月狼聖杯記

1章:王と剣闘士 - 10 -

 熱を孕んだ青い瞳が、ラギスを映している。
 なめらかな銀糸の髪が彼の肩から零れて、ラギスの胸の上に落ちた。
「ッ」
 髪の一筋が肌に触れただけなのに、跳ねそうになる身体を、必死に押さえつけねばならなかった。
 シェスラの視線が、ラギスの胸に落ちる。見つめられているだけで、乳首が、刺激を期待するように勃ちあがってゆく。
 美貌がおりていき……乳輪の周りを舌で舐められた瞬間、ラギスは堪えきれぬ嬌声をあげた。
「あぁッ」
 シェスラは艶めいた吐息を零すと、片方の乳首を甘噛みし、もう一方を指でつまんだ。絶えず甘い刺激に苛まれて、奥から熱い滴が滲みだしてくる感触に襲われた。
「やめろッ! 俺は雌じゃない」
「……ン……そなたは、聖杯だ」
「違うッ!」
「なら、どうしてこのように乳首を濡らすのだ?」
「――ッ」
 強烈な怒りに支配され、獣化をきざした。首回りが太くなるが、首輪に締めつけられて額に脂汗が滲んだ。
「やめろ、痕がつく」
 乳首の根本から絞りとるように吸われて、漲っていた力は霧散した。寝台に沈みこんだ途端に、烈しく吸引される。
「うぁッ、やめろッ!」
「昨夜で吸いつくしたかと懸念していたが……ちゃんと生成されているな」
 烈しい屈辱に襲われて、ラギスは重低音の唸り声をあげた。シェスラは乳首から唇を離すと、水晶のような笑い声をこぼした。
「怒るな。優秀な聖杯だと褒めているのだ。この雄々しい躰は、私が触れると甘く蕩ける……」
 陶然と呟くと、再び顔をさげた。
「よせっ……ああぁッ」
 突きだした腕は、鎖ごと頭上で縫い留められた。
「ぐぅ、うぅ……」
 迸りそうになる嬌声を必死に堪えて、ラギスはくぐもった声を洩らす。たっぷり吸ったあとでシェスラは顔をあげると、蠱惑的にほほえんだ。
「片方だけ腫れてしまったな……ほら」
 顔を背けるラギスの頬を、シェスラは優しく、だが強引に掌を添えて正面を向かせた。
「見てみろ」
 嫌だと思ったが、指で先端を弾かれた拍子に、つい視線を胸に落としてしまった。
「ッ」
 左の乳首だけ、濡れて、尖り、ぽってりと膨らんでいた。乳輪の周囲に、琥珀に輝く霊液サクリアがうっすら滲んでいる。
 あまりにも淫靡な光景に、ラギスは言葉を失った。
「……こちらも吸ってやろう」
 半ば予想していたが、シェスラは顔を伏せると、右の乳首に吸いついた。
 ラギスは意地でも反応すまいと四肢に力をこめたが、シェスラはいたぶるように乳首を愛撫してくる。わざと音を立てて、ラギスの羞恥と官能を煽りたてる。
「吸うなら、早くしろッ」
 焦れったい愛撫にラギスが文句をつけると、シェスラは微笑した。次の瞬間、烈しく乳首に吸いつかれた。
「ッ! あぁ――ッ」
 どくどく、乳首から熱の奔流が迸る。全てシェスラの口内に吸いこまれていった。飲み干したあとも、餓えたように吸ったりしゃぶったりを繰り返す。
 柔らかな先端に軽く歯を立てられた瞬間、強烈な悦楽に支配されて下も達した。
「あぁっ……はぁ、はぁ……っ」
 シェスラは最後に水音を立ててから乳首を離すと、肩で息を整えているラギスを見て、嫣然とほほえんだ。
「そなたに会うまでは、聖杯など半信半疑でいたが……身をもって知った今は、否定の余地はないな」
 下肢をまさぐられて、ラギスは身体を強張らせた。布が濡れて皮膚に貼りつく感触がする。
「……昨夜は烈しくしたから、後孔が痛むだろう?」
 ラギスは唸り声をあげた。
「判ってるならどけよ」
「断る。薬を持ってきた。塗ってやろう」
