FAの世界

3章:大水晶環壁 - 5 -

 ソードたちは泉殿に戻るなり、一糸まとわぬ裸身で聖寵せいちょうの泉に入り、全身を浸した。皆、顔や体の一部が水晶化しており、皮膚は仄青い燐光を放っている。
 その尋常ならざる様子に虹は視線が釘づけになり、背後に立つアーシェルが薄絹を脱がせようとすることに気が回らなかった。
「彼らはどうしたのですか」
 露わにされた肩越しに、虹は訊ねた。
「消耗しすぎたのです。すぐに治癒をしなければなりません。虹様も泉にお入りください」
 碧い瞳がうれわしげに光っている。虹は、まじまじと端正な顔を凝視した。
「本当に授乳を?」
「はい。虹様の甘い蜜液は、効能あらたかな命の秘薬でございます。どうか傷ついたしもべに御慈悲を御垂れくださいませ」
「秘薬か……」
 虹は自嘲気味に嗤った。これから行われる背理淫徳行為を思うと、自らを生贄のように感じる。だが彼らが傷ついた原因の一端は自分にあるのかもしれないと思うと、強く拒絶もできなかった。
 覚悟を決めて泉に入ると、しもべたちは静かに近づいてきた。
 聖餐に供されるこうしになった心地で、虹の足が止まる。恐ろしい身慄いのようなものを感じながら、男たちのなかにソードとユシュテル、そして幼いジュラがいることに気がついた。
 少年もいるのか――虹は怯むが、ジュラに恐れは見られなかった。むしろ熱っぽい眸のなかに、淫らな色が浮かんでいるように感じられた。
 緊迫した静寂のなか、ソードが虹の正面に立った。鍛え抜かれた剣のような肢体のところどころは水晶化している。命に関わるきずなのだろうが、肢体を飾る宝飾のようで、美しく神秘的だった。
「水晶の君……」
 囁きは、切実な響きを帯びていた。
 ソードはゆっくりした動作で、虹の両肩に手を置いた。虹はおずおずと視線をあわせ、思わず息を飲んだ。ソードの特徴的なオッドアイは、水晶化していた。
「いただいても、よろしいですか?」
 ほんの二、三秒、沈黙が流れた。緊張のきょくにあり、咄嗟に言葉がでてこなかったのだ。
 彼を救うには応じるしかないのだという、決死の覚悟で虹は震えるくちびるを開いた。
「……はい。あの、僕はどうすれば……寝転がった方がいいですか?」
 お誂え向きに鎮座している、水晶の台座を横目でうかがうと、ソードは虹の腰に腕を回して力強く引き寄せた。
「そのままで」
 心臓を爆発させそうなほど打ち鳴らしながら、虹は沈黙を守っていた。ソードがゆっくり覆いかぶさってくると、熱気が伝播でんぱして、どっどっどっ……鼓動がさらに早くなる。
 後ろから首筋に吐息が触れて、虹は目を見開いた。忍び寄る無数の手が、そっと触れてくる。後ろにいるのはユシェテルだ。彼がこめかみにくちづけている。
「ぁ……」
 無骨なソードの指が、乳首をかすめた。じれったいほどゆっくりとした動きで、乳輪に円を描く。虹は堪らずに喉をそらして喘いだ。
 誘導されるように、ソードはついばむようなキスを首筋に落としながら、少しずつ、胸へとおりていった。ささやかなふくらみにくちびるを押し当て、乳首をくちに含んだ。熟れた果実は、昂って硬くしこっている。虹は本能的に躰を弓なりにして、胸を押しつけた。
「ぁ、えっ?」
 違和感を覚えてしたを見ると、ソードともうひとり、ジュラが虹の乳首にむしゃぶりついていた。
「君はっ」
 少年と目があい、虹は烈しく動揺する。離れようとするが、前後からきつく抱き締められ、身動きを封じられた。
「ン、甘くて美味しいです……水晶の君……」
 陶然と美少年が囁いた。
 ふっくらした胸肉に指がくいこみ、乳首から果汁が迸る。濡れそぼった果肉は白蜜で艶光りして、赤い舌がちろちろと舐めとる様は淫靡だ。
「あ、あ、あぁっ……やぁ……んっ……!」
 虹は逃げようとするが、赦されない。くちびるの端に白蜜をこぼしながら、乳首を吸われまくる。
 悦楽の炎が全身を駆け巡った。背徳への恐怖に震えながら、もっと吸ってほしいという欲望を感じていた。自らさしだすように胸をのけぞらせ、ソードとユシュテルのくちびるに押しつけた。
 ふたりは、思うぞんぶんに蜜をすすった。やがて虹の前には男たちが入れ替わり立ち代わり、双つの赤い果肉にしゃぶりついた。
「水晶の君……っ」
 もはや何人目かわからぬ男が、くちに乳首を吸い入れる。浅ましくそそりつ乳首に、絶えず誰かの舌が絡みつき、幾度も射精感がこみあげた。
