メル・アン・エディール - まほろばの精霊 -

3章:気まぐれな夜に、薔薇祭の調べ - 13 -

 すすり泣く声が、天井の高い部屋に満ちた。
 少しでも怖がらせないように、アシュレイは服を脱がずに下履きを緩めた。脈打つ屹立を見せぬよう、濡れた下肢にあてがう。
 割れ目に沿わせて、敏感な粒を擦るように身体を揺らした。原始的な動きで、互いの欲望がすれ合う。

「あぁ……」

 触れ合うほどに、眩暈がするほどの快感に翻弄されて、オフィーリアはあえかな声を零した。
 理性は次第に蕩けてゆき、快感を昇りつめたい欲に呑まれていった。今さっき知った、あの酩酊感に手を伸ばしたくなる――

「い……ッ……やめて」

 夢見心地の意識は、引き裂かれるような痛みに我に返った。
 熱い剛直が、押し入ってくる。
 苦悶の表情を浮かべて、弱々しく懇願すると、頬や瞼に労わるような口づけが落ちた。

「恐がらないで、力を抜いて……」

 肩に爪を立てるうちに、痛みは引いた。オフィーリアの上に伏したアシュレイは、挿入はいった、と耳朶に囁いた。頬を撫でながら状態を起こすと、緩く身体を揺する。

「んッ」

 声にはまだ苦痛が滲んでおり、アシュレイは強く腰を打ちつけたりはせず、浅い抽挿を繰り返した。

「ふ……っ、そう力を抜いて。私に体重を預けていいから」

 熱を孕んだ呻き声を聞いて、彼が情欲を抑えて、オフィーリアを優先させているのだと気付いた。
 強張った四肢が緩む。余計な力が抜けて、首筋に咲いた百合を撫でられると、痛みは大分和らいだ。
 熱い杭に粘膜が擦られ、引き裂かれるような苦痛は、次第に快感へと変わっていく。

「あ、あ、んぅッ……あん」」

 痛みをこらえる呻き声も、甘く蕩けていく……
 天鵞絨びろうどのような唇は頬を滑り、辿りついた唇を優しく食んだ。触れるだけの口づけが、肌のあちこちに雨と降る。
 くすぐったさに目縁まぶちが震える。
 誘われるように瞳を開けると、情欲を孕んだ青い瞳に、だらしなく蕩けた顔をしたオフィーリアが映っていた。
 動揺して視線を逸らす度に、瞼に口づけが降る。見て欲しい、そう唇で懇願されているようだ。

「オフィーリア……」

 なんて切ない声で、呼ぶのだろう……
 青い双眸には、燃えるような熱だけではない、もっと純粋な何か。オフィーリアに寄せる想いが浮かんでいた。
 視線を合わせながら繰り返される抽挿に、オフィーリアの体は淫らに揺れた。

「あん……ッ」

 甘く突かれながら、身体のあちこちに唇で触れられる。人の肌の上にも、蒼白い鱗の上にも。
 今まで、オフィーリアにそんな風に触れたひとはいない。
 涙が溢れた。
 哀しみではない。
 幾度も繰り返される唇の愛撫に、心の芯が震えるのだ。綺麗だといってくれた。自分でも、醜いと嫌悪する身体に、慈しむように、指で、唇で触れて。
 魔法の境界線が、おぼろになる――
 青い瞳を覗きこむと、蕩けるように優しく細められる。
 嬌声は、次第に甘くなった。弛緩する身体を、アシュレイは大切に愛してくれる。
 光る汗を舌ですくいあげ、つんと尖る乳首を形の良い唇で挟みこむ。柔らかな舌にねぶられ、吸い上げられる。敏感な肉粒を指で捏ねながら、波間をたゆたうように揺すられ、

「ああぁ――ッ」

 全身を支配する甘美な痺れに、背を弓なりにしならせた。
 身体を震わせ、絶頂を迎えるオフィーリアを、この世にあらざる美貌が陶然と見下ろしている。
 汗で張りついた青い髪を、優しく指で梳きながら、アシュレイは腰を打ちつけた。

「あ、あっ、だめ、や……あぁ……ッ」

 奥を突かれる度に、おかしいくらいに腰が撥ねて、溢れ出る声を堪え切れない。

「とても、気持ちいい。ここが……私を、甘く抱きしめるから」

 耳に吐息を吹き込まれ、オフィーリアは震えた。つと肉粒を突かれて、泣きそうな顔で睨み上げると、アシュレイは蕩けるような眼差しを向けた。

「やんッ、だめ、あ、あッ」

 見つめ合ったまま、身体の深いところで交わう。片足を担ぎ上げられ、新たな刺激に中がうねる。どこが最も感じるのか、狙い澄ましたように貫かれ、何度も悲鳴を上げさせられた。
 薄暗い部屋に、撥ねる水音、嬌声が反響こだまする。
 身体のそちこちを刺激され、鼓膜までも犯される。あまりの淫靡さに耐え切れず、オフィーリアは堪らず眼を強く瞑った。

「ん、ん――ッ」

 淫らに突かれながら、しなやかな腕に乳房を揉みしだかれ、快感は万倍にも膨れ上がった。

「――くッ」

 きゅん、と収縮する内壁に欲望を抱きしめられ、アシュレイは艶めいた呻き声をもらした。ぬかるんだ最奥に、精を吐き出す。
 引き抜かれた性器から、とぷりと白濁が溢れた。青い瞳を仰いで、オフィーリアは小さく息を呑んだ。
 金色の粒子。
 瞳の奥に、熾火おきびが見える。欲を孕んだ熱の灯は、少しも翳っていない。圧倒的な存在に射竦いすくめられ、オフィーリアは喉を震わせた。
 緩く首を左右に振れば、欲望に瞳をぎらつかせ、アシュレイは淫蕩に笑む。

「まだ、いい? 欲しい……」

 雄々しい屹立を蜜口にあてがい、ぬぷりと突き立てた。奥まで沈めると、ゆっくりと律動を始める。

「あンッ、やぁッん」

 下からの突き上げに、鱗の散った身体は赤く染まる。艶めかしく、淫らに揺れて、アシュレイの眼を愉しませた。

「すごい……熱く絡みついてくる。強請られているようだ」

「も、や……許して、くださ……っ……」

 拒絶を口にしても、抗えない。身体だけではなく、心までも捕えられてしまった。
 甘く貫かれて、眼裏まなうらが金色に燃える。
 官能を引きずり出されながら、想い、想われる幸せを錯覚した。魔法なのだと、き止めていた理性が籠絡される。
 激しく突かれるうちに、頭の中は真っ白になった。
 背は弓なりにしなり、丸めたつま先が宙を蹴る。
 情熱的に求められ、嵐のように身も心も揺さぶられながら、不思議な酩酊感に包まれた。
 今だけは、忘れていたい。魔法も、身分も、立場も、己の容姿も――

 灼熱に抱かれ、意識は薄れていった。