月狼聖杯記

6章:眠れぬ夜に - 2 -


 三度目の発情が始まった。
 ラギスの心境は極めて複雑だった。めくるめく七日に聖杯として期待する一方で、正体不明になるまで尻を犯されるのはご免だという畏れもある。今度こそは自我を保つのだ。理性で勝利してみせる。たった七日の辛抱だ――そういい聞かせてみたが、夜になり、部屋にシェスラがやってきた瞬間に自戒の念は木っ端みじんに消し飛んだ。
「ラギス」
 シェスラは部屋の中ほどで立ち止まり、窓辺に立つラギスを視線で誘う。薄絹を纏ったしどけない姿で、優美に手を差し伸べた。
「こい、ラギス……」
 甘い誘惑の香り……王の香気に思考はたちま ち蕩けていく……身体中の細胞が歌いだし、内なる獣性、おのが霊感の全てがシェスラに向かって開いていく。
 誘蛾灯に誘われる虫のように、ラギスはふらふらと傍へ寄り、甘美な芳香を胸いっぱいに吸いこんだ。
「この時を待っていた」
 シェスラは、目の前に立つ長身巨躯を仰いで、蠱惑的にほほえんだ。
「これからの七日間、そなたは私のものだ」
 シェスラは両手でラギスの顔をそっと包みこみ、唇を重ねあわせた。
「ん……っ」
 所有欲を伝えるように強く唇を押しつけられ、ラギスが無意識に唇を開いた途端に、熱い舌が入りこんできた。
(しっかりしろ)
 自分にいいきかせるが、無駄な抵抗だ。王の情熱に圧倒される。身体が熱くて、意識が、理性が霞む。
「ん、ふぅ……っ」
 艶めかしい舌はラギスの口腔を荒々しく貪る。上顎の裏を舐めあげられ、ラギスはくぐもった声で喘いだ。
 麗しい外見からは想像もつかぬほど、シェスラの口づけは貪欲だ。自分より遥かに巨躯の男を圧倒する力で迫ってくる。
「は……」
 情熱的に貪ったあと、シェスラは少し身を引いた。腕はラギスの腰を抱いたまま、熱っぽくラギスを見つめている。
「今夜から七日は、どこへもいってはならぬ。私だけのものだ」
 瞳に宿した氷の焔のような欲情に怯み、ラギスは一歩をさがらずにはいられなかった。長椅子に足がぶつかり、尻もちをつく。シェスラはその隣りに腰をおろすと、覆い被さるようにして身体を倒した。襟をくつろげ、顔を寄せて鎖骨に唇を押し当てる。
「はぁ……」
 喘ぐラギスの胸を撫で、腰帯をほどいて、下履きもろとも引き下ろした。
 両の掌で硬い胸を撫でまわし、突起に親指の腹を押し当てた。頂が朱く尖り、琥珀の霊液サクリアが滲むまで繰り返す。
「とても敏感だな」
「……るせ」
「乳首をもう固くして、霊液を滲ませている……」
 ラギスが唸ると、シェスラは小さく笑った。顔をさげて、突起を唇で愛撫し、歯を立てて、痛みと快感を同時に与えた。
「んぁッ」
 鋼のような腹筋に口づけ、臍からその下へ舌をすべらせていく。
「……そなたの達するところを見たい」
 囁くと、シェスラはラギスが文句をいうよりも早く、寝椅子の傍に片膝をついて身を屈めた。
 シェスラの襟もとは大きくはだけ、白い肌がのぞいている……王の色香にくらくらして、気がつけばラギスは両脚を広げていた。シェスラは大腿の合間に膝をつき、腿のつけ根に唇を押し当てた。
「ッ」
 肌をきつく吸われて、ラギスは歯を食いしめた。このあとの刺激に備えて四肢に力をこめる。
「いい匂いだ……」
 シェスラは陶然とうぜんと呟くと、大腿を掴み、あられもなく割り広げ、形の良い唇で屹立を咥えこんだ。
「ふぅ、くッ! ……ぁ、はぁ……ッ……んんっ」
