FAの世界

4章:百花繚乱 - 10 -

 楽園創造を遂げた日から、初めての水晶ノ刻が訪れた。
 身支度を終えた虹は、衣装部屋の窓から外を眺めていた。気持ちの良い、澄み透った晴天である。
“お時間です、我が水晶の君”
 翡翠色の鸚鵡おうむ星を歌いし者タワ・ダリに呼ばれて、虹は笑顔で振り向いた。
「いまいきます」
 廊下にでると、アーシェルが控えていた。長く流れるような真珠色の衣装を身にまとい、その艶めきの変化する青みがかった色どりは、彼の月白げっぱく色の髪によく似合っていた。
「お綺麗ですよ、虹様」
 美しいくちびるが微笑にほころぶ。
 嘆賞の眼差しを受けとめながら、虹はおずおずとほほえんだ。今日の虹の衣装は、真珠を縫いつけた袖のない肌が透けるほど薄い繻子を、横に割れ目のある短袴たんこにたくしこみ、煌めく宝石をちりばめた銀糸織の腰帯でとめていた。
「ありがとう。アーシェルも素敵だよ」
 笑みかけると、アーシェルは思わずうっとりするような微笑を浮かべた。
「ありがとうございます、虹様」
 数秒ほど見つめあい、お互いに照れてしまって、なんだか甘酸っぱい空気が流れた。
「……参りましょうか」
「うん」
 差し伸べられた手に、虹は素直に手を重ねた。以前は、恥ずかしくて上着を羽織らせてもらったが、今日は必要ない。全く恥ずかしくないといえば嘘になるが、このままの姿で構わないと今なら思えるのだ。
 邸のそとにでると、晴れわたる青空から、ぽっと水滴が頬におちた。
 にわか雨。
 やわらかい露を含んだ、さわやかな風が水鏡のはった大地を吹き抜け、虹の頬を撫でていく。かぐわしい新緑の香り、野生の菫の香りを味わいながら、虹は天を見てほほえんだ。
にじがでているね」
「天の祝福ですね」
 アーシェルも空を仰ぎ見、次いで愛おしげにこうを見つめた。
「誠に良い日です。虹様は、幸せを招く架け橋でございますね」
 虹は、まぶしげに目を細めた。
 草原でふたり並んで、にじを見た日のことが思いだされた。あのときのように、優しさのこもる熱い感情が押し寄せて、胸の奥が苦しくなる。
(……好きだなぁ……)
 素直にそう思えることが、嬉しい。もう感情を押さえつける必要はないのだ。アーシェルを好きでいていいのだ。
 高揚する気持ちのままに、アーシェルに手を引かれながら、白煙の撫でる泉のうえを渡り歩いていく。
 淵に立つと、段々泉を埋めつくさんばかりに同胞が密集しており、ワッ!! と天まで届く歓呼を叫んだ。
 恍惚を帯びたいくつもの視線、讃嘆の声に、虹は悠然と手をあげて応えた。
 はるか彼方には大水晶環壁かんぺき尖峰せんぽうが霞んで見える。
 あの日、貴金族の侵略を防いだあと、楽園創造により大水晶環壁かんぺきも蘇った。同時に幾層もの次元からずれた為、敵がふたたびこちらの座標を特定するには、長い月日を要するだろう。
 仮に攻めてきたとしても、虹はもう、力の行使を躊躇わない。必要とあらば、何度でも楽園創造を行うつもりだ。
 いま、世界は美しく、どこまでもきらめいて見える。
 美しい景を眺めながら、虹は自然と顔に笑みを湛え、手をあげて歓声に応える。そよ風が吹くたびに布の割れ目から、象牙色の太腿が淫らにのぞいて、しもべたちの熱い視線を集めても、かつては身のすくむ思いがしたのに、不思議といまは心地よく感じられる。
「御立派ですよ、虹様。皆も喜んでおります」
 隣に寄り添うアーシェルが、長身を屈めて、虹にだけ聴こえる声で囁いた。
「そうだね。皆、僕だけじゃなくて、アーシェルの元気な姿を見て喜んでいるんだよ」
