BLIS - Battle Line In Stars -

episode.3:TEAM - 6 -


 最終試合、五戦目。
 四試合目の勝利により、チームのモチベ―ションは上向いている。昴は落ち着いてマップ全体を気にするよう心掛け、五試合目にして初めて、BOTゾーンで序盤の有利を取れた。
 開始五分、BOTゾーンにアレックスが奇襲をかけ、タイミングを合わせた昴がDOUBLE KILLを取ると、Good! とルカが声に出した。

「サンキュ」

「ナーイス、昴! MIDいけるね」

 ルカの指示に昴も頷いた。五戦目にして、序盤にMIDゾーンのカバーに入る余裕が生まれ、昴とルカは連のマッチアップに貢献した。
 開始十分。
 MIDゾーンの固定砲台を破壊し、一気に視界コントロールをとって、敵のオブジェクトを立て続けに奪った。

「GG」

 アレックスがいった。ブラックホールの強バフ、スペースシャークとウロボロスを奪い、完全に流れはHell Fireにきている。
 開始三十二分でゲームに決着がつき、Hell Fireは勝利した。思わず全員が笑顔になる。
 席を立ち、肩を叩いて互いの健闘を労った後、短い休憩を挟んだ。和也は一服しにベランダ、アレックスと連は飲み物。昴はその場に残って戦績ページを開き、ゲーム中に一番火力を発揮したことを確認すると、両手を天に突き上げた。

「火力出せたぁ!」

 最高の気分だ。笑顔のままルカを振り向くと、優しくほほえんでいたルカは、ふと瞳に強い色を浮かべた。
 その変化に気付かず、昴は高揚した気分のまま、ルカの肩に腕を回した。

「ありがとう、ルカ! お前は最高のサポートだよ!」

 視界に手が映ったかと思えば、顔を横向けられる。あ、と思った瞬間には唇を塞がれていた。

(コイツはまたッ)

