BLIS - Battle Line In Stars -
episode.2:TRYOUT - 8 -
口を両手で封じたくらいでは、ルカは止まらなかった。昴の瞳を見つめたまま、唇に押し当てた昴の手をぺろりと舐めた。
「ちょっ!?」
慌てて剥した手を、きつく掴まれた。
「昴……」
強い視線に射抜かれて、動けなくなる。指先を甘噛みされて、背筋に慄えが走った。
「――やめろよッ」
肩を押しのけようとして腕を突き出すと、ルカはその腕を掴み、逆にソファーに縫い留めた。意外に強い力で、昴は半ば本気で抗ったが、上手い具合に押さえつけられてしまう。綺麗な顔を寄せられて、気が動転した。
「待てッ!?」
必死に顔を背けると、耳殻に吐息が触れた。
「ひぃ」
縮こまる昴に覆いかぶさり、耳の輪郭に唇で触れる。やんわりと食まれて、背筋にぞくりと慄えが走った。
「おぃッ、よせって、ルカ!」
「……」
睨んでもルカは返事をしない。宝石のような
「んッ……ひぁ……」
耳の穴に舌を挿し入れられ、視界が潤みかけた。怖い。ルカは、何を考えているのだろう?
「あぁ、泣かないで……」
「うぅ……」
涙の滲んだ
繊細に整った顔立ちをしているのに、瞳には猛々しい光が灯っていて、自分が猛禽に狙われた獲物のように錯覚してしまう。
「は、離せよ」
「僕が恐い?」
「よせって」
「慄えながら、いわれてもね」
頬を手の甲でなぞられて、ひぃ、と昴は情けない声を上げた。
「連の気が知れないと思ってたけど……」
「な、なんだよ?」
「うん。少し判ったよ。昴って、いじめたくなる」
蠱惑的に笑みかけれ、昴はカッとなった。
「お前は最悪だよ! もう離せッ」
「どうしようかな?」
「離せよ! 迷うなって、おい……どけって、ルカ……?」
端正な顔が降りてきて、押しのけようとしたら、ぎりっと痛いほどの力で戒められた。
顔をしかめる昴を見ても、ルカは表情を変えない。顔を傾けて、ゆっくり迫ってくる。
「ルカ、やめて」
「やだ」
「んッ」
唇を吸われた。顔を振って逃げても、唇はどこまでも追い駆けてくる。
「んぅ」
もう冗談では済まされない。唇はぴたりと重なり、味わうように上唇を吸われた。
心臓が煩いほど音を立てている。ちゅ、と音を立てて唇が離れると、昴は濡れた唇を
「な、なんで? こんな、こと……」
シャツの中に手が潜りこんだ瞬間、昴は渾身の力でルカを突き飛ばすと、逃げるように部屋を飛び出した。
「――おっと」
階段を降りようとしたら、ちょうど登ってきたアレックスと衝突しかけた。後ろから扉が開く音が聞こえて、昴は肩を震わせた。
「ふぅん?」
アレックスは眼を合せようとしない昴の顔を見て、何があったのか察したようだ。ニヤニヤとした笑みを、追い駆けてきたルカに向けた。
「おいルカ、連に怒られるぞ」
からかうようにアレックスがいうと、ルカは眼を
「煩いな。アレックスにいわれたくないよ」
「酷いなァ、俺は何もしてないよ? 連に散々釘を刺されたからね。まさか、ルカに先を越されるとは思わなかったな」
俯いたまま、昴は眼を瞠った。何やら不穏な空気を感じる。黙って二人の横をすり抜けようとしたら、アレックスに首筋を撫でられた。
「ッ!?」
首を押えて長身を仰ぐと、海のような碧眼が細められた。
「そんな顔をしていると、食べられちゃうよ?」
魔性の瞳だ。ぶわっと全身の肌が総毛立ち、昴は音速で視線を逸らした。あと一秒でも見つめていたら、魂を抜かれてしまう。
「お先に失礼しますッ!」
背を向けて、一目散に階段を降りた。背中に、アレックスとルカの笑い声が聞こえたが、構っていられない。
「――昴?」
プレイルームの扉を開けようとして、ぎくりとした。振り返ると、バスルームから連が現れた。
「話は終わった?」
「うん」
連の顔を見れなかった。
そそくさとゲーミングハウスの外に出ると、夜風に吹かれて、ようやく顔を上げることができた。
「どうかした?」
「……ううん」
不思議そうにしている連を見て、正体不明の息苦しさに襲われた。
あれは完全にルカの仕業だが、キスしてしまったことに変わりはない。そんなつもりは微塵もないのに、なんだか連を裏切ったような気がしてしまう……
それにしても、スキンシップだからといって、キスする必要があっただろうか? 悪ふざけにもほどがある。
「帰ろう」
消化不良な気持ちを残したまま、昴は連の手を引いた。連は、小さく眼を見張ると、嬉しそうにほほえんだ。