 貴金族との闘いでアーシェルが瀕死に陥ってから、まだそれほど時間は経っていない。共に戦った兵士はもちろん、すべてのしもべが精神感応により、あのときのアーシェルの希薄な水晶核の鼓動を聴いている。
 だからこそ、いまこうして虹の隣に健やかに立つ八職頭はちしきかしらの姿に、皆が喜びを噛み締めているのだ。
 少し戸惑ったような表情のアーシェルを見て、虹はくすりと笑った。
「想われているね、アーシェル。僕よりよっぽど王様に相応しいかもしれない」
 しかし茶化したあとで、微妙な気持ちになった。王の債務に伴い、アーシェルが皆に抱かれる光景を想像してしまい、違和感を抱いたのだ。
「……ま、僕が王様なわけだけど」
 彼を抱くのは、虹だけでいい。
「もちろんでございます。さぁ、虹様」
 アーシェルは虹の背後に立ち、肩に手を置いた。そのまま手をすべらせ、薄絹をくつろげる。
 嘆賞の囁きがさざなみのようにはしり、視られているだけで、乳首も、性器もそそりった。
「ん……っ」
 乳首を指にはさまれた瞬間、反射的に腹部が震えたが、虹はじっとしていた。
 敏感なしこりをくにくにと柔らかく揉みしだかれると、たちまち白い乳が滲んで、アーシェルの指を濡らした。
 艶めかしい虹の姿に、見守る観衆の、悩ましい吐息が折り重なった。誰もが興奮したように、きらめく乳を見つめている。
「……とてもお美しいですよ、虹様……」
 熱っぽく囁きながら、彼の手が背筋をおりていき……尻を包みこんだ。びくっとする虹を宥めるように、うなじや肩にキスの雨をふらせ、大胆に尻を揉みしだいた。
「んっ、ふ……っ」
 いつの間にか、虹の左右にユシュテルとソードがいて、ふたりは虹の乳首に舌を伸ばした。
「んぁっ!」
 舌でねっとり擦られながら吸引され、股間が熱くなる。膝が震えてしまい、ふたりの肩に手を置くと、掌に硬い筋肉の躍動が感じれた。服のしたの鍛え抜かれた肉体を意識して、はっとなる。したを見れば、美貌のふたりは欲に翳った瞳で虹を射抜いた。
「は……コウさま……っ」
 虹の顔を見つめながら、尖った肉粒にいやらしく舌をからめ、ゆっくりと咥えこんだ。
「ぁっ、や、あッ!」
 さらに足元に誰かが屈みこむのを感じてしたを見ると、ジュラと目があった。
「コウ様、お慕いしております……」
 少年は熱っぽく囁くと、餓えたように、ごくりと喉を鳴らした。次の瞬間、顔をさげて虹の性器にむしゃぶりついた。
「ぁっ」
 くちびるで激しく竿を上に下に扱かれ、喉の奥で繊細に締めつけてくる。艶めかしい愉悦に抗おうと、懸命に歯を食いしばるが、腰が勝手に揺れてしまう。
「っく……熱い……熱いよ、ジュラ……」
 熱い粘膜に体の芯から、脳髄まで、どろどろに蕩かされていく――
「はぅっ!」
 股間に気をとられていると、尖りきった双粒ふたつぶを、左右からユシュテルとソードが舐めあげた。虹を攻めたてながら、ふたりとも舌使いはねっとりとしていて、虹の官能を引きだすことに熱中しているようだった。
「ぁ、っつ、燃える……はぁッ、イくッ……!!」
 最初に右の乳首を極めた。噴射する蜜を、ユシュテルがちゅっぢゅっと巧みに吸いあげる。
 次に左の乳首も極めた。ふきあがる白蜜を、ソードも恍惚の表情で飲み干していく。
「ん……我が君、なんて美味しい……うまし蜜に感謝を……っ」
「コウ様、コウ様……っ」
 ふたりとも一滴もこぼすまいとくちびるをぴったりと押し当て、味わうようにして、ゆっくり喉を動かし、虹の絶頂を長引かせようとした。
