メル・アン・エディール - まほろばの精霊 -
3章:気まぐれな夜に、薔薇祭の調べ - 5 -
「何しにきたの。アガレット」
警戒したように、ロザリアが呟いた。
「生意気な子ね。薔薇の女王に向かって、その口の利き方はないわ」
小馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、アガレットは針のような視線でオフィーリアを睨んだ。
「人間臭くて、嫌ねぇ。あいの子風情が、その顔でよく世界樹宮へくる気になれたものだわ。我が君に取り入ろうなんて、図々しいと思わないの?」
「……いこう、ロゼ」
「お聞きなさい。私が喋っているのだから」
「――ッ!」
俯いて、横を通り過ぎようとしたら、仮面をはぎ取られた。呆気に取られて、オフィーリアは正面からアガレットを見つめた。
「うわ……」
醜いものを見たというように、アガレットは嫌悪に顔を歪めた。何千回と見てきた反応だが、オフィーリアは傷つきながら顔を伏せた。
「アガレットッ!!」
眦を吊り上げて、ロザリアが吠えた。
「酷い顔。美しい精霊の血を引いているはずなのに……返すわ。ごめんなさいね?」
仮面を受け取ろうとしたら、高く掲げられた。怯え、唖然とするオフィーリアの顔を覗き込んで、アガレットは愉しそうに嗤った。
「ほほ、その顔で、戻ってご覧なさいな。黄昏の君は私よ、と名乗ってごらんなさい」
「……貴方みたいに綺麗な精霊には、私の気持ちなど到底判らないでしょう」
か細い声で、オフィーリアは呟いた。
唾棄 され、虐げられ、忌み嫌われた。視界に映るだけで、心無い言葉を投げられる。その痛みを知らぬから、そんなにも残酷なことがいえるのだ。
「判るわけないわ。私は美しい薔薇の精霊ですもの。どうしてお前のような娘を、我が君は世界樹宮へ招いたのかしら?」
さも不満げにアガレットは呟いた。何もいわずに、横をすり抜けようとしたら、肩を小突かれた。
「そうやってすぐに俯く。暗くてやぼったくて、その惨めったらしらさが、お前を醜くしているのだわ」
言葉の刃が心に突き刺さる。
くじけそうになった時、ロザリアは凶暴な唸り声を上げた。しなる茨の鞭を操り、敢然 とアガレットに立ち向かう!
「うぁッ」
しかし、声を上げたのはロザリアだった。アガレットは軽く躱すと、逆に蔓薔薇でロザリアの足首を戒めた。
「離せ!!」
「本当に生意気。お仕置きが必要ね」
意地悪く笑うと、アガレットは言葉もなく、無数の棘を出現させた。針のように尖った、恐ろしく禍々しい鋭い棘だ。無数のそれらが、地面に縫い留められたロザリアを照準している。
「やめて!」
背にロザリアを庇い、両手を広げるオフィーリアを見て、アガレットは高らかに哄笑した。
「愉快だこと。あいの子に庇われるなんて。次期女王候補と聞いていたけれど、大したことないわね」
「高慢な貴方より、ロザリアの方が遥かに女王に相応しいわ!」
睨みつけるように吐き捨てると、アガレットは綺麗に片眉を上げてみせた。
「あらそう? みすぼらしいあいの子に、できそこないの薔薇の精霊。お似合いの二人ね」
アガレットは手を高く振り上げた。咄嗟に眼を瞑ったオフィーリアは、体当たりされるように突き飛ばされた。
尻餅をついて見上げると、腕を拡げたロザリアが、オフィーリアの前に立っいていた。何があっても、オフィーリアを守るのだと気迫が伝わってくる。
「フィー、逃げて!」
「ロゼッ」
美しくも凄惨な笑みを、薔薇の女王は浮かべた。
手加減などするつもりはないのだろう。力ある原初の薔薇の精霊だ。彼女が本気になれば、二人とも無事では済まされない。
