FAの世界

2章:慶びごと - 3 -

 邸を照らす、かくと燃える不断の聖燭は、未知の妖火ようかのように揺らいで見えた。
 アーシェルは虹を横抱きにしたまま、丸い橄欖かんらん石の歩廊をわたり、黒い両扉を開いた。平たい湯桶に素足をひたしてから、玄関廊下にあがる。
 弦楽の音が聴こえる。
 虹はぼんやりした意識で、後ろをついてくる水晶族のしもべたちを眺めやった。見知った顔もある気がするが、地面が波打つみたいな幻覚に見舞われており、誰が誰だか判別がつかない。己を抱きしめている男が、アーシェルなのかすら。
 寝台には花弁が散らされていた。刺激的なアロマの香りが漂っている。まるで花嫁のように、恭しい手つきで横たえられた。
「御身からあふれる蜜は神の飲みもの。我ら一族に生命力を与える神の霊液、謹んで味わせていただきます」
 アーシェルが厳かに告げた。
 穏やかな口調であるのに、熱した火箸のような鋭さを感じて、虹は身をふるわせた。躰の熱はいよいよ高まり、股間に血潮が集まるのを感じる。
「何を、する、ですか……?」
 呂律の回らない口調で虹が訊ねると、アーシェルは微笑し、虹の下腹に掌を押し当てた。
「可憐な双粒ふたつぶと、ここに……水晶の君のなかに、とびきりの甘露が生成されております。至上の祝い酒を、めでたい今日このとき、皆で廻し飲むのです。紅く熟れた果実をくちに含んで、開いた秘孔にもくちびるをつけて、のまま飲み干すのでございます」
 神聖な誓言せいごんめいているが、その意味は、淫らのきわみ。下腹部を円を描くように撫でられ、虹は艶めかしく腰を揺らした。
「ん……っ」
 躰が熱い。首筋や背中に汗が伝い落ちる。途方もない淫らな予感に、股間は早くもきざしていた。
「それから……尊い王笏おうしゃくにも、くちづけさせてくださいませ。御汐噴き孔から、とびきり上等の蜜を啜らせてくださいませ」
「ぅあっ」
 性器を柔らかく握りしめられて、虹の腰がぴくりと震える。
「嗚呼、皆がこの瞬間を待ち望んでいたのです。水晶の君に触れて、味わえるこのときを!」
「あぁっ!!」
 首筋を強く吸われて、虹のくちびるから嬌声がこぼれた。ろくに動けぬ虹の傍へ、四、五人の男が、何一つ身に着けない裸体で近づいてくる。
 皆、長身で、種族特有の華やぎがあり、たいへん美しい。淡い色味の長髪を美しく編みこんでいる者や、額や耳に宝飾をつけている者もいる。躰はしなやかな筋肉に覆われいて、超俗めいた優艶な姿態だが、股間を硬く勃起させていた。
「水晶の君」
 虹はアーシェルの声に反応した。無意識に彼の腕にすがりつくと、彼は背中から虹を抱きしめ、そっと胸の突起に触れた。
「あ……」
 ひとり、またひとりと寝台にのりあげてきた。
 虹は幻覚で朦朧としており、誰が誰だが認識できなかったが、性の対象にされていることだけは理解していた。不安げに背後のアーシェルを振り返ると、慈母のような微笑を向けられた。
「恐れることはありません。皆、虹様の乳を吸いたる兄弟はらからです。虹様に触れて、くちづけて、まことの愛を交わすのです」
 美しい捕食者たちは、圧倒的な膂力りょりょく蠱惑こわくを全面に押しだそうとはしなかった。むしろ控えめで、恭しく虹の爪先に唇を押し当ててみせた。
「幾年月お待ちしておりました、水晶の君……ようやく、お会いできましたね」
 しもべのひとりが囁いた。
 潤んだ菫色の眸は、水晶のように煌めいていて、真摯さがうかがえた。彼は心底幸せと思っているかのように、ほほえんだ。
(どうして、そんな顔をするんだろう……?)
