BLIS - Battle Line In Stars -
episode.3:TEAM - 3 -
e-Sports GGGで吉田に会った翌日。
昴は、ゲーミングハウスで前半の練習を終えた後、休憩の合間にルカの部屋で雑談をしていた。
「そうそう、昨日Leeさんに会ったよ。一緒にRanked DuoQueueしてさ、俺はサポートで、LeeさんはACEだったんだ。流石にうまかったよ」
昴の言葉に、ルカは嫌そうな顔をした。
「いつの間に仲良くなったの? 懐柔されないでよね」
「されてないよ。昨日初めて会ったんだし……てか、よく懐柔なんて言葉を知っているね。マジで日本語に堪能だなぁ」
「昴よりはね」
「ははは、ムカつく。ルカはLeeさんの配信観たことある?」
「あるよ」
とルカがいい、互いに最近見た動画で印象に残っているシーンに話題が及んだ。
不思議なもので、なんだかんだ文句をいい合いながらも会話が成立している。
ようやく、ルカの対応が判ってきた。毒舌に怯んではいけないのだ。悪意はないので、コツさえ掴めば、裏表のないルカは昴にとって話しやすいタイプだ。
「LeeさんはACEとして、ルカはどう思う?」
昴の質問に、ルカは肩をすくめてみせた。
「SoloQueは上手だけど、リーグじゃもう通用しないんじゃない? 彼のプレイ態度はいい加減だったし」
「そうなの?」
「そうだよ。オフラインの試合に備えて、体力作りしようって皆がいっても、Leeは絶対に嫌がるし」
「マジか」
「うん。体力作りは面倒くさいんだって。でも、強いチームはどこもプレイヤーのボディ・トレーニングを徹底しているよ」
「確かに、リーグ決勝戦はBO5だもんな。長時間拘束されることだってあるし、最後は気力と体力勝負になるのか」
「そうだよ。なのにLeeは、シェアに移っておきながら、練習もしないし」
「なんで?」
「なんでだと思う? BLISよりDIABLO(世界的に有名なMORPG)に夢中だからだよ」
「へぇ? ……まぁ、気晴らしに他のゲームをやったっていいんじゃない?」
ルカは鼻白んだ。
「練習をさぼって?」
「それはちょっと……え、ゲーミングハウスで練習しないで、DIABLOしてたの?」
「そうだよ。何それ、って思うでしょ?」
昴は呆気にとられた。ルカの顔を見る限り、冗談ではなさそうだ。
「うーん……BLISの配信マメにしているし……そんな印象はなかったんだけどなぁ……」
「Leeは競技シーン向いてないよ。永久に、趣味でBLISしていればいいと思う」
「容赦ないな」
「フンッ。あいつ、練習サボる癖に、僕の顔を見ると手揉みしてご機嫌をとってくるんだもの」
「そっかぁ」
「ベタベタ触ってくるし、本当に最悪だった」
そういえば、初めて会った時、Leeに襲われかけたと話していたことを思い出した。
「ま、昴なら別にいいけど?」
「へ?」
するりと首に腕が回されて、昴は眼を瞠った。後じさるが、すぐに壁に背が当たる。ルカは昴の顔を挟むように手をついて、
「昴から触らないなら、僕から触ってもいい?」
「待て! どうしてそうなった!?」
支離滅裂な混乱の極地から叫ぶと、ガンッ、と壁を蹴る音が響いた。顔を傾けると、恐い顔をしている連と眼が合った。
「……何してるの?」
「話していただけだよ?」
凍てつくような視線にたじろぐことなく、ルカはほほえんだ。
「迫ってるようにしか見えないんですけど」
ルカは身体を離すと、両手を頭の後ろで組み合わせた。連は少し乱暴に昴の腕をつかむと、自分の傍へ引き寄せた。
「ただのスキンシップだよ。いちいち怒らないでくれない?」
瞬時に空気が冷えた。うなじの毛が逆立つのを感じて、昴は咄嗟に連の腕を掴んだ。
「連、本当だよ。雑談してただけだから。昨日、Leeさんに会ったから、その話をしてたんだ」
「へぇ?」
冷たい流し眼を向けられて、昴は大人しく口を噤んだ。
「練習しよ。声かけにきたんでしょ?」
空気を変えるようにルカがいうと、連は仕方なさそうに視線を逸らした。何もいわずに、昴の肩を抱いて歩き始める。彼が人前でこうした仕草をするのは珍しいことだ。
「はいはい、僕が悪かったよ。あてつけないでくれないかなぁ?」
拗ねたようにルカがいう。昴が振り向こうとすると、強く肩を引き寄せられた。三人でプレイルームに入ると、アレックスは暇潰しの相手を見つけたように、青い瞳をキラッと光らせた。
「楽しそうだね。俺も混ぜて?」
意味が判らず、キョトンとしている昴に、アレックスは正面から抱き着いた。
「えっ?」
連はべりっとアレックスをひっぺはがした。
「ルカ、アレックス。いい加減にしろ! 昴にちょっかい出すな。そんなに飢えてるなら、お互いに手を出したらどうなんだ?」
冷ややかに連が告げると、ルカとアレックスは互いの顔を見て、嫌そうな顔をした。
「「やだよ、こんな奴」」
完全に
小さく吹き出したのは、傍観に徹している和也だ。昴が助けを求めて見つめると、
「漫才もいいけど、そろそろ練習を再開しようか」
笑いつつ、中断してくれた。鶴の一声に、それぞれ席につき、昴もほっとしながら席についた。