笑い声をあげる谷山を見て、広海は心底ぞっとした。元から傍若無人な男だったが、もはや精神に異常をきたしているとしか思えない。
 野上は忌々しそうに唸り、
「でていけ! もう広海君に構うんじゃない」
 殴り飛ばしそうな勢いで叫んだ。
「いいのかよ、採取してやったんだぜ? おっぱいだけどー」
 谷山は、ビーカーを軽く振り、傍机に置いた。野上が掴みかかろうとすると、ひらりと身を躱して、笑いながら部屋をでていった。その後ろを野上は追いかけようとしたが、ぐっと悋気を堪え、広海を振り向いた。口元のテープを丁寧に剥がすと、顔に悔いを浮かべて頭をさげた。
「……すまない、こんな目にあわせて」
「っ、もう、やだ……ッ」
 ぶるぶると震えながら、自分の身体を抱きしめて縮こまる広海を、野上は痛ましい目で見つめた。
「本当に申し訳ない……せっかく協力してくれるといったのに、辛い思いばかりさせてしまっているね」
「……なんで、精液が必要なんですか?」
 広海は啜り泣きながら訊ねた。
「誓って医療目的だよ。広海君は、なんらかの遺伝子の特異性によって、疾病への抵抗力を獲得しているんだ。僕らはなんとしても……その真理を探りたい」
 その口調には、解明に努めようとする科学者の本心と、慚愧ざんきするような響きが共存していた。
 広海は答えられなかった。共通の目的があったはずなのに、今は苦し紛れの方便に聴こえてしまう。野上自身も、それに気がついて困惑しているように見えた。
「今日はもう、これ以上君を悩ませないと約束するよ。何か食べるかい?」
 静かに首を振る広海を見て、野上は哀しそうな顔をした。
「判った。少し眠るといい……もし、神経が昂ぶっているなら……」
 野上は言葉の途中で、薬品棚をごそごそ触り始めた。紙コップにウォータサーバの冷水を注ぎ、適量の睡眠導入剤、ヒドロキシ酪酸らくさん、それから麻酔薬を溶かしてから、広海に差しだした。
「飲むといい」
 広海は紙コップを受け取りながら、野上を見た。
「……ビーカーの中身、捨ててください」
 消え入るような声でいうと、野上は苦々しい顔になり、頷いた。
「そうするよ。先ずは血液の解析から始めてみよう。それだけでも、様々なことが判るはずだから」
 広海はコップに視線を落とし、少し躊躇ったが、中身を飲み干した。
「疲れた……」
 無機質な寝台のうえで震えている広海のその声は、蜉蝣かげろうの羽よりもかすかで、あまりに弱く、儚かった。
 野上の顔にさっと罪悪感がのぼった。罪から目を背けるように、そっと広海から視線を逸し、傍机にタオルや、折り畳まれた薄青の貫頭衣を置いた。
「良かったら、これに着替えて。その……」
 何かいおうとしたが、続かなかった。今はどんな言葉も、言い訳にしかならないと思ったのだろう。
 気まずい沈黙が挟まり、野上はもう一度謝罪の言葉を述べてから、ビーカーを持って静かに部屋をでていった。
 一人になると、広海は口を手で覆った。
 熱いものがさざなみのように押し寄せてきて、堪えきれない嗚咽と共に、ぼろぼろと大粒の涙が頬を滑り落ちた。
「ふぅ……っ……うあぁ~……っ」
 ここへきたしまったことに、忸怩じくじたるものを感じる。もう二度と、レオに会えないかもしれない。
 レオ、レオ、レオ、レオ――彼の名前を、そっと撫でるように、何度も心のなかで唱えた。
 心底申し訳ないという気持ち、ままならない状況への絶望的理解、渇望ともいえる切実な想いが、広海の心を埋め尽くした。
(ごめんなさい……レオ、赦して……)
 躰と心の疲労、それから麻酔剤の効果で、間もなく安らぎのない眠りに落ちた。