 そして、ジュラに亀頭にそっと歯をたてられた瞬間、視界に星が散った。
「だめッ、でるっ!!」
 止める間もなく、ジュラの口腔に解き放った。少年は臆することなく、喉を開いて白濁を嚥下し、その間もずっと優しく陰嚢を揉みしだいていた。断続的な射精がおさまったあとも、残滓をしぼりだすように、蜜口に舌を這わせ、舐めまわしている。
「ん……ありがと、ジュラ……」
 ジュラの頭を撫でると、少年は恍惚の表情で虹を見あげた。
「我が君、お慕いしております……」
 ユシュテルとソードも、虹の手を左右からとり、そっと手の甲にくちづけた。
「ありがとうございます、虹様」
「大変美味でした」
 さすがに恥ずかしくて、虹は小さく頷くにとどめた。
 上気した頬で、乱れた息をつく虹を、すべてのしもべたちが熱心に見つめていた。
 これまで補佐に徹していたアーシェルは、虹の耳にくちびるをつけて、囁いた。
「……愛しています。虹様」
 熱い吐息が耳に触れて、虹は心と躰で震える。躰を反転させて、アーシェルの首に両腕を回すと、ユシュテルたちはそっと離れた。背中にアーシェルの腕がまわり、力強く引き寄せられた。目もくらむような美貌が迫り、くちびるが重なった。
「ん……」
 目を閉じる間際、碧い瞳に狂気の焔を燃やしているのが見えた。くちびるは、深い愛情と鬱積した所有欲を痛ましく表現していながら、虹のくちびるを包みこんだ。血が、肉が、魂が、ひとつに溶けていくみたいに。
 禁じられた果実のように甘くて、涙がこぼれそうなほど愛おしい――
 濡れた音、互いの息遣いと鼓動を感じながら、何度も何度もキスをした。
 顔を離したあとも、口蓋に残る、アーシェルの味の余韻に頭がぼぅっとしていた。舌がじんと痺れて、うまく喋れそうにない。
 ふたりで密着している間に、いつの間にか、後ろにソードが立ち、ゆっくりと、彼のたくましい腕に太腿をもちあげられた。
 足のつま先を、ユシュエルとジュラが恭しく掴み、三人がかりで脚を大きく割り広げられた。反応している屹立と、尻孔まで丸見えになる。
「ぁ……」
 あられもない恰好をさせられ、虹は羞恥から顔を横向けたが、暴れたりはしなかった。
「お綺麗ですよ、虹様」
 宥めるように、アーシェルが耳元で囁く。つ、と股間に白い繊手せんしゅをのばし、蜜にまみれた勃起を柔らかく握りしめた。
「ぁ、ん……」
 身じろぐ虹をソードは後ろからしっかりと抱えあげ、さらに股間を開かせた。淫らにひくつく蕾が万人の目にさらされる。
「痛いですか?」
 ふるふると虹が首を振ると、アーシェルはくすりと微笑した。
「……感じておられますか?」
 耳朶じだを食みながら、毒を流しこむように囁く。虹は真っ赤になって震えるしかない。アーシェルは楽しげに微笑すると、睾丸ごと棹を揉みしだきながら、色づいた孔につぷり、と長い指をもぐらせた。
「虹様の艶姿に、皆が見惚れております……股間に血潮をみなぎらせて、いますぐ私に代わりたいと願っていることでしょう」
 にゅくにゅく……押し拓くような指の動きに、蕾は綻んでいく。蜜が溢れ、アーシェルの指をしとどに濡らしていく。
 ぽたり、ぽたり。粘り気のある体液が、間歇かんけつ的に燃える涙のごとく泉に滴り落ちるたびに、泉はきらめき渡り、身を浸す群衆から恍惚の吐息がこぼれ落ちた。
「ですが――誰にも譲る気はありません。虹様のお傍に侍り、肌に触れて、くちびるをお赦しいただきとうございます。水晶ノ刻には必ず、私が最初に御身に子種を注ぐのです。この美味しそうな、熟れた孔を……わたしのもので突いて、よろしいですか……?」
