FAの世界
4章:百花繚乱 - 9 -
純粋な悦びによる絆に結ばれて、奔騰 する恍惚のエネルギーが万象の限界を吹き飛ばし、ついには生命神秘の涅槃 の扉が開かれた。
天空の雲が蠢いて、人の顔をなした。開け放たれた門の如く、大きな口を開いている。宇宙的なエロチシズムへの呼びかけに、天が呼応したのだ。
「今です、虹様!」
アーシェルが性器から手を離した、つぎの瞬間、光り放つ御柱が迸 った。
「うぁッ! あッ!! 止まらな……っ」
あまりに勢いが強すぎて、性器がぐるぐると大車輪を描く。すると迸 る精も螺旋を描いて、天空の雲に顕現 した神の口に入らず、顔を汚してしまう。
「ひぃ、ご、ご尊顔に……っ」
顔射 。
不敬の極 ! 禁断の冒涜行為に虹は魂消 そうになったが、神は、慈悲 深い笑みを浮かべた。
清らかな後光すら射して、虹を応援しているように感じられた。がんばって、ほらここだよ……そういうように、さらに大きく口をひらいた。
「恐れずに、虹様。貴方様から迸る精は、神の飲みものなのです」
これは涜神 行為にあらず――正しい信仰の姿なのだ。
神の激励に後押しされて、虹も必死に狙いを定めるのだが、股間はまるで大河の奔流のような轟きで制御が効かない。
「ああぁぁッ!!」
雄叫びをあげながら自らの性器を掴む虹の手に、アーシェルの白い手が重ねられた。
「ぁッ!?」
何をするのかと慌てたが、優秀な隷 は螺旋を描いて赤熱する王杖 を、巧みに抑えこんだ。
「私が支えますから、虹様は存分に射精なさってください」
「んっ、わか……っ」
虹は頷くと、アーシェルに体重を預けて、大胆に脚を広げた。アーシェルは、天空に穿たれた空洞に届くように、その角度を調節した。
「はぁっ、ぁ、お上手ですよ、水晶の君。存分に噴射なさいませ……っ」
かつて虹を形成していた常識、倫理、道徳心――それらは既に崩壊していた。
これは正しく聖なる儀式であり、水晶族を救うために、虹にしか成し遂げられないこと――天に沖 する醇乎 たる命の御汐噴きなのである。
「あぁあッ!!」
水晶族の心願をたくされた虹は、今こそ想いのすべてをこめて、全身全霊で射精した。
噴きあがる白蜜は、緩やかな放物線を描いて、力強く天へ昇っていく。
夜明けの星明かりを浴びた白金の御汐噴きは、絢爛華麗に煌めいて、飛び散る飛沫は七色の橋を架けて、具現化した神のくちびるへと誘 う。
その間も突きあげられ、己を突きあげるアーシェルもまた後衛に突きあげられ、言葉にならぬ喘 ぎをあげている。悦楽は高まる一方だった。
すべてが、終わりの始まりの瞬間、刹那的で情熱的な荘厳さを形成していた。
幾重にも迸 る情熱の体液、それらによる大気のなかの無数の煌めき、断続する突きあげの音、螺旋を支える大地の重い振動、宙に交錯する熱い息吹 き、絶頂の叫び、いたるところで発せられる水晶の閃光、すすり泣きの調子を帯びる羽音。
宇宙と神の大いなる愛撫に包まれていれば万物は一 にして、あらゆる命は同じものだと感じられた。
「愛しています、虹様……っ」
耳元でアーシェルが囁いた。
「んぁ……僕も……愛してる……っ」
愛に目覚めたふたりのくちびる、聖なるくちびるが、楽園創造のために溶け重なる。心と躰の両方で抱擁しあい、想いのすべてを弾幕のごとく烈しく交感しあった。愛情を、熱情を、思慕を、雷光のような閃きで伝えた。
言葉ではいいつくせない、愛のあるくちづけだった。
黎明の空のした、宇宙の天蓋を冠する、空と大地のあわいで、比類なき愛の奇跡が起こる。
