BLIS - Battle Line In Stars -
episode.4:BLIS JL - 5 -
ROUND6、7とHell Fireは二連勝した。
ROUND8は、ROUND3で敗北を喫した優勝候補のTeam Deadly Shotが相手で、雪辱を晴らさんと昴は意気込んでいたが――
先制二点を取られて、惨敗した。
チーム全体の戦績はともかく、昴と敵ACEの戦績差は一目瞭然だった。一対一で負けて、二対二で負けて、三対二有利な人数差でも負けて、集団戦でも一方的にやられた。ボロッボロだ。
ROUND6、7と連勝を決めて、強くなってきた実感があっただけに、痛恨のダメージだった。
リーグを通して成長しているのはTeam Deadly Shotも同じで、向こうの方が戦略もグループアップもより洗練されていた。
まだ届かなかった……
会場にいる間はどうにか平静を保ったが、チーム全員が打ちのめされていた。
控室に入ると、アレックスは椅子に座り項垂れた。和也も無言で席につく。連は壁を背に立ち、難しい顔をしていて、ゲームの敗因を考えている風だった。
昴は、個室に入るなり涙が込み上げた。負けた――悔しくて、悔しくて、悔しくて。言葉にならない。
「……ッ」
歯を食いしばったが、堪えきれない嗚咽が喉から漏れた。
鳴き声につられたように、全員がはっとした顔で昴を見た。全員の視線を受け止めて、もう、申し訳なくて、昴は頭を下げた。
「ごめんッ、俺のせいだ」
全員が、弾かれたように昴の回りに集まってきた。連は昴の頭を抱き寄せた。
「違う。チーム戦に負けたのは、全員の問題だ」
「う……ッ……ぅ~っ」
いくら詫びても足りない。Hell Fireはもっとずっと強いチームなのに、ACEが、昴が足を引っ張っている。
悔しくて悔しくて、腹の底が煮えたぎっているようだ。チームに申し訳なくて、顔を上げることができない。
「泣かないでよ……昴が自分のせいだっていうなら、僕だってサポートなのに守りきれなくて、ごめん」
いつになく沈んだ声でルカがいった。
「……俺、最悪だ……あんな戦績、ACE失格だよ……くっそぉ~……ッ」
「昴……」
伸びてきた手に、かわるがわる頭を撫でられた。皆が見ているのに、連は昴のこめかみに唇を押し当てた。
一人だけ泣いていることが恥ずかしくなり、昴は連の胸を押した。連は心配そうに手を伸ばしてくるが、昴は首を振った。乱暴に眼を擦っていると、背中から抱きしめられた。
「ッ!? ……アレックス?」
「まだ負けたわけじゃないよ」
アレックスは後ろから昴を抱きよせて、自分の胸に押し当てた。
「向こうのACEの力量は素晴らしかった。きっちり対策立てていこう」
無言で頷くと、ぱたぱたと涙が零れた。鼻をすすっていると、ルカはティッシュを差し出してくれた。
「……ありがとう。鼻セレブ」
高級ティッシュだ。
「僕、アレルギー酷くて粘膜弱いんだ。安いティッシュだと鼻血が出るんだよね」
「そうなんだ……ふッ」
天使でも鼻血を出すことがあるらしい。多少愉快な気持ちが込み上げて、ようやく顔を上げることができた。全員がほっとしたような顔で昴を見ていた。
「……俺も感染したのかな?」
「?」
不思議そうに首を傾ける昴を見て、アレックスは苦笑いを浮かべた。
「そんな顔してると、変な気を起こしそうになる」
「?」
惚けたように首を倒す昴を見て、アレックスは素早く頭のてっぺんにキスを落とした。
「――ッ!?」
「I like you」
朱くなる昴を見下ろして、フッと笑った。男だと知っていても、胸が高鳴るほど綺麗な微笑だ。
「昴って、反応がいちいちキュートだよね」
「ッ!?」
昴が息を呑むと、アレックスはからかうように顔を覗き込んだ。
「――おい」
連が低い声で牽制するのと同時に、昴は慌てて飛びのいた。アレックスはお
「俺もルカのことをいえないな。連に怒られないようにしないと」
「ちょっと。僕を引き合いに出さないでよ」
ルカが不満そうにいった。
「……何いってるんだよ」
昴も苦笑いを浮かべたが、アレックスは複雑そうな顔で首を傾けた。
「うーん? そうだよね……悪い。ちょっと、散歩してくるかな?」
綺麗な髪を無造作に描き上げながら、アレックスは首を傾げた。そんな仕草もサマになっているが、本人は戸惑っているようだ。
アレックスが部屋から出ていくと、呆けていた昴は、隣に立つ連の不機嫌に気がついた。
連は剣呑な眼差しで廊下を睨んでいたが、昴に視線を戻すと、軽く腕を引っ張った。
「帰ろう」
「うん……」
急かされるようにして外へ出た。並んで歩いていても、会話がない。ぴりぴりしていて声をかけ辛い。凹んでいるところに、連の不機嫌にあてられて、昴は虚脱感に襲われた。
眼が赤くなっていることをごまかすように、手でこすっていると、その手を掴まれた。
「余計に赤くなる」
思わず顔を上げる昴を、連は強い視線で射抜いた。
「こすると余計に悪化するよ。帰ったら冷やしてあげる」
「……」
返事をできずにいると、連は訝しげに連の顔を覗きこんだ。
「……昴?」
歩みを止めた昴を、怪訝そうな顔で連は振り向いた。
「どうした?」
連は、俯いている昴の傍へ寄って、顔を覗き込もうとした。
「昴?」
「……怒ってんの?」
「なんで? 怒ってないよ」
「不機嫌じゃん」
「……」
「俺、寄り道していっていい?」
「どこへ?」
「ちょっと……」
「だから、どこ?」
「ネカフェ」
「今から?」
「……機嫌の悪いお前と、同じ家にいたくない」
ぼそぼそと告げると、連は絶句した。
「ちょっと冷静になりたいし、ネカフェいってくる」
背を向けようとすると、腕を掴まれた。
「待って。当たって悪かった」
沈んだ気持ちのまま、昴は唇を開いた。
「……あのさ、試合に負けた直後で、俺がメンバーとイチャついてるように見えたの?」
昴が睨むようにしていうと、連も瞳に怒りを灯した。
「……見えたよ。べたべた触るアレックスにも腹立つけど、簡単に触らせてんなよ、って昴にも腹が立ったよ。目の前でそんな真似をされて、俺がキレないと思う?」
連は正直だ。昴は小さく溜息をついた。
「そういうの、今はちょっとキツい。やっぱ、今日はお互い頭冷やそ。明日、ゲーミングハウスで会おうぜ」
今度こそ踵を返そうとしたが、背中から抱きしめられた。いつ人が通るかも判らぬ往来で、昴は焦ったように連の腕を叩いた。
「離せって」
「嫌だ」
「嫌って、おい」
「いくなよ」
「もう判ったから、離せ!」
ぱっと掴まれていた腕が離れた。ふて腐れることもできず、昴は大人しく連の隣に並んだ。
「外でベタベタするな」
ほっとしたような端正な顔を仰いで、昴は恨みがましくいった。
「気をつける」
「……ん。俺もごめん」
八つ当たりはお互いさまだ。その後も、家に着くまで会話はなかったが、息苦しさはマシになった。