月狼聖杯記
3章:魂の彷徨い - 9 -
誰が従うものか。
そう思っているのに、有無をいわさぬ覇気を纏った眼差しで睨まれると、ラギスは慄えながらも足をゆっくり開いた。シェスラの視線が股間に落ちる。
「……もっとだ」
誰が聞くものか――怒りをこめて睨みつけるが、青い眼差しに気圧される。反発し、また困惑しながら、ラギスは更に足を大きく開いた。
「足を持ちあげて、尻に指を入れてみろ……私のものを挿れるように」
「ッ、ふざけるな」
「やるんだ」
「この……」
「できないのなら、私がしてやろうか?」
その声は本気だった。悪態をつきながら、ラギスは足をあげて、窄まった後蕾を指で掻いた。
「んッ」
ラギスの痴態を凝視しながら、シェスラは渇望を堪えるように喉を鳴らした。今にも襲いかかってきそうな顔をしている。
「動くんじゃ……ン……ねェぞ……」
熱視線に躰を炙られながら、ラギスは何度も後孔を指でなぞりあげる。
シェスラは頬を上気させ、形の良い唇から艶めいた吐息を漏らした。
「あぁ、なんて匂いだ……堪らない……そなたに触れたい」
「駄目だ。いいか、黙って見てろ……くッ」
指を一本、慎重に蕾の奥へ入れていく。全力疾走したあとのように、心臓は力強く脈打ち、血液が躰中を駆け巡っている。
「そんなに、指を食いしめて……ッ、そなたに触れたいッ」
王の切羽詰まった声に、ラギスは意地の悪い笑みを浮かべた。
「駄目だといっただろ。てめェはそこで見ているんだ。見ているだけだ!」
指は、一本ならすんなり出入りするようになった。前後に動かして、緩やかな抽送を繰り返す。
淫らに揺らめく腰を、シェスラは唸り声をあげて見つめている。あまりに強い眼差しに、ラギスは視線で犯されている錯覚に襲われた。
指が内壁の気持ち良いところを掠めて、ラギスは思わず低く喘いだ。
「あぁッ」
シェスラは情欲に濡れた瞳で、ラギスを射抜いた。
「挿れなくてもいい、せめて舐めたい。そなたの蕾を舌で味わいたい」
「駄目だッ、そこで見ているんだ」
ラギスは腰を揺らしながら、二本目の指を孔に入れた。
「う、んぅ……」
鼻にかかった声が、だらしなく漏れた。二本目も難なく入り、さすがに無理かと思った三本目までも、孔は苦もなく呑みこんだ。
そこは、情欲の眼差しと指によって押し広げられ、指を挿し入れる度にひくついた。
「ッ、あぁッ」
淫らに腰を振りたくって、ラギスは自らの指で尻を犯している。
頭が沸騰しそうな事態なのに、発情の熱は、ラギスの理性を濁流の如く攫っていった。
(あぁ……まだ足りない……)
もっと強烈な刺激が欲しい。
指より硬くて、長くて、熱く脈打つ……
あの夜のように。
淫らな交合が
「うぁ……ぐッ、あぁ――ッ」
強烈な絶頂が訪れて、思考は真っ白に焼き切れた。腹につくほど反り返った屹立から、勢いよく
強張った躰が二度、三度と震えて、絨毯の上に前かがみに倒れこむ。
荒い息遣いが、静謐な部屋に響いている。
ラギスだけではない、シェスラの息も同じくらい荒くなっている。まるで獰猛な獣のようだ。
「……ラギス」
シェスラは、餓えた雄の瞳でラギスを凝視した。彼の股間には、淫らな染みができている。
「はは、いいザマだな……」
嘲笑うラギスに、シェスラは苛立ったように氷の一瞥を投げたが、すぐに艶めいた微笑に変えた。
「ラギス……もういいだろう? 私はよく耐えたと思わないか? さぁ、触れさせてくれ……」
王の肌から、魅惑的な香りが立ち昇る。相手は男で、復讐の対象だと判っているのに、強烈な眩暈を覚えてしまう。
「……まだ触りたいのかよ? 汚れてるぜ」
体液に塗れた自分の躰を見下ろして、ラギスは薄笑いを浮かべた。
「汚れてなどいない。琥珀の霊液に濡れて、淫らで、美味しそうだ……いい匂いがする……」
熱を帯びた視線が交わり、ラギスはそっと視線を伏せた。
「……好きにしろよ」
