メル・アン・エディール - 無限海の海賊 -

15章:アプリティカ - 10 -

 夜も更け、ヴィヴィアンは皆に惜しまれながら選評会をあとにした。
 別荘に帰って寝室に入ると、襟のタイを緩めながらため息をついた。そのまま無造作に上を脱ぎ捨て、幾つものの色が混じった羅紗のガウンを羽織る。長い指でグラスを掴むと、一口水を飲んだ。
 ティカは、彼の喉仏が上下する様子を見守った。銀色の髪が、蝋燭の光を受けて輝いている。精緻に整った理知的な横顔に見惚れていると、その顔が突然にこちらを向いたので、思わずびくっと肩が跳ねた。
「着替えないの?」
「着替えます」
 ティカは慌てて返事をした。上着を衝立にかけると、衣装箪笥の前にいき、手早く寝室着に着替える。再び彼の前に戻ると、そっと手をとられた。
「今夜は色々あったね」
 声には紛れもない疲労の色が滲んでいた。ティカは責任を感じて、肩を落とした。
「……ごめんなさい。疲れたでしょう? ……僕のせいで」
「いやいや、ティカのせいじゃないよ。人が多かったから疲れただけ」
 ティカが黙りこむと、ヴィヴィアンはティカの髪を撫でた。
「何か飲む?」
 ティカはかぶりを振ったが、ヴィヴィアンは呼び鈴でローランドを呼んで、幾つか指示をした。
「今夜は冷えるよね」
 そういいながら、指を鳴らして暖炉に火をつけると、テーブルに手燭しゅしょくを灯し、ソファーを寛げるように整えてからティカを振り向いた。
「ここに座って」
 ティカがソファーに落ち着くのを見ると、自分も隣に座ってティカの手をとった。
「……ユージニアの手紙だけど、あれは晩餐の招待状だったよ。もちろん断るつもりだ」
 ティカは黙ったまま頷いた。
「彼女とは、とっくに終わっている。ティカが不安に思うことは何もないよ」
 そういわれても、ティカの不安は消えなかった。少なくとも、ユージニアにとっては現在進行形であり、終わっていなさそうである。
 とっくに終わっている……なんて冷たい言葉なのだろう。いずれティカも、その言葉で切り捨てられる日がくるのだろうか?
“いつかその恋が終わる時、悔いのないようにね”
 ユージニアにいわれた言葉を、ティカは苦々しく思いだした。彼女がいうように、この関係が有限なのだとしたら……終わりはいつくるのだろう? そう思うと、胸の奥がぎゅっと締めつけられ、ティカは痛みを堪えるように視線を伏せた。
「ティカ?」
「……」
「そんなに不安そうな顔をしないで。ユージニアとはもう、何の関係もないんだ。確かに昔は親しくしていた時期もあったけれど、今はティカ一筋だよ。知ってるだろ?」
 ティカは返事をすることができなかった。未熟な恋に、早くも破綻を想ってしまう。またしても魔法の言葉が脳裏を過り、慌ててかぶりをふった。
「僕の不安は、ヴィーの問題じゃないんです。僕に自信がないことがいけないんです」
「どうして自信がないと思うの?」
「だって、僕はユージニアさんみたいに綺麗じゃないし、特別なことなんて何も……古代神器の魔法は使えるけど、それは僕の力じゃなくて、古代神器が凄いんだ」
「いっておくけど、古代神器は誰にでも使える魔法じゃないよ。それに魔法は関係ない。そんなものがなくたって、ティカは魅力的だよ。俺はすっかりティカに夢中なんだから」
 そういってヴィヴィアンは、ティカの頬にキスをした。
「僕は……船の上だともうちょっとマシだけど、今は陸の上で役立たずだ」
「この上なく役に立っているさ。傍にいるだけで、俺を幸せな気持ちにしてくれるんだから。俺はティカさえ傍にいれば、一日中でも機嫌よく過ごせるんだよ」
「……」
「ティカのおかげで、本当の恋を知ることができたんだ。純粋な心なんてものは、輝かしい金色の夜明けの朝、幼年時代に全部置いてきたと思ったけれど、どうやら一片残っていたみたいだ。ティカが思いださせてくれたんだよ」
「……前に、シルヴィーも同じことをいっていました」
 くぐもった声の調子に、ヴィヴィアンは不思議そうにティカの顔を覗きこんだ。
