メル・アン・エディール - 無限海の海賊 -
5章:カルタ・コラッロ - 8 -
見つめ合ったまま、沈黙が流れる。
青い瞳を見つめていると、ヴィヴィアンは不意にティカの手を持ち上げて、甲に口づけた。
「……俺が好き?」
「アイ」
しっかり返事すると、ヴィヴィアンは顔を上げて淡く微笑んだ。
「俺も、ティカが好きだよ」
変わらぬ、慈愛に満ちた穏やかな表情。その綺麗な笑みに、ふと問いかけたい衝動に駆られた。
「ヴィーは……」
「うん?」
「僕がもし……」
古代神器を手にしなくても、好きでいてくれた? その問いを口にしようと考えただけで、胸は軋んだ。
そんなことを聞いて、彼の口から否定が飛び出したら、どうするつもりなのだろう? 想像しただけでも、胸が潰れそうなのに。
沈黙が長引くと、焦れたようにヴィヴィアンの方から口を開いた。
「もし……何?」
「……」
「ティカ?」
応えられるずにいると、促すように名を呼ばれた。
「いいえ、何でも……」
なんて意気地がないのだろう。結局、恐くて聞けない。彼の本心を知ることが怖い。
取られた手を引き抜こうとしたら、逆に掴まれた。彼は淡い笑みを浮かべたまま、試すような口調で問いかける。
「俺がいないと、寂しい?」
思わず顔を歪めた。知っていて、そんなことを聞くなんて。
「意地悪だ」
悪態をついたのに、ヴィヴィアンは嬉しそうに微笑んだ。彼の考えることは、よく判らない。
掴まれた手を振り解こうとしたら、彼は立ち上り、ティカの動きを両腕で封じ込めた。
「やだ」
手に力を込めて暴れたけれど、びくともしない。
「ティカ」
腰を屈めて、端正な顔を近付ける。吐息が頬にかかった。戸惑い、俯こうとする前に唇が重なる――
「……っ!」
驚きのあまり、抵抗も忘れてしまった。
柔らかな感触に、胸が高鳴る。
お休みのキスじゃない……こんなキスをされるのは、あの夜以来だ。魔法にかけた、あの夜。でも、なぜ――
破裂しそうな鼓動を感じながらじっとしていると、不意に唇を食まれた。
「ん……っ」
頭と腰に腕を回されて、唇は更に隙間なく合わさる。なぜ。どうして――
混乱のままにキスを続け、息継ぎに口を開くと、小さな吐息が漏れた。自分の声ではないみたい。
強めに唇を吸われて、舌先が、唇の内側を舐めた。
眼を見開いて、身体を強張らせた途端、ヴィヴィアンは身体を離した。
「ごめん」
どうして謝るのだろう。
視線が交差するよりも早く、問いかけるよりも早く、ヴィヴィアンはティカに背を向けた。そのまま振り返らずに部屋を出て行く。
パタン。
扉の閉じる音を聞いた途端に、寂寥に襲われた。ティカを置いて、ヴィヴィアンは行ってしまった。
唇に指で触れると、少し、濡れている……
意識した途端、頬が燃えるように熱くなった。
ヴィヴィアンはどうして、あんなキスをしたのだろう。魔法にかけられているわけでもないのに。
まだ心臓がドキドキしている。
彼が告げてくれた“好き”という言葉は、もしかしたら、ティカが望むもの?
心は浮き立ちかけるが、すぐに萎んだ。
だとしたら、どうして今夜、ティカを置いて行ってしまうのか……
結局、ティカよりも他の誰かを求めて、彼はたった今、この部屋を出て行ったのだ。
青い瞳を見つめていると、ヴィヴィアンは不意にティカの手を持ち上げて、甲に口づけた。
「……俺が好き?」
「アイ」
しっかり返事すると、ヴィヴィアンは顔を上げて淡く微笑んだ。
「俺も、ティカが好きだよ」
変わらぬ、慈愛に満ちた穏やかな表情。その綺麗な笑みに、ふと問いかけたい衝動に駆られた。
「ヴィーは……」
「うん?」
「僕がもし……」
古代神器を手にしなくても、好きでいてくれた? その問いを口にしようと考えただけで、胸は軋んだ。
そんなことを聞いて、彼の口から否定が飛び出したら、どうするつもりなのだろう? 想像しただけでも、胸が潰れそうなのに。
沈黙が長引くと、焦れたようにヴィヴィアンの方から口を開いた。
「もし……何?」
「……」
「ティカ?」
応えられるずにいると、促すように名を呼ばれた。
「いいえ、何でも……」
なんて意気地がないのだろう。結局、恐くて聞けない。彼の本心を知ることが怖い。
取られた手を引き抜こうとしたら、逆に掴まれた。彼は淡い笑みを浮かべたまま、試すような口調で問いかける。
「俺がいないと、寂しい?」
思わず顔を歪めた。知っていて、そんなことを聞くなんて。
「意地悪だ」
悪態をついたのに、ヴィヴィアンは嬉しそうに微笑んだ。彼の考えることは、よく判らない。
掴まれた手を振り解こうとしたら、彼は立ち上り、ティカの動きを両腕で封じ込めた。
「やだ」
手に力を込めて暴れたけれど、びくともしない。
「ティカ」
腰を屈めて、端正な顔を近付ける。吐息が頬にかかった。戸惑い、俯こうとする前に唇が重なる――
「……っ!」
驚きのあまり、抵抗も忘れてしまった。
柔らかな感触に、胸が高鳴る。
お休みのキスじゃない……こんなキスをされるのは、あの夜以来だ。魔法にかけた、あの夜。でも、なぜ――
破裂しそうな鼓動を感じながらじっとしていると、不意に唇を食まれた。
「ん……っ」
頭と腰に腕を回されて、唇は更に隙間なく合わさる。なぜ。どうして――
混乱のままにキスを続け、息継ぎに口を開くと、小さな吐息が漏れた。自分の声ではないみたい。
強めに唇を吸われて、舌先が、唇の内側を舐めた。
眼を見開いて、身体を強張らせた途端、ヴィヴィアンは身体を離した。
「ごめん」
どうして謝るのだろう。
視線が交差するよりも早く、問いかけるよりも早く、ヴィヴィアンはティカに背を向けた。そのまま振り返らずに部屋を出て行く。
パタン。
扉の閉じる音を聞いた途端に、寂寥に襲われた。ティカを置いて、ヴィヴィアンは行ってしまった。
唇に指で触れると、少し、濡れている……
意識した途端、頬が燃えるように熱くなった。
ヴィヴィアンはどうして、あんなキスをしたのだろう。魔法にかけられているわけでもないのに。
まだ心臓がドキドキしている。
彼が告げてくれた“好き”という言葉は、もしかしたら、ティカが望むもの?
心は浮き立ちかけるが、すぐに萎んだ。
だとしたら、どうして今夜、ティカを置いて行ってしまうのか……
結局、ティカよりも他の誰かを求めて、彼はたった今、この部屋を出て行ったのだ。