――愛は偉大だ。
きらめくときのなかで、歌う声がいくつも聞こえるようで、心には神を頂き、運命は星屑の蒔かれた夜空のように思われ、空と海の境界線に明け染めし陽の光が見えた。
愛と情欲の焔、光の坩堝のなかで、言葉にしようのない感動のなかで、魂の快楽のなかで、虹は誇らしげに喘いだ。
「あ、あ、あッ、あぁあぁ~っ――……」
淫靡で荘厳な一連の営みの涯 てに、虹は全身を痙攣させ、くたりと弛緩させた。
「虹様」
アーシェルは、両腕で虹をしっかりと抱きとめた。どっどっどっ……強い鼓動が、汗にまみれた互いの躰を通して感じられた。
「終わった……?」
「ええ、水晶の君。真に見事な御汐噴きでした」
感極まったようにアーシェルが労う。虹も無意識に、神を信ずる者の微笑を浮かべた。
終わった。やり遂げた。生命を捧げきった。
神も純粋な贈物としてこれを受け入れ、慈愛にみちた微笑を浮かべている。よう頑張った……言祝 ぐ声が聞こえる。
雲は緩やかにすがたをかえて、御尊顔は消えた。間もなく、晴れわたる碧空から清らかな慈雨が降り注いだ。
祈りは聴き届けられたのだ。
炎熱が消えていく。
灰は灰に、塵は塵に。生と死の循環。世界が生まれ変わっていく。
「水晶の君、大地が潤っていきます」
アーシェルは、濡れそぼった虹の躰を優しく腕に包み、ぴったりと抱きよせた。
「あぁ……本当だ……」
清らかな陽が大地を照らし、大気すらも揺らぎきらめく。
きわめて困難なことをやり遂げたのだ。
楔が抜けていく瞬間に、虹は呻いた。それはアーシェルも、ジュラも、すべての隷 が同じように赤い顔で呻いた。
悦び爛漫、しめやかに、酣 。
輪がばらばらとくずれて、羽がふわりと舞い降りるように、ひとり、またひとりと地面へおりていく。
虹はアーシェルの首にしがみついて、なるべく地面を見ないようにした。この高さから落ちたら一巻の終わりだ。怯える虹に配慮して、彼も慎重にゆっくりとおりてくれた。
やがて羽音が止み、大地にそっとおろされると、虹はそろそろと目を開けた。アーシェルは愛おしげに虹の頬を撫でながら、このえうなく美しい微笑を浮かべていった。
「御立派でしたよ、虹様」
「……うまくいきました……?」
「ええ、御覧ください。これぞ水晶族の最終奥義“楽園創造”です」
「わ……」
周囲に目をやると、薄い水幕を帯びた大地は、一刷毛 真珠粉を刷 いたように、きらきら煌めいていた。
霊気が満ち満ちて、薄く水をはった大地から水晶が隆起している。透明水晶、淡い七色に煌めく水晶はぐんぐんと成長し、天に向かって上昇していく。
美しく、力強く、大地が息吹 く。燃え盛る焔は鎮火し、焦土と化した大地を楽園に変えていく。
雪の放射状結晶のように、神秘の光が四方へ疾 りぬけていき、淡雪のような光の粒子をふらせた。
命の賛歌だ。
ぐんぐんと緑柱石 のような若木が呻吟し、きらきらと翠玉 が鏤められた梢を揺らしながら、まるで鼓動のように、高く低く葉擦れの音を響かせた。呻吟する樹々の合間から、金緑石 の慈雨のように陽が射して、水晶の森の生誕を言祝 ぐ。
世界は森が支えているのだ。森と隆起した水晶は、今ここに、天と地を分かつ柱となったのである。
叙事詩的光景を目の当たりにし、虹は感動して涙を流し、このような神秘なる奇跡を起こせたことに、神の大いなる慈悲に、今こそ己を祝福した。
それまで虹は、胸のなか、頭のなかで、理不尽な状況を運命を、どうにか理解しようと、それこそ絶え間なく、痛ましいほどの努力を続けてきた。しかし、この瞬間、そのような心の揺れがきれいさっぱり消滅していた。そして自分のなかに突如として生じた静寂のなかで、頭ではなく、心の秘めた奥処 に、悟りの光が射すのを感じた。
