BLIS - Battle Line In Stars -
episode.4:BLIS JL - 4 -
ROUND3。
Hell Fireの対戦相手は、今リーグにおける優勝最有力候補、Team Deadly Shotだ。
一戦目は負けて、二戦目はHell Fireがとった。
三戦目開始前のインターバルで、昴は席についたまま、アレックスと雑談をしていた。
「メンバー交代で、コミュニケーション・エラーでも起こしてくれたらな~なんて思ってたんだけど」
ぼやく昴を見て、アレックスは笑った。
「さすがはTDSだ。しっかり仕上げてきたよね」
ちなみに、Team Deadly ShotはROUND1、2ともに勝ち星をあげている。リーグ直前に選手を二人交代しており、コミュニケーションにおいて不安の声もあったが、実際は全く問題なかった。
「TDSって入れ替え激しいよね。毎月、トライアウトしてない?」
「あそこは資金あるからね。レギュラーだけじゃなく、リザーブ育てる体力もある」
「とっかえひっかえしてちゃ、チーム連携は浅くなりそうなんだけどなぁ……ドラフト繰り返すのってどうなんだろう」
否定的な感想を述べる昴を見て、アレックスは肩をすくめた。
「どのチームもやっていることじゃない。理由はなんであれ、抜けていく奴は五万といるし、いつだって優秀な選手を探しているでしょ」
「まあねぇ」
「個人的には、TDSみたいな金満チームがいるのは、いいことだと思うよ。どのスポーツもそうだけど、あのチームにだけは絶対負けねぇ! って他のチームが闘志を燃やすじゃない」
「確かに……まぁ、うちも資金力じゃ負けてないか」
チームに入りたての昴ですら、大卒初任給を軽く越える給金をもらっている。桐生は有名チームとの練習試合をばんばん決めてくるし、資金繰りに苦心している様子は微塵も感じられない。
「資金力だけじゃなくて、実力でだって負けてないよ。勝とうぜ」
「おう!」
と、勝敗を決する局面でも、前々回、前回と違ってリラックスしていられたが――負けた。
やれることはやった上での敗北に、ルカも文句はつけなかったが、纏う空気は冷たかった。
試合直後のリプレイチェックにも参加せず、二階へ戻っていく。序盤は有利を取れていただけに、後半のミスから傾いた戦局が悔しいのだろう。
ルカの消えたドアを見つめていると、和也に肩を叩かれた。
「切り替えていこう」
「はい」
落ち込むより、先ず試合のチェックだ。次は勝つ――昴はリプレイに集中した。
ROUND 4はGIGA Forceにストレート勝ちを決めて、ROUND5はInner Infinity Impactに負けた。
リーグも折り返し地点だ。
Hell Fireは二勝三敗で、チームランクは三位だ。スコアが並んでいるチームは他に二つ。まだまだ戦績はどうなるか判らない。
圧倒的力量で全勝しているのが、Team Deadly Shot。五勝〇敗という脅威の戦績を収めている。
逆に、椎名の所属しているGalaxy Boysはこれまでのところ全敗している。
だが、精一杯闘う姿や、Twitterや公式ブログでの発言が謙虚で前向きなところから、人気急上昇中だ。中でも椎名はかわいい顔をしているので、女性ファンがつき始めている。
ファンのいる椎名が羨ましいが、最近は、昴も少しずつメディアで注目されるようになってきた。
なんといっても、Hell Fireのメンバーはゴージャスなので、一緒にいるだけで注目を浴びる。
先日も、辛口のコメンテーターが司会を務める人気番組でBLISがとりあげられ、Hell Fireのゲーミングハウスは取材を受けた。
地上波で放送された翌日、昴はゲーミングハウスのリビングルームで、録画しておいた番組を見ていた。
画面には、Hell Fireのコーチ、桐生が映っている。流石、司会の穿った質問にも淀みなく応えている。
チームは全員、桐生のことを信頼している。
彼は優れた分析者であり指導者だ。非常に多忙な為、チーム運営の雑務はマネージャに任せて、自分はマネージメントと解析と戦略・戦術に専念している。特にリーグが始まってからは、一日六時間から八時間、選手の試合を見て、粗や問題をチェックしている。更に各国のリーグも見ているというのだから恐れ入る。
いつ眠っているのだろう?
