月狼聖杯記

9章:為政者たち - 8 -

 発情は続く――
 つがいの月狼は巌穴に籠もり、昼夜の別なく、淫蕩いんとうふけっていた。
 今もシェスラはしとねにラギスを組み敷いて、荒々しく突きあげている。
「あ、あぁッ」
 ラギスは頬を紅潮させ、息を喘がせ、琥珀の瞳を潤ませ喘ぐばかり。
 雄々しい巨躯は陶酔に溶かされ、艶かしく、全身をしっとりと汗と霊液サクリアに濡らしていた。
 躰中を甘噛みされ、特にうなじには朱い痕が幾つも散っている。さんざん吸われた乳首も赤く腫れあがり、ぷっくり膨らんでいる有様だ。
 ラギスが嫌がっても、シェスラは日に三度はラギスの乳首を舐めしゃぶる。吸われているうちに、股間も張り詰めていき、今度は陰茎をしゃぶられる。やがて後孔が濡れると、孔にも舌を突きいれられる。
 霊液サクリアをこぼす聖杯を、シェスラは飽かず貪っていた。
 だが、いくら頑健なラギスにも限界はある。
 二日連続で抱き潰され、三日目は、もはやぐったりしとね仰臥ぎょうがしていた。
「済まない。疲れさせてしまったな」
 枕元に侍るシェスラは、労るように黒髪を優しく撫でるが、ラギスには返事をする気力もなかった。
「ほら、白湯さゆを飲むといい。躰が楽になる」
 シェスラは、後ろから抱き起こすようにしてラギスを支え、盃をラギスの唇に押しあてた。優しい味に、咽の痛みが和らいでいく。
 さすがにシェスラも反省したのか、その日はまる一日休息を許された。彼は始終傍にいたが、性的に触れてくることもなく、甲斐甲斐しく世話を焼いた。
 あまりにも丁寧に世話をするので、ラギスの方が焦ってしまうほどだった。
「俺のことはもういいから、あんたは、登攀に向かった方がいいんじゃないか?」
「そなたを置いてはゆけぬ」
「俺は独りでいたい……」
 割と切実としたものが声に滲んでおり、シェスラは拗ねたように、ラギスを見た。
「つれないことを申すな。こうして休ませているではないか」
 ラギスは恨めしげに睨んだ。
「ふざけんな。見ろよ、この痛々しい乳首を! てめぇがしつこく吸うから、腫れが引かないだろうが」
 シェスラはそこに視線を落とし、何を思ったのか、ぺろりと乳首を舐めた。
「ッ」
 びくぅっと肩を揺らすラギスを見て、蠱惑的に微笑する。
「かわいそうに……私のせいか?」
「他に誰がいるってんだ」
「よしよし、責任をとってやろう……この膏薬を塗って綿を当てておけば、すぐにくなる」
 慈母のような笑みを浮かべているが、言葉に潜む不穏さを嗅ぎ取り、ラギスは、触れてこようとする手を振り払った。
「自分でやる。薬をよこせ」
「遠慮するな」
「信用ならん」
 と、しばし攻防が続き、ラギスが勝った。
 無骨な指で薬をすくいとり、乳首に塗りたくる。綿を当て、絹布けんぷで覆っていく様子を、シェスラはただじっっと見つめていた。
 手当を終えると、ラギスは背を向けて再び横になった。会話を拒んでいる風だが、黒い尾は無意識にシェスラの大腿に乗っており、密やかな笑みを誘うのだった。

 あくる朝。
 大して効果を期待していなかったラギスは、絹布けんぷをほどいて驚いた。
 甘疼い痛みは消えて、腫れもすっかり引いていたのだ。
 はっとして顔をあげると、蒼い目と遭った。途端に呼吸ができなくなってしまう。
「治ったようだな」
「まぁな……んッ」
 ふぅ、と先端に息を吹きかけられて、ラギスは震えた。
「昨日は一度も吸っていないから、辛いだろう?」
 余計なお世話だ。そういってやろうとしたが、しこった先端を指に摘まれた瞬間、低いあえぎの声がこぼれた。
「いい匂いだ……」
 シェスラは昂奮に上気した顔を伏せて、尖らせた舌を伸ばした。
「ぁ……舐めるなっ」
 はむ、と唇に含まれた瞬間、ラギスは仰け反った。毎日吸われることがしみついてしまって、たった一日吸われていないだけで、与えられる甘美な刺激に蕩けてしまう。
「あぁッ」
 飴玉のように吸われるうちに、胸の奥から、噴きあげるような快感が這いあがってきた。
 じゅわっ……
