HALEGAIA
3章:悪魔たちの
「湯浴みしましょうか」
そういいながら、ミラは陽一の下肢で視点をとめた。陽一は彼の視線を追いかけて下を向き、唖然となった。衣服はぼろぼろに破れて、酷い目にあったことが一目瞭然で、下着は自分のだした体液と淫花の樹液で濡れており、あられもない有様だった。
思わず前屈みになる陽一の両肩を、ミラは掴んだ。
顔をあげると、妖しく赫 く魔性の瞳と遭った。超俗した美貌には、甘いと同時に、無慈悲なほほえみが浮かんでいる。
「そんなに布に吸わせて、勿体ない」
然 も残念そうに呟いて、足元にしゃがみこむミラに、陽一はぎょっとなった。
「何するんだよっ」
顔をあげたミラは、完全に捕食者の目をしていたが、血を流している手足に気がついた途端に眉をひそめた。その変化は驚くもので、真剣な表情をしたかと思えば、陽一を抱き起して浴槽の縁に座らせ、再び足元に跪いた。
「人間はか弱いですね」
「そりゃぁ……」
陽一は訝しげに眉をひそめたが、ミラの手が膝に触れたので息を詰めた。何を思ったのか、ミラはふくらはぎを掌で包むようにしてささえながら、血の滲んだ傷に唇をつけた。
「んっ」
思わぬ刺激が走り、陽一は歯を食いしばった。
こそばゆいが、ミラに優しく傷を慰撫されると、みるみるうちに治っていく――打撲傷のうえに掌が乗せられると、不可知の治癒が働き、内出血が引いていくのが判った。
驚いて目を瞠る陽一を見つめながら、ミラは、そっと横腹を撫でる。突き刺すような痛みが消えた。恐らく痣も消えたのだろう。最後に頬骨を掌が包むと、痛みが消えた。
悪魔は無言のままに、腕や手の甲の細かい傷にも丁寧に口づけて、痛みと傷を完璧に癒してくれた。
「ありがとう、楽になったよ……」
困惑気味に呟く陽一をじっと見つめたあと、ミラは徐 に陽一の両脇に手を入れた。そのまま軽々と躰を持ちあげ、空の浴槽のなかにおろした。
「何?」
ミラは質問に答えず、自分も浴槽のなかに入ると、いつものようにぱちんと指を一つ鳴らした。
「へ?」
陽一には、何が起きたのか判らなかった。
着脱の過程をすっ飛ばして、ミラは一瞬にして裸身になったのだ。男でも思わず魅入ってしまう、完璧な肉体美が目の前にある。
茫然としていると、頭上の蜂の巣状の球体から、勢いよく湯が吹きだした。
「わぷっ……湯をだすなら、だすっていえよ!」
陽一は文句を吐きながら、自分も素っ裸なことに気がついた。ミラの魔法だろうか? かろうじて手足にひっかかっていた襤褸 も下着もどこかへ消えてしまっている。
陽一の困惑に構わず、ミラは、柑橘の香りのする液状石鹸を、あひるの形をしたスポンジに垂らし、陽一を洗い始めた。
「いいよ、自分でやるから」
と、陽一はミラの腕を掴むが、視線で黙らされた。威圧的ではないが、普段とは違う硬質な雰囲気を纏っていて、おいそれと声をかけられない。
もしかして、ミラは、怒っているのだろうか?
