BLIS - Battle Line In Stars -
episode.3:TEAM - 4 -
金曜日。
昴は学校を終えると、いつものようにゲーミングハウスに直行した。チームメンバーに交じって二時間ほど練習した後、夕食兼休憩を挟んだ。
ゲーミングハウスには専属のシェフがいて、選手達に栄養バランスを考えた料理を作ってくれるのだ。しかも美味しい。
ここにくれば食事に困らないので、
食事の後は休憩を挟み、大体一時間後くらいに練習を再開する。
それまでは自由行動だ。
仮眠をとったり、他のゲームをしていたり、外に買い物にいったり、いろいろ。
連は桐生と共にデータの解析中。桐生はコーチとアナリストを兼任していて、日本に限らず、世界各国のリーグもチェックしている。
ルカは食後の紅茶を飲みながらテレビニュースを見ていて、アレックスはWoW(MMO戦艦ゲーム)をしにプレイルームに入っていった。
昴はどう過ごそうか迷い、一服しにベランダへ向かう和也を見て、少し間を空けてから後を追いかけた。
窓を開けると、振り向いた和也は昴を見て、吹かしていた煙草を灰皿の底で押し潰した。
「あ、消さなくていいですよ」
慌てて止めるが、和也はほほえんだ。
「いいんだ。もう一服し終えたから」
彼はチームで唯一の喫煙者で、ゲーミングハウスにいる時はいつもべランダで吸っている。メンバーの前では吸おうとしなかった。
「和さんは、Somaとプレイしたことあるんですよね」
Somaは三年前までHell Fireに在籍していた日本人プレイヤーで、世界最高峰のACEの一人だ。
「あるよ」
「和也さんから見て、どんな選手でしたか?」
「とても冷静で、
手放しでほめる和也を見て、昴も頷いた。
「俺も、彼の配信はチェックしていますよ。別格ですよね」
「そうだね。Somaは高校生の頃から、ずっと最前線で戦い続けているしね。そういった点でも別格だ」
「すごいなぁ……俺が高一の頃は、まだ
Ranked SoloQueueには格付けがあり、プレアデスは上位三十%圏内、そこそこ上手なレベルだ。だが、Somaは高校一年生で既に最高峰のスターゲート・ランクの称号を得ており、プロリーグで活躍していたのだ。
「プロゲーマーの夢を叶えたんだ。昴君だって大したものだよ」
和也は穏やかにほほえんだ。
「まだまだこれからですよ。和さん、リーグに残り続ける秘訣ってなんですか?」
「そうだなぁ、一番は、勝つんだ、っていう闘志を持ち続けることかな」
「モチベーションですか?」
うん、と和也は頷いてから口を開いた。
「BLISの基本操作は簡単だよ。移動の他には、限られたスキル操作しかないしね。もちろん、上達するには、ディオス性能、戦略、ビルド、グループアップ戦略……諸々の知識が必要だけど、操作観点だけでいえば、必要な技術は極めて低い。プレイヤーが年齢のせいで劣化していくってことは無いと俺は思っているくらいだ」
選手のピークが二十五歳といわれているBLISにおいて、和也は既に二十八歳だ。未だ現役選手として、最前線で闘う和也だからこそいえる台詞だろう。
「継続は力なり、ですね。ゲーミングスキルを維持し続けることだって、並大抵のことじゃないと思いますけど」
「ありがとう。自分にあった練習を研磨していけば、そう難しいことでもないよ」
「いやいや……だって、チームの強さは浮き沈みがあるじゃないですか」
BLISは確かに練習量がものをいう。なら、研鑽を積んでいけば強さは比例していくはずである。ところが、かつて栄光を手にしていたHell Fireといい、転落するチームは毎シーズン現れるのだ。
「そうだね。皆、スキルを維持するための興味やモチベーションを、少しずつ失っていくからね。選手の入れ替えは必須で、そうした代替わりでガクッと崩れるチームは多いと思うよ」
「……チームのコミュニケーション・エラーが引き金になっているのかなぁ」
「うん。試合中瞬間的に決断を下さなきゃいけない時なんかは、練習の成果がダイレクトに出るよ」
「なるほど……」
「世界大会に出場している時以外は、必要最低限しかBLISをプレイしない奴なんて、ゴロゴロいるよ。Leeも練習試合の時以外は、Diabloしかやっていなかったしね」
その話は、先日ルカにも聞いた。
「息抜きは必要なんでしょうけれど……」
「俺は、連がBLISをやっているところしか見たことない。世界で活躍する一流選手は皆そうだ。集中力も才能の一つなんだろうね」
「昔から、あいつの記憶力はハンパないんですよ。どんなディオスでもwikiを一度読めば、完璧に使いこなせるんだから……」
「連はSomaに引けをとらない化物だよ。いや、連だけじゃない。最高のメンバーが揃っていると思う。このチームは、Hell Fire史上で最強になれるかもしれない」
「おおっ!」
昴は眼を輝かせた。これから始まるリーグを前に、これ以上に力強い言葉はない。
和也は目元を少し赤く染めて、昴の視線を拒むように視線を逸らした。自分の言葉に照れているようだ。
「リーグが楽しみです」
昴がいうと、俺もだよ、と和也は笑った。
梢の葉がさわさわと鳴っている。二人の間を、涼しい風がふきぬけていった。