メル・アン・エディール - 無限海の海賊 -
3章:古代神器の魔法 - 4 -
ヴィヴィアンとティカは、ホバーボードで無限幻海を北上していた。
北東に位置するリダ島を目指しているであろう、ヘルジャッジ号の後を追いかけているのだ。
「さっきの魔法だけど、あれはやっぱり、ティカじゃないと触れることはできなかったと思う」
海の上を滑空しながら、ヴィヴィアンはぽつりと呟いた。
「え?」
「俺は触れる依然に、跳ね除けられた。“お前じゃない”って拒絶されるみたいに」
「……」
そう言われると、ティカはあの光に、歓迎されていた気がする。まるで“触れ”と言われているようだった。
「ティカが触れた途端、巨大なエーテルの環 が起きた。それも人工エーテルじゃない、太古の資源、古代エーテルだ。精霊の魔法っていう説は、案外本当かもしれない」
「僕、精霊を見ました! すごく綺麗でした。名前は、アンジェラとアシュレイといって……」
「え?」
「顔のよく似た精霊でしたよ」
「その情報からすると……でも、まさか……一番、信憑性ないと思ってたんだけどなぁ……」
ヴィヴィアンはぶつぶつ呟きながら、思考の海へ彷徨い出した。
「僕、魔法を手に入れたのは確かなんですけど、使い方がよく判らなくて……」
「そうそう、どんな魔法?」
「バビロン帝国にも自由に渡れる魔法と、メールアンエールです」
「え? バビロン帝国って……本当に?」
「はい。使い方が判らないけど……メールアンエールの方は、簡単そうですよ」
「それが本当なら、ぼろ儲けだな。交易し放題じゃないか。シルヴィーが聞けば、泣いて喜ぶ。俺もどうしよう。本場で魔導改造できるぞ」
ヴィヴィアンは弾んだ声を上げた。やはり彼にとって、空中都市バビロンへの切符は、お宝同然の価値があるらしい。
「……で、メールアンエールって? 発音、崩れてない? もしかして古代語?」
「相手の名前を呟いて、メールアンエールって唱えると、人の心を手に入れることができるみたいです」
「へぇ……心。暗示かな? 精霊の魔法なら、古代語だよね……メールアンエール……ん……? メル・アン・エディールか! 貴方は私のもの!!」
ヴィヴィアンは天啓を受けたかのように、海上でぴたりと立ち止まった。
「キャプテン?」
「よし、試してみよう。唱えてみてよ」
「えっ? ここで?」
「うん。発音は、メル・アン・エディールね」
「じゃぁ……キャプテン、メル・アン・エディール!」
何も起こらなかった。
海は平和に凪いでいる。ティカも唱えてみて、これは何か違うと感じた。
「名前か……」
ヴィヴィアンの呟きを聞いて、ティカも閃いた。魔法を正しく発動させるには、相手の名前を唱える必要があるのだ。
「あ、そっか。ヴィヴィアン、メル・アン・エディール!」
今度は自信あったのだが……何も起こらなかった。
遠くで鯨が飛沫を噴き上げている……ヴィヴィアンとティカは二人して沈黙した。
「――うん。まぁ、いいや。ヘルジャッジ号に追いつくことの方が先だよね。魔法は、戻ったら調べてみよう」
ヴィヴィアンはさらりと流すと、再びホバーバイクを走らせた。しかし、ティカは急に不安になった。果たして本当に魔法を使えるのだろうか?
「ティカは魔法を使えるよ、絶対に」
気落ちしているティカの様子を察して、ヴィヴィアンは安心させるように応えた。
「そうでしょうか……」
「俺には判るんだ。前とは雰囲気が違う。ティカ、まるで金色の光に包まれているみたいだよ」
ヴィヴィアンがそういうのだから、本当に魔法を使えるのかもしれない。ほんの少し気分が晴れて、ティカは顔を上げた。
もし、本当に魔法を使えるのなら――彼の願いを叶えてあげたい。
北東に位置するリダ島を目指しているであろう、ヘルジャッジ号の後を追いかけているのだ。
「さっきの魔法だけど、あれはやっぱり、ティカじゃないと触れることはできなかったと思う」
海の上を滑空しながら、ヴィヴィアンはぽつりと呟いた。
「え?」
「俺は触れる依然に、跳ね除けられた。“お前じゃない”って拒絶されるみたいに」
「……」
そう言われると、ティカはあの光に、歓迎されていた気がする。まるで“触れ”と言われているようだった。
「ティカが触れた途端、巨大なエーテルの
「僕、精霊を見ました! すごく綺麗でした。名前は、アンジェラとアシュレイといって……」
「え?」
「顔のよく似た精霊でしたよ」
「その情報からすると……でも、まさか……一番、信憑性ないと思ってたんだけどなぁ……」
ヴィヴィアンはぶつぶつ呟きながら、思考の海へ彷徨い出した。
「僕、魔法を手に入れたのは確かなんですけど、使い方がよく判らなくて……」
「そうそう、どんな魔法?」
「バビロン帝国にも自由に渡れる魔法と、メールアンエールです」
「え? バビロン帝国って……本当に?」
「はい。使い方が判らないけど……メールアンエールの方は、簡単そうですよ」
「それが本当なら、ぼろ儲けだな。交易し放題じゃないか。シルヴィーが聞けば、泣いて喜ぶ。俺もどうしよう。本場で魔導改造できるぞ」
ヴィヴィアンは弾んだ声を上げた。やはり彼にとって、空中都市バビロンへの切符は、お宝同然の価値があるらしい。
「……で、メールアンエールって? 発音、崩れてない? もしかして古代語?」
「相手の名前を呟いて、メールアンエールって唱えると、人の心を手に入れることができるみたいです」
「へぇ……心。暗示かな? 精霊の魔法なら、古代語だよね……メールアンエール……ん……? メル・アン・エディールか! 貴方は私のもの!!」
ヴィヴィアンは天啓を受けたかのように、海上でぴたりと立ち止まった。
「キャプテン?」
「よし、試してみよう。唱えてみてよ」
「えっ? ここで?」
「うん。発音は、メル・アン・エディールね」
「じゃぁ……キャプテン、メル・アン・エディール!」
何も起こらなかった。
海は平和に凪いでいる。ティカも唱えてみて、これは何か違うと感じた。
「名前か……」
ヴィヴィアンの呟きを聞いて、ティカも閃いた。魔法を正しく発動させるには、相手の名前を唱える必要があるのだ。
「あ、そっか。ヴィヴィアン、メル・アン・エディール!」
今度は自信あったのだが……何も起こらなかった。
遠くで鯨が飛沫を噴き上げている……ヴィヴィアンとティカは二人して沈黙した。
「――うん。まぁ、いいや。ヘルジャッジ号に追いつくことの方が先だよね。魔法は、戻ったら調べてみよう」
ヴィヴィアンはさらりと流すと、再びホバーバイクを走らせた。しかし、ティカは急に不安になった。果たして本当に魔法を使えるのだろうか?
「ティカは魔法を使えるよ、絶対に」
気落ちしているティカの様子を察して、ヴィヴィアンは安心させるように応えた。
「そうでしょうか……」
「俺には判るんだ。前とは雰囲気が違う。ティカ、まるで金色の光に包まれているみたいだよ」
ヴィヴィアンがそういうのだから、本当に魔法を使えるのかもしれない。ほんの少し気分が晴れて、ティカは顔を上げた。
もし、本当に魔法を使えるのなら――彼の願いを叶えてあげたい。