彼のお得意とする人を翻弄、激昂させる言もなく、粛々と手を動かしている。彼らしからぬ厭らしさのない、看護者のような手つきで。
陽一は、上目遣いにミラを見つめた。
「……怒ってる?」
ミラは、虚を衝かれたような表情になった。
「どうして? 怒っていませんよ。脱走劇を愉しませてもらいましたし」
「……ごめん」
「謝る必要はありませんよ。でも、よく判ったでしょう? 人間は、鳥籠の外では生きていけません。自殺願望があるなら別ですが、魔物の餌食になるだけですよ」
陽一は毅然と睨み返しながら、首を左右に振った。甘んじて叱られようと思ったが、次第に腹が立ってきた。
「いわれなくても、そんなことは判ってるよ……けど俺は、何もしていないぞ。扉が勝手に開いて、台座が現れて、乗った途端に森にいたんだ。不可抗力だろ」
「すぐに僕を呼べば良かったのに」
うっ、と陽一は怯んだ。
「逃げようと思ったのでしょう?」
陽一は口をへの字にした。気まずげに視線を逸らす。
「つれないですねぇ、こんなに大切に飼育しているのに」
そういって頭を撫でてくる手を、陽一は煩げに振り払った。
「どこがだ! しょせんペット扱いじゃん。優しくされたって、俺は根本的に逆らえないし……怖ぇし」
陽一は訴えたが、ミラはうっとりとほほえんだ。
「確かに……いい匂いがします。怯えている陽一も、そそられます」
いやそうに顔を背ける陽一を見下ろして、ミラは恩寵のようにほほ笑んだ。
「怖い癖に虚勢を張ってみせる。陽一のそういう、無鉄砲さは好きですよ」
ミラの瞳が妖しく煌めいた。
「俺……」
陽一は、逃げ道を探すように視線を彷徨わせた。裸でいることが急に躊躇われた。浴槽のそとへでようと考えた時、腕を掴まれて、胸のなかに抱き寄せられた。驚いて顔をあげると、美貌がおりてきて、唇を奪われた。
「ん……っ」
噛みつくようなキスだった。上唇を食 んで、吸って、性急に舌を挿し入れ、嬲るようにして刻印 をうえつけられる。
「んっ……ふぁ……んぅ……っ」
激しいキスを続ける間も、ミラの愛撫は続いている。呻きながら舌をからめあわせるうちに、ミラは、陽一の尻を掴んで揉みしだいた。
躰が燃えるように熱い。触れられてもいないのに、下腹部が淫らに脈打ち、押しつけないように陽一は、必死に自分を制御しなければならなかった。
「んっ……んんっ!」
陽一が窮状を訴えるように、くぐもった声を洩らすと、ミラは素早く唇をほどいて、顔を離した。
「もっと早く僕を呼んでください。刻印 を与えたのだから、陽一はいつだって僕の名前を呼べるんです」
魔性の瞳に熱がこもる。
悦楽の予兆に、陽一の全身は漣 のように震えだした。
(あぁ、またかよ……っ)
頭の片隅で理性が囁くが、幽 かにしか聞き取れない。夢見るように美貌を見つめて、彼の首に腕を回してキスをせがみたい衝動に駆られてしまう。
実際にそうしようと腕を伸ばし……かけたところで、陽一は、はっと我に返った。またしても、魔王のエロスにあてられてしまった。
「やめろ!」
背中に回された腕を掴むが、離してくれない。
「嫌です。僕は今、それほど寛大な気分ではありません」
ミラは静かにいうと、陽一の背中から腰へ掌で撫でおろした。陽一をのけぞらせ、一瞬にして半二階の寝台の上に組み敷いた。
濡れた髪から雫が垂れて、陽一の頬を滑りおちていく。
「陽一、悪魔をあまり甘く見ないことです」
「見てないよ」
陽一は反論しようとしたが、言葉が続かなかった。ミラから溢れでるエロティシズムに、容赦なくのみこまれてしまった。
彼に触れたくてたまらない。
奥深くまで満たされ、突きあげられたいという、強烈な欲望が渦巻いた。下腹部が熱をもって重たくなり、股間が昂っていく。触れられてもいないのに、乳首がそそりたち、疼いて仕方がない。
そこに触れてほしくて、自ら胸を開いて、彼に向かってさしだすように背を逸らせて――
(あれっ? 俺なにしてんの?)
