月狼聖杯記
2章:饗宴の涯て - 2 -
なぜ、こうなってしまうのだろう。
理性の欠片が、だらしなく蕩けているラギスを罵倒している。こいつを憎め、憎んで、憎んで、殺せ――叫んでいる。
けれど、今こうして躰を委ねているラギスは、包みこむような熱を渇望している。力強い楔 に穿たれ、揺さぶられ、この男に縛りつけられることを望んでいる。
とうていこの世のものとは思えぬ美しさが、ラギスをこうまでかき乱すのか?
判らない……
憎悪の対象に惹かれている。相反する感情がラギスを苦しめる。心が二つに裂けてしまいそうだ。
「……ラギス、お前のなかに入りたい」
耳朶に囁かれて、ラギスはさっと耳を横に伏せた。シェスラは低く笑いながら、伏せた耳を優しく甘噛みする。
尾のつけ根を撫でられ、腰がびくびくと跳ねた。両足を大きく開脚させられ、あらぬところに熱い視線が落ちる。ラギスはきつく目を瞑った。
「……ラギス、私を見ろ」
甘く命じられ、ゆっくり瞼を持ちあげると、熱を孕んだ水晶の瞳に射抜かれた。
「あッ」
「挿れるぞ」
熱塊を後孔に押し当てられた。
「ぐぁ……あ、あ……ッ」
蕩けきった尻は、難なくシェスラの雄々しい屹立を飲みこんでいく。
「もっと力を抜け」
「やめろ! 抜けッ」
「楽にしていろ」
王は、緩やかな腰遣いでラギスを揺さぶった。
「あ、あぁッ」
喉の奥から、堪えようのない嬌声が迸る。逃げようとする腰を、シェスラは両手で掴んで容赦なく寝台の中央に戻す。
「ラギス……私のものが、そなたに入っている。感じるか?」
答える余裕はない。尻が熱くて堪らない。
乳首を指に挟まれた瞬間、琥珀が噴きだした。胸に視線を落とすシェスラの肩を掴んで、ラギスは叫んだ。
「嫌だッ」
「そうか?」
シェスラは小首を傾げ、ラギスの両手首を寝台に押しつけると、尖った先端に吸いついた。
「ッ、ぐ……ぅ、あッ」
絶頂が近い。どうにか快感を無視しようとするが、ぬめった舌に吸われ、突かれ、歯を立てられると、ラギスはあっけなく達した。
小刻みに震える躰を見下ろして、シェスラは満足そうに口元を拭う。気だるげに横たわるラギスを四つん這いにし、一気に貫いた。
「あぅッ!」
狂おしいほど突きあげられる。シェスラも放熱が近いのだ。艶めいた吐息が耳朶にかかり、ラギスは戦慄した。
「シェスラ! ……だすなッ」
切羽詰まった声で叫ぶと、シェスラは耳朶に舌を這わせた。
「……だめか?」
「だめだ!」
「ここに、私の子種をかけて、そなたを――」
「やめろッ」
下腹を撫でられ、ぞぞぞ、とラギスの全身に怖気 が走った。
「ははは……」
毛羽立ち膨らんだラギスの尾を掴んで、シェスラは愉しそうに嗤う。
王は、絶対服従を要求する男だ。
身勝手で酷薄な笑い声を聞きながら、ラギスは心の中で罵詈雑言の限りを尽くした。
「や、め……ッ……あ、あぁ」
腰のぶつかる音が烈しさを増す。悦楽に呑まれて、ラギスは惑乱しながら喘いだ。
「ふ……腰が動いているぞ」
「うッ!」
緊張に強張る背中を、シェスラが艶めかしく撫であげた。
「ッ、私ではない。引き抜こうとすると、そなたが私を締めつけるのだ」
「違うッ」
「そなたは、躰の方が素直だな……くッ……私の子種を強請って、なかがうねっておるわ」
艶めいた吐息をつきながら、シェスラは突きあげた。嬌声をこらえて、ラギスは呻いた。
「やめろッ! 抜けッ! ……あぅッ」
腰を振るって逃げようとすると、尻を軽く叩かれた。その衝撃で、だらしのない声が漏れる。
「暴れると、誤ってなかにかけてしまうかもしれぬ」
「ッ!」
ラギスは、怒りのあまり、血管が噴きだすかと思った。
喉から迸りかける罵詈雑言を、くぐもった唸り声で殺す。これ以上シェスラを刺激しないよう、歯を食いしめた。
