メル・アン・エディール - 無限海の海賊 -

8章:恋する夜 - 1 -

 その日の夜。
 夜直を免除されて、船長室キャプテンズデッキで休むティカをヴィヴィアンは湯の張った浴槽に運び、自分も裸になると共に入った。
 心地よく香る、柔らかな麻布まふがティカの身体のあちこちを滑る。
 ジョー・スパーナのつけた跡を見つけては、ヴィヴィアンは上書きするように唇で吸い突いた。

「ん……っ」

 微かな痛みに喘ぐと、多少は加減してくれるが、新しい跡を見つける度に、忌々しそうに吸いつく。

「……ヴィー、怒ってる?」

「怒ってるよ。あのひる野郎……次会ったら、ぶっ殺してやる」

 彼にしては珍しく、低い声で口汚く罵る。

「ヴィー……」

「あー、馬鹿馬鹿しい。許される限り、我慢は止めた」

「ん……っ」

 うなじを強く吸い突かれ、ティカの身体は湯の中で跳ねた。尻のあわいに、ヴィヴィアンの昂りが擦れる。

「や……ぁっ」

 身じろぎを封じるように、ヴィヴィアンは後ろから抱きしめた。宝石のついた耳朶を甘噛み、腕の中の少年にか細い声を上げさせる。
 雄々しく脈打つ怒張を、小さな尻のあわいに二度、三度と嬲るように擦りつけた。たぎった切っ先を、秘めやかな蕾に押し当てる――

「……っ」

 恐怖におののく身体を、彼はきつく抱きしめる。ティカが拒絶を口に乗せても、聞こえないふりをして、こめかみに口づけを繰り返す。
 身体が熱い。
 後ろから両の膝裏を抱えられ、大きく足を開かされた。
 乳白色の湯船の喫水線から、小ぶりな昂りがひょこっと飛び出る。
 とんでもない体勢と視覚的な卑猥さに、ティカは大きく目を見開いた。なんて恰好をさせるのだろう……!

「やめてっ」

 震える声で懇願しても、ヴィヴィアンは構わずに腰を擦り合わせる。ティカよりずっと大きくて、長さを持った塊が、陰嚢から裏筋までを擦り上げる。

「あぅっ」

 喉の奥から高い声が洩れ出た。
 身体を前後に揺すられる度に、腰に甘い刺激が走る。声ばかりではなく、張り詰めてゆく昂りからも、熱い雫が滲み出る。

「お湯が……!」

 汚してしまう。ティカは泣きそうな気持ちで、顔を歪めた。
 困惑を宥めるように、ヴィヴィアンは耳朶を甘噛みする。肩を撥ねさせるティカを抑え込み、耳元に吐息を吹き込んだ。

「やめてあげない。俺はティカにも、少し腹を立ててるよ」

「え……」

「なんでジョー・スパーナに魔法を使った? そりゃ、跡をつけられもするよね」

「だ、だって……」

「素直でかわいいけど……」

「あっ」

「学習しろ。自分の価値を判れよ」

「ごめんなさ……んっ」

 双丘のあわいを屹立に擦り上げられ、謝罪は嬌声に溶けた。淫らな行為からは、甘さよりも苛立ちを感じる。

「敵かもしれないって、言っただろ?」

 水面から飛び出た屹立の根元を、ヴィヴィアンは指で絞るようにして戒めた。吐きだせない熱が内に籠る。

「ヴィー!」

「一人になれば、狙われる危険だって増すんだよ」

「手、離して」

「駄目。俺がどんな思いで、ティカを追いかけたと思う?」

 やけにゆっくり問いかけながら、戒めた屹立の先端を親指の腹で、優しく撫でる。

「ヴィーッ!」

「優しくしてあげたいのに」

「あ……っ、んぅ!」

 根元をきつく戒められたまま、腰を何度も揺さぶられる。強烈な快楽が身体に溜まってゆく。

「やぁっ」

「ティカに邪魔をされるとは……」

 悪戯な手はティカの肌をどこまでも滑り、尖った乳首を刺激する。指先で弾いて、転がし、押し込んで快感を与え続ける。
 湯船の中で、昇り詰めてしまいそうだ。もう、それしか考えられない……!

「ヴィー!」

 猛った切っ先を、未通の硬い窄まりに宛がわれ、ティカは青褪めた。

「ごめんなさい、ごめんなさいっ!」

 訳も判らず、必死に謝罪を叫んだ。脅かすように、こつこつと蕾の入り口を突かれる。
 湯を散らして暴れても、解放されない。醒めやらぬ淫蕩な恐怖の中、甘い責め苦は続き――

「――っ」

 やがて、指の戒めを解かれた時、ティカは声にならぬ叫び声を上げた。
 全身を震わせて、長く精を吐き出す。飛沫は放物線を描いて、浴槽の外まで飛んだ。
 昏倒寸前まで追い込み、彼もようやく気が済んだのか……触れるだけの優しいキスをティカに与える。

「外に出たいよぅ」

 弱々しい声でティカが懇願すると、今度はヴィヴィアンもすぐに応じた。浴槽から出る手助けをし、シャワーで飛び散った白濁や汗を流す。外へ出た後も、甲斐甲斐しく身体を拭いてくれる。

「水飲む?」

 天国をたゆたうような心地でベッドに伸びていると、傍のチェストにヴィヴィアンは水を置いてくれた。

「好き」

 横になったまま長身を仰ぎ見て、口の中だけでこっそりと囁く。聞こえたらしい彼は、すぐに綺麗な微笑みを浮かべた。

「俺も好きだよ」

 優しい口づけが、ティカの唇に、閉じた額や頬に雨と降る。心地よさに包まれながら、瞼をそっと閉じた。

 +

 この日――
 厳罰と思った“吊るして謝罪の刑”は、兄弟達の話ではかなり軽い方なのだと後から知った。

「俺は賭博がばれた時、十四回の鞭打刑だったな。けっこう血が出たし、暫く潮風が沁みて辛かったわ」

 記憶と共に痛みが蘇ったように、顔をしかめてブラッドレイは語る。
 そんな話は、船乗りならざらにあるらしく、例えば、とある船乗りの悲惨な末路を教えてくれた。

「盗みを働いた奴は、帰港するまでの半年間ずっと独房で過ごして、最後はロアノス監獄に送られたよ」

 積荷が非常に高価なヘルジャッジ号、別名カーヴァンクル号では、盗難にまつわる処罰が過去に何度か起きている。
 海賊船の愉快な一面ばかり目に映っていたが、航海の基本規律――怠慢、泥酔、賭博、盗み、殺し――に触れた者には、時に死ぬより辛い厳罰が下される。
 今回、ティカは規律に触れてはいないが、大切な人達に心配をかけることも、同じくらいに罪深いのだと改めて反省した。