我に返り、慌てて身をよじろうとしたが、ミラに両腕を押さえつけられてしまった。
硬く痼 っている突起を見つめられ、陽一は真っ赤になった。尖ったそこを、優しく、そっと吸われているような気分になる。
「見るなよ……」
蛇に睨まれた蛙の気分だ。射すくめられ動けぬ陽一の髪を、ミラは長い指で優しくかきあげた。後頭部から背筋にかけて、痺れるような陶酔感が走る。視界に星が散ったと思ったら、唇を奪われた。
「んぅ」
艶めかしいキスに翻弄されながら、胸を撫であげられた。平たい胸に、もどかしいほどゆっくりと触れて、官能を引きだそうとするように、乳輪をなぞり、ひっぱり、指で掻く。刺激がもどかしてく、焦らされ、もってして欲しくて、気が狂いそうだった。
ミラは唇をほどくと顔をさげ、陽一の顎、首すじ、鎖骨……順に啄み、やがて胸にたどり着くと、片方の乳首をそっと吸った。
「はぁ、んっ」
待ち望んだ刺激に、陽一の腰がびくんっと跳ねる。
心得たようにミラは、ぷっくり起きた乳首のまわりに円を描くように舐め、しゃぶり、甘噛みし、食 んで苛みながら、大腿のつけ根を膝で刺激してくる。反応している性器にも長い指が絡みつき、上下に擦り始めた。
「やぁっ! んっ……うぅ~~~っ……も、指ぃ、放して……っ」
やめるどころか、次第に屹立を扱く指の動きが早くなり、陽一の躰中から汗が吹きだした。
「達 きたい?」
どこか傲慢な響きに、陽一は不満げに睨みあげた。悪魔は満足そうに笑むと、ぱっと陰茎から手を離し、陽一の足をぐんっとかつぎあげた。
「ッ!?」
息をのむ陽一の股間を垂直にあげ、大きく足を拡げさせる。奥まった蕾を眺めながら、そこに指で触れた。
「あぁっ」
逃げる間もなく後孔を指に侵され、陽一は、発作的に括約筋を強く収縮させた。
「ふふ、指をしゃぶられているみたい」
ミラの指が屈曲し、回転しながら奥へと潜りこむ。あまりのことに、陽一は罵詈雑言を喚くことも忘れて腰をくねらせた。ミラの指先は、秘儀的な整腸を施しながら、巧みに奥を探っていく。
「くふぅ……あぅっ……ん、あぁ……っ!」
陽一は顔を左右に振りたくり、喘いだ。躰が、尻が熱い。悪魔のもたらす快楽の虜になってしまう。
ひくつく後孔に、ミラは屹立をあてがい、一気に押し入った。
「ああぁッ!」
陽一は悲鳴をあげた。だが、すぐに恍惚となった。
全身に気が満ち満ちて、超常の力を与えられたかのように感じる。内壁を擦りたてられる感触がたまらず、下腹が淫らに痙攣してしまう。
「ふぁっ……ふぅん……っ」
硬い肉の摩擦感がたまらない。熱い波が下腹部に拡がり、意識が遠のきかけた。甘い悦楽が全身に拡がって、四肢の力が抜けていく……ミラの征服行為に抗えない。陽一の陰茎はひくつき、腹をうつ度に透明な液が渋木 いて、筋をひいて滴り落ちた。
「あ、あぁっ……んぁ、あっ、あ……そこっ、だめぇ……っ」
甘く蕩けた声で啼きながら、陽一は、犯される女の快楽を味わった。
腰をくねらせ、鼻にかかった甘い吐息をとめることができない。恐怖も苦痛もなく、ただただ気持ちいい。陶酔のなかで揺さぶられていた。
「ああっ、んっ……ぁんっ!」
気がつけば、白濁を噴きあげていた。
いくら射出しても鎮まらない。陽一は、まるで自分が、絶倫になったように感じられた。噴いても噴いても溢れてくる。自分でも引くぐらいに夥 しい量だ。
なかを犯され、二度も吐精され、大量の精液で後孔はどろどろに溶けている。ひと突きごとに溢れだし、淫靡で騒々しい粘着な音が鳥籠の天蓋に響いた。
「あぁ、くふぅっ……ふぅ、んっ……あぁぁっ……!」
だらしのない声に羞恥を覚えるどころか、ますます情欲をかきたてられ、獣のように喘いだ。
陽一の呼吸は荒かったが、ミラの呼気も乱れていた。甘い締めつけに呻き、艶めいた吐息を洩らす。陽一を四つん這いにさせ、尻たぶを大きく割って、ゆっくりと抜き挿しを始めた。
腰を打ちつけるたびに壁肉が蠕動し、ミラの屹立を舐めあげ、舐めおろし、締めつけてくる。
(ああ、たまらない……もっと啼かせて、喘がせて、悦楽の極みまで突いて、擦りまくってやりたい……)
ミラは頬を上気させ、妖艶にほほえんだ。柔らかな壁肉を押し拡げていく感触を楽しみながら、ゆっくり、ゆっくりと腰を打ちつける。なかで果てて引き抜いたあとも、陰茎はひくひくと痙攣を続け、精を吐き続けていた。
これほど夢中になって肉欲を貪るのは、いつぶりだろうか?