淫靡な水音と、腰のぶつかる音、互いの荒い息遣いが、寝室に充満している。
「……そなたの身体は美しいな。汗が光って」
腰を打ちつけながら、シェスラは陶然といった。肩甲骨から背骨の線を指が辿り、ラギスの四肢に力が入る。
「筋骨隆々とした肉体は、なめらかな肌とはまた違った魅力がある」
「頭、おかしいんじゃねェか……俺は、奴隷だぞ……ッ」
息継ぎの合間に、ラギスが悪態をつくと、シェスラは薄く笑った。
「雄々しい、不屈の剣闘士だ。肉体に刻まれた、闘いの跡、傷の一つ一つまでが、完成された彫刻のようだ」
「るせぇ」
「褒めているのだ。筋肉の動きは、目を愉しませてくれる。よく締まって、なかの具合も良い」
シェスラは楔を引き抜くと、ラギスの尻孔に白濁をかけた。
「なかにはださずにおいてやろう……今はな」
耳に囁かれる言葉を、ラギスは聞き流した。
否、反応する余裕がなかった。
雌のように組み敷かれ、男の精をかけられたことに傷つき、茫然自失していた。昏い焔が胸に渦巻くが、シェスラの匂いに包まれて思考は再び蕩けてゆく……
もう、解放してほしい。
終わりのない饗宴から――心から希 うが、シェスラはラギスの尻を撫でると、窄まった縁をいやらしく指でなぞり始めた。
「おいッ」
「まだだ……もう少し、つきあえ」
耳を甘噛みされて、後孔がひくんと疼いた。熱く猛った屹立を、尻のあわいに擦りつけられる。
絶望と期待の入り混じった、混沌とした感情が胸の内に渦巻いた。
聖杯だ。自分は王を満たす、聖杯なのだ。
(あぁぁあぁぁ……)
心が麻痺していく。
獣のようにまぐわい、忘我を彷徨った。
空が白み始める頃になり、ようやく昂りは鎮まり、痙攣と身悶えのあとに相並んで横たわる。
毎度、そんなのは御免だと思うが、疲労困憊していて同衾する王を押しのける気力はない。
奈落の底へ、底へと意識は沈みこんでいく。
怒りも、悲哀も甘い眠りに溶かされて、いつの間にか深い眠りをむすんでいた。
理性の欠片が、だらしなく蕩けているラギスを罵倒している。こいつを憎め、憎んで、憎んで、殺せ――叫んでいる。
けれど、今こうして躰を委ねているラギスは、包みこむような熱を渇望している。力強い
とうていこの世のものとは思えぬ美しさが、ラギスをこうまでかき乱すのか?
判らない……
憎悪の対象に惹かれている。相反する感情がラギスを苦しめる。心が二つに裂けてしまいそうだ。
「……ラギス、お前のなかに入りたい」
耳朶に囁かれて、ラギスはさっと耳を横に伏せた。シェスラは低く笑いながら、伏せた耳を優しく甘噛みする。
尾のつけ根を撫でられ、腰がびくびくと跳ねた。両足を大きく開脚させられ、あらぬところに熱い視線が落ちる。ラギスはきつく目を瞑った。
「……ラギス、私を見ろ」
甘く命じられ、ゆっくり瞼を持ちあげると、熱を孕んだ水晶の瞳に射抜かれた。
「あッ」
「挿れるぞ」
熱塊を後孔に押し当てられた。
「ぐぁ……あ、あ……ッ」
蕩けきった尻は、難なくシェスラの雄々しい屹立を飲みこんでいく。
「もっと力を抜け」
「やめろ! 抜けッ」
「楽にしていろ」
王は、緩やかな腰遣いでラギスを揺さぶった。
「あ、あぁッ」
喉の奥から、堪えようのない嬌声が迸る。逃げようとする腰を、シェスラは両手で掴んで容赦なく寝台の中央に戻す。
「ラギス……私のものが、そなたに入っている。感じるか?」
答える余裕はない。尻が熱くて堪らない。
乳首を指に挟まれた瞬間、琥珀が噴きだした。胸に視線を落とすシェスラの肩を掴んで、ラギスは叫んだ。
「嫌だッ」
「そうか?」
シェスラは小首を傾げ、ラギスの両手首を寝台に押しつけると、尖った先端に吸いついた。
「ッ、ぐ……ぅ、あッ」
