DAWN FANTASY
2章:最後の黄金 - 6 -
木の洞 をくぐり抜けると、一面の砂漠が拡がっていた。
そんな馬鹿なと思うが、目の錯覚ではない。
むわっとした湿気は消え失せ、からっとした大気の空は絵の具を刷 いたような青さで、無慈悲な太陽が真上から照りつけている。
ここが塔の中なのか外なのか判らないが、確かにランティスの精神感応 で視た通りだ。
炎天の下 、際涯 もない砂の大海原を歩くのかと恐れたが、頼りになる魔法遣いは、砂に魔法をかけて、馬車と馬を出現させた。
材料が砂とは思えない、白を貴重に金装飾を施された、美しい見事な四頭立て馬車である。
ランティスが優雅に掌を閃かせると、馬車の扉がひとりでに開いて、七海の足元に砂の階段が顕れた。
「ありがとうございます……」
彼の手を借りて、七海は砂の階段に片足を乗せてみた。しっかりした感触を確かめてから、四、五段ほど登り、馬車のなかへ乗りこむ。
陽射しが遮られ、空気もひんやりしていて快適だ。
内装も凝っており、滴 り落ちる水晶の天井照明や、なめらかな天鵞絨 のソファーにクッションがあり、思わず指を滑らせ感触を楽しんでしまう。
対面にランティスも腰をおろすと、馬車は静かに動き始めた。
砂の上で車輪が回るのか気になったが、杞憂に終わった。振動は皆無で、窓の向こうの景色が流れていかなければ、止まっているのかと勘違いしそうなほど静かである。
しばらく七海は、物珍しげに窓の向こうを眺めていたが、どこまでいっても砂ばかりで変化もなく、そのうち緊張も緩み、眠気を催した。
うとうと微睡みかけていると、不意に重たい音が聴こえてきた。窓の外を見た七海は、驚きに目を瞠った。
「嘘っ」
巨大な砂の壁――砂嵐が迫っている。
晴天は曇天に変わり、不気味な唸り声をあげながら、数キロにも及ぶ砂の風浪が押し寄せてくる。しかも一刻を争う状況のなか、馬車が止まった。
「どうしたの!?」
「七海*****」
七海は困惑しながら、差し伸べられた手をとった。
「どうして降りるんですか? 早く逃げないと!」
砂嵐の迫るなか、自ら移動手段を放棄するなんて、正気の沙汰とは思えない。
だというのに、ランティスは足元に視線を彷徨わせている。
どうやら何かを探しているらしい。よく判らないが、七海も足元の砂に視線を落とした。
目を皿のようにして何らかの異変を探していると、突然、砂に段差が生じた。
「きゃぁッ」
砂に脚をとられて、七海は尻もちをついた。忽 ち流砂の渦に飲みこまれて、腰まで沈みこんだ。手を振って藻掻くが、余計に沈んでいく。
「七海!」
ランティスが砂を滑りおりてくる。
「きちゃだめ! ランティスさんまで埋まっちゃう!」
七海は必死に叫んだが、ランティスは少しずつ砂に沈みながら、七海の方へ近づいてくる。
「七海、****」
手が届くほど近づくと、彼は七海の腕を掴んで、力強く引き寄せた。
「ごめんなさいっ」
申し訳無さと安堵とを噛み締めながら、七海はランティスの頸に両腕をからめて抱きついた。
彼は七海を抱きしめたまま、呪文を唱えた。魔法で救いあげてくれるのかと期待したが、さらに砂のなかへ沈みこんだ。
(いやぁ――ッ)
砂が入らないよう口をぴったり閉じた状態で、七海は心のなかで絶叫した。
いよいよ命運も尽きたかと思われたが、砂の圧迫感はすぐに消えた。ひんやりと冷たい空気が、肺に流れこんでくる。
「……?」
恐る恐る目を開けると、二人は宙に浮きながらゆっくりと下降しているところで、眼下には巨大な地下遺跡が拡がっていた。
「っ、どうなっているの?」
砂のしたに、これほど巨大な空間が拡がっているとは――もしかしてランティスは、最初からここへくるつもりだったのだろうか?