 憤った昴は、肩を強く押した。からかわれたと思い、きつく睨み上げる。てっきりにやけているのかと思えば、ルカは真剣な瞳をしていた。

「なんで?」

「……ばーか」

 唖然とする昴を一瞥し、ルカは部屋を出ていった。
 状況についていけず、昴はその場で立ち尽くした。唇を押えて、たった今起きたことを考えてみる。

「どうした?」

 ペットボトルを手に戻ってきた連は、部屋の真ん中で立ち尽くす昴を見て、不思議そうな顔をした。

「いや、なんか今、ルカに……」

 いいにくそうに唇を手で押さえて、言葉を切る昴を見て、連は顔を強張らせると、ぱっと廊下を見た。不機嫌そうに部屋を出ていく。

「連、待って!」

 二階に上がっていく背中を、昴は慌てて追いかけた。連は静止の声を無視して、乱暴にルカの部屋の扉を開けた。

「何? ノックくらいしてよ」

 不機嫌そうにルカが振り向いた。

「ルカ。昴にちょっかい出すな」

 連にしては低めた声でいった。ルカは、連とその後ろで青褪めている昴を交互に見て、小さく鼻を鳴らした。

「何、怒ってるの? ただのスキンシップだよ」

「笑えねぇよ。俺は昴に本気なんだ。遊びでひっかき回すのはマジでやめろ。迷惑だ」

「遊んでないけど? 昴と良好な信頼関係を築いておきたいだけだよ。嫉妬して、僕に当たるのはやめてくれない?」

 連は射殺しそうな眼差しでルカを睨んだ。

「減らず口を叩くのはやめろ。どう考えたって、信頼関係を築くのにキスする必要なんてないだろ」

「もう、煩いなァ。判ったよ」

 面倒そうに、ルカは頭を掻いた。
 険悪な空気にびくびくしながら、昴は二人の間に割って入った。

「連、もういいよ。俺、気にしてないから……」

 宥めるつもりが氷のような眼差しで睨まれて、昴は口を噤んだ。ルカまで呆れたような顔で昴を見ている。

「お前もふざけんなよ」

 連は怒りの矛先を変えると、昴の腕を強い力で掴んだ。そのまま、引きずるように階段を降りる。慌ただしく昴のリュックを掴むと、乱暴に玄関のドアを開けて外へ飛び出した。

「連!」

 呼びかけても返事しない。背中を見つめていると、いきなり腕を引かれて、暗がりに引きずり込まれた。

「ッ!?」

 唐突に口を塞がれた。
 胸に手をついて、押しのけようとして思い留まった。拒否をして、これ以上彼の機嫌を損ねたくない。

「んぅッ」

 抗うのをやめると、舌を挿し入れられた。全身に電気が流れたみたいに、身体の芯まで痺れる。腰の引けている昴を追い詰めるように、口づけは角度を変えて深くなっていく。

「あ……ん……ッ……」

 水音の立つようなキスに、頭がくらくらする。吸われて、食まれて、唇を離された時、昴は完全に息が上がっていた。

「連……」

 見つめあったまま、頬を掌で包まれた。情欲の籠った視線に、背筋がふるえた。
 降りてきた端正な顔に、もう一度唇を塞がれた。眼を瞑って動かずにいると、何度も、貪るように口づけられた。

「……なんで、ルカとキスしたんだよ」

 吐息がかかるほど近いところで囁かれて、昴は視線を半ば伏せながら、唇を開いた。

「……したっていうか、されたっていうか」

「そうまでして、ルカの機嫌を取りたい?」

 昴は盛大に眉をひそめた。

「はぁ?」

「違うの? なら、どうしてキスなんかされたんだよ」

「んなの、ルカにいえよ。驚いて動けなかったんだ。まさか、キスされるなんて思わないじゃん」

 睨み合っていると、連は脱力したように息を吐いた。

「俺は昴が好きなんだ。本当に……」

「……俺だって、好きだよ」

 小声で答えると、連は静かな眼でじっと見つめてきた。試すような視線に、昴は唇を引き結んだ。
 緊張して縮こまる昴を嘲笑うように、連は皮肉な笑みを口元に刻んだ。

「お友達として?」

「違う!」

「……なぁ、これまでにもルカにキスされたこと、あった?」

 即座に否定できないことが辛い。ほぞを噛みながら押し黙る昴を見て、連の眼が据わった。

「信じらんねぇ……俺の気持ちは知ってるよね?」

 勁烈けいれつな眼差しでめつけられ、昴は下を向いた。

「わざとじゃないよ。不意打ちで……まさか、されるなんて思わないし」

 苛立ったような舌打ちが聞こえて、昴はびくっとした。

「はぁー……もう、ゲーミングハウスにいかないで欲しい」

「……無理だよ」

 沈黙が流れて、恐る恐る顔を上げると、涼しげな瞳に嫉妬の焔が燃えていた。

「なんで?」

「……怒らないでよ。もう帰ろう?」

「いいの? このまま家に帰っても」

「……?」

 意味が判らず、連を見つめていると、顎に手をかけられた。瞳の奥に熱が灯る。

「家に二人でいたら、俺、何するか判らないよ」

 足の間を膝で割られて、昴はぎょっと眼を剥いた。

「おぃッ、ここ外だって」

 慌てふためく昴を抑え込み、連は綺麗な顔を寄せて、耳朶に唇で触れた。

「悪いけど、昴がどん引きするような、エロいことばっかり考えてるよ」

「――ッ!」

 低めた声が、ダイレクトに鼓膜に響き、昴はふるえた。瞬く間に頬が熱くなる。
 眼も合わせられなくなった昴の手を取り、連は自分の心臓に押し当てた。掌に、早鐘を打つ鼓動が伝わってくる。

「もう、昴のことしか考えられない」

「い……いいよ」

 眼を見て答えると、連は真意を探るように昴の瞳を覗き込んだ。首を傾ける仕草に、背筋がぞくっとする。

「……なら、我慢しないよ?」

 帰ったら、きっと……予感めいたものを感じながら、昴は小さく頷いた。