 心も躰も、魂までもが快感でぞくぞくと震えて、虹は全身を痙攣させた。ジュラのくちで果てたばかりなのに、精巣が精液で満たされているのを感じる。
「虹様、お赦しくださいますか?」
 かりりっと耳に甘く歯を立てられ、顔が燃えるように熱くなる。目をあわせられず、小刻みに頷くと、すぐ傍で微笑する気配がした。
 嬉しくて、幸せで、心が甘く震える。
 触れられていないのに、ぴんとちあがった乳首から白い乳が垂れてくる。少し恥ずかしいけれど……これは、ごく自然なこと。世のことわりなのだ。
「ン……美味しい、虹様」
 肌をすべる白い筋を、アーシェルはねっとり舐めあげ、突起をくちに含んだ。甘やかな刺激に、虹は喉をそらして身悶える。
「あぁ、んん……はぁ、あっ!」
 濡れた音、荒い息遣い。熱い指と舌に全身を愛撫されて、右に左と乳を吸われながら、性器をしごかれ、後孔を指に暴かれ、射精感がこみあげてくる。
 神経は張りつめ、凄まじい歓喜とともに、頂点に達した。
 精液を運ぶ管はふくれあがり、熱い精液で満たされた。性器の根本、躰の核、秘孔の奥処おくかに甘い痛みがはしり、生命の活液が、ゆっくり、ゆっくりと昇ってくる。狭い管を、炉で溶かした鉛のように、火山の深くを流れる溶岩のように。
 亀頭の切れ目が喘ぎ、ちいさなくちびるがふたつに分かれて、ついに細い蜜口から迸った。
「ぁっ、あッ――~……ッ!!」
 びくんびくんっと脈打つ性器から、乳白色の液体がとめどなくあふるる。
 それは巨大な燃える涙、命の血潮だった。
 高く、きらきら放物線を描く御汐噴きは、落ちながら霧散し、光の反射で、大気に七色の橋をかけた。
 喘ぐ虹の痴態を、万もの群衆が、恍惚の表情で見つめている。人々は、忘我の歓喜に襲われ、随喜渇仰ずいきかつごうの涙をあふれさせた。
 彼らの歓喜を、虹も感じていた。強烈な一体感のなか、全身をめぐる血流とともに流れ――ぞくぞくする快楽は強烈すぎて、もはや心地よさを通り越していた。
 悦びで満たされた聖寵せいちょうの泉に、人々は、ばたばたと失神していく。
 虹も、半ば意識が飛んでいた。
 神経の緊張の極を通り過ぎても、耳の奥で心臓の音がこだまし、歓声がはるか遠くから聴こえてくるようだった。
 呼気を整えている虹の耳元で、アーシェルは囁いた。
「誠に美しい御汐噴きでございました。神々も照覧されたことでしょう」
 轟く心臓の音にまじって、彼の声は、くっくりと鮮明に聞こえた。
「愛しているよ、アーシェル……」
 虹は掠れた声で返事をした。くたりと弛緩した虹の躰を、アーシェルは恭しく抱きあげた。
「ああ、虹様。お慕いしています……どんなに私が貴方を愛していることか、虹様」
 虹は、にっこりと笑顔を浮かべた。心も躰も、快い疲労感に充たされていた。胸の奥まで、誇らしい気持ちでいっぱいだった。たくましい頸に腕を回すと、アーシェルは虹の額に、愛情に満ちたくちづけを落とした。
しとねに参りましょう。いと高きよろこびの住居すまいで、聖餐を共にしましょう」
「……うん。連れていって」
 虹は、心から幸せな気持ちで頷いた。
 優しい腕が、虹を大切に運んでいく。宝物を運ぶように、ゆっくり、ゆっくり、甘い秘密のしとねへ。
 碧い瞳のなかに虹が映っている。幸せに微笑する虹の顔が。
 わきたつ命の悦びを感じながら、未来に思いを馳せた。明るく希望に満ちた、薔薇色の未来に。
 これからも水晶ノ刻がくるたびに、一途な眼差しのなかに、自分の姿を見つけるのだろう。
 くる刻も、くる刻も、くる刻も。くる年も、くる年も、くる年も――