長身を仰ぎ見ると、彼は落ち着いた様子で正面を向いている。杖の先端が碧く光っているのは、このしゃぼん玉のような虹色の膜を維持するためなのだろう。重力を無視して、ゆっくりと下降していく。
(……落ちそうで怖いな)
見なければいいのだが、つい足元が気になって見てしまう。不可視の膜がぱちんと弾けたら、一巻の終わりだ。
「*****」
ランティスは、空いている方の手で七海の肩を抱き寄せた。何かに掴まっていたくて、七海も彼の外套をぎゅっと掴んだ。
この地下遺跡もランティスの精神感応 で視た気がするが、まさか砂漠の下にあるとは思わなかった。
暗闇の無限階段から緑の監獄へ。木の洞 をくぐり抜けて砂漠へ。流砂の渦に落ちて、今度は地下帝国へ――この塔は、いったい幾つの異次元と繋がっているのだろう?
待望の地面に到着すると、七海はようやく息をつくことができた。地面の安定感を噛み締めながら、辺りを見回した。
巨大な空間だ。
巖の天蓋のぽつぽつ開いた穴から、細く長い陽射しが伸びており、時折砂も一緒に落ちてくる。
この大広間から、無数の洞窟に通じているようだ。蟻の巣みたいに、壁の至るところに穴が空いている。
どこへいけばいいのか、七海にはさっぱり判らないが、幸いランティスは知っているらしい。迷いのない足取りで細い通路の一つに入っていく。
彼の後ろにつき従っていた七海は、ある一点を見て目を瞠った。
「ランティスさん、あれは何?」
と、古い棺を指差して、ランティスの袖を引いた。
「*******、*******……」
説明してくれたようだが、単語の一つとして理解できなかった。ただ、触れてはいけないようで、近づこうとする七海の肩を掴んだ。
「歩いて 」
「はぁい……」
大人しく歩き始めたが、今度は宝石をあしらった衣装櫃 を見つけた。
「ランティスさん、あれは何? もしかして宝箱?」
目を輝かせる七海を見て、ランティスは、ちっちっちっと指を左右に振った。近づいてはいけないのだろうか?
「気になる……何が入っているんだろう」
未練がましく見つめていると、ランティスに肩を掴まれた。
「七海」
咎めるような視線を向けられ、七海は愛想笑いを浮かべた。
「すみません……もう何もいいません」
細く薄暗い廊下を進んでしばらくすると、仄明るい吹き抜けの空間にでた。
「わぁ、広い……」
声が反響して聴こえる。
天井は薄霞に溶けてはっきりしない。陽を浴びて淡く光る砂が細く石床に垂れている。
「綺麗……」
降り積もる砂に手を伸ばそうとした七海は、ランティスに手を掴まれた。
「止まって 」
「はい?」
「******……目を閉じて 」
彼が黒い布を取りだすのを見て、七海はぎょっとした。落ち着きがないから、目隠しをしようというのだろうか?
