COCA・GANG・STAR

1章:優輝と遊貴 - 13 -


「やめろって……ッ」

 威勢は剥がれ落ちて、いかにも不安そうな声が出た。潤みかけた視界に、遊貴の綺麗な顔が歪んで見える。

「かわいい」

「かわいくねぇよ! 正気に返れ!」

「かわいいよ」

「眼を覚ませ! いいから退け――ッ」

 必死に喚くと、さすがに煩かったのか、遊貴は少しだけ身体を離した。

「恐くないよ、気持ちいいことをするだけ。しようよ?」

「その軽いノリ、なんとかしろよ! 欠片も気持ちがこもってねぇんだよッ」

「……気持ちねぇ」

 遊貴は冷めた薄笑いを浮かべると、上体を起こして優輝を見下ろした。その隙に、身体の下から這い出ようともがく。

「と、とぼけるなよ……わっ」

 あと少し、というところで腕を引っ張られて再び抱きしめられた。焦って手足をばたつかせても、強靭な腕は少しも揺るがない。

「離せ、馬鹿っ!!」

「暴れないでよ。気持ち良くするって約束するから、抱かせて?」

「ふざけんなッ!!」

「じゃぁ、どうして欲しいの?」

「はぁっ?」

 狼狽える優輝の隙をついて、遊貴は唇に触れるだけのキスをした。

「ま、また!」

「早く教えてよ。待ってあげてるんだから」

「だから、なんで上からなんだよっ! 冷静になれよ。俺達、男じゃん!?」

「だから?」

「可笑しいだろ!」

「どうして?」

「訳判んねーよ、何だよ、この超展開! 俺はノーマルなんだよッ」

「最初は怖いかもしれないけど、男同士でもちゃんと気持ちよくなれるよ?」

「お前と一緒にするな! いいからどけッ!」

「性別は流石に変えられないから、そのお願いは聞いてあげられないな。じゃぁ……しようか」

「待て待て待てッ」

 服の中に手が忍び込み、優輝は慌ててその不埒な手を掴んだ。

「怖くないよ、優輝ちゃん」

「こここ怖くなんか……ッ」

 世にも情けない表情で、優輝は音速で首を左右に振った。ちゅっ、と額にかわいいキスをされて、咽から間の抜けた声が飛び出す。
 甘い表情をしているが、紫の瞳には熱が灯っている。組み敷く優輝を、完全に獲物と見なしている瞳だ。

「ごめん、本当に無理。勘弁して……」

 唇が戦慄わななき、声は潤みかけた。本気で怯える優輝を見下ろし、遊貴はまさぐる手を止めた。

「……俺のこと、嫌い?」

「嫌いじゃないけど、それとこれとは……」

「俺は優輝ちゃんのこと、割と好きだよ」

 いかにも軽い告白に、優輝はカッとなった。

「“割と”とか、失礼だろ! お前って奴は……ッ、これ、一歩間違えれば強姦だからな!?」

「もちろん、和姦に持っていく自信はあるよ……判った、しないよ」

 睨みつける優輝の顔を見て、降参とばかりに遊貴は両手を上げた。強引に迫ってきた割に、あっさりと身を引く。
 端正な顔に浮かぶ白けた表情を見たら、訳も判らず優輝の胸は軋んだ。

「……俺、帰るッ」

 立ち上ろうとすると、腕を引かれて、後ろから抱きしめられた。