肩を抱き寄せられ、優しく腕を擦られる。顔をあげると、長身がかがみこみ、くちびるに触れた。
碧い双眸はとこしえの――喜びの輝きを湛えて、恋する憧憬に充ちているように見うけられた。
“ありがとう、コウ……”
顔をあげると、異次元宇宙に翡翠色の極光 めいたきらめきが揺れていた。
(ありがとう、キャメロン……)
水晶の残滓はゆっくりと融解し、散逸していく、清冽な湖のなかに、柔らかな土のなかに、星間を吹く久遠 の風となって、生命神秘の揺り籠である宇宙の核へと帰依 するのだ。
虹は微笑を返した。言葉はいらなかった。彼とは水晶の絆で結ばれている。今もこれからも、永遠に。
天空の雲が蠢いて、人の顔をなした。開け放たれた門の如く、大きな口を開いている。宇宙的なエロチシズムへの呼びかけに、天が呼応したのだ。
「今です、虹様!」
アーシェルが性器から手を離した、つぎの瞬間、光り放つ御柱が
「うぁッ! あッ!! 止まらな……っ」
あまりに勢いが強すぎて、性器がぐるぐると大車輪を描く。すると
「ひぃ、ご、ご尊顔に……っ」
不敬の
清らかな後光すら射して、虹を応援しているように感じられた。がんばって、ほらここだよ……そういうように、さらに大きく口をひらいた。
「恐れずに、虹様。貴方様から迸る精は、神の飲みものなのです」
これは
神の激励に後押しされて、虹も必死に狙いを定めるのだが、股間はまるで大河の奔流のような轟きで制御が効かない。
「ああぁぁッ!!」
雄叫びをあげながら自らの性器を掴む虹の手に、アーシェルの白い手が重ねられた。
「ぁッ!?」
何をするのかと慌てたが、優秀な
「私が支えますから、虹様は存分に射精なさってください」
「んっ、わか……っ」
虹は頷くと、アーシェルに体重を預けて、大胆に脚を広げた。アーシェルは、天空に穿たれた空洞に届くように、その角度を調節した。
「はぁっ、ぁ、お上手ですよ、水晶の君。存分に噴射なさいませ……っ」
かつて虹を形成していた常識、倫理、道徳心――それらは既に崩壊していた。
これは正しく聖なる儀式であり、水晶族を救うために、虹にしか成し遂げられないこと――天に
「あぁあッ!!」
水晶族の心願をたくされた虹は、今こそ想いのすべてをこめて、全身全霊で射精した。
噴きあがる白蜜は、緩やかな放物線を描いて、力強く天へ昇っていく。
夜明けの星明かりを浴びた白金の御汐噴きは、絢爛華麗に煌めいて、飛び散る飛沫は七色の橋を架けて、具現化した神のくちびるへと
その間も突きあげられ、己を突きあげるアーシェルもまた後衛に突きあげられ、言葉にならぬ
すべてが、終わりの始まりの瞬間、刹那的で情熱的な荘厳さを形成していた。
幾重にも
宇宙と神の大いなる愛撫に包まれていれば万物は
「愛しています、虹様……っ」
耳元でアーシェルが囁いた。
「んぁ……僕も……愛してる……っ」
愛に目覚めたふたりのくちびる、聖なるくちびるが、楽園創造のために溶け重なる。心と躰の両方で抱擁しあい、想いのすべてを弾幕のごとく烈しく交感しあった。愛情を、熱情を、思慕を、雷光のような閃きで伝えた。
言葉ではいいつくせない、愛のあるくちづけだった。
黎明の空のした、宇宙の天蓋を冠する、空と大地のあわいで、比類なき愛の奇跡が起こる。
――愛は偉大だ。
