BLIS - Battle Line In Stars -
episode.3:TEAM - 8 -
週末、昴のトライアウト合格を祝して、桐生がチームメンバー全員を、焼肉に連れていってくれた。
「昴君のHell Fire参入を祝して、乾杯!」
和也の声に続いて、全員がグラスをあわせた。乾杯、の後に、絶対勝つぞ! とつけ加えたのは意外にも連だった。
「コーチ、好きなの頼んでいいですか?」
ルカが訊ねると、どうぞ、と桐生は笑った。ルカはにっこりほほえむと、指を鳴らして店員を呼んだ。
「じゃぁ……カルビの塩とたれ二皿、ロースの塩とたれ二皿、みのセット二皿、生カルビ二皿、特上ステーキ二皿……」
流れるような大量オーダーが、延々と続く。
「おいおい……」
途中、昴は呆れたようにルカを見たが、オーダーは止まらなかった。
テーブルから皿が溢れるんじゃないかと危惧したが、いざ肉が運ばれると、全員が腹を空かせた肉食獣のように無心で食べ始めた。
口を開けば喧嘩ばかりしているルカとアレックスも、黙々と食べている。
古来より、蟹と焼肉は人を黙らせる恐るべき魔力を秘めているといわれるだけのことはある。
連が席を立つと、見計らったようにルカとアレックスは昴に近付いてきた。
「連とヤッたの?」
小声で囁かれた台詞に、昴は眼を丸くした。
「はっ!?」
「だから、連とセックスしたの?」
カーッと頬に熱が集まった。あれやこれやを思い出してしまった。
額を押えて、机に手をつく昴の顔を、ルカはにやにやと笑みを湛えて覗き込んできた。
「見んな!」
「脱・童貞おめでとー」
「ナニナニー? 昴くんが脱・ドーテー?」
美しい顔をして、アレックスがゲスな悪ノリをする。口をはくはくさせる昴を見て、にんまりとした。
「良かったね。大人の階段を登っちゃったんだね」
「うぜぇ、オヤジ臭ぇ」
昴は精一杯の悪態をつくが、彼等は攻撃の手を休めない。
「連のセックスってねちっこそう。ちょっと身体見してごらん? 検めてあげる」
「アホか! 意味わからねぇッ!」
顔を朱くして喚く昴を見て、じゃれあっているとでも思っているのか、桐生と和也も笑っている。
「ひぃ! こいつらを止めてくださいっ」
顔を真っ赤にして喚く昴の肩を、まぁまぁと和也が宥めるように叩いた。
「昴君はうちのマスコットキャラだからね」
「へっ?」
まじまじと和也を見ると、そうですよ、と桐生も相槌を打った。
「昴君はムードメーカーですよね。空気が和むので、感謝していますよ」
「そ、そうっスか?」
生暖かい眼差しがいたたまれない。昴がそっと俯くと、膝に置いた手を、アレックスにきゅっと握られた。かと思えば、すぐに手は離れていく。冷たい眼差しで、連はアレックスを睨んでいた。
「おかえり」
昴が声をかけると、連はアレックスを睨むのをやめて、無言で席についた。
「連が大人しくなった。昴は、猛獣使いだね~」
「……」
連の無言が怖い。余計なことをいうアレックスを、今度は昴が睨んだ。全く、人のことをからかうのはやめてほしい。
「ほらほら、昴君はシャイなんだから。あんまり見るんじゃない。アレックスは肉でも食っとけ」
和也のフォローに、全員が笑った。
食べ放題の二時間制限ぎりぎりまで肉のオーダーは止まらず、すらりとした体形のどこに納まるのか疑問の量を、ほぼチーム全員が完食しきった。
皆でわあわあ盛り上がったせいか、家に帰って二人きりになった時、昴はようやく連の不機嫌に気がついた。
「怒ってる?」
「別に?」
そういう声が既に怒っている。ソファーで寛ぐ連の隣に、昴は並んで座った。連はこちらを見ようとしない。
「連~……」
「……昴のことはチーム全員が気に入っている。いいことなんだけど、もやっとする」
「俺、ちゃんと連のこと好きだよ」
疑惑の眼差しを向けてくる連に、本当だよ、と続けた。
鼓動が早まるのを意識しながら、昴は息を吸い込んだ。男なら、ここはビシッと決めるべきだろう。
「好きです。俺とつき合ってください!」
目を見て
「なんで笑うんだよ! 人が真剣にっ」
ごめん、といいながら連は昴を抱きしめた。
「……うん」
ようやく連が笑って、昴はほっと肩から力を抜いた。
「俺といて、楽しい?」
「楽しいよ」
「俺が好き?」
「うん、好きだよ……って何度もいわせるなよ」
「何度だって聞きたいよ。昴……」
顔を腕で隠そうとすると、その腕をとられた。
「片想いとお試し期間が長くて、昴の気持ちを向けてくれるってなかなか思えないんだ。恥ずかしくても、言葉を惜しまないでくれると嬉しい」
恋情を乗せた瞳に、くらくらする。同い年のはずなのに、連は、どうしてこんなにも色気があるのだろう。
「努力する……」
小さな声で呟くと、連は嬉しそうにほほえんだ。
「ありがとう。大好きだよ、昴。昴の為なら、俺は本当に何でもできる」
「……」
言葉が出てこない。恥ずかしくて、頭が爆発してしまいそうだ。小さく頷くと、腕を引かれて抱きしめられた。連の心臓も、信じられないほど早鐘を打っていた。
多幸感に包まれながら、昴は瞳を閉じた。連は一途に想ってくれている。言葉を惜しまず情を示し、大切にしてくれている。昴も、たとえ恥ずかしくても言葉にしていこう、そう素直に思った。