既に相当な量の精を陽一の奥深くに放ったが、火のついた欲情はまだ治まりそうにない。
息を喘がせている陽一の足を掴んで体位を入れ替え、のしかかり、陰茎を秘部にあてがった。そこは泉のように潤んでおり、角度も完璧で、あてがっただけで、先端は吸いこまれるように沈んでいった。
「あぁぁ……っ」
陽一は息を喘がせ、再びミラを奥まで飲みこんだ。既に迷妄 状態で、されるがままだ。
ミラは、弛緩した躰を愛撫し、舐め、噛んで、官能の喘ぎを楽しみながら、脆弱で柔軟な躰を貪った。
五度目の吐精。
腰をふるわせて最奥に注ぎこむ。
情事に長け、快楽に貪欲なミラが、初めてといってもいい究極の悦楽を味わっていた。幾星霜の交歓史上において、どの絶頂よりも素晴らしかった。
(こんなの初めて……癖になりそう……)
驚異的で、天地がひっくり返るほどだった。
えもいわれぬ心地良さに酔いしれ、ミラは深い充足感に包まれながら、陽一の顔をのぞきこんだ。半意識の、蕩けきった顔をしている……無防備で、弱弱しくて、いやらしくて、かわいらしい。
(嗚呼……かわいい……かわいい陽一……)
この、取るに足らない人間の、どこにでもいそうな少年のことが、どんな美姫にも勝るほど魅力的に見える。
鳥籠のなかで、陽一の甘い囀りをいつまでも聞いていたい。
ミラはますます、陽一から離れられなくなっている自分に、気づかざるをえなかった。
そういいながら、ミラは陽一の下肢で視点をとめた。陽一は彼の視線を追いかけて下を向き、唖然となった。衣服はぼろぼろに破れて、酷い目にあったことが一目瞭然で、下着は自分のだした体液と淫花の樹液で濡れており、あられもない有様だった。
思わず前屈みになる陽一の両肩を、ミラは掴んだ。
顔をあげると、妖しく
「そんなに布に吸わせて、勿体ない」
「何するんだよっ」
顔をあげたミラは、完全に捕食者の目をしていたが、血を流している手足に気がついた途端に眉をひそめた。その変化は驚くもので、真剣な表情をしたかと思えば、陽一を抱き起して浴槽の縁に座らせ、再び足元に跪いた。
「人間はか弱いですね」
「そりゃぁ……」
陽一は訝しげに眉をひそめたが、ミラの手が膝に触れたので息を詰めた。何を思ったのか、ミラはふくらはぎを掌で包むようにしてささえながら、血の滲んだ傷に唇をつけた。
「んっ」
思わぬ刺激が走り、陽一は歯を食いしばった。
こそばゆいが、ミラに優しく傷を慰撫されると、みるみるうちに治っていく――打撲傷のうえに掌が乗せられると、不可知の治癒が働き、内出血が引いていくのが判った。
驚いて目を瞠る陽一を見つめながら、ミラは、そっと横腹を撫でる。突き刺すような痛みが消えた。恐らく痣も消えたのだろう。最後に頬骨を掌が包むと、痛みが消えた。
悪魔は無言のままに、腕や手の甲の細かい傷にも丁寧に口づけて、痛みと傷を完璧に癒してくれた。
「ありがとう、楽になったよ……」
困惑気味に呟く陽一をじっと見つめたあと、ミラは
「何?」
ミラは質問に答えず、自分も浴槽のなかに入ると、いつものようにぱちんと指を一つ鳴らした。
「へ?」
陽一には、何が起きたのか判らなかった。
着脱の過程をすっ飛ばして、ミラは一瞬にして裸身になったのだ。男でも思わず魅入ってしまう、完璧な肉体美が目の前にある。
