FAの世界

4章:百花繚乱 - 8 -

 敵は防戦も反撃の気配もない。これから始まる奇跡を恐れるように、完全に退却に踏み切った。隆々りゅうりゅうと翻っていた朱金の戦旗も虚しく、総崩れになって、全速力で黄金郷に続く時空往還装置へと逃げ去ろうとしている。
 しかし戦闘が終わった後も、大地はいまだ焔が燃え盛り、地獄の様相を見せていた。
 生き残った水晶族は隊伍たいごをなして、互いの後ろをほぐし、腰に手をそえた。黙ってくちびるを吸いあい、ひとり、またひとりと手をとりあい、繋がりながら、空へと舞いあがった。
 儀式が始まろうとしている。
 たくましい腕に横抱きにされながら、まだ困惑げな虹の額に、アーシェルはくちびつをつけて囁いた。
「我々は一つになります。先頭は虹様でございます。虹様には、私が注ぎます・・・・
「……全員で繋がるんだよね?」
「その通りです。我らは中宙でまじわり、ひとつになります。そうして天へと昇りつめて、虹様の命の活液を、神への供儀に捧げるのです」
「……うん……」
 虹は自信なさげに頷いた。
 覚悟を決めたつもりでいたが、地面が引き遠ざかるにつれて不安が増した。恐々としたを見れば、縦列に並ぶしもべは互いを喰いしめながら連結している。その数はようとして知れない。最後尾はもはや見えないのだ。
 やがて、生まれて初めて後孔に咥えこまされたジュラが喘ぎ、白く細い指を、アーシェルの腰へと伸ばした。
「アーシェル……?」
 不安そうに虹が声をかけると、アーシェルはほほえんだ。
「ジュラが私に注ぎます。さぁ、虹様も……」
 ジュラに腰を抱かれたアーシェルが、艶めいた吐息をこぼした。
 想像を絶している――だが虹は気力を超えた気力を奮い立たせた。
 決意を灯した黒瞳をのぞきこみ、アーシェルの目が、賞賛と感嘆の光に煌めいた。彼は虹の太腿をしっかり掴んで、自分の胸に虹の背中をぴたりとつけて、ぐっと腰をおしだした。
「あぁっ」
 虹の喉からあえかな声が迸る。
 貫かれた瞬間から、えもいわれぬ悦楽と霊気が流れこんできたのだ。
 嗚呼、嗚呼。皆でひとつに繋がっている――なんて強烈な――甘美な連帯感!
 虹はいま、自分をとりまいているさまざまのものが、これまでになかったほど鮮明に意識に映じた。
 上空のひんやりとする空気のなかでのまぐわい、清らかな陽に照らされた、美しく艶めいた水晶族の顔、また顔……しもべたちの官能を帯びた低い喘ぎの声。アーシェルから与えられる優しい律動。仲間との連帯感。まだ彼らの王としての自覚は充分ではなく、生まれもった倫理観が足かせではあるものの、いま感じているような連帯感は、この先、二度と再び経験できそうな気がしない。そちこちから聴こえてくる、互いを呼びあう声、高めあう声……
 そして、これらのすべてに染みわたり、それらをひとつに繋ぎあわせるものとして、王の治める楽園そのもの存在があった。
 水晶の君主を崇め奉り生きる者たちを、楽園がどんなに大きな力でとらえるものか――
 ほのぼのした愛情などといえるものではない。愛の行為のように親密で、絶対崇拝――知に情に、そして魂そのものまで貪る関係なのである。
 ただひたすらに楽園を愛する。王にまみえ、ひとたびとりこになってしまえば、もはや逃れることは不可能。楽園のてしなさ、莫大な自然エネルギー、絶対的な支配、その甘美な鎖のなかで仲間と結ばれること――そうしたものによって、虹もまたしもべたち結びついているのだ。