桐生が見ているのは、BLIS JLの先にある
その目標の高さに、驚かずにはいられない。
今シーズンのリーグに最後まで立ち続けることを目標にしている昴とは、見ている世界が違う。
人より強くなろうと思ったら、あらゆる努力と研鑽を積み、創意工夫が欠かせない。そういった面で、連と桐生は意識の高さからして違う。
あの二人は、一日十五時間以上をBLISに費やしているだろう。
「あれ。昴君、一人?」
「はい」
リビングに桐生が入ってきて、昴はぺこっとお辞儀をした。
「休憩中です」
「そう……ああ、昨日の番組か。昴君、緊張していたね」
画面を見て、桐生は小さく笑った。
堂々と取材に受け答えしているチームの中で、昴だけがそわそわしている。まるで白鳥の群れに交じったあひるの子だ。
「……こうしてみると、本当に皆、イケメンですよね。一緒に映るのツライ」
「はは」
「どうせ俺は平凡ですよ」
拗ねたように昴がいうと、桐生は小さく笑った。
「そこがウケているんですよ。知りませんか?」
「へ?」
「昴君は、Hell Fireのマスコット的存在として、ファンも認識していますよ」
「なんスか、それ」
「見栄えのするメンバーの中に、優しそうな少年が混じっていると、チームメンバーからかわいがられてるように見えるのでしょう」
「俺は引き立て役なのか……」
ふて腐れたようにいう昴を見て、桐生は笑った。
「昴君は、和也とはまた違った意味で、チームの潤滑剤になってくれている。感謝していますよ」
「いやいや、そんな……正直、椎名の件があったから、皆の態度が軟化したのかなぁって思ってます」
トライアウトで悩んでいた頃、ルカと分かり合えるきっかけとなったのは、椎名の一件があったからだ。
「それは違うよ。昴君を認めたから、いい方向に動き始めたんだよ」
「そうですかね?」
「椎名君の件は、確かに転機になったと思うけど、そこからチームに馴染んで、居場所を作っていったのは、紛れもない昴君の力だ」
「俺もいい態度とはいえなかったし、どっちかっていうと、ルカが我慢を覚えてくれた気がします」
「ルカも昴君も、お互いに成長したんだよ」
桐生の言葉に、昴は面映ゆくほほえんだ。
「……ありがとうございます。皆のおかげです」
「試合を重ねるごとに、昴君は強くなっていくよね。この先も楽しみだよ」
「へへ……俺、一つ成長したんスよ。メンタルがやばい時は、SNSを見ないことにしました。その方がプレイに集中できる」
桐生は笑った。
「プロになると、どうしても注目を浴びるからね。煽りや誹りを受けるのは通過儀礼だ。でも、昴君が成長しているのは事実なんだ。あまり否定的になってはいけないよ」
「はい」
「BLISに夢中になっている十代、二十代の上位レート者なら、誰だってSoloQueueは上手にやれる。ゲーミングハウスでの強化合宿もトライアウトも、本当の意味では壁ではないんだよ。資質を問われるのは、リーグに立ってからだ」
「リーグは日々の集大成ですよね。皆、この日の為に頑張ってきてるんだもんなぁ」
「家や国を離れて、露出の多い有名チームでプレイすることになった途端に、失速する選手は多い。勝敗以前の問題だ」
「……」
「過大なプレッシャーに負けて衰弱し、自信をなくしていく。残念ながら、そういうプレイヤーを数えきれないほど見てきたよ」
桐生は静かな眼差しを昴に向けた。
「転んでも、すぐに立ち上がろうとする。昴君は、一流選手に必要な素質を持っているよ。辛くても強さにかえて、ちゃんと前を向けている。このチームは、もっと強くなる」
これまでにも、桐生に労いの言葉は何度もかけてもらったけれど、この言葉には今までにない重みを感じた。
「ありがとうございます」
一人の選手として、桐生に認められた気がして、昴は姿勢を正すと深くお辞儀をした。