「気に障った?」
「違います。ただ……シルヴィーは魔法のおかげで、なくした心の一部を取り戻せたといっていました。ヴィーのその気持ちは、もしかしたら……ふがっ」
 弱気になっている少年の鼻を、ヴィヴィアンは指でつまんだ。
「こらこら、卑屈になるんじゃない。俺の言葉を信じられないの?」
 ティカは拗ねたように唇を突きだした。
「二人きりの時はいいんだ。でも、人に囲まれているヴィーを見ると、不安になる。眩しくて、すごく遠い世界の人みたいだから」
 鼻をさすりながら、ティカはいいわけがましくいった。
「いいかい、周囲に人がいても、俺は常にティカを意識しているよ。ティカが緊張するといけないと思って、人がいる時は構いすぎないようにしてきたけど、ティカはどう? 俺がティカを恋人だって、人に自慢たり、紹介したりして平気?」
 ティカは顔をあげた。ヴィヴィアンは真面目な顔をしていた。
「ヴィーは、恥ずかしくないんですか?」
「ちっとも」
「僕、僕が……」
「いっておくけど、ティカが平気なら、俺は人前だろうと構い倒すよ」
「え?」
「やっぱり船の上だと、規律や立場を意識しないわけにはいかないじゃない。けど、陸にあがっている間は自由にしていいだろう?」
 ティカは微妙な顔つきになった。陸の上に限らず、ヴィヴィアンはいつだって泰然自若、自由奔放に過ごしていると思う。
「……僕は船に戻りたいです」
「海が恋しい?」
「うん。僕は、」
 言葉を続けようとして、ティカは口を閉ざした。新世界を目指す冒険はいつでも心が浮き立つが、そればかりが理由ではない。
「……船の上にいれば、ヴィーを独り占めできるから」
 ヴィヴィアンは息を呑んだ。
「どこにいたって、俺の全てはティカのものだよ……競売が終わったら、出かける予定もないし、二人でのんびりしようね」
 ティカはこくりと頷いた。
「不安に思うことがあるなら、遠慮せずにいっていいんだよ。俺も気をつけるけど、ティカも自分からいってくれると助かる……というか、安心する」
「……」
「休暇を心から楽しんでほしいんだ。仕事をしていないから不安になる、なんて思わないで。俺にはあまりある財がある。年下のかわいい恋人を甘やかしたって、いいだろう?」
 落ちこんでいた心が浮上してくるのを感じて、ティカはようやく強張った身体から力を抜いた。
 控えめなノックの音に、二人は会話は中断して扉をふり向いた。
 ヴィヴィアンは優雅な動作でドアを開けて、銀盆を手に再びティカの元へ戻ってきた。盆の上には湯気の立つ葡萄酒と、林檎酒のはいったマグカップが置かれている。彼は盆を丸卓にのせると、林檎酒の方をティカにさしだした。
「はい。熱いから気をつけて」
「ありがとうございます……」
 磁器の受け皿を、ティカはおっかなびっくり受け取った。
 林檎酒を冷まそうと、表面に息を吹きかけているティカを、ヴィヴィアンはしばらく黙って見つめていた。
「……正直にいえば、ティカは嫌な思いをしたかもしれないけど、俺はティカが焼いてくれて嬉しかったよ」
 ティカは動きをとめて、ヴィヴィアンをじっと見つめた。
「キャプテンもいつかは結婚しますか?」
 唐突で、率直なものいいに、ヴィヴィアンは目を瞬いた。
「俺は根深い独身主義者だよ。王族の義務といわれていたけど、捕まる前に海へ逃げたくらいだ」
「王族の義務?」
「そりゃあ……そんなことを気にしていたの?」
「……」
「心配しなくも、俺はティカひとすじだよ」
 怠惰な享楽主義のヴィヴィアンは、これまで、社交の場で数えきれないほど恋を楽しんできた。戯れの相手は、気品のある浮気性の婦人や美しい男で、親密な関係を築くよりも、そこに至るまでの駆け引きを楽しんでいた。相手がヴィヴィアンにのめりこみ破綻する前には出航し、或いは非情な振る舞いで関係を清算してきた。
 だが、ティカと出会って全てが変わった。
 昔なら声をかけていたであろう美しく魅力的な女や男を見ても、食指が動かない。一時の相手よりも、隣にいる少年の方が遥かに大切だった。