 はかなくも美しい微笑は、妙に胸に迫るものがり、虹はじっと魅入った。
 疑問は長く続かない。しもべは膝をついてたちあがり、虹におおいかぶさった。乳首に指が触れて、軽くこすりあげた。
「ぁっ!」
 虹は本能的に逃げようとする。だが、背中からアーシェルに抱きしめられて、寝台を降りることは叶わない。正面にいる男は、虹の乳首に顔を近づけた。そこは、乳がにじみでて、照明の光をもらいうけて淫靡に艶光りしていた。
「あぁ、水晶の君……」
「紅く熟れた果実の、なんと美味しそうなことか……夢にまで見た双粒ふたつぶでございます……っ」
 陶酔に満ちた囁きが折り重なる。
 熱い吐息が乳首にかかり、虹の目じりから涙がこぼれ落ちた。あまりにも非日常的すぎて、心が追いつかない。
「あぁ、ンッ!!」
 吸いつかれた瞬間、恍惚に全身を貫かれて、虹はほとんど失神しかけた。
 やわらかなくちびるが、甘い茱萸ぐみを舐めるみたいに、紅い突起を愛撫する。
「っ……ん、ふぅ、ぁ……アーシェル……っ」
 嗚呼、魔宴は始まってしまった。かわるがわる、嬉々として真っ赤に熟れた果実をしゃぶられて、溢れでる乳を味わうようにすすられる。
「ぁ、だめ、吸わないで……っ」
 潤んだ声で懇願するが、誰もやめようとしない。舌鼓を打つような水音を立てさせながら、貪欲な赤子のように、必死な吸いつきで飲んでいる。しかし眼差しは男の欲望をたぎらせ、淫らがましく乳首を弄ぶ指と舌遣いは、神聖な授乳行為から遠くかけ離れていた。
「んぁっ、や……離れて……!」
 のしかかる男の肩を押し返そうと試みるが、鋼の如しびくともしない。したを向けば、情熱のこもった複数の目が虹を見つめていた。
 ぞくぞくした震えが背筋に走り、喉をのけぞらせると、後ろからアーシェルに首すじをまれた。
「あぁッ」
 罪深い快楽けらくが躰の芯から滲みだし、全身を濡らしていく。
 男たちの愛撫により、虹のくちびるも乳首も性器も、淫靡に艶光つやびかりしていた。白蜜淋漓りんりたる素肌に、熱い掌、くちびるが這いまわり、己のものとは思えぬ甘い声が喉からあふれでる。
「ぁ、はぁ……んっ」
 なにが現実か判らなくなる。乳首からほとばしる感覚に戦慄したつぎの瞬間、乳首がふるっと震えて、とろりと甘く濃厚な蜜が噴きあがった。
「っ、はぁ……なんと美味な……ぁ、はぁ、水晶の君……っ」
 男たちは息を荒げて、餓狼がろうのごとく喉を鳴らして飲んでいる。
 礼儀正しい水晶族たちの、突然の変容が信じられない。一瞬で恋を炸裂させたような、ひたむきで熱狂的な眼差しを虹に向けているのだ。
 彼らの気持ちの昂りは虹にも伝播でんぱしていた。心臓がどきどきして、股間に血潮がみなぎる。
「あっ、イく、いっちゃ……あぁっ、そんな! ……乳首で……っ?」
 吸われるほどに、乳があふれでる。虹は自分が底なしの泉になったように感じられた。
「嗚呼、なんて敏感なのでしょう!」
 美しい男たちは頬を上気させて、興奮したように叫んだ。潤んだ眸で虹を求める。匂いたつ色香にくらくらする。
 彼らこそ、なんて美しい種族なのだろう――交歓の悦び、魂の歓喜が彼らをうちから満たし、真珠の肌と水晶めいた眼差しをいっそう輝かせているのだ。
 ぶるっと胴震いがはしる。全身全霊の魔術めいた陶酔状態のなか、乳首を極めた。
「はあぁっンッ!!」
 狂熱した万華鏡のような一刹那いちせつなまばゆい光の洪水に襲われて、とぴゅっと乳を噴きあげる。
 双粒ふたつぶの熱い噴射は、しもべたちのくちびるによって、舐めとられ吸い尽くされていく。喉をならし、荒々しく、震えおののく虹をおさえつけて。
「お上手ですよ、虹様。我が“ファルル・アルカーン”……うまし蜜に感謝を……幾千の胤の恵みを与え給え」
 アーシェルの声が、遠くから聞こえるようだった。心臓は破裂しそうなほど鳴っていて、周りの音が聴こえない。
「ふぅっ……ン……あ、あぁっ、ン~……っ……!」
 暁の燦然さんぜんたる光に目がくらんで、がくがくと痙攣し、虹は筋肉を弛緩させた。
 別の男が近づいてきて、寝台に乗りあげた。虹の全身に、新たなおののきと官能のさざなみはしった。
「アーシェル……ッ」
 背後から己を抱きしめている男に救いを求めると、彼は切なげに愁眉を寄せて、虹の額にくちびるをつけた。
「水晶の君、どうか恐れないで……怖くありませんから……ね?」
「っ、でも……」
 たくましい水晶族の男がふたり、虹を挟むようにして寝台の上で膝をついた。ゆっくり手が伸ばされる。
「待って……」
 虹は震える声で哀願したが、誰も止めようとはしなかった。瞳に情欲の光を灯して、ひとりは右を、また別のしもべは左の乳首をくちびるでんだ。
「ぁんっ!」
 思わず虹は背を弓なりにした。
 図らずも胸を突きだすような恰好になる。彼らは丁寧に、熱心に乳首に吸いつき、巧みに乳を吸いだそうとする。
「はぅっ、ン……も、吸わないで、やぁっ、んっ……あぁっ……」
 震える虹の身体を撫でまわし、快感を煽りたてる。もはやどこに触れられても、躰は快感にびくびくと震えずにはいられない。
(どうなっている……俺は何をしているんだ……? なんでおっぱいが……っ)
「水晶の君は、我ら水晶族の生命線なのです」
 アーシェルは背後から首筋に顔をうずめて、汗ばんだ素肌を舐めあげた。連動するように、ふたつの果実がちあがり、凄まじい射精感が突き抜けていく。
「ひぃッやあぁ、あッはぁん!」
 びゅくっ! 熟れた果実から、新鮮な白い美味が溢れだして、かつえる捕食者たちの喉を潤していく。
「はぁ、はぁ……水晶の君……っ」
 低く、官能の喘ぎが天蓋に反響する。
 びくん、びくんと震える紅い突起に、また舌が絡みつく。舐めしゃぶられながら、内腿を撫でられ、虹の腰はびくりと跳ねた。