 強烈な連帯意識。美しい、純粋な、不滅の輝きが心の中心に芽生えた。
 連結した数千、万ものしもべたちの誰かひとりでも身じろげば、甘やかな衝撃波となって全員を襲う。
 その大いなる快楽の波は、先頭にいる虹に容赦なく襲いかかる。
「あ、あぁっ、んぁッ!」
 列が妖しく揺らめいて、淫らな振動が襲いかかる。虹は喘いだが、アーシェルも、ユシュテルもソードも、数多の男たちが喘いでいた。
「嗚呼……」「く、ふぅ……ン」「はぁ、あぁ」
 いくつもの艶めいた吐息が聴こえてくる。心臓はどきどきなって、血潮が熱くたぎる。股間はかつてないほどいきっている。
 全員が結合したまま、少しずつ上昇し、欲望をぎらぎらと発散させながら力強く、一心に追跡していく。上へ、上へ――遥かな高みを目指して、交歓に呻きながら、螺旋を描いて昇っていく。
 その様は一種喜劇的であり、道徳的暗黒であり、叙事詩的でもあった。途方もなく淫ら奔放であり、同時に力強く、天翔あまかける竜が感じられた。
「はぁ、ん、あーしぇる……怖い……っ」
 先頭にいる虹は、既にはるか上空に浮いていた。雲のうえだ。
「大丈夫です。絶対に落としたりしませんから、ン……く、私に身をあずけて……っ」
 したからのジュラの突きあげに呻きながら、アーシェルが囁いた。
 虹は体重のほとんどを、アーシェルのたくましい胸に預けるようにして、貫かれている。
「あぁあぁンッ!!」
 ひときわ強烈な突きあげに、虹は高い声を迸らせた。びくびくっと震える股間を、アーシェルがぎゅっと掴んだ。
「ぁ、アーシェルッ?」
「虹様、天頂に達するまで堪えてくださいませ」
「そ、んなぁ……っ」
 虹は涙声で訴える。今にも破裂してしまいそうだというのに、堰き止められて吐きだすことができない。
「あと少し、あと少しの辛抱でございます……っ」
 アーシェルも辛そうに呻く。強く美しい彼も、数千、万もの突きあげに貫かれて、額に汗をにじませている。
 淫らな波動に翻弄されながら、虹は、この螺旋の並びは、しもべの順位ではないかと思った。先頭にいくほど、うけとめる衝撃は大きい。
「さ、最後尾は、ンッ、だれなの?」
「大地から屹立した、水晶が支えております……ぁっ」
「ぁんっ、あ、す、水晶?」
 大地から屹立した水晶に、誰かは後ろを貫かれているのだろうか? そんな妄想をしたが、すぐに意識を奪われた。
「あぁっ」
 空中交歓。皆で分かちあう歓びは、ひとりで味わうそれとは比較にならぬほど鮮明で、甘美だ。
「ぅ、おのれ、ジュラ……ッ」
 アーシェルが呻いた。ジュラがアーシェルを烈しく突いたのだ。
「ぁ、アーシェルさまはずるい! 僕も、水晶の君に注ぎたい……ですっ……!!」
 年若い水晶族の少年は、己の力を誇示するように遮二無二腰を打ちつけ、アーシェルを突きあげる。
 しかし、ジュラの暴走を咎めるように、その白い細腰を掴み、ソードが腰を突きだした。
「ぁンッ! そ、ソードさま……っ!?」
 綺麗なアルトの声でジュラが喘ぐ。ソードが彼自身ソードで突きを繰りだしているのだ。
「控えよ、ジュラ! は……今は、文句をはくときではないぞッ」
「ぁ、お強ぃ……ソードさまぁ……ッ」
 突いて突かれている状況で、落ち着けという方が無理な話。ソードもまた、後ろからユシュテルに貫かれて、歯を食いしばった。