「僕、ヴィーのことが好きです。貴方を愛しています」
 ティカがいつになく真剣な顔でいうので、ヴィヴィアンは呼吸をとめた。かと思えば、無言でティカの身体を抱きあげた。
「えっ」
 驚くティカをベッドの淵に座らせ、そのまま押し倒して、覆いかぶさった。
「ヴィー?」
「俺も愛しているよ、ティカ」
 そういって、唇を塞いだ。
「んぅ」
 慌てるティカを宥めるように、唇を優しく食む。強張りがほどけると、彼はそっと舌で唇のあわいを突いた。
「舌をだしてごらん」
「ん……」
 ティカがその通りにすると、優しく搦め捕られた。ほんのりお酒の味がする。口腔に舌が侵入してきて、敏感な粘膜のそちこちを刺激されると、ティカの下腹部がどくんと脈打った。
「ん、ふっ」
 キスを続けながら、ヴィヴィアンはティカの身体をシャツの上から撫でまわし、乳首を見つけると、指で刺激した。見悶えるティカを押さえつけたまま、何度もこすりあげる。
「や、ぁっ……ん! ヴィ、あ……」
 シャツの釦がぷつん、ぷつん、と上から三つまではずされ、片方の乳首が露わになった。
「やだっ」
 やめさせようとヴィヴィアンの銀髪に指をさしいれると、彼は顔をあげて、欲に翳った瞳でティカを射抜いた。
「やだ?」
 ティカは真っ赤になった。ヴィヴィアンはじっと見つめている。焦げてしまいそうなほど、熱くて、強い視線だ。逃げるのは赦さないといわれているようだった。
「……や、やじゃなぃ……」
 小声で囁くと、ヴィヴィアンは満足そうに、嫣然とほほえんだ。
「かわいい、ティカ……かわいすぎて、ちょっと泣かせちゃうかも」
 そういって顔を伏せる。首筋や鎖骨、胸……肌の露出しているあらゆるところにキスの雨が降り、そのたびにティカの身体は小さく跳ねた。
「はぁ、ん……っ」
 彼の唇が胸に落ちる様を、ティカは黙って見ていた。平らな胸なのに、乳首は見たことがないほど、ぷっくりしていて、ティカの目にもいやらしく感じられた。ヴィヴィアンの唇に含まれる瞬間、無意識に身体は強張ったが、あっけなく口内に含まれた。
「ひゃっ」
 柔らかく唇で食まれて吸いあげられる。かと思えば、舌でそっと突かれ、焦れったいほど優しく舐めあげられる。小さな器官に、身体中の細胞が凝縮しているように感じられた。吸われて、食まれて、歯を立てられ――甘い刺激が絶えず繰り返され、ティカは息も絶え絶えに喘ぐばかりだった。びくびくと腰を跳ねさせ、逃げようと身じろぐが、ヴィヴィアンは腕でティカをしっかりと拘束し、決して離さなかった。
「ッ、ぁっ、ふぁ……んっ……も、だめぇ……っ」
 ティカの股間は痛いほど張りつめていた。えもいわれぬ悦楽に翻弄され、下腹部に熱が溜まっていく。
 やがてヴィヴィアンは顔をささげていき……大腿の間に体をすべりこませた。思わずティカが上体を起こすと、熱の灯った青い瞳に遭った。
「足を開いて」
「でも……」
「いいから、開いてごらん」
 ティカは潤んだ瞳で首を振った。はしたなく勃たせていることは、見なくても判る。そこに彼が口をつけると思うと……もう何度もされていることだが、未だに慣れない。恥ずかしくて顔から火がでそうなほどだ。
「俺の命令が聞けないの?」
「っ!」
 ティカは哀願の眼差しで赦しを請うが、ヴィヴィアンの表情は変わらない。優雅で傲慢な支配者。けれど、翳った瞳には甘さも含まれていて、ティカはおずおずと足をさらに大きく開いた。ヴィヴィアンは器用にティカから服を奪いとると、下着だけになった姿を見下ろし、微笑した。
「……ふ、いやらしい」
 ティカは真っ赤になった。そこは、ごまかしようもなく勃起していて、生成りの下着を濡らしていた。先端の形と色が、くっきりと透けて見える。
「やだぁ……っ」
 ティカはくしゃっと顔を歪めた。視線に耐えられず、足をとじようとしたが、彼は大腿を掴んで容赦なく開かせた。
「いやぁっ!」
 次の瞬間、柔らかいものが昂りに覆い被さり、足のつけ根がふわっと熱くなった。ヴィヴィアンは、大きく開けた口を押しつけて、息を吐きかけているのだ。
