HALEGAIA
7章:
とある地上に黄昏が射す。
運命の世界の終末 。
魔族降臨。悪鬼外道が焦熱地獄と共に地上へ降りてくる。
魔族の筆頭であるミラは、黒と深紅の衣を翻し、焔 の軍馬にまたがる数千騎もの悪魔を従え、威風堂々と宣言した。
「同胞 たちよ、殲滅しなさい」
魔王の命令一下 。久しぶりの魔宴に眷属悪魔群は欣喜雀躍 し、巨大な翼を狂熱的に羽搏 かせ、
“ごきげんよう、地上の皆さん。突然ですが、人類滅亡のお知らせです!”
道化師のように、地獄の讃美歌を囀 る。
“魔界 の使者がやってきました! 悪魔の息吹あれ、墓場までお連れしま~す!”
人々の命乞いの哀訴など笑い飛ばし、絶叫、苦悶、絶望、悲鳴、痛哭を恣 にした。
悪魔になり、悪魔として振る舞えば、人間世界は忽ち崩壊していく。
星から星へと蝗 のように飛び移り、傲慢で無辜 な人間の群れを引き裂いて、或いは腸が飛びでるまで捻りつぶし、ずたずたの赤い肉塊に変えた。血の雨を降らせ、猛烈な嵐を吹き荒れさせ、水のように冷静なまま灼熱の炎で焼き尽くした。
惶遽 するばかりでなく、なかには応戦してくる世界もあるが、そうすると悪魔はさらに残虐性を増すのだ。
“おやおや、喧嘩売ってるのォ? マジでやる気? 人間ごときが? ヒャハハッ!!”
せせら笑う悪魔。
“せいぜい頑張れ!”
雄叫びをあげながら嬉々として人間に襲いかかる。血飛沫、肉飛沫の雨霰 ! あちこちで閃光と轟音が爆ぜ、鉄骨も木屑も、あらゆる破片と衝撃波と焔が地上を飲みこんでいく。
“血みどろ兵隊が通るぞォ! 逃げろおぉぉ! トロい奴には火を点けてあげま~す! 焼き加減はいかがですかぁ?”
まったく好 い性格をしている。
悪魔の通り道に、次々に打ちあがる華々しい命の花火。後に遺されるのは、引き千切られた人間の破片。あっけない死屍累々。
“善 き! 善 き!”
呵々嬉々 。身の毛もよだつ笑い声!
同胞は熱狂しているが、ミラは次第に飽きてきた。危険なまでの破壊衝動もだいぶ鎮まると、早く陽一の元に戻りたくて、効率重視の殲滅指揮へと趣を変えていった。
作戦その一。
熱源である太陽の一時的な遮断。太陽の光と熱が途絶えた途端に、星は暗闇に鎖 され、急激に冷えていく。光合成のできない植物は枯れて、食物は不足し、地上の平均気温は氷点下二〇度まで下がる。あらゆる生き物は、寒さや飢え、病気などで死滅する。はい、さようなら。
作戦その二。
地上の全ての酸素を奪う。人間は呼吸困難に陥り、酸素枯渇によるシステム障害、工場のメルトダウンが同時に起こり、建物はきらめく胞子のように粉々に爆発する。総人口二百臆人を数分で始末できる。レンジでチンするより簡単だ。
作戦その三。
自死の譫妄 。手をくださずとも、人々は勝手に死んでいく。地獄へようこそ!
しかし効率が良すぎると、同胞から不満の声があがるので、お楽しみの投下も忘れてはいけない。
作戦その四。
互いに殺しあう精神操作。時短、且 つ残虐性も高く、悪魔にもウケがいい。
“殺せ、殺せ、殺せ! もっとだ!”
野次を飛ばしながら高みの見物。人が人に襲いかかる様を、ひとり、またひとりと死んでいく様を、よだれを垂らしながら眺めている。
悲鳴と怒号に満ちた地上を眺めおろしながら、ミラは心ここに在らず。陽一のことを考えていた。
地上で“天使の輪”を失った瞬間、悪魔の衝動が渦巻いたのに、やはり陽一だけは例外だった。彼だけは愛おしかった。彼の声だけは、澄み透った鈴のように響いた。同じ人間でどうしてこうも違うのだろう?
嗚呼、陽一の血を飲みたい。久しぶりに鳥籠で悦楽に耽りたい……最初はゆっくり陽一の官能を刺激して、恥じ入る姿を目に愉しもう。素肌で触れあい、なめらかな蕾を指と舌で念入りにほぐして……十分に蕩けたら、うねる媚肉に挿入する。秘奥 を攻めて、艶めかしい金色 の声を聴きたい。むせかえるような性の匂いに包まれて、やわらかな肌に牙を突きたてるのだ。陽一は途方もなく甘い、官能の声をあげるだろう。
想像しただけで喉が鳴る。
馥郁 たる香り。甘美な熱い血。早く味わいたい……誰にも邪魔されない、ふたりきりの鳥籠のなかで。
(ねぇ、まだ?)