きらめくときのなかで、歌う声がいくつも聞こえるようで、心には神を頂き、運命は星屑の蒔かれた夜空のように思われ、空と海の境界線に明け染めし陽の光が見えた。
愛と情欲の焔、光の坩堝のなかで、言葉にしようのない感動のなかで、魂の快楽のなかで、虹は誇らしげに喘いだ。
「あ、あ、あッ、あぁあぁ~っ――……」
淫靡で荘厳な一連の営みの
「虹様」
アーシェルは、両腕で虹をしっかりと抱きとめた。どっどっどっ……強い鼓動が、汗にまみれた互いの躰を通して感じられた。
「終わった……?」
「ええ、水晶の君。真に見事な御汐噴きでした」
感極まったようにアーシェルが労う。虹も無意識に、神を信ずる者の微笑を浮かべた。
終わった。やり遂げた。生命を捧げきった。
神も純粋な贈物としてこれを受け入れ、慈愛にみちた微笑を浮かべている。よう頑張った……
雲は緩やかにすがたをかえて、御尊顔は消えた。間もなく、晴れわたる碧空から清らかな慈雨が降り注いだ。
祈りは聴き届けられたのだ。
炎熱が消えていく。
灰は灰に、塵は塵に。生と死の循環。世界が生まれ変わっていく。
「水晶の君、大地が潤っていきます」
アーシェルは、濡れそぼった虹の躰を優しく腕に包み、ぴったりと抱きよせた。
「あぁ……本当だ……」
清らかな陽が大地を照らし、大気すらも揺らぎきらめく。
きわめて困難なことをやり遂げたのだ。
楔が抜けていく瞬間に、虹は呻いた。それはアーシェルも、ジュラも、すべての
悦び爛漫、しめやかに、
輪がばらばらとくずれて、羽がふわりと舞い降りるように、ひとり、またひとりと地面へおりていく。
虹はアーシェルの首にしがみついて、なるべく地面を見ないようにした。この高さから落ちたら一巻の終わりだ。怯える虹に配慮して、彼も慎重にゆっくりとおりてくれた。
やがて羽音が止み、大地にそっとおろされると、虹はそろそろと目を開けた。アーシェルは愛おしげに虹の頬を撫でながら、このえうなく美しい微笑を浮かべていった。
「御立派でしたよ、虹様」
「……うまくいきました……?」
「ええ、御覧ください。これぞ水晶族の最終奥義“楽園創造”です」
「わ……」
周囲に目をやると、薄い水幕を帯びた大地は、一
霊気が満ち満ちて、薄く水をはった大地から水晶が隆起している。透明水晶、淡い七色に煌めく水晶はぐんぐんと成長し、天に向かって上昇していく。
美しく、力強く、大地が
雪の放射状結晶のように、神秘の光が四方へ
命の賛歌だ。
ぐんぐんと
世界は森が支えているのだ。森と隆起した水晶は、今ここに、天と地を分かつ柱となったのである。
叙事詩的光景を目の当たりにし、虹は感動して涙を流し、このような神秘なる奇跡を起こせたことに、神の大いなる慈悲に、今こそ己を祝福した。
それまで虹は、胸のなか、頭のなかで、理不尽な状況を運命を、どうにか理解しようと、それこそ絶え間なく、痛ましいほどの努力を続けてきた。しかし、この瞬間、そのような心の揺れがきれいさっぱり消滅していた。そして自分のなかに突如として生じた静寂のなかで、頭ではなく、心の秘めた
肩を抱き寄せられ、優しく腕を擦られる。顔をあげると、長身がかがみこみ、くちびるに触れた。
碧い双眸はとこしえの――喜びの輝きを湛えて、恋する憧憬に充ちているように見うけられた。
“ありがとう、コウ……”
顔をあげると、異次元宇宙に翡翠色の
(ありがとう、キャメロン……)
水晶の残滓はゆっくりと融解し、散逸していく、清冽な湖のなかに、柔らかな土のなかに、星間を吹く
虹は微笑を返した。言葉はいらなかった。彼とは水晶の絆で結ばれている。今もこれからも、永遠に。