「ヴィ、だめっ」
「どうして?」
「し、下着が濡れちゃう」
 あらぬところをいじりながら、ヴィヴィアンはくすっと笑った。
「脱がせてほしい?」 
 絶句するティカを満足そうに眺めたあと、ヴィヴィアンは美しい顔を股間にしずめた。
「ひぅっ! あぁんっ……や、だめ! ヴィ、ぁん……っ」
 下着の上からいけない刺激を受けて、ティカは狼狽えた。彼の口の動きが大胆すぎて、このまま食べられてしまうんじゃないかと怖くなる。怖いけれど、気持ちいい……足指がもぞもぞと動いてしまう。
 たまらなくなったティカが、思わず自分から腰を浮かせて股間を押しつけると、ヴィヴィアンは低い唸り声をもらしてますます強くむしゃぶりついてきた。
「はぅっ、あッ」
 下着越に、尖らせた舌でつつくようにして触れてくる。布地が、唾液を吸って濡れていく。それにつれて、熱い舌の感触をさらに感じる。
 いつの間にかすべりこんできたヴィヴィアンの指が、膝からももの内側をまさぐり、濡れそぼった布地のへりにかかった途端、ティカは慌てた。
「だめ!」
「どうして?」
 膝をとじようとするが、頭が邪魔で閉じることができない。
「は、離してくださ……っ」
 ヴィヴィアンは答えない。がっちりと腰を押さえつけられ、ティカは暴れた。人差し指が、布地の端をひっかけてそっと横へよける。
「やぁっ」
 屹立した性器がぷるんっとこぼれ、ティカは激しく動揺した。剥きだしになった性感帯に、息が吹きかけられる。
「あぁっ」
「こんなことをしたいと思うのは、ティカだけだよ……」
 電流が流れたように、腰を跳ねあげたティカを組み敷いたまま、ヴィヴィアンはくぐもった声で呟いた。飢えを癒すように、そこにしゃぶりついた。
「あぅっ! あ、あっ、ふぅん……んぁ……っ」
 尻を強くもみこまれ、一瞬にして下着を脱がされる。うつぶせにされ、止める間もなく、双丘のあわいに指を挿れられた。
「力を抜いてごらん。絶対に傷つけないから……」
 ヴィヴィアンは囁くようにいった。ティカが強張りを緩めるのを見て、閉じた蕾を親指で押しこんだ。
「あぁ、んっ……ふうぅっ」
 ティカの様子を見ながら、ヴィヴィアンは慎重に指を挿し入れた。ゆっくり抜き差しされるたびに、ティカの腰はびくびくと震えた。次第に指の動きはなめらかになり、なかをくすぐるようにこすられると、ティカはたまらずに腰をくねらせた。
「やぁっ」
「痛い?」
 ティカが黙ったまま首を振ると、なかへ入る指が二本に増やされた。
「うぅっ」
 痛みの滲んだ声に、ヴィヴィアンの動きが一瞬止まる。労わるように、強張った背中に細かくキスをしながら、後孔の浅いところを指で探っていく。
「まだ痛い?」
「……少し」
 指二本が限界かもしれない。今でも痛いのに、指が三本入るとは到底思えない。
「大丈夫、これ以上は挿れないから……力を抜いてごらん」
「んぅっ……」
 ゆっくり呼吸を繰り返すうちに、余計な力が抜けていった。身体の強張りが解けるにつれて、後孔も溶け始めた。痛くて絶対に無理だと思ったのに、次第に快感を煽られ、ヴィヴィアンの指の動きにあわせて、腰が自然と揺らめき始めた。
「……そう、とても上手だよ。自分でも動いてみて、いい場所を見つけてごらん」
 ティカはいわれた通りに、指がもたらす痛みではなく、快感を拾おうと腰の動きを調整してみた。ぎこちなく腰を前後させる姿は、初々しくも艶めかしい。ヴィヴィアンは煽られたが、性急に求めぬよう自制し、ティカのことに集中した。
「ん……っ」
 ティカの声が甘くとろけだした。固く閉じていた蕾が綻んでゆくのが判る。自在に動く二本の指に翻弄されてしまう。
「あぁッ」
 内壁のある場所を指がかすめた瞬間、唇から高い声が迸った。羞恥で口を手で押さえると、ヴィヴィアンにその手を引き剥がされた。
「やぁ、手はなしっ……あぁッ! ん、んっ、んん」
 腰が跳ねるのを止められない。シーツにしがみついて、背を丸めようとすると、顎を掴まれ、唇を塞がれた。