「ごめんなさい! もう絶対に何も触りません」
慌てて謝ったが、ランティスは小首を傾げ、なおも目隠しをしようとする。七海は顔の前で手を振って拒絶するが、それでも布を差しだすランティスに根負けた。
「……判りました。何か事情があるんですね?」
しかし、一度は目隠しを受け入れたものの、視界のない恐怖に三歩も耐えられなかった。
「ごめんなさい、やっぱり無理です。怖くて歩けない」
つけた早々に目隠しを外すと、ランティスは再び目隠しをつけさせようとする。
「どうして目隠しするんですか?」
七海は逃げ腰だ。
「********、目を閉じて ****……」
「いいえ 。目隠しは厭です」
否定の言葉を発すると、ランティスは困った風にため息を吐いた。
「*****……」
彼が七海の腰に腕を回して抱きあげようとするので、七海は逃げた。
「待って! ちゃんと歩けますから」
「******、******……」
ランティスは説明を試みようとして、諦めた。小さくため息をつくと、七海の手を引いて歩き始めた。どうやら目隠しは勘弁してもらえたようだ。
ランティスが天蓋から落ちる砂を避けて歩くので、七海もそれに従った。
薄靄はどんどん濃くなり、ランティスの背中すら霞んで見えるほどになった。
緊張気味に歩いていた七海は、なんの気なしに足元を見て、ひゅっと息を飲んだ。
「っ!?」
地面が割れている。
深い地獄の裂け目から、赤い妖気が踊っている。
やめておけばいいのに、恐る恐る裂け目を覗きこんでしまった。
亀裂の側面に、赤茶けた幹が不規則に蠢動 している……違う、糜爛 した人の手だ。
精神感応 で視せられた悍 ましい光景が、眼下に拡がっている!
夥 しい数の亡者共が、悲愴 な恐ろしい呻き声をあげながら、蛆虫のように蠢いている。
どっと心臓が脈打って、腰から背中にかけて虫が這いずりまわるような悪寒が疾 った。
「あ……」
七海は恐怖で身がすくんでしまった。
亀裂は少しずつ拡がっている。逃げなければ――頭では思っても、足はその場に縫いつけられたように動かない。
「七海!」
ランティスに呼ばれて、七海は我に返った。目を瞬くと、地面の亀裂は消えていた。
「――あれっ? え、どうして?」
忙しなく眼球を動かすが、どこにも地獄の裂け目はない。赤い妖気も蠢動する腐肉もない。
(今のは何? 幻覚?)
一歩も動いていないのに、心臓がばくばくしている。アドレナリンが全身を駆け巡り、脈はとんでもない速さだ。
七海はしばらく地面を睨んでいたが、肩にランティスの手が置かれると、のろのろと顔をあげた。
いつの間にか靄が晴れていた。
壁にもたれるようにして、人間や動物の屍体が横たわっている。それも渇いた骨ではなく、筋肉や脂肪を残した生々しさで、七海は顔をしかめた。
「やだ、気持ち悪い……これも幻覚?」
壁際に近づいて、襤褸 と化した布切れをちょんと触る。すると、袖から鼠がぼろっとこぼれ落ちた。
「ぅひゃあッ!」
七海は頓狂 な悲鳴をあげて、音速でランティスにしがみついた。
「七海……」
どこか呆れを含んだ目に見おろされた。
「ご、ごめんなさい。てっきり幻覚かと思って」
目を開いているのに、夢と現 の狭間にいるみたいだ。
「七海。目を閉じて 」
再び目隠し布を見せられて、七海は力なく頷いた。この恐ろしい地下遺跡を歩くには、確かに必要かもしれない。
そんな馬鹿なと思うが、目の錯覚ではない。
むわっとした湿気は消え失せ、からっとした大気の空は絵の具を
ここが塔の中なのか外なのか判らないが、確かにランティスの
炎天の
材料が砂とは思えない、白を貴重に金装飾を施された、美しい見事な四頭立て馬車である。
ランティスが優雅に掌を閃かせると、馬車の扉がひとりでに開いて、七海の足元に砂の階段が顕れた。
「ありがとうございます……」
彼の手を借りて、七海は砂の階段に片足を乗せてみた。しっかりした感触を確かめてから、四、五段ほど登り、馬車のなかへ乗りこむ。
陽射しが遮られ、空気もひんやりしていて快適だ。
内装も凝っており、
対面にランティスも腰をおろすと、馬車は静かに動き始めた。