「ぐ、ユシュテル……っ」
「嗚呼、熱い。ソードさまッ、そんなに締めつけないでくださいませっ」
「貴殿こそ、そのように突いてはならぬッ」
 焦ったようにソードはいうが、ユシュテルは外貌の清廉さと裏腹に、艶めかしい腰遣いでソードを突きあげる。
「あ、あ、んぁっ!」
 ソードがびくびくと震えて絶頂すると、その締めつけにユシュテルもまた己を解き放った。甘い余韻が連鎖して、ジュラもまた嬌声を迸らせる。
 つきつきつきつきつきつき――百、千、万ものつきに躰を揺さぶられる。
「あぁっ」「はぁ……ン」「やああぁッ」「あ、あ、あっ」
 艶声が和して淫らなときをつくる。
 連結の途中で誰かが達しても、律動は止まらない。無我夢中で突いてくる。穿うがち、穿うがたれながら、もつれあい、互いの秘孔を白濁で濡らし、豊穣の泥濘ぬかるみをかき混ぜ、かき混ぜられながら烈しく腰を振るう。
 動物的で神的な結合の螺旋は、快楽の木霊こだまを返しあいながら、大きな恍惚のうねりとなる。
 快楽千万せんばん。悦び爛漫。
 天に咲き乱れる、奔放な百花繚乱。
 比類なき愛の奔流は止められない、止まらない。天に昇る絶頂を迎えるまで、性の狂奔きょうほんは終わらない。
 艶めかしくも力強い腰の動き、巨大な旋回的律動を後衛から前衛へと引継いで、命を繋ぐ無限律動、無限快楽がうねり、螺旋を描いて、膨大な波動となって、すべて虹に集約される。
「あ、あぁッ……も、だめ……ぁ、だめぇッ!!」
 世俗を超越した無限快楽に、虹は恐怖し、恍惚の涙を流した。
「虹さま、恐れることはありません……はァ、身を委ねて……っ」
 耳元で、アーシェルが媚薬のような声で囁いた。虹を小刻みに突きあげながら、片手で睾丸をあやすようにもみこんでいる。
「はぅンッ!!」
 たまらず虹は腰をくねらせた。空中に逃げ場などなく、したから突きあげられるたびに、秘孔は喘ぎ、ぐぷんっといやらしい音をたてる。
 虹は、奥処おくかにアーシェルを感じながら、同時にジュラを感じていたし、ユシュテル、ソードの性器と熱さ、息遣い、鼓動の速さ、想いのすべてを感じていた。情熱の混沌のなか、繋がっているすべての水晶族、ひとりひとりの横溢おういつする命を感じていた。
 そしてその螺旋の始まりに、キャメロンがいた。彼に貫かれながら、己を与えていた。
 いつなる瞬間。万物のしきいは消滅し、すべてがひとつだという感覚のなか、虹は真の意味で、己を解放した。
「あぁッ!」
 身を震わせながら、木が枯れ葉を落とすように、過去も、習慣も、道徳も、ふり捨てたのだ。身動きがとれぬほどいましめてきた呪符たちが、すべてはがれ落ちていく。もうそんなものに、しがみついたりしない。
 自由だ!
 これこそが水晶族の絆なのだ。
 全員で繋がる結合こそ、崇高な坩堝るつぼであり、新たな魂を生みだす至聖の営み。命の輝きを宇宙にまで送り届けるための愛の儀式。薔薇色のあけぼのなのだ。此の世の真闇まやみを照らす一条の光となる。
 この神聖で運命的な祝儀のなか、繋がる者ら全員が、無上の快楽を、集合力とも、宇宙の頂点ともする心境だった。
 股間がはちきれんばかりに膨らんで、熱を帯びた。
「嗚呼っ! ぃ、イく! イッちゃぅ――~~ッ!!」
 虹は胸をそらし、声をあげた。
 水晶族最終奥義――宇宙に花ひらく悦び爛漫、奔放な百花繚乱、かい