メル・アン・エディール - まほろばの精霊 -

2章:まほろばの楽園と、泡沫の寵愛 - 11 -

 遠慮のない視線から逃げたくて、身じろぐオフィーリアの身体を、アシュレイは自分の身体で押さえつけた。足の間に太腿をねじ込み、おののく身体を縫い留める。

「いや、あ」

 両腕を頭上で一つにまとめ上げられ、強く押さえつけられた。首筋に吐息が触れる。

「もっと貴方を感じてみたい」

 端正な顔がゆっくりと下がり、オフィーリアは慌てた。手に力を込めるが、戒めは少しも揺るがない。
 すくい上げるように乳房を持ち上げられ、もりあがった上乳に吸いつかれた。

「んぅ」

「堪らないな……」

 アシュレイは、肌に張り付いた繻子の上に、唇を落とした。ぴんと張った瑞々しい乳房を、暫し賞賛の瞳で眺める。布を押し上げる尖った乳首に息を吹きかけると、オフィーリアの身体は魚のように撥ねた。未知の刺激に身体を震わせて、上目遣いにアシュレイを仰ぐ。

「――……」

 濡れた眼差しに、身体の芯が激しく疼いた。思考が焼き切れ、アシュレイは衝動的に舌を伸ばした。

「あ、ン!」

 尖った先端を、唇に食まれた。舌に舐め転がされて、強く吸われると、喉の奥から堪え切れない嬌声が漏れ出た。

「いやぁ」

 身体を引こうにも、背は幹に阻まれ、足の間にはアシュレイの太腿がある。幹を背に身体を縫い留められて、逃げられない。
 官能的な戯れに翻弄されて、思考も纏まらない。視界は潤み、声を抑えるのに必死になるばかり。
 軟体の生物に変化したように、身体がいうことを聞かない。
 立っていられず膝が崩れると、秘部がアシュレイの太腿に擦れて、熱い刺激をもたらした。

「あ」

 まとめ上げられた腕が自由になり、慌てて姿勢を正そうとするが、アシュレイはわざと足を上げて、そこを刺激した。

「もう嫌、やめてください……ッ」

 逃げたいのに、眼の前の身体に、縋りついてしまう。肩に手を置いて、少しでも身体を遠ざけようとするが、執拗に足の間を擦られた。

「いやぁ」

「貴方は甘い存在だ」

 首筋に吸いつかれて、オフィーリアの身体は強く撥ねた。

「んぅっ! あ……あん……」

 頬に手を添えられ、顔を上向かされる。見つめ合ったまま、アシュレイは親指をオフィーリアの口内に潜り込ませた。逃げ惑う舌を悪戯に追い駆けて、絡めるように擽る。ゆっくり引き抜くと、濡れた指を己の口元に運び、見せつけるように舌を絡めた。

「おやめください」

 堪らずに、その指をオフィーリアは掴んだ。逆にその手を掴まれて、指先に羽のようなキスを落とされる。

「……アンジェラの気持ちが、判ったような気がします」

 困惑するオフィーリアの瞳を見つめたまま、アシュレイは続けた。

「人の為に、途方もない霊気を費やし、献身するアンジェラを、永く理解できませんでした。けれど、私も今、半人である貴方に惹かれている」

 ゆっくり降りてくる唇に、視線が吸い寄せられる。我に返り、オフィーリアは慌てて顔を背けた。

「いけません」

「もう、我慢するのは難しい。口づけだけでは足りない……貴方が欲しい」

「……!」

 背けた視界のまま、オフィーリは眼を瞠った。絶句していると、恭しく手を持ち上げられ、甲に唇が落とされた。弾かれたように視線を戻すと、アシュレイは厳かに姿勢を正し、己の胸に手を当てて強い視線を向けてきた。

「オフィーリア、貴方の肌に触れたい。貴方の隅々まで知りたい」

 つと伸ばされた手が、震えるオフィーリアの肩を包み込んだ。襟の合間に指を潜らせ、愛撫するようになぞる。
 恐怖に戦慄した。嫌だ。絶対に肌を見られたくない――ッ!

「嫌ッ!!」

 全力で、肌に触れる手を剥がした。腕を固く交差させ、身体を隠すオフィーリア。
 絶対に、見られたくない。
 全身から伝わる強い拒否を前に、アシュレイは眼を瞠り、抑制の利いた微苦笑に変えた。

「……すみません。驚かせてしまいましたね」

 熱を帯びた空気を逃がすように、アシュレイは距離を取った。羽織っていた長衣を脱いで、オフィーリアの濡れた身体にかける。
 衣装がかけられると共に、柔らかい風に包まれ、オフィーリアの水を吸った外套や髪から、忽ち水滴は霧散した。
 しどろもどろでオフィーリアが謝礼を口にすると、情欲を押し隠した、慈しむような眼差しを向けられた。

「早く、早く、魔法を解きましょう」

 一途な瞳から眼を逸らして、うわ言のようにオフィーリアは呟いた。

「オフィーリア……」

「我が君の為にも、私の為にも」

 強い決意を込めて呟くと、アシュレイは寂しそうな顔をした。
 そんな表情をされると、勘違いしそうになる。
 真実ほんとうに、想われているのだと……
 違うのに。
 偉大な精霊王が醜いオフィーリアに懸想するなど、絶対にありえないことだ。

「魔法が解けたとしても、私の心は変わらないでしょう」

 切なげに告げる言葉を、オフィーリアは聞き流した。それは、陽炎のような幻想でしかないから。