「あぁ、ン……ッ」
 拒絶の言葉はもはや弱弱しく、乳首を極めて白い蜜が溢れでる。蜜液が水面に溶けるたびに、きらきらと碧光りして、躰を浸すしもべたちの怪我を癒していく。
「はぁ、はぁ」
 荒く息をつく虹の躰を後ろからユシュテルが持ちあげて、正面からはソードが両足をぐっと開いた。水晶化していた彼の両目は光を取り戻し、今は黄金きんと碧の絢爛な瞳に、くっきりと情欲のかがやきを灯していた。
「ぁ……待って」
 虹はあられもない恰好をどうにか隠そうとしたが、ソードは大きな掌で膝頭を包みこみ、さらに大きく開脚させた。
「厭だっ」
 股間が露わになる。薄い布は濡れそぼり、昂りの形も、肌色も、くっきりと浮きあがらせていた。
「見ないで……」
 虹はか細い声でいった。ソードは色を湛えた目で、ねっとり股間を凝視している。皮膚が焦げつきそうだ。触れられたわけでもないのに、ありえないほど感じている。躰の芯がきゅんと痺れて、下着のなかで蜜口がはしたなく喘いでしまう。
「やめて、そこはだめです」
 膝を閉じたいが、足の合間にソードが陣取り叶わない。他のしもべたちも局部を覗きこむように顔を寄せてきた。
「おかわいらしい水晶の君……」
 無骨な指が、ぴっちりした布を突きあげている性器を、つぅっと卑猥になぞりあげた。
「ぃや、見ないで……っ」
 虹は潤んだ声でいった。ソードは一瞬指の動きをとめたが、無言のままに、小さな布を指でそっと横にめくりあげた。
「やめてぇッ!!」
 角度をもった性器がまろびでた。先端がぴくりと震えて、蜜口に盛りあがった雫が星明かりに煌めく。
「どうかうまし蜜を……」
 ソードの喉が上下するのを見て、虹の喉もひくついた。このままでは、舐められてしまう――
「ぃやだ、舐めないで……!」
 彼の顎を両手で押し返そうとするが、力が強くて、押し負けてしまう。はぁはぁと荒い呼気が股間にかかり、混乱した虹は思わずアーシェルの姿を探そうとした。
「アーシェル……ッ」
 しかし群がるしもべが視界に映るばかりで、対岸の様子は判らない。焦っているうちに、屹立をそっと握りこまれた。
「ぅあ、だめ……っ」
 絶妙な力で締めつけられる。腰が揺らめいてしまう。かさついた皮膚にこすれる摩擦に陶然となり、指先が先端にたどりつくころには、硬く張りつめていた。親指が割れ目を横切り、圧をくわえてくる。
「やめてくれ……っ」
 爆発してしまいそうだ。目で訴えると、ソードは一瞬狂おしそうな表情を浮かべ、やがて獰猛な微笑を浮かべた。
「お赦しください」
「そんな、授乳だけだって」
「こちらも飲ませてください」
 きっぱりと告げると、指で茂みをかきわけ、根元から、見せつけるようにして舌を這わせた。
「待っ……はぁッ、あっああぁんッ……!」
 つつーっと舐めあげられ、頂上に達すると、艶めいた亀頭をじゅっと強く吸われた。
「あぁぁッ!!」
 熱い粘膜に包まれ、先端を舌でめちゃくちゃにされる。全身から汗が噴きだし、びくんっびくんっと陸にあがった魚のように躰が撥ねあがる。あたう限りの力でもがくが、無数の腕に搦めとられて殆ど身動きできなかった。
「そ、んなぁ! だめ、んぅっ、だめ、吸わないでぇっ」
 悦楽に溺れそうだ。掴むものが欲しくて、硬質な髪に手を伸ばすが、金碧きんぺきの双眸には一種狂おしい歓喜が輝いて、余計に虹を怯えさせた。
「いいえ、もっと欲しいっ……うまし蜜に感謝を、幾千の胤の恵みを……どうか……っ」
 全身全霊をかけて舐めしゃぶる姿は、肉体以上のものを求める切迫した飢餓感がうかがえた。絶頂に追いやられる。このままでは、くちのなかに吐精してしまう。
「離してぇッ!!」
 切羽詰まった声で訴えたが、容赦のない愛撫は止まらず、ついに途方もない恍惚感に襲われた。
 熱い粘膜に包まれたまま、どっと精液を迸らせる。断続的な射精の合間も、ソードはぴったりとくちびるをつけて、一滴残らず飲み干した。
「はぁ、はぁ……はぁ……っ」
 ようやく解放されたとき、息をあえがせながら虹は、舐め溶かされた性器が、ぴくぴく痙攣しているような錯覚に陥った。
「んっ」
 不意に後ろから腰を持ちあげられ、水面にうつぶせのような恰好になる。振り向くと、背後に立つユシュテルが尻のあわいを覗きこんでいた。
「何をっ?」
