COCA・GANG・STAR
3章:C9H - 5 -
眞鍋との通話が途切れる少し前――
武装した遊貴は、
護衛と競合組織の殺し屋の排除を主とする部隊で、NATO軍並みの銃機を所有している。そのまま戦争に臨める戦闘部隊だ。
GGGの進入経路は、予め入念に調べてあった。
最大収容人数、五〇〇〇人を想定したハコ――GGGは最新鋭のサウンドシステム、音漏れ防止の防音壁が完備されている。
徹底されたセキュリティで守られた、表向きは健全なクラブハウスだが、裏ではビバイルと北城組の拠点に使われている。大量の麻薬と金が、ここに備蓄されているのだ。
障害物で固く守られた、最深部の隔離室に優輝はいる。
サーモ探知で優輝の外出を知った後、携帯で彼と連絡が取れず、遊貴は一度自宅に戻った。点けっぱなしのスカイプを開いて、友哉から事情を聞くや、作戦を急遽変更したのだ。
だが、最小の時間、損害で行ける進入路は事前に割り出してある。
地下で銃撃戦が繰り広げられようと、強固な防音壁に遮られ、ダンスフロアにひしめく客は微塵も気付かないだろう。
視界の開けたロビーは、敵の射撃陣地になっている。当然、疑わしいので迂回路を取る。
その心理を、敵もまた読んでいる。
普通に考えれば、侵入しやすい経路に眼が留まるが、そこも敵の射撃陣地になっているだろう。
とるべき戦術を、遊貴は淡々と計算していた。
二隊に分ける。
関係者区域のロビー側から侵入し、先手を仕掛けるのは陽動の囮部隊だ。本命は少数精鋭で、排気口を伝っていく。
敵の主力部隊が、味方の囮舞台に向かった隙に、優輝のいる隔離室を一気に攻める算段だ。
装備は、
味方の両腕には、スコープで見た時に目立つ、腕章をつけさせていた。
ここが平和な日本だろうと、関係ない。武装した兵を連れてくれば、どこだって戦場に変わる。
仕事をするだけだ。
時間は二二時〇五分。あらゆる奇襲策を有効に活用できる夜間だ。準備は整った。
「
策戦指揮を務める遊貴は、インカムを通して号令を発した。C9Hの戦闘員が用いる、独特の攻撃開始合図である。
「
あらゆる戦闘合図は、短く、差別化された明確な単語で指示される。
「ぐぁッ!」
ゼロ・コンマの世界――侵入と同時に、三人の
鈍い呻き声を上げて、敵が倒れる。即死だ。
室内、入り口の安全確保と同時に、工作員がジャミング、回線の排除を終えた。
敵も人数だけは揃えているようだが、あらゆる戦闘をくぐり抜けてきたC9Hが相手では、少々役不足のようだ。
話に聞いていた通りだ。
ビバイルは所詮チンピラの集団。碌に射撃もできない。MP5最新鋭の
戦闘慣れしている海外傭兵も幾人か交じっているようだが、連携がなってない。キリング・マシーンとして動ける、こちらの方が個人としても、集団としても勝っている。
「
引き金をひいた後、遊貴は合図した。標的の頭部には、真っ黒い穴が穿たれている。練習射撃と遜色ない命中率だ。
目的地を眼前に、携帯が震えた。予期していた非通知の着信に、ふと身体が熱くなるのを感じた。
『遊貴ッ』
潤んだ優輝の声。
徹底されたメンタル・トレーニングのおかげで、集中力が乱されることはなかったが、遊貴は腹の底が燃えるよな熱を感じた。
「判ってる。すぐにいくから」
嘘ではない。十メートル先のコーナーを曲がれば、目的地に辿り着く。向こうが陽動に気を取られているうちに、こっちはとうにチェックメイトだ。
『ッ、俺、眞鍋に捕まって、あ、杏里が、血流してて……ッ』
「大丈夫だよ。絶対、助けるって約束する。いい子で待っていて」
殊のほか優しく囁く遊貴に、戦闘員の何人かは軽く視線をよこした。
スピーカーの向こうから、携帯を奪い取る物音が聞こえた。
『判った? 優輝ちゃんを無事に返して欲しかったら、武器を捨てて投降しろ。サツに垂れこんだら、かわいい優輝ちゃんをリンチした上で
Alleluia!――遊貴は口元に凄惨な笑みを刻んだ。
「すぐにいってやるよ、豚野郎。楽に死ねると思うな。せいぜい、早く死ねるよう、跪いて祈ってろ」
『いいね、待ってるぜ!』
五メートル先に、ターゲットの扉が見える。通話を切ると、遊貴は表情を消した。
「
「了解」
シンプルな命令により、先頭にいた味方が扉を蹴破った。