「目障りなのよ。出ていかないのなら、私が追い出してやるわ」
非常の手が振り下ろされる――オフィーリアは叫んだ。
「アガレット! メル・アン・エディールッ!!」
警戒したように、ロザリアが呟いた。
「生意気な子ね。薔薇の女王に向かって、その口の利き方はないわ」
小馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、アガレットは針のような視線でオフィーリアを睨んだ。
「人間臭くて、嫌ねぇ。あいの子風情が、その顔でよく世界樹宮へくる気になれたものだわ。我が君に取り入ろうなんて、図々しいと思わないの?」
「……いこう、ロゼ」
「お聞きなさい。私が喋っているのだから」
「――ッ!」
俯いて、横を通り過ぎようとしたら、仮面をはぎ取られた。呆気に取られて、オフィーリアは正面からアガレットを見つめた。
「うわ……」
醜いものを見たというように、アガレットは嫌悪に顔を歪めた。何千回と見てきた反応だが、オフィーリアは傷つきながら顔を伏せた。
「アガレットッ!!」
眦を吊り上げて、ロザリアが吠えた。
「酷い顔。美しい精霊の血を引いているはずなのに……返すわ。ごめんなさいね?」
仮面を受け取ろうとしたら、高く掲げられた。怯え、唖然とするオフィーリアの顔を覗き込んで、アガレットは愉しそうに嗤った。
「ほほ、その顔で、戻ってご覧なさいな。黄昏の君は私よ、と名乗ってごらんなさい」
「……貴方みたいに綺麗な精霊には、私の気持ちなど到底判らないでしょう」
か細い声で、オフィーリアは呟いた。
「判るわけないわ。私は美しい薔薇の精霊ですもの。どうしてお前のような娘を、我が君は世界樹宮へ招いたのかしら?」
さも不満げにアガレットは呟いた。何もいわずに、横をすり抜けようとしたら、肩を小突かれた。
「そうやってすぐに俯く。暗くてやぼったくて、その惨めったらしらさが、お前を醜くしているのだわ」
言葉の刃が心に突き刺さる。
くじけそうになった時、ロザリアは凶暴な唸り声を上げた。しなる茨の鞭を操り、
「うぁッ」
しかし、声を上げたのはロザリアだった。アガレットは軽く躱すと、逆に蔓薔薇でロザリアの足首を戒めた。
「離せ!!」
「本当に生意気。お仕置きが必要ね」
意地悪く笑うと、アガレットは言葉もなく、無数の棘を出現させた。針のように尖った、恐ろしく禍々しい鋭い棘だ。無数のそれらが、地面に縫い留められたロザリアを照準している。
「やめて!」
背にロザリアを庇い、両手を広げるオフィーリアを見て、アガレットは高らかに哄笑した。
「愉快だこと。あいの子に庇われるなんて。次期女王候補と聞いていたけれど、大したことないわね」
「高慢な貴方より、ロザリアの方が遥かに女王に相応しいわ!」
睨みつけるように吐き捨てると、アガレットは綺麗に片眉を上げてみせた。
「あらそう? みすぼらしいあいの子に、できそこないの薔薇の精霊。お似合いの二人ね」
アガレットは手を高く振り上げた。咄嗟に眼を瞑ったオフィーリアは、体当たりされるように突き飛ばされた。
尻餅をついて見上げると、腕を拡げたロザリアが、オフィーリアの前に立っいていた。何があっても、オフィーリアを守るのだと気迫が伝わってくる。
「フィー、逃げて!」
「ロゼッ」
美しくも凄惨な笑みを、薔薇の女王は浮かべた。
手加減などするつもりはないのだろう。力ある原初の薔薇の精霊だ。彼女が本気になれば、二人とも無事では済まされない。
「目障りなのよ。出ていかないのなら、私が追い出してやるわ」
非常の手が振り下ろされる――オフィーリアは叫んだ。
「アガレット! メル・アン・エディールッ!!」