「ふぁ、んぅっ」
 深く舌を差し入れらる。上からも下からも隠微な水音が聴こえて、ティカの心臓は壊れてしまいそうだった。
「んんん――ッ」
 深い口づけを交わしながら、ついに絶頂を極めた。ヴィヴィアンはびくびく震える性器に手を伸ばし、快感を高めるようにいやらしくすりあげた。
「だ、めぇっ……い、イッちゃ……や、あっ、あぁぁ――~……ッ!」
 ティカは殆ど泣きながら悦楽を極めた。射精感はなかなか治まらず、断続的に腰を痙攣させていると、両足を大きく割り開かれた。抗う間もなく、吐精して濡れた性器を、熱い口内に含まれてしまう。
「ひぁっ!? や! だめっ!」
「大丈夫」
「き、汚いよっ」
「汚くないよ。熟れたプラムより甘い」
 そんな馬鹿な――ティカは銀髪に指をすべらせ、押しのけようとしたが、ヴィヴィアンは餓えたようにしゃぶり続けた。
「んぅっ……も、舐めないでっ……ヴィーっ!」
「俺はもっと舐めたい。全然足りない」
 彼の舌が ったばかりの性器にからみつく。そこから聞こえる水音が信じられないほど淫靡で、ティカはヴィヴィアンにしがみついて涙をこぼした。
「ふぅ、あぁっ……ん」
 これ以上は耐えられない――そう思いながら快感に押し流される。ヴィヴィアンに行為をやめてほしいのか、続けてほしいのか、判断がつかなかった。
 残滓の一滴までも吸いあげられ、もはやティカはぐったりと四肢から力を抜いて、ヴィヴィアンに抱きこまれた姿勢のまま荒い呼吸を整えるばかりだった。
「はぁ、かわいかった……大丈夫?」
 ヴィヴィアンは後ろからティカの顔を覗きこみ、涙に濡れた頬を撫でた。ティカは朦朧としていて、彼の顔を見ることができなかった。視線を伏せたまま、こくりと頷く。
「ん、もう少しつきあって。そのまま足を閉じていて……」
 熱を帯びた声で耳元に囁かれ、ティカの背筋にぞくっと震えが走った。そのまま耳をしゃぶられ、身体が跳ねる。身体を押さえつけられたまま、重量のある昂りが大腿の合間に挿しこまれた。下を見れば、熱く濡れた硬いものが、ティカの股間から突きだしている。あまりの卑猥さに、ティカの瞳が潤んだ。
「やぁ……っ」
 ティカはすがるような瞳で肩越しにヴィヴィアンを振り仰いだ。情欲に濡れた双眸に射すくめられる。濃密な空気がいや増し、大腿を貫く屹立が、ぶるっと膨らんだ気がした。
「……動くよ」
 ヴィヴィアンはしぼりだすような声で呟くと、ゆったりと腰を前後させ始めた。身じろぐティカを押さえつけたまま、首筋に顔をうずめ、汗ばんだ肌を唇で食む。
「ひっ……ぁ、んんっ……」
 ティカの身体が大きく跳ねた。放出を遂げて敏感になっている身体は、ちょっとの刺激でびくびくと震えてまう。
「ん、ぅっ……やぁっ!」
 不意打ちで胸を撫でられ、ティカは目を瞠った。形の良い指に、きゅっと乳首を摘まれて、背が弓になる。放出を遂げて柔らくなっている性器に、激しい血潮が通っているように感じられた。
「ヴィ、もぅ……っ」
 弱々しく懇願するが、ヴィヴィアンは後ろからティカをしっかりと抱きしめ、激しく腰をつかいだした。
「あと少しだけ……ティカっ」
 艶めかしい荒い呼吸が、彼の絶頂が近いことを伝えてくる。ティカはシーツにしがみつき、揺さぶりに耐えた。下腹部はヴィヴィアンの先走りと自分のもので、すっかり濡れそぼっている。熱い雫が大腿まで垂れさがり、シーツにはしたない染みを作るが、構っている余裕はなかった。
「あ、んっ……ふあぁんっ! やぁ、ヴィ、あぅ……っ」
 ティカの限界を感じ取ったのか、ヴィヴァアンは行為に集中し始めた。寝室に、腰のぶつかりあう音、しめりっけのある粘着な音、二人の荒い呼吸がいつ終わるともなく響いている。
 やがて、二度、三度と一際激しく腰を打ちつけられ、熱い飛沫がティカを濡らした。もう限界だった。疲労困憊し、瞼が勝手に下りてくる。こんな有様で眠るのはどうかと思うが、我慢しようがなく――気絶するようにして眠りに落ちた。