メル・アン・エディール - まほろばの精霊 -
3章:気まぐれな夜に、薔薇祭の調べ - 11 -
「本当は、優しく愛したい……」
乳房を柔く揉みこまれながら、そう耳朶に吹き込まれた。いやらしく身体を這う手に恐怖して、オフィーリアは蒼白になった。
「おやめくださいッ、後悔なさいます!」
「後悔?」
「魔法にかけられていることを、お忘れですか!? 瞳が覚めた時に、どうなさるおつもりですか」
自嘲めいた笑みを口元に刻み、アシュレイは捲し立てるオフィーリアの頬を、そっと指で撫でた。
「……貴方の信頼が欲しくて、待つつもりでいました。でも、無意味なのだと思い知らされました」
首筋の紋章を撫でられ、オフィーリアの身体は震えた。甘い熱が広がり、身体に力が入らない。
「こ、こんなことをして、魔法が解けた後、どうなさるのですか?」
「私の愛は変わらないと、証明できるでしょう」
「そんなわけありません!!」
「なぜ?」
「最初に出会った時、私を見た貴方の瞳を知っているからです」
冷然と告げると、アシュレイは頬を強張らせた。苦虫を噛み潰したように、苦い表情を浮かべる。
「悔いています。酷い言葉をかけたこと……やり直せるなら、やり直したい。どれだけ言葉を紡いでも、貴方は信じようとしない。なら――」
事態は変わらない。オフィーリアは決死の覚悟で唇を噛みしめた。
「お待ちを! ……約束を、してくださいませんか?」
「約束?」
「はい。魔法が解けても、私を、殺さないと」
無様に声は震え、視界は潤んだ。
悲壮なオフィーリアの顔を見て、アシュレイは衝撃を受けた。彼女にとって、自分はまだ命を脅かす存在でしかないのか。
「当たり前です。貴方を殺めるわけない!」
怒りを孕んだ声に震えながら、オフィーリアはありったけの勇気をかき集めて口を開いた。
「お、終わったら、森に、ロゼと一緒に帰してくださいませ」
「できません」
確かな響きを持った声で、アシュレイは断じた。
光彩を放つ青い瞳には、蒼い炎が揺らめいている。肌が粟立つのを感じながら、オフィーリアは必死に言葉を探した。
「では、もしも我が君のお気持ちが冷めたら、帰すと約束してくださいますか?」
美貌を皮肉げに歪めて、アシュレイは冷たく嗤った。
「は、身体を差し出す、代償というわけですか」
「……ッ」
悲壮な顔をするオフィーリアを見て、アシュレイは剣呑な眼差しを幾らか和らげた。
「いいでしょう。魔法が解けて、この想いが冷めたとしたら、貴方をロザリアと共に自由にすると約束しましょう」
安堵するオフィーリアを見下ろして、ただし、と付け加えた。
「私の想いが変わらなかった時は、貴方も逃げようとせずに、私の気持ちに向き合ってください」
「……はい」
一拍置いて、オフィーリアは承諾した。それは、決してありえないだろうと思えたからだ。
即答するオフィーリアを見つめて、アシュレイは一瞬だけ苦しげな表情を浮かべた。胸を焦がす想いを知ろうともせず、簡単に返事してくれる。誰よりも愛しいけれど、憎くもある。
苦悶を押し殺すように半分瞑目すると、青い双眸でオフィーリアを射抜くや、逃げる隙を与えずに唇を奪った。
「……んぅ」
官能的な唇に舌を挟みこまれ、濡れた唾液をすすられた。腰が甘くしびれて、触れられてもいない下肢が震える。
口づけの合間に薄絹を手際よくはぎとられ、オフィーリアは悲鳴を上げた。
「……ッ……いやぁッ、見ないで! 見ないでぇッ!」
全力で肩を押したが、圧倒的な力の前では無力に等しい。
「オフィーリア」
「やめて、本当に、やめて」