 熱い舌が陰茎に絡みつき、腰の奥がどろりと溶ける。シェスラは喉奥まで咥えこみながら、陰嚢いんのうを柔らかく揉みしだき、親指で会陰えいん からその下の秘めた蕾までをなぞりあげた。
「ふぅッ……ん、ん、あぁッ」
 快感の連続に、ラギスはもう、嬌声をこらえられなくなっている。股間は完全に勃起し、昇りつめたくて、腰をシェスラの口に押しつけてしまう。彼は満足そうに喉の奥で笑いながら、いっそう激しく吸いあげた。
「あぁッ」
 ラギスが仰け反ると、霊液をまとった指で双丘のあわいを突いた。指が後孔にもぐりこんできた。しゃぶられながら、中を抉られる。
「うぁッ、ん、はぁ……もういい、シェスラッ……くッ、でちまう……ッ」
 腰を引こうとするラギスの大腿をしっかと掴み、シェスラはいっそう激しく吸いあげた。
「ん……だせばいい。飲み干してやろう」
「くっ……!」
 低く呻き、ラギスは我慢しきれずに達した。びくびくと跳ねる腰を押さえつけ、シェスラは溢れでる霊液をあますことなく吸いあげた。
「はぁ、はぁ、は……もうでねぇよ」
 壮絶な絶頂を終えても、シェスラはラギスを離そうとしない。陰茎を指でなぞり、残滓ざんしをせがむように陰嚢を揉みこんで、最後に後孔を指で突いた。
「おい……放せよ」
「まだ足りぬ」
 シェスラは囁き、顔を沈めた。それからラギスが再び霊液を噴きあげるまで舌で舐り続けた。琥珀に濡れた唇がようやく離れた時、ラギスの屹立は朱く腫れあがっていた。
「は……善かったであろう?」
 艶めいた吐息にぞくぞくしながら、ラギスは悪態をついた。
「はぁ、ったく……しつけぇんだよ……」
「ふふ、好きなくせに……あとでまたしゃぶってやろう」
 ぐったりしている巨躯を、シェスラはしなやかな腕に抱えて、褥の上に優しくおろした。ラギスが柔らかな上掛けを背に感じると同時に、薄衣を脱いだシェスラが男らしくのしかかってくる。
 目と目があう。
 空気が希薄になったように感じられた。シェスラは喘ぐラギスを征服するように見下ろしながら、長い指を胸にすべらせた。
「ん……」
 乳首を指で挟み、霊液を指先にたっぷり搦めてから、後孔につぷりと沈める。
「そなたの中は熱いな……」
 肉胴を蠢く淫らな指の動きに、ラギスは腰を揺らした。甘い痺れが全身に広がり、身体はいっそう熱くなる。
「すごいな……しっとりと濡れて、私の指を食べているようだ」
「うるせぇ」
「ふふ」
 奥にあるしこりを優しく愛撫されて、ラギスは熱いため息をついた。
「ラギス……」
 名を呼ぶ声の、なんと甘いことか。ラギスは耳を横に伏せて、目を瞑った。感覚を遮断したいのに、ばらばらに蠢く三本の指が巧みに中を刺激する。
「んぁっ、ん」
 うねる肉筒を指でなぞり、かぎ爪で引っかけるようにして優しくひっかいて――翻弄される。だが、ラギスが極める寸前で愛撫は止んだ。敏感になった肉洞を指が抜けていく感覚もまた、強烈だった。
「ふ、ぁ……っ」
 思わず甘えたような声がでてしまう。恨めしく、せがむような視線を投げるラギスに、シェスラは優しい笑みをおくった。
「慌てるな。すぐに、たっぷりと与えてやる」
 シェスラは月狼のように四つん這いでラギスに覆い被さった。褥の上で、彼はラギスに対して頻繁にその姿勢をとる。内なる獣性がそうさせているのだろう。
 互いの昂った陰茎がこすれ合い、壮絶な快感をもたらした。シェスラは、びくびくと震える身体を強く押さえつけたまま、胸に舌をはわせた。
「あぁッ、ん」
