BLIS - Battle Line In Stars -
episode.4:BLIS JL - 8 -
八月十四日。目黒に新設されたイベント会場。
ざわめく会場には、ピリピリと肌を刺すような空気が漂っていた。
今日ここで日本の頂点が決まるのだ。
闘うのはリーグ無敗のTeam Deadly Shotと、Hell Fire。
満席の会場を肌で感じて、昴はぞくっと背筋を震わせた。
開幕戦でも思ったことだが、数万人が見ているステージに立つというのは、凄まじいものがある。
いつもとは机や椅子の高さも違うし、画面越ではなく、観客の歓声はダイレクトに聞こえてくる。
「昴」
圧倒されていると、連に名前を呼ばれた。隣を見ると、チームメンバー全員が昴を見ていた。
「表情が硬いよ」
無表情な連にいわれて、昴は思わず吹き出した。
「連にいわれたくないよ」
笑いまじりの軽口に、他のチームメンバーも笑った。笑った拍子に余計な力が身体から抜けた。
「大丈夫。オフラインも二回目だ。開幕戦のようにはならないよ」
全員の眼を見返して、昴は力強く答えてみせた。
世界大会進出を懸けて、BO5(三点先制)の試合が始まった。
Game 1
ルカと和也が前にいて、隙間を狙うように、敵のアサシンがプレッシャーをかけてくる。アレックスのディオス性能は、敵アサシンと一対一で負ける。前に出られない。一歩踏み込むタイミングは敵アサシン次第だ。
(くるのか? くるのか? くるのか!?)
昴の緊張はどんどん増した。
視界が取れず、オブジェクトを狙いにいけない。我慢の時間帯だ。
道を切り開く為、ルカが危険を冒して灯光器を設置しにいく。リスクは高いがサポートの役目だ。
「寄ってる!」
死角――ブラックホールに潜んでいた敵は、ルカを人数差で搦め捕った。勢いを落とさず、グループアップしてHell Fireの自陣に乗り込んでくる。昴はまだ、コアアイテムが一つも完成していない!
「ッ」
ヒュッ、と昴は息を呑んだ。
ダメージが通らない。装備差が開き過ぎた。この後は、一方的な殺戮が待っている。自陣ギリギリに下がりながら攻撃を当てるが、敵のタンクは、俺強ぇだろ? といわんばかりに突っ込んでくる。
「チッ」
『さぁ、ゲーム1を制したのは王者Team Deadly Shotとなりました。一糸乱れぬ扉へのアプローチは、まさしく鍛え抜かれた軍隊そのもの。Hell Fireはどう喰らいついていくのか? 十五分の休憩を挟んで、ゲーム2を開始します』
実況者のアナウンスが流れると、会場はざわめき始めた。昴達も席を立って控室に戻ると、すぐにBAN&PICKの相談を始めた。
Game 2
敵はBANの三枠全てを昴へのターゲットBANに集中させた。
使えるディオスの少ない昴は、これをやられると弱ってしまう。敵は昴を警戒しているわけでなく、得意ディオスを取り上げて、チームの弱体化を狙っているのだ。
隣でルカが舌打ちしている。否応なしに昴のPICKに合わせたディオス構成をするしかないからだ。
痛感する――ディオス・リストの少なさは、多様なリーグを勝ち抜く為に致命的過ぎる。今後の大きな課題になるだろう。
気持ちを切り替えてゲームに臨んだが、序盤から苦しめられた。
やはり使い慣れていないディオスだと、動きが悪い。
試合展開は常にTeam Deadly Shotがリードし、G差は一万近く離されて、SoloQueueならとっくに
プロの試合では、どんなに負けていてもサレンダーは許されない。苛ついたチームがたまにするが、視聴者と運営の両方から非難される。昴はいいところが一つもないまま、試合に負けた。
Game 3
ゲート防衛の佳境で、敵は五人全員で攻めてきた。Hell Fireはタンクの数を残して全滅だ。ベース復帰まであと二十秒。最後の砦、扉にダメージが蓄積していく。
もってせいぜいあと十秒。仲間の復帰はあと二十秒。時は無情に進んでいく。
残り九秒、八秒、七秒、六秒……もう間に合わない。誰もがそう思った。
『敵のゲートが割れた――ッ!?』
敵ディオスの猛攻を防いでいる間に、自軍のスターソルジャーが相手のゲートを叩き割ったのだ。
罵声と咆哮。
まさかの大逆転に会場が震えた。解説実況の二人も、机を叩いて大爆笑している!
まさかスター・ソルジャーがゲートを壊すなんて、誰も想像すらしていなかった。カメラマンも観客も、闘っている本人達ですら、誰一人気付いていなかったのだ。
「こんなことってあるんだ!?」
昴は信じられない思いで、ディスプレイに出現した「勝利」の2文字を凝視した。
「助かったな」
この展開に、さすがの連も息をついた。和也が連の頭をくしゃっと撫でている。
「うぉ」
首に衝撃を感じて、昴はよろめいた。ルカが抱き着いてきたのだ。
「Amazing!」
「yup」
ルカとアレックスがそれぞれいう。
この奇跡のような一勝で、Hell Fireは風前の灯のような細い命を、どうにか繋ぎとめた。