 滲みでた蜜を、シェスラは喜々として吸いあげた。これではまた乳首が腫れてしまう。
「よせ、舐めるな……っ」
 肩を押しのけようとするが、シェスラは既に烈しい貪欲に囚われてしまっていた。
「は、美味い……これに勝る美酒はないな、ラギス」
「吸いすぎなんだよ、お前は……離せ……あっ、あぁ゛っ」
「……足りぬ」
 乳首を吸飲されるうちに、いつの間にか股間も昂り、霊液サクリアを滴らせていた。シェスラはそこに視線を落とし、
「こちらも飲みたい」
 端整な顔をさげていく。股間に息がかかり、ラギスは腰を切なげに震わせた。
「ひぁッ」
 じゅっと吸われた瞬間、眼裏が燃えあがった。
 強烈な悦楽に、腰が波打つ。
 シェスラは暴れる躰を押さえつけて、性器をしゃぶり続けた。噴きあがる霊液サクリアを飲み干し、精悍に残った残滓を吸いあげて、湿った竿もふくろも、綺麗に舐めとった。最後に亀頭を舐めて、もう何もでないと確認すると、ようやく唇を離した。
「美味」
 艶かしく唇を舐めながら、力なく横たわるラギスの膝を、ぐっと持ちあげた。
「さぁ……私の昂りも鎮めてくれ」
 ぐぐっと熱塊がもぐりこんでくる。肉道に感じる硬度が、彼の冷めやらぬ昂りを伝えていた。
「ぁ、ンッ」
 奥を突かれて、ラギスは甘い声で啼いた。
 もう何もでないと思ったが、突かれるうちに、屹立は角度を持ち始めた。白い手に竿を扱かれて、ラギスは背を弓なりにしならせた。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
 荒い呼吸を繰り返しながら、快感を堪えているが、悦楽の波は防波堤を今にも飛び越えてきそうだ。
 頭がおかしくなる。
 乳首も、屹立も、躰の奥深くまでも濡らして、濡らされて、全身で感じている。
 自分が全く別の生き物になりはてたように感じる。
 揺さぶられて、奥を突かれて、シェスラは獣のように咆哮をあげた。
「そなたの、ここ・・で……果てたい……っ」
 突きあながら、シェスラが耳に囁いた。下腹を掌で撫でられて、ラギスはかぶりを振る。
「駄目だ、それは駄目だ……ッ」
「そなたは私のつがいぞ、ここで子種を受け留めて、子を孕むのだ」
 耳を甘噛みされて、ラギスは切なく腰を震わせた。涙で潤んだ視界に、シェスラの美貌がぼやけていく。
「シェスラッ! 駄目だ、待ってくれ……ッ……それだけは」
「そなたの唇は、駄目、ばかりだな」
 力強く尻を穿ちながら、シェスラは微笑した。
「た、頼む、待って」
「……は、ラギス……いつまで、待てばいい?」
「まだ、今はまだッ」
 混乱の極致で、声が潤みかけた。小刻みに震えるラギスを、シェスラは熱の籠った目で見つめている。
「んぁッ!」
 限界まで楔を引き抜かれて、強く突きあげられる。ラギスは涙声で、やめてくれ、と懇願した。
「ラギス……ッ」
 シェスラは烈しい突きあげを繰り返し、限界まで張り詰めた熱塊を、ラギスのなかから引き抜いた。熱い飛沫を、引き締まった尻のあわいにぶちまける。
「あ、あぁ……ッ」
 朦朧としながら、ラギスは呻いた。媚肉のなかにだされなかったことだけ、ぼんやりとした意識で捕らえた。
 蜂蜜のように蕩けた黄金の瞳を覗きこんで、シェスラは満足そうにほほえんだ。
「……赦してやろう。だがいずれ、ここ・・で、孕むのだぞ」
 端正な顔をさげると、ラギスの下腹に唇を落とした。ラギスのもので濡れた腹や胸を、朱い舌で舐めとっていく。
「悪いが、俺は眠いんだ……少し休ませてくれ」
 ラギスは不貞腐れたようにいった。
「寝ていてよい」
「は?」
「好きにさせてもらう」
 唖然とするラギスを、シェスラは褥に組み敷いた。
「おいッ」
「そなたは寝ていればよい……」
 囁きながら、頬から喉、鎖骨のくぼみえと絹のような唇で軌跡を残していく。
 ラギスは始め冗談だと思った。あるいはラギスが相手をしなければ、シェスラも諦めると思ったが、昂りを腰に押しつけられると狼狽した。
(この野郎、本気で寝ている俺に襲いかかる気か!)