茫然としていると、頭上の蜂の巣状の球体から、勢いよく湯が吹きだした。
「わぷっ……湯をだすなら、だすっていえよ!」
陽一は文句を吐きながら、自分も素っ裸なことに気がついた。ミラの魔法だろうか? かろうじて手足にひっかかっていた
陽一の困惑に構わず、ミラは、柑橘の香りのする液状石鹸を、あひるの形をしたスポンジに垂らし、陽一を洗い始めた。
「いいよ、自分でやるから」
と、陽一はミラの腕を掴むが、視線で黙らされた。威圧的ではないが、普段とは違う硬質な雰囲気を纏っていて、おいそれと声をかけられない。
もしかして、ミラは、怒っているのだろうか?
彼のお得意とする人を翻弄、激昂させる言もなく、粛々と手を動かしている。彼らしからぬ厭らしさのない、看護者のような手つきで。
陽一は、上目遣いにミラを見つめた。
「……怒ってる?」
ミラは、虚を衝かれたような表情になった。
「どうして? 怒っていませんよ。脱走劇を愉しませてもらいましたし」
「……ごめん」
「謝る必要はありませんよ。でも、よく判ったでしょう? 人間は、鳥籠の外では生きていけません。自殺願望があるなら別ですが、魔物の餌食になるだけですよ」
陽一は毅然と睨み返しながら、首を左右に振った。甘んじて叱られようと思ったが、次第に腹が立ってきた。
「いわれなくても、そんなことは判ってるよ……けど俺は、何もしていないぞ。扉が勝手に開いて、台座が現れて、乗った途端に森にいたんだ。不可抗力だろ」
「すぐに僕を呼べば良かったのに」
うっ、と陽一は怯んだ。
「逃げようと思ったのでしょう?」
陽一は口をへの字にした。気まずげに視線を逸らす。
「つれないですねぇ、こんなに大切に飼育しているのに」
そういって頭を撫でてくる手を、陽一は煩げに振り払った。
「どこがだ! しょせんペット扱いじゃん。優しくされたって、俺は根本的に逆らえないし……怖ぇし」
陽一は訴えたが、ミラはうっとりとほほえんだ。
「確かに……いい匂いがします。怯えている陽一も、そそられます」
いやそうに顔を背ける陽一を見下ろして、ミラは恩寵のようにほほ笑んだ。
「怖い癖に虚勢を張ってみせる。陽一のそういう、無鉄砲さは好きですよ」
ミラの瞳が妖しく煌めいた。
「俺……」
陽一は、逃げ道を探すように視線を彷徨わせた。裸でいることが急に躊躇われた。浴槽のそとへでようと考えた時、腕を掴まれて、胸のなかに抱き寄せられた。驚いて顔をあげると、美貌がおりてきて、唇を奪われた。
「ん……っ」
噛みつくようなキスだった。上唇を
「んっ……ふぁ……んぅ……っ」
激しいキスを続ける間も、ミラの愛撫は続いている。呻きながら舌をからめあわせるうちに、ミラは、陽一の尻を掴んで揉みしだいた。
躰が燃えるように熱い。触れられてもいないのに、下腹部が淫らに脈打ち、押しつけないように陽一は、必死に自分を制御しなければならなかった。
「んっ……んんっ!」
陽一が窮状を訴えるように、くぐもった声を洩らすと、ミラは素早く唇をほどいて、顔を離した。
「もっと早く僕を呼んでください。
魔性の瞳に熱がこもる。
悦楽の予兆に、陽一の全身は
(あぁ、またかよ……っ)
頭の片隅で理性が囁くが、
