メル・アン・エディール - 無限海の海賊 -
5章:カルタ・コラッロ - 2 -
「人工の完璧な石より、ちょっと傷があっても、研いて削って、努力して綺麗になった石の方が僕には魅力的ってこと」
「個性……ダイヤモンドにも?」
ダイヤモンドは、エステリ・ヴァラモン海賊団の海賊旗 にも意匠されている、ティカ達にとって特別な宝石だ。
「もちろん、あるよ」
そう言うと、宝石標本から小粒のダイヤモンドを手に取って見せる。
「どんな個性があると思う?」
「硬いところ?」
即答すると、アマディウスは微笑した。
「……そう。特別な石と崇められるが所以の勁 さは、ダイヤモンドの大きな個性だ。他には?」
説明しながら、パイプにたっぷりの煙草を詰め直して、吹かし始める。
「……無色なのに、虹色に輝いて見えるところ?」
「そう、それも個性。ダイヤモンドの光の屈折率は最高値の二・四二。次点はサファイア・ルビーの一・六二~七七、ガーネットの一・七三~八九……気付いた? ダイヤモンドはずば抜けて高いんだよ」
「だからこんなにキラキラしているんですか?」
「そう。外光が石の底に当たり内部に跳ね返る……全反射すると、石の表面に光が溢れ出て、炎のように輝いて見える」
宝石標本に並ぶ透明な六角水晶を見て、ティカは首を傾げた。
「同じ無色なのに、水晶は輝かないんですね」
「水晶は屈折率が低いから。外光が当たっても、全反射せずに光は石を通り抜けてしまう」
「屈折率が高いから、ダイヤモンドは高価なんですか?」
「いや、ダイヤモンドの稀少性は四つの基準で評価される。透明度、重さ、色、そして特に大切なのが、強烈な輝きを生み出す為のカット。これらの総合力で値打ちが決まる」
「そっか……宝石って、そのままの形で採掘できるわけじゃないですもんね」
自然に育まれた貴重な鉱石は、人の手が加わって初めて、店に並ぶような宝石に生まれ変わるのだ。
「そう」
彼はゴツゴツした岩を手に取ると、原石だよ、と説明した。見た目は乳白色の、ただの岩だ。
「白い岩?」
「宝石は自然が生む美しい鉱石のこと。石英の中にアクアマリンの結晶が埋まってる。丁寧に取り出して、研いて、初めて輝く宝石となる」
よく見れば、乳白色の岩の中に水色の筋が走っている。
「え、これがアクアマリン?」
ティカのブレスレットについているアクアマリンの宝石とはまるで違う。色はくすんでいて、輝きはまるでない。
「そうだよ。原石の時点では、ご覧の通り輝きを備えていない。カットがいかに大切か判るでしょ」
「確かに、全然違う!」
納得して顔を上げると、アマディウスは紫煙を吐きながら頷いた。
「中には原石だけで、値がつけられぬほど高価なものもあるけどね。ダイヤモンドの最高級の透明度――クラリティは、一切の内包物を持たない完璧な美しさ。フローレスだ」
「どんなものですか?」
それも宝石標本に並んでいるのかと思いきや、アマディウスは苦笑で応えた。
「奇跡の石だから、高価過ぎて市場には出回らない。一部の蒐集家が所有しているだけ。ゾロフスキー家も幾つか所有しているよ」
ゾロフスキー家は世界的に有名な宝石商で、彼の生家でもあり、なんとバビロン大帝国の名門貴族だという。
彼は数年前に無限海に下りて、ヘルジャッジ号に乗船したらしい。無限海と無限空を行き来するには、かなりの費用と運を要する。それを可能とする彼の生家は、よほど裕福なのだろう。
「へぇ……どこで採れるんだろう」
「世界一良質なダイヤモンドは無限空で採れる。僕の双子の弟はダイヤモンドが大好きで、バビロンを離れたがらないくらいだ」
「え、双子の弟がいるんですか?」
「いるよ」
ティカは目を瞠った。こんなに変わった人が、世界に二人もいるなんて驚きだ。
「個性……ダイヤモンドにも?」
ダイヤモンドは、エステリ・ヴァラモン海賊団の
「もちろん、あるよ」
そう言うと、宝石標本から小粒のダイヤモンドを手に取って見せる。
「どんな個性があると思う?」
「硬いところ?」
即答すると、アマディウスは微笑した。
「……そう。特別な石と崇められるが所以の
説明しながら、パイプにたっぷりの煙草を詰め直して、吹かし始める。
「……無色なのに、虹色に輝いて見えるところ?」
「そう、それも個性。ダイヤモンドの光の屈折率は最高値の二・四二。次点はサファイア・ルビーの一・六二~七七、ガーネットの一・七三~八九……気付いた? ダイヤモンドはずば抜けて高いんだよ」
「だからこんなにキラキラしているんですか?」
「そう。外光が石の底に当たり内部に跳ね返る……全反射すると、石の表面に光が溢れ出て、炎のように輝いて見える」
宝石標本に並ぶ透明な六角水晶を見て、ティカは首を傾げた。
「同じ無色なのに、水晶は輝かないんですね」
「水晶は屈折率が低いから。外光が当たっても、全反射せずに光は石を通り抜けてしまう」
「屈折率が高いから、ダイヤモンドは高価なんですか?」
「いや、ダイヤモンドの稀少性は四つの基準で評価される。透明度、重さ、色、そして特に大切なのが、強烈な輝きを生み出す為のカット。これらの総合力で値打ちが決まる」
「そっか……宝石って、そのままの形で採掘できるわけじゃないですもんね」
自然に育まれた貴重な鉱石は、人の手が加わって初めて、店に並ぶような宝石に生まれ変わるのだ。
「そう」
彼はゴツゴツした岩を手に取ると、原石だよ、と説明した。見た目は乳白色の、ただの岩だ。
「白い岩?」
「宝石は自然が生む美しい鉱石のこと。石英の中にアクアマリンの結晶が埋まってる。丁寧に取り出して、研いて、初めて輝く宝石となる」
よく見れば、乳白色の岩の中に水色の筋が走っている。
「え、これがアクアマリン?」
ティカのブレスレットについているアクアマリンの宝石とはまるで違う。色はくすんでいて、輝きはまるでない。
「そうだよ。原石の時点では、ご覧の通り輝きを備えていない。カットがいかに大切か判るでしょ」
「確かに、全然違う!」
納得して顔を上げると、アマディウスは紫煙を吐きながら頷いた。
「中には原石だけで、値がつけられぬほど高価なものもあるけどね。ダイヤモンドの最高級の透明度――クラリティは、一切の内包物を持たない完璧な美しさ。フローレスだ」
「どんなものですか?」
それも宝石標本に並んでいるのかと思いきや、アマディウスは苦笑で応えた。
「奇跡の石だから、高価過ぎて市場には出回らない。一部の蒐集家が所有しているだけ。ゾロフスキー家も幾つか所有しているよ」
ゾロフスキー家は世界的に有名な宝石商で、彼の生家でもあり、なんとバビロン大帝国の名門貴族だという。
彼は数年前に無限海に下りて、ヘルジャッジ号に乗船したらしい。無限海と無限空を行き来するには、かなりの費用と運を要する。それを可能とする彼の生家は、よほど裕福なのだろう。
「へぇ……どこで採れるんだろう」
「世界一良質なダイヤモンドは無限空で採れる。僕の双子の弟はダイヤモンドが大好きで、バビロンを離れたがらないくらいだ」
「え、双子の弟がいるんですか?」
「いるよ」
ティカは目を瞠った。こんなに変わった人が、世界に二人もいるなんて驚きだ。