 喉の奥で唸り声をあげる。するとシェスラは、宥めるようにラギスの頬を優しく撫でた。
「ラギス……」
 穏やかで優しい口づけを繰り返しながら、汗と霊液サクリアで濡れた胸をまさぐり、突起を指で摘まんだ。
「ん……ッ」
 そっと乳首を唇に挟まれて、ラギスは低く喘いだ。焦らすような愛撫のあとで強く吸いあげられ、びゅっ、びゅくっ! 乳首から霊液サクリアが勢いよく迸った。
「あっ、あぁッ」
 溢れでる蜜を、シェスラは御馳走とばかりに舐めしゃぶる。淫らに吸飲しながら、下肢にも手を伸ばし、反り返る肉茎を指でなぞりあげた。
「もう濡れて……期待に慄えているじゃないか」
 ラギスは唸ったが、勃ちあがった陰茎を口に含まれた瞬間、甘い吐息を漏らした。熱い舌が絡みつき、舐めあげ、舐めおろし、巧みに高めてくる。彼の舌技には、毎回いいように翻弄されてしまう。
 見計らったように絶頂の手前で、手と舌を休めると、シェスラはラギスの両脚を大きく割り開いて、自身を突き刺した。
「んぁ゛ッ!」
 強引さに腹をたてていても、揺さぶられるうちに恍惚となってしまう。あらゆる筋肉が発作のように攣縮れんしゅくし、まされた楔をぎゅうぎゅうみ締める。
「……あぁっ、ん、ふ、ぁッ、あ、あぅッ」
 甘やかな快楽に飲みこまれ、汗と霊液サクリアまみれの全身で絡みつきながら、忘我の歓喜のうちに全てを忘れた。
 ぶるりと武者震いし、ラギスが果てると、シェスラも楔を引き抜いて、熱い飛沫を尻にかけた。
 放出のあとの気だるい熱に浸されながら、ラギスが息を整えていると、シェスラは後孔を指で弄りだした。
「おい」
 思わず凄みのある声でラギスはいった。
「まだ足りぬ」
「まだかよ……散々しただろうが……っ」
 情けなくも涙声だった。しかし、泣き言は唇によって塞がれた。
 氷像のように美しい麗貌をしているが、月狼の王だ。交歓に貪欲で、長身巨躯のラギスを難なく組み敷く。
 四つん這いにさせられ、後ろから挑まれると、ラギスは悪態をついた。
「くそッ、またかよ……ッ、ん」
 不機嫌に尾を揺らすと、そのつけ根を淫らに撫でられ、ラギスは弓なりになった。シェスラは盛りあがる筋肉の動きを目に楽しみながら、ゆったりと腰を進める。
 眠かったはずなのに、熱を灯された躰は悦びに覚醒めていく。早鐘のように鼓動している心臓が、はっきりと感じられた。