 硬く猛ったものを下腹部に押し当てられ、両脚を開かされる。もちあげた腰の下にクッションを挟みこまれた。あられもない恰好で、秘所をシェスラに晒している。理性がわずかに首をもたげ、ラギスは眉をひそめた。
「おい」
「中の芯も、たっぷり悦ばせてやろう……」
 ラギスに答える暇を与えず、シェスラは舌で愛撫を再開した。内壁を舌で舐めて、優しく突いて、あふれでる霊液をすする。
「はぁ……んんッ」
 えもいわれぬ快感に貫かれ、ラギスは三度目の絶頂を迎えた。
 両脚を大きく割り広げられ、膝裏に腕をいれられる。見つめ合ったまま、十分に潤った後孔を、ずんっと貫かれた。
「あぁッ、んっ……はぁ……っ」
 ラギスは軽く痙攣しながら悲鳴をあげた。シェスラも熱い吐息を零しながら、烈しく、容赦なく突きあげる。
 王の放つ、甘美で力強い、絶対的な芳香が立ち昇る。
 内なる聖杯と、昂った獣性が目醒めていく。シェスラの薔薇色に火照った肉体に牙を突き立てたい――馬鹿な。衝動を振り払うように顔を背けたラギスの手首を、シェスラは強く掴んで褥に縫い留めた。
「いい締めつけだ」
「あぁ、ん……ッ」
 奥まで沈みこんだ楔が、ゆっくりと抜けていく。強い摩擦の生む快感に、腰が蕩けそうになる。胸を反らして喘ぐラギスを見下ろし、シェスラは口角をあげた。
「そなたも心地善いのであろう?」
 奥まで一気に貫かれ、ラギスは全身を震わせた。腰が限界まで引き抜かれ、ずんっと突きあげられる。
「あ、うんッ」
「もっと私を求めよ……っ」
「あ、あッ」
 この世のものとは思えぬほど美しい姿をしているが、シェスラは群れを率いる月狼の王アルファングだ。交歓に非常に貪欲で、ラギスほどの屈強な男が、身体を征服されることを拒めない。
「も、もうっ……やめてくれ」
 狂気の瀬戸際まで追い立てられ、ラギスは降参するようにいった。
「まだ足りぬ……」
 シェスラの瞳は欲望に翳っている。次の瞬間、ぐりっと切っ先でしこりを磨り潰され、ラギスは引き締まった大腿で、シェスラの細腰を挟みこんだ。ぎゅうっと熱塊を食い締め、シェスラも艶めいた吐息を漏らした。ぐっと身体を前傾させ、最奥を突きあげる。
「うぁっ!」
 ラギスの喉から嬌声が迸る。シェスラは身を引き、また奥まで貫いた。くぐもった声で呻くラギスの臀部を揉みしだき、腰をぐるりと回す。
「ん、ん、もう……ッ……ああぁ――ッ」
 ラギスが達すると、シェスラは放熱を堪えるように歯を食い締めた。楔を一度引き抜くと、ラギスの濡れた腹を艶めかしく舌で舐めとっていく。
「んぁ、ふっ……あぁ……っ」
 新たな刺激に、放熱を遂げた陰茎から残滓が溢れでる。シェスラは、最後の一滴まで吸いあげると、さざなみ のように震える肌を撫で、臍から下腹部にかけて優しく唇を押しあてていった。
「ふ……次は私の番だな」
 浅黒い肌に唇をつけたまま、シェスラは艶めいた微笑を零した。身体を起こして、ラギスの腰を掴み、ゆっくりと昂りを突き入れる。
「あ、ぅ……ッ」
 ラギスは歯を食いしばって、迸りそうになる嬌声を堪えた。
「そなたは張りつめた弦のようだな……少し触れただけで振動する」
 身体を繋げたまま、シェスラは愛撫するように囁いた。彼の引き締まった細い腰に足を巻きつけ、ラギスは自ら腰を押しつけた。
「はっ……」
 シェスラは艶めかしく喘ぎ、悠然とした微笑を口元に浮かべた。瞳を煌かせ、脚の間に腰を落とした。最奥を穿たれ、これ以上はないというほど濃厚な情事を交わし、唇を重ねて……眼裏まなうらで何度も閃光が弾けた。