肌を見られるのは、恐怖でしかない。青い鱗の散った身体を、誰にも見られたくなかった。
乳房を柔く揉みこまれながら、そう耳朶に吹き込まれた。いやらしく身体を這う手に恐怖して、オフィーリアは蒼白になった。
「おやめくださいッ、後悔なさいます!」
「後悔?」
「魔法にかけられていることを、お忘れですか!? 瞳が覚めた時に、どうなさるおつもりですか」
自嘲めいた笑みを口元に刻み、アシュレイは捲し立てるオフィーリアの頬を、そっと指で撫でた。
「……貴方の信頼が欲しくて、待つつもりでいました。でも、無意味なのだと思い知らされました」
首筋の紋章を撫でられ、オフィーリアの身体は震えた。甘い熱が広がり、身体に力が入らない。
「こ、こんなことをして、魔法が解けた後、どうなさるのですか?」
「私の愛は変わらないと、証明できるでしょう」
「そんなわけありません!!」
「なぜ?」
「最初に出会った時、私を見た貴方の瞳を知っているからです」
冷然と告げると、アシュレイは頬を強張らせた。苦虫を噛み潰したように、苦い表情を浮かべる。
「悔いています。酷い言葉をかけたこと……やり直せるなら、やり直したい。どれだけ言葉を紡いでも、貴方は信じようとしない。なら――」
事態は変わらない。オフィーリアは決死の覚悟で唇を噛みしめた。
「お待ちを! ……約束を、してくださいませんか?」
「約束?」
「はい。魔法が解けても、私を、殺さないと」
無様に声は震え、視界は潤んだ。
悲壮なオフィーリアの顔を見て、アシュレイは衝撃を受けた。彼女にとって、自分はまだ命を脅かす存在でしかないのか。
「当たり前です。貴方を殺めるわけない!」
怒りを孕んだ声に震えながら、オフィーリアはありったけの勇気をかき集めて口を開いた。
「お、終わったら、森に、ロゼと一緒に帰してくださいませ」
「できません」
確かな響きを持った声で、アシュレイは断じた。
光彩を放つ青い瞳には、蒼い炎が揺らめいている。肌が粟立つのを感じながら、オフィーリアは必死に言葉を探した。
「では、もしも我が君のお気持ちが冷めたら、帰すと約束してくださいますか?」
美貌を皮肉げに歪めて、アシュレイは冷たく嗤った。
「は、身体を差し出す、代償というわけですか」
「……ッ」
悲壮な顔をするオフィーリアを見て、アシュレイは剣呑な眼差しを幾らか和らげた。
「いいでしょう。魔法が解けて、この想いが冷めたとしたら、貴方をロザリアと共に自由にすると約束しましょう」
安堵するオフィーリアを見下ろして、ただし、と付け加えた。
「私の想いが変わらなかった時は、貴方も逃げようとせずに、私の気持ちに向き合ってください」
「……はい」
一拍置いて、オフィーリアは承諾した。それは、決してありえないだろうと思えたからだ。
即答するオフィーリアを見つめて、アシュレイは一瞬だけ苦しげな表情を浮かべた。胸を焦がす想いを知ろうともせず、簡単に返事してくれる。誰よりも愛しいけれど、憎くもある。
苦悶を押し殺すように半分瞑目すると、青い双眸でオフィーリアを射抜くや、逃げる隙を与えずに唇を奪った。
「……んぅ」
官能的な唇に舌を挟みこまれ、濡れた唾液をすすられた。腰が甘くしびれて、触れられてもいない下肢が震える。
口づけの合間に薄絹を手際よくはぎとられ、オフィーリアは悲鳴を上げた。
「……ッ……いやぁッ、見ないで! 見ないでぇッ!」
全力で肩を押したが、圧倒的な力の前では無力に等しい。
「オフィーリア」
「やめて、本当に、やめて」
肌を見られるのは、恐怖でしかない。青い鱗の散った身体を、誰にも見られたくなかった。