実際にそうしようと腕を伸ばし……かけたところで、陽一は、はっと我に返った。またしても、魔王のエロスにあてられてしまった。
「やめろ!」
背中に回された腕を掴むが、離してくれない。
「嫌です。僕は今、それほど寛大な気分ではありません」
ミラは静かにいうと、陽一の背中から腰へ掌で撫でおろした。陽一をのけぞらせ、一瞬にして半二階の寝台の上に組み敷いた。
濡れた髪から雫が垂れて、陽一の頬を滑りおちていく。
「陽一、悪魔をあまり甘く見ないことです」
「見てないよ」
陽一は反論しようとしたが、言葉が続かなかった。ミラから溢れでるエロティシズムに、容赦なくのみこまれてしまった。
彼に触れたくてたまらない。
奥深くまで満たされ、突きあげられたいという、強烈な欲望が渦巻いた。下腹部が熱をもって重たくなり、股間が昂っていく。触れられてもいないのに、乳首がそそりたち、疼いて仕方がない。
そこに触れてほしくて、自ら胸を開いて、彼に向かってさしだすように背を逸らせて――
(あれっ? 俺なにしてんの?)
我に返り、慌てて身をよじろうとしたが、ミラに両腕を押さえつけられてしまった。
硬く
「見るなよ……」
蛇に睨まれた蛙の気分だ。射すくめられ動けぬ陽一の髪を、ミラは長い指で優しくかきあげた。後頭部から背筋にかけて、痺れるような陶酔感が走る。視界に星が散ったと思ったら、唇を奪われた。
「んぅ」
艶めかしいキスに翻弄されながら、胸を撫であげられた。平たい胸に、もどかしいほどゆっくりと触れて、官能を引きだそうとするように、乳輪をなぞり、ひっぱり、指で掻く。刺激がもどかしてく、焦らされ、もってして欲しくて、気が狂いそうだった。
ミラは唇をほどくと顔をさげ、陽一の顎、首すじ、鎖骨……順に啄み、やがて胸にたどり着くと、片方の乳首をそっと吸った。
「はぁ、んっ」
待ち望んだ刺激に、陽一の腰がびくんっと跳ねる。
心得たようにミラは、ぷっくり起きた乳首のまわりに円を描くように舐め、しゃぶり、甘噛みし、
「やぁっ! んっ……うぅ~~~っ……も、指ぃ、放して……っ」
やめるどころか、次第に屹立を扱く指の動きが早くなり、陽一の躰中から汗が吹きだした。
「
どこか傲慢な響きに、陽一は不満げに睨みあげた。悪魔は満足そうに笑むと、ぱっと陰茎から手を離し、陽一の足をぐんっとかつぎあげた。
「ッ!?」
息をのむ陽一の股間を垂直にあげ、大きく足を拡げさせる。奥まった蕾を眺めながら、そこに指で触れた。
「あぁっ」
逃げる間もなく後孔を指に侵され、陽一は、発作的に括約筋を強く収縮させた。
「ふふ、指をしゃぶられているみたい」
ミラの指が屈曲し、回転しながら奥へと潜りこむ。あまりのことに、陽一は罵詈雑言を喚くことも忘れて腰をくねらせた。ミラの指先は、秘儀的な整腸を施しながら、巧みに奥を探っていく。
「くふぅ……あぅっ……ん、あぁ……っ!」
陽一は顔を左右に振りたくり、喘いだ。躰が、尻が熱い。悪魔のもたらす快楽の虜になってしまう。
ひくつく後孔に、ミラは屹立をあてがい、一気に押し入った。
「ああぁッ!」
陽一は悲鳴をあげた。だが、すぐに恍惚となった。
全身に気が満ち満ちて、超常の力を与えられたかのように感じる。内壁を擦りたてられる感触がたまらず、下腹が淫らに痙攣してしまう。
