COCA・GANG・STAR
1章:優輝と遊貴 - 14 -
「ごめん。もう何もしないから、帰らないで」
腕を振り解こうと暴れたが、耳朶に囁かれ、へなへなと腕から力が抜けた。
逃げないと判ったのか、遊貴は身体を離すと、優輝の手を引いて歩き出した。
「部屋に案内するよ」
部屋は見るからに余っていたが、遊貴はわざわざ自分の寝室に案内した。
無言でベッドに押し込めようとするので、流石に足を踏ん張って抵抗した。
「――おい」
「ん?」
「俺も同じベッドで寝るのかよ」
「駄目?」
妙にかわいらしい仕草で、遊貴は小首を傾げた。
「駄目だろ」
「いいよね」
「聞けよッ」
「はいはい」
軽く流されて、強引に引きずり込まれた。二人で横になっても十分な広さはあるのに、ぴたりと背中に寄り添い、抱きすくめられる。
「ちょ、この体勢で寝る気?」
「優輝ちゃん、抱き心地いいね」
「――ッ」
跳ね起きようとしたら、腰に回された腕に力が込められた。
「ちょっ」
「うん、優輝ちゃん気に入った。いい?」
「何がッ!?」
頬に吐息が触れたかと思えば、ぱくりと耳朶を食まれた。
「うぁっ」
耳の穴にまで舌を挿し入れられて、優輝は震えた。狼狽えているうちに、シャツの下に手が潜り込む。
「えッ」
ひんやりした指先は、つと下腹から胸までの肌を吸いつくようになぞり、胸の先端を柔く押し込んだ。
「ふ……ッ」
好き勝手に蠢く腕をどうにか押さえつけると、遊貴は忍び笑いを漏らした。
「優輝ちゃん感じやすいし、凄く気持ち良くなれると思うけど……どう?」
「却下!!」
「えぇ? 優輝ちゃんとしたい」
「そんな調子で、お前は何人とヤッてきたんだ?」
「いっておくけど、家に連れてきたのは優輝ちゃんが初めてだよ」
肩を掴まれて、目線を合わせられた。優輝が息を呑むと、遊貴は笑みを消して真面目な顔をした。
「どうしたら、抱かせてくれる?」
「は?」
「仮に優輝ちゃんが俺を好きになったら、キスしてもセックスしてもノー・プロブレム?」
「プロブレムだらけだろ。落ち着けよ」
狼狽える優輝の額に、遊貴は触れるだけのキスをした。
「な、何もしないって……!」
「お休みのキスだよ。こんなの手ぇ出したうちに入らない」
唇を親指でなぞられて、優輝は逃げるように顔を横に倒した。ふと、視界の端に鈍色の光を捉えた。
(拳銃? ……本物?)
ベッドの棚を凝視していると、遊貴は視線の先を辿って、ああ、と頷いた。気になって腕を伸ばすと、途中で絡めとられた。
「危ないから、触っちゃ駄目」
視線を剥がせずにいると、遊貴は
「超軽量、サイレンサーモデルにカスタムした、コルト一九一一だよ」
手を添えてスライドすると、弾が薬室に装填されるリアルな音が鳴った。
「……モデルガンだよな」
「どう思う?」
曖昧な笑みを浮かべると、遊貴は装填を解除して元の場所に戻した。堂に入った手つきを見て、こくり、と優輝は無意識に喉を鳴らした。
「お、俺、やっぱり帰……」
いろんな意味で、ここにいては危ない気がする。起き上がろうとすると、肩を押さえつけられた。
「帰ろうとしたら、犯すよ」
穏やかな口調が、いきなり硬質なものに変化した。耳朶に低く囁かれ、優輝は沈黙せざるをえなかった。
深く考えてはいけない気がする。
瞳を閉じると、思考を止めて無心を心掛けた。暖かな腕に包まれるうちに、やがて眠りに落ちていった。