名前を呼ばれる瞬間を、いまかいまかと待ち焦がれている。早く呼んでくれたらいいのに。
ほら、もうこの星も片付いた。
神の息吹あれ――曇天に覆われた天から一条の光が射し、再創造 が始まろうとしている。
ゴミ溜めが大津波に流されていくのを眺めながら、ミラはふと思った。
――これが宇宙の真理だ。ビックチルとビックバンの縮図だ。この光景を地学の山中先生に見せたら、どのようにコメントするだろう?
考えていると、端境 から魔界 に接続する気配を感じた。新しい“天使の輪”をジュピターが届けにやってくるのだろう。
野暮用はまとめて片づけてしまおうと、ミラは黒い翼を広げた。
殲滅対象の星はまだ残っているが、あとは四柱のナハトに任せておけばよい。残虐を好むナハトのことだがら、嬉々として血の雨を降らせ、同胞を喜ばせるだろう。
運命の
魔族降臨。悪鬼外道が焦熱地獄と共に地上へ降りてくる。
魔族の筆頭であるミラは、黒と深紅の衣を翻し、
「
魔王の命令
“ごきげんよう、地上の皆さん。突然ですが、人類滅亡のお知らせです!”
道化師のように、地獄の讃美歌を
“
人々の命乞いの哀訴など笑い飛ばし、絶叫、苦悶、絶望、悲鳴、痛哭を
悪魔になり、悪魔として振る舞えば、人間世界は忽ち崩壊していく。
星から星へと
“おやおや、喧嘩売ってるのォ? マジでやる気? 人間ごときが? ヒャハハッ!!”
せせら笑う悪魔。
“せいぜい頑張れ!”
雄叫びをあげながら嬉々として人間に襲いかかる。血飛沫、肉飛沫の
“血みどろ兵隊が通るぞォ! 逃げろおぉぉ! トロい奴には火を点けてあげま~す! 焼き加減はいかがですかぁ?”
まったく
悪魔の通り道に、次々に打ちあがる華々しい命の花火。後に遺されるのは、引き千切られた人間の破片。あっけない死屍累々。
“
同胞は熱狂しているが、ミラは次第に飽きてきた。危険なまでの破壊衝動もだいぶ鎮まると、早く陽一の元に戻りたくて、効率重視の殲滅指揮へと趣を変えていった。
作戦その一。
熱源である太陽の一時的な遮断。太陽の光と熱が途絶えた途端に、星は暗闇に
作戦その二。
地上の全ての酸素を奪う。人間は呼吸困難に陥り、酸素枯渇によるシステム障害、工場のメルトダウンが同時に起こり、建物はきらめく胞子のように粉々に爆発する。総人口二百臆人を数分で始末できる。レンジでチンするより簡単だ。
作戦その三。
自死の
しかし効率が良すぎると、同胞から不満の声があがるので、お楽しみの投下も忘れてはいけない。
作戦その四。
互いに殺しあう精神操作。時短、
“殺せ、殺せ、殺せ! もっとだ!”
野次を飛ばしながら高みの見物。人が人に襲いかかる様を、ひとり、またひとりと死んでいく様を、よだれを垂らしながら眺めている。
悲鳴と怒号に満ちた地上を眺めおろしながら、ミラは心ここに在らず。陽一のことを考えていた。
地上で“天使の輪”を失った瞬間、悪魔の衝動が渦巻いたのに、やはり陽一だけは例外だった。彼だけは愛おしかった。彼の声だけは、澄み透った鈴のように響いた。同じ人間でどうしてこうも違うのだろう?
嗚呼、陽一の血を飲みたい。久しぶりに鳥籠で悦楽に耽りたい……最初はゆっくり陽一の官能を刺激して、恥じ入る姿を目に愉しもう。素肌で触れあい、なめらかな蕾を指と舌で念入りにほぐして……十分に蕩けたら、うねる媚肉に挿入する。
想像しただけで喉が鳴る。
(ねぇ、まだ?)
名前を呼ばれる瞬間を、いまかいまかと待ち焦がれている。早く呼んでくれたらいいのに。
ほら、もうこの星も片付いた。
神の息吹あれ――曇天に覆われた天から一条の光が射し、
ゴミ溜めが大津波に流されていくのを眺めながら、ミラはふと思った。
――これが宇宙の真理だ。ビックチルとビックバンの縮図だ。この光景を地学の山中先生に見せたら、どのようにコメントするだろう?
考えていると、
野暮用はまとめて片づけてしまおうと、ミラは黒い翼を広げた。
殲滅対象の星はまだ残っているが、あとは四柱のナハトに任せておけばよい。残虐を好むナハトのことだがら、嬉々として血の雨を降らせ、同胞を喜ばせるだろう。