砂の上で車輪が回るのか気になったが、杞憂に終わった。振動は皆無で、窓の向こうの景色が流れていかなければ、止まっているのかと勘違いしそうなほど静かである。
しばらく七海は、物珍しげに窓の向こうを眺めていたが、どこまでいっても砂ばかりで変化もなく、そのうち緊張も緩み、眠気を催した。
うとうと微睡みかけていると、不意に重たい音が聴こえてきた。窓の外を見た七海は、驚きに目を瞠った。
「嘘っ」
巨大な砂の壁――砂嵐が迫っている。
晴天は曇天に変わり、不気味な唸り声をあげながら、数キロにも及ぶ砂の風浪が押し寄せてくる。しかも一刻を争う状況のなか、馬車が止まった。
「どうしたの!?」
「七海*****」
七海は困惑しながら、差し伸べられた手をとった。
「どうして降りるんですか? 早く逃げないと!」
砂嵐の迫るなか、自ら移動手段を放棄するなんて、正気の沙汰とは思えない。
だというのに、ランティスは足元に視線を彷徨わせている。
どうやら何かを探しているらしい。よく判らないが、七海も足元の砂に視線を落とした。
目を皿のようにして何らかの異変を探していると、突然、砂に段差が生じた。
「きゃぁッ」
砂に脚をとられて、七海は尻もちをついた。
「七海!」
ランティスが砂を滑りおりてくる。
「きちゃだめ! ランティスさんまで埋まっちゃう!」
七海は必死に叫んだが、ランティスは少しずつ砂に沈みながら、七海の方へ近づいてくる。
「七海、****」
手が届くほど近づくと、彼は七海の腕を掴んで、力強く引き寄せた。
「ごめんなさいっ」
申し訳無さと安堵とを噛み締めながら、七海はランティスの頸に両腕をからめて抱きついた。
彼は七海を抱きしめたまま、呪文を唱えた。魔法で救いあげてくれるのかと期待したが、さらに砂のなかへ沈みこんだ。
(いやぁ――ッ)
砂が入らないよう口をぴったり閉じた状態で、七海は心のなかで絶叫した。
いよいよ命運も尽きたかと思われたが、砂の圧迫感はすぐに消えた。ひんやりと冷たい空気が、肺に流れこんでくる。
「……?」
恐る恐る目を開けると、二人は宙に浮きながらゆっくりと下降しているところで、眼下には巨大な地下遺跡が拡がっていた。
「っ、どうなっているの?」
砂のしたに、これほど巨大な空間が拡がっているとは――もしかしてランティスは、最初からここへくるつもりだったのだろうか?
長身を仰ぎ見ると、彼は落ち着いた様子で正面を向いている。杖の先端が碧く光っているのは、このしゃぼん玉のような虹色の膜を維持するためなのだろう。重力を無視して、ゆっくりと下降していく。
(……落ちそうで怖いな)
見なければいいのだが、つい足元が気になって見てしまう。不可視の膜がぱちんと弾けたら、一巻の終わりだ。
「*****」
ランティスは、空いている方の手で七海の肩を抱き寄せた。何かに掴まっていたくて、七海も彼の外套をぎゅっと掴んだ。
この地下遺跡もランティスの
暗闇の無限階段から緑の監獄へ。木の
待望の地面に到着すると、七海はようやく息をつくことができた。地面の安定感を噛み締めながら、辺りを見回した。
巨大な空間だ。
巖の天蓋のぽつぽつ開いた穴から、細く長い陽射しが伸びており、時折砂も一緒に落ちてくる。
この大広間から、無数の洞窟に通じているようだ。蟻の巣みたいに、壁の至るところに穴が空いている。
どこへいけばいいのか、七海にはさっぱり判らないが、幸いランティスは知っているらしい。迷いのない足取りで細い通路の一つに入っていく。
彼の後ろにつき従っていた七海は、ある一点を見て目を瞠った。
「ランティスさん、あれは何?」
と、古い棺を指差して、ランティスの袖を引いた。
「*******、*******……」
説明してくれたようだが、単語の一つとして理解できなかった。ただ、触れてはいけないようで、近づこうとする七海の肩を掴んだ。
「
「はぁい……」
大人しく歩き始めたが、今度は宝石をあしらった
「ランティスさん、あれは何? もしかして宝箱?」
目を輝かせる七海を見て、ランティスは、ちっちっちっと指を左右に振った。近づいてはいけないのだろうか?