絶頂が近い。どうにか快感を無視しようとするが、ぬめった舌に吸われ、突かれ、歯を立てられると、ラギスはあっけなく達した。
小刻みに震える躰を見下ろして、シェスラは満足そうに口元を拭う。気だるげに横たわるラギスを四つん這いにし、一気に貫いた。
「あぅッ!」
狂おしいほど突きあげられる。シェスラも放熱が近いのだ。艶めいた吐息が耳朶にかかり、ラギスは戦慄した。
「シェスラ! ……だすなッ」
切羽詰まった声で叫ぶと、シェスラは耳朶に舌を這わせた。
「……だめか?」
「だめだ!」
「ここに、私の子種をかけて、そなたを――」
「やめろッ」
下腹を撫でられ、ぞぞぞ、とラギスの全身に
「ははは……」
毛羽立ち膨らんだラギスの尾を掴んで、シェスラは愉しそうに嗤う。
王は、絶対服従を要求する男だ。
身勝手で酷薄な笑い声を聞きながら、ラギスは心の中で罵詈雑言の限りを尽くした。
「や、め……ッ……あ、あぁ」
腰のぶつかる音が烈しさを増す。悦楽に呑まれて、ラギスは惑乱しながら喘いだ。
「ふ……腰が動いているぞ」
「うッ!」
緊張に強張る背中を、シェスラが艶めかしく撫であげた。
「ッ、私ではない。引き抜こうとすると、そなたが私を締めつけるのだ」
「違うッ」
「そなたは、躰の方が素直だな……くッ……私の子種を強請って、なかがうねっておるわ」
艶めいた吐息をつきながら、シェスラは突きあげた。嬌声をこらえて、ラギスは呻いた。
「やめろッ! 抜けッ! ……あぅッ」
腰を振るって逃げようとすると、尻を軽く叩かれた。その衝撃で、だらしのない声が漏れる。
「暴れると、誤ってなかにかけてしまうかもしれぬ」
「ッ!」
ラギスは、怒りのあまり、血管が噴きだすかと思った。
喉から迸りかける罵詈雑言を、くぐもった唸り声で殺す。これ以上シェスラを刺激しないよう、歯を食いしめた。
淫靡な水音と、腰のぶつかる音、互いの荒い息遣いが、寝室に充満している。
「……そなたの身体は美しいな。汗が光って」
腰を打ちつけながら、シェスラは陶然といった。肩甲骨から背骨の線を指が辿り、ラギスの四肢に力が入る。
「筋骨隆々とした肉体は、なめらかな肌とはまた違った魅力がある」
「頭、おかしいんじゃねェか……俺は、奴隷だぞ……ッ」
息継ぎの合間に、ラギスが悪態をつくと、シェスラは薄く笑った。
「雄々しい、不屈の剣闘士だ。肉体に刻まれた、闘いの跡、傷の一つ一つまでが、完成された彫刻のようだ」
「るせぇ」
「褒めているのだ。筋肉の動きは、目を愉しませてくれる。よく締まって、なかの具合も良い」
シェスラは楔を引き抜くと、ラギスの尻孔に白濁をかけた。
「なかにはださずにおいてやろう……今はな」
耳に囁かれる言葉を、ラギスは聞き流した。
否、反応する余裕がなかった。
雌のように組み敷かれ、男の精をかけられたことに傷つき、茫然自失していた。昏い焔が胸に渦巻くが、シェスラの匂いに包まれて思考は再び蕩けてゆく……
もう、解放してほしい。
終わりのない饗宴から――心から
「おいッ」
「まだだ……もう少し、つきあえ」
耳を甘噛みされて、後孔がひくんと疼いた。熱く猛った屹立を、尻のあわいに擦りつけられる。
絶望と期待の入り混じった、混沌とした感情が胸の内に渦巻いた。
聖杯だ。自分は王を満たす、聖杯なのだ。
(あぁぁあぁぁ……)
心が麻痺していく。
獣のようにまぐわい、忘我を彷徨った。
空が白み始める頃になり、ようやく昂りは鎮まり、痙攣と身悶えのあとに相並んで横たわる。
毎度、そんなのは御免だと思うが、疲労困憊していて同衾する王を押しのける気力はない。
奈落の底へ、底へと意識は沈みこんでいく。
怒りも、悲哀も甘い眠りに溶かされて、いつの間にか深い眠りをむすんでいた。