「は」
「尻をだせ」
「殺すぞ。おぃッ!?」
 シェスラはラギスの服に手をかけると、あっという間に脱がせて、寝台の下に放った。下着にも手をかけられ、ラギスは焦って上から布を押さえつけた。
「いらねぇよ! 手を離せ」
「心配するな、挿れはせぬ」
「くそがッ、死ね!」
「ふふ、初めていわれたな。そなたは本当に、愉しませてくれる」
 下着をめぐる攻防で、びりっと布が裂けた。狼狽えるラギスに構わず、シェスラはびりびりと下着を破っていく。最後は端切れと化した布を、寝台の下に放った。
「……ラギス」
 膝を立てて下肢を隠しているが、匂いで吐精したことはばれているだろう。シェスラの熱い視線が、膝で隠されたラギスの股間を透視するように突き刺さる。
「隠すな」
「うるせェ、薬を置いてでていけ」
「断る。隠してはならぬ」
 シェスラは強引にラギスの膝を割る。蹴ろうとする足を抱えて、寝台に組み敷くと、魔性の瞳でラギスを縫い留めた。
「ッ」
 王の覇気にあてられて、身体の自由を極端に奪われる。
 かすかにしか動けぬラギスをいいことに、シェスラは悠々と顔を、濡れたラギスの股間にうずめた。
「……ああぁぁッ」
 濡れた屹立を、熱い舌でねぶられる。
 大腿に流れた残滓までも、舌で追いかけるようにして舐めとられた。
 舌で清め終えても、名残惜しそうに陰嚢を揉んだり、しゃぶったりして、霊液サクリアをせがむ。
「よせ、もぅ……ッ」
 ラギスは、絶望に胸が潰れてしまいそうだった。
 混沌とした感情に見舞われ、視界は闇に堕ち、自分がどこにいるのかすら判らなくなる。漠とした意識のなか、己の絶望の声だけが耳に反響こだましていた。
 永く苛まれて、ラギスが喘ぐことしかできなくなる頃、シェスラはようやく顔をげた。
「――ほら、尻をだせ」
 反発心がもたげて、ラギスは全身に力をこめたが、ちゅ、と頬に口づけられるだけで、力が抜け落ちた。あっけなく横向きにさせられる。
「手が邪魔だ」
 あらぬところに視線を感じて、両手で尻を隠そうとするが、容赦なく剥された。
「……は、冗談だろ? 偉大なる月狼の王ドミナス・アルファングが、奴隷剣闘士の尻に膏薬を塗るってのか?」
 侮蔑をこめて吐き捨てたが、シェスラは鷹揚に頷いた。
「奴隷剣闘士ではない。私の聖杯だ……やはり、少し腫れたな。痛むか?」
「ッ、誰が……くそッ、試合をしている方がマシだ」
 どうにか気力をたぐりよせて悪態をつくが、ラギスは精神的にぼろぼろだった。
「優しく塗ってほしいか?」
 両の親指で尻を割り広げられ、孔を見られている。屈辱で死ねる。
「いらねェよ!」
 ラギスは唸り声をあげると、身を捩って尻を掴む手から逃げようとした。
「暴れるな」
「離せよ……うッ!」
 端正な顔を尻にうずめて、シェスラは舌で孔を舐めてきた。慌てて身じろぐが、腰をしっかりと掴まれていて、振りほどけない。
「ッ、おい! 薬塗るんじゃないのかよっ!?」
「は……塗る前に、慰めてやろう」
「頼んでねェ……っておい! 聞けッ」
「ン、我慢をするな……疼くのだろう?」
 なかを舌で探られ、思わず迸りかけた嬌声を、ラギスは歯を食いしばって堪えた。
「発情はしばらく続くが……心配しなくて良い。私が責任をとって、慰めてやろう」
 熱い肌が、ラギスに覆い被さる。耳殻に唇で触れられ、吐息を吹き込むように、ラギス……と囁かれた。
 心臓が今にも破裂しそうだった。
 逃げようとする腰を掴まれて、引き戻される。
 シェスラは琺瑯ほうろうのように白い手で、飽くことなくラギスを甘く淫らに苛んだ。