「……さすがアーシェル様。こうなることを予想されて、対策を打たれていますね」
 ユシュテルは苦笑をこぼすと、尻に埋められた水晶についた輪を、くんっ……軽く指でひいた。
「ンっ」
 淫らな刺激に虹は喘ぐ。引っ張られる感覚はあるものの、輪が抜けることはない。アーシェルのいった通り、彼でなければ抜けないのだろう。
「……嗚呼、堪らない……こんなにも香らせて、味わえないなんて……」
 ユシュテルは口惜しげに囁くと、輪に指をかけて、二度三度と引いた。
「やぁ、あ、あッ」
 抜けはしないが、輪をいじられる振動が腰に響いて、虹は艶めかしく腰をくねらせる。
 すると他のしもべも見たいと思ったのか、無数の腕に躰を支えられて、ふたたび水面に仰向けになった。さらに両の脚を高くもちあげられ、大胆に割り広げられる。
「嘘ッ!? ひぇっ……ちょ、待って!」
 手で隠そうとすれば、すかさず誰かの腕に搦めとられた。まるで蜘蛛の巣にかかったみたいだ。或いは触手の餌食かもしれない。
「あぁッ」
 べろりと秘穴の淵を舐められ、虹は叫んだ。男たちは、代わる代わる後孔の縁に舌をはわせてきた。水晶の輪を動かして、そこから滲む蜜を少しでも舐めとろうとする。
 身じろぐたびに、ぱしゃんと水飛沫が撥ねて、水面で戯れる小鳥のように波紋を広げる。腰が沈んでもすぐに持ちあげられ、そのたびに勃起もぶるんと震えて、雫の連なりを夜空に描いた。
「ん、んっ……はぁ、もう終わりに……っ」
 気が狂いそうだった。躰の奥処おくかが疼いてたまらない。熱塊を突き入れてほしい――しかし一度でも赦せば、この人数を相手にすることになる。いくらなんでも躰が壊れてしまう。
「も、終わりにして……っ」
 懇願しているのに、誰も聞いてくれない。
 しもべたちは淫らな饗応に我を忘れて、唐黍とうきびに群がるいなごさながら、飽かず貪欲に虹に喰らいつく。
 今度はジュラが股間の合間にやってきて、ゆるくちあがった股間にねっとり舌を搦めてきた。蜜袋を柔らかく揉みしだきながら、割れ目から滲む蜜を無我夢中で舐めとる。
「ふぁ、ぁ、ンンッ」
 喘ぐくちびるをユシュテルに塞がれた。熱い舌が乱暴にもぐりこんでくる。逃げ惑う舌を搦めとり、官能的に吸い入れる。竪琴を演奏する嫋々じょうじょうとした姿からは想像もつかぬ、命懸けのような、かつえるように貪る激しいキス。
 素肌に熱い掌が這いまわり、ユシュテルに舌を吸われながら、左の乳首をソードに焦れったいほど丁寧に舐められ、右の乳首もジュラに吸われている。震える性器も誰かにしゃぶられ、尻肉を甘噛みされ、秘穴の縁を淫らがましくすすられている。首筋や指の合間にいたるまで、露出した皮膚のすべてに指と舌が這わされている。
 そちこちから、濡れた音がひっきりなしに聴こえて、耳の奥まで犯されている気がした。
「やぁっ……も、離してぇ……っ」
 烈しいキスの合間に訴えると、今度はジュラが欲に濡れた顔を近づけてきた。子供だと思っていたのに、完全に雄の顔をしているではないか。
「水晶の君、愛しております……」
 甘いキスをしながら、誰かに、ちゅうっと乳首を優しく吸いあげられたとき、声もなく虹は極めた。
「ぁ――~……ッ」
 今、誰に何をされているのか、もはや把握することは不可能だった。
 ただただ容赦のない愛撫に翻弄される。皆、結晶化は癒えたはずなのに、躰中に手とくちびるが這いまわり、この淫らな交歓を終わらせたくないといわんばかりだった。
 狂おしい快感のなかで、虹は気を失った。
 優しい輝きの曙の明星に見おろされながら、虹は岸辺に横たえられた。
 ぴくぴくと四肢を痙攣させ、両目は閉じている。双つの乳首はぷっくり腫れて、まだ薄く蜜をにじませ、舐め溶かされた性器は赤く色づき、尻も桃色に染まっている。
 愛撫というよりは、烈しい慮辱を受けたみたいな有様だった。
「虹様、ありがとうございます」
「お慕いしています、我が君……」
 麗しい水晶族のしもべたちは、横たわる虹を崇めるように見つめながら、痛いほどみなぎらせた己の股間に手を伸ばした。低い喘ぎの声が折り重なる。
 アーシェルが宣告した通り、虹の尻に水晶が埋まってさえいなければ、ここにいる全員に犯されていただろう。
 泉に穏やかな凪が戻り、迎えにきたアーシェルが虹を抱き起したとき、虹の意識は、夢も見ぬ深い眠りのなかにあった。