「ふぁっ……ふぅん……っ」
硬い肉の摩擦感がたまらない。熱い波が下腹部に拡がり、意識が遠のきかけた。甘い悦楽が全身に拡がって、四肢の力が抜けていく……ミラの征服行為に抗えない。陽一の陰茎はひくつき、腹をうつ度に透明な液が
「あ、あぁっ……んぁ、あっ、あ……そこっ、だめぇ……っ」
甘く蕩けた声で啼きながら、陽一は、犯される女の快楽を味わった。
腰をくねらせ、鼻にかかった甘い吐息をとめることができない。恐怖も苦痛もなく、ただただ気持ちいい。陶酔のなかで揺さぶられていた。
「ああっ、んっ……ぁんっ!」
気がつけば、白濁を噴きあげていた。
いくら射出しても鎮まらない。陽一は、まるで自分が、絶倫になったように感じられた。噴いても噴いても溢れてくる。自分でも引くぐらいに
なかを犯され、二度も吐精され、大量の精液で後孔はどろどろに溶けている。ひと突きごとに溢れだし、淫靡で騒々しい粘着な音が鳥籠の天蓋に響いた。
「あぁ、くふぅっ……ふぅ、んっ……あぁぁっ……!」
だらしのない声に羞恥を覚えるどころか、ますます情欲をかきたてられ、獣のように喘いだ。
陽一の呼吸は荒かったが、ミラの呼気も乱れていた。甘い締めつけに呻き、艶めいた吐息を洩らす。陽一を四つん這いにさせ、尻たぶを大きく割って、ゆっくりと抜き挿しを始めた。
腰を打ちつけるたびに壁肉が蠕動し、ミラの屹立を舐めあげ、舐めおろし、締めつけてくる。
(ああ、たまらない……もっと啼かせて、喘がせて、悦楽の極みまで突いて、擦りまくってやりたい……)
ミラは頬を上気させ、妖艶にほほえんだ。柔らかな壁肉を押し拡げていく感触を楽しみながら、ゆっくり、ゆっくりと腰を打ちつける。なかで果てて引き抜いたあとも、陰茎はひくひくと痙攣を続け、精を吐き続けていた。
これほど夢中になって肉欲を貪るのは、いつぶりだろうか?
既に相当な量の精を陽一の奥深くに放ったが、火のついた欲情はまだ治まりそうにない。
息を喘がせている陽一の足を掴んで体位を入れ替え、のしかかり、陰茎を秘部にあてがった。そこは泉のように潤んでおり、角度も完璧で、あてがっただけで、先端は吸いこまれるように沈んでいった。
「あぁぁ……っ」
陽一は息を喘がせ、再びミラを奥まで飲みこんだ。既に
ミラは、弛緩した躰を愛撫し、舐め、噛んで、官能の喘ぎを楽しみながら、脆弱で柔軟な躰を貪った。
五度目の吐精。
腰をふるわせて最奥に注ぎこむ。
情事に長け、快楽に貪欲なミラが、初めてといってもいい究極の悦楽を味わっていた。幾星霜の交歓史上において、どの絶頂よりも素晴らしかった。
(こんなの初めて……癖になりそう……)
驚異的で、天地がひっくり返るほどだった。
えもいわれぬ心地良さに酔いしれ、ミラは深い充足感に包まれながら、陽一の顔をのぞきこんだ。半意識の、蕩けきった顔をしている……無防備で、弱弱しくて、いやらしくて、かわいらしい。
(嗚呼……かわいい……かわいい陽一……)
この、取るに足らない人間の、どこにでもいそうな少年のことが、どんな美姫にも勝るほど魅力的に見える。
鳥籠のなかで、陽一の甘い囀りをいつまでも聞いていたい。
ミラはますます、陽一から離れられなくなっている自分に、気づかざるをえなかった。