刹那、シェスラはいきなりラギスを横抱きに持ちあげると、クッションがたくさん置かれた、絨毯の中心に少々乱暴に下ろした。
「おいっ」
「好きにしていいのだろう?」
顔の両端に手をついて、強い眼差しで見下ろしてくる。熱っぽい視線が唇に落ちて、ラギスは背筋がぞくぞくと震えた。
「んぁッ」
噛みつくように唇を奪われた。
荒々しく貪られて、唇が
「しぇす……ッ、んぅ」
抗議は唇に呑みこまれた。口内を荒されて、何度も舌を搦め捕られる。放熱を遂げた躰に、あっという間に火を点けられていく。
ようやく顔が離れた時、二人とも息があがっていた。ラギスは烈しく肩を上下させ、息も絶え絶えに喘いでいる有様だった。
「ラギス……」
上体を起こしたシェスラは、舐めるようにラギスの全身を眺めた。
琥珀に濡れた躰が恥ずかしくなり、ラギスは無意識に身をよじって胸を隠そうとした。
「ならぬ」
「っ!」
両手首を掴まれて、絨毯の上に押しつけられた。
王は繊細な顔立ちをしているが、躰はしなやかな筋肉に覆われており、鋼のように強靭だ。
「隠してはならぬ……あぁ、やっと触れられる……」
シェスラはうわ言のように呟いた。
端正な顔が、ゆっくり降りてくる。ラギスは目を逸らすことができなかった。
「んッ」
熱い舌が、胸に散った琥珀を舐めとっていく。丁寧に、火を灯すように。
「うぁ……ッ」
小刻みに肌を啄まれる度に、ラギスの腰はびくびくと跳ねた。
さっきまで自分で弄っていた胸の突起は、ぷっくりと勃ちあがり、シェスラは当然のようにそこに触れてきた。
「くッ」
指で弾かれて、ラギスは弓なりになった。
「ふ、いい声だな……蕩けた目をして、乳首が良いのか?」
敏感になった耳に、甘やかすように囁かれる。恍惚の表情で、ラギスはぼんやりと頷いた。
「あぁ、なんて……そなたは私のものだ」
淡い色をした突起に、シェスラは舌を伸ばした。
「ッ、ん」
ちろちろと舌先で舐めて、赤く勃ちあがった粒を口に含んだ。ちゅ、ちゅぱっ、粘着な水音が立ち、鼓膜を犯される。唇を噛みしめて、ラギスは強烈な快感をどうにか逃がそうとした。
「気持ち良さそうだな?」
「ふ、ふざけんなッ、そんな、あぁッ」
じっとりと乳首を吸引されて、声は蕩けた。昂った股間をシェスラに擦りつけてしまう。
躰が燃えているように熱い。灼熱に焼かれて、このままどうにかなってしまいそうだ。
「しぇすらっ」
切羽詰まった声でラギスが叫ぶと、シェスラはいっそう、淫らに乳首を吸いあげた。強烈な悦楽が全身を走り抜けて、思考は真っ白になった。
「――ッ!」
ラギスは、声にならない声で叫んだ。
「ラギス?」
意識を呼び戻されると、シェスラは青い瞳を三日月のように細めた。蕩けそうに甘い美貌で、ラギスに笑みかけた。
「
「……」
混乱の極致で、言葉もなく涙を滲ませるラギスのまなじりに、シェスラは優しく口づけた。
「ラギス……」
シェスラは再び顔をさげると、ラギスの肌を啄みながら、へその窪みを舌で突いた。そこに溜まっていた蜜を吸いあげられ、ラギスは真っ赤になった。
「吸うんじゃねェ!」
「ふ、威勢がいいな。蕩けていたくせに……」
「うるせぇよ」
秒刻みで飛来する文句を無視して、或いは宥めすかし、シェスラは時間をかけてラギスを愛撫した。
手と舌で、雄々しい躰の隅々にまで触れる。
盛りあがった胸板に顔を伏せると、硬く尖った乳首を幾度も吸いあげ、吹きあがる蜜を堪能しつくした。
震えながら天を向く屹立も、形の良い唇で挟み、精管がすっかり空になるまで吸いあげた。
「あ、あ、あぁ……ッ」
熱に炙られて、目を見つめ合ったまま、どちらからともなく腰を絡ませた。
屹立を後孔にあてがわれても、ラギスには拒否する理性が残されていなかった。
あれほど釘を刺しておいたのに、狂気と悦楽の海に自ら溺れている……
熱塊に貫かれて、何度も、何度も絶頂を極めた。