「気になる……何が入っているんだろう」
未練がましく見つめていると、ランティスに肩を掴まれた。
「七海」
咎めるような視線を向けられ、七海は愛想笑いを浮かべた。
「すみません……もう何もいいません」
細く薄暗い廊下を進んでしばらくすると、仄明るい吹き抜けの空間にでた。
「わぁ、広い……」
声が反響して聴こえる。
天井は薄霞に溶けてはっきりしない。陽を浴びて淡く光る砂が細く石床に垂れている。
「綺麗……」
降り積もる砂に手を伸ばそうとした七海は、ランティスに手を掴まれた。
「
「はい?」
「******……
彼が黒い布を取りだすのを見て、七海はぎょっとした。落ち着きがないから、目隠しをしようというのだろうか?
「ごめんなさい! もう絶対に何も触りません」
慌てて謝ったが、ランティスは小首を傾げ、なおも目隠しをしようとする。七海は顔の前で手を振って拒絶するが、それでも布を差しだすランティスに根負けた。
「……判りました。何か事情があるんですね?」
しかし、一度は目隠しを受け入れたものの、視界のない恐怖に三歩も耐えられなかった。
「ごめんなさい、やっぱり無理です。怖くて歩けない」
つけた早々に目隠しを外すと、ランティスは再び目隠しをつけさせようとする。
「どうして目隠しするんですか?」
七海は逃げ腰だ。
「********、
「
否定の言葉を発すると、ランティスは困った風にため息を吐いた。
「*****……」
彼が七海の腰に腕を回して抱きあげようとするので、七海は逃げた。
「待って! ちゃんと歩けますから」
「******、******……」
ランティスは説明を試みようとして、諦めた。小さくため息をつくと、七海の手を引いて歩き始めた。どうやら目隠しは勘弁してもらえたようだ。
ランティスが天蓋から落ちる砂を避けて歩くので、七海もそれに従った。
薄靄はどんどん濃くなり、ランティスの背中すら霞んで見えるほどになった。
緊張気味に歩いていた七海は、なんの気なしに足元を見て、ひゅっと息を飲んだ。
「っ!?」
地面が割れている。
深い地獄の裂け目から、赤い妖気が踊っている。
やめておけばいいのに、恐る恐る裂け目を覗きこんでしまった。
亀裂の側面に、赤茶けた幹が不規則に
どっと心臓が脈打って、腰から背中にかけて虫が這いずりまわるような悪寒が
「あ……」
七海は恐怖で身がすくんでしまった。
亀裂は少しずつ拡がっている。逃げなければ――頭では思っても、足はその場に縫いつけられたように動かない。
「七海!」
ランティスに呼ばれて、七海は我に返った。目を瞬くと、地面の亀裂は消えていた。
「――あれっ? え、どうして?」
忙しなく眼球を動かすが、どこにも地獄の裂け目はない。赤い妖気も蠢動する腐肉もない。
(今のは何? 幻覚?)
一歩も動いていないのに、心臓がばくばくしている。アドレナリンが全身を駆け巡り、脈はとんでもない速さだ。
七海はしばらく地面を睨んでいたが、肩にランティスの手が置かれると、のろのろと顔をあげた。
いつの間にか靄が晴れていた。
壁にもたれるようにして、人間や動物の屍体が横たわっている。それも渇いた骨ではなく、筋肉や脂肪を残した生々しさで、七海は顔をしかめた。
「やだ、気持ち悪い……これも幻覚?」
壁際に近づいて、
「ぅひゃあッ!」
七海は
「七海……」
どこか呆れを含んだ目に見おろされた。
「ご、ごめんなさい。てっきり幻覚かと思って」
目を開いているのに、夢と
「七海。
再び目隠し布を見せられて、七海は力なく頷いた。この恐ろしい地下遺跡を歩くには、確かに必要かもしれない。