BLIS - Battle Line In Stars -

episode.2:TRYOUT - 7 -


 チーム練習において、相変わらずルカの指摘は鋭かったが、アレックスと話したことで少し気が楽になり、その日はあまり委縮せずに済んだ。
 練習が終わると、ルカは二階の私室に戻っていった。それを見て、昴はルカと話そうと思い、連に先に帰るよう伝えた。

「いや、待ってるよ」

「そう? でも、時間かかるかも」

「いいよ。BLISしてるから、終わったら声かけて」

「判った。いってくるね」

 部屋を出ていこうとすると、連だけでなく、プレイルームに残っている和也とアレックスも振り向いた。GOOD LUCK! といわんばかりに二人は親指を突き立てている。昴も親指を突き立てて応えた。
 二階に上がると、ルカの部屋の前で深呼吸した。軽くノックする。どうぞー、と気安い返事に安堵しつつ、昴はドアを開けた。

「昴? どうしたの?」

 ルカは意外そうな顔で昴を迎えた。

「ちょっと話そうと思って。いいかな?」

「いいよ。座って」

 キャメルカラーの革製のソファーに昴が座ると、ルカは椅子を反転させて座り、昴の方を向いた。興味深そうに澄んだ翠瞳すいとうで昴を見つめる。

「ルカは俺と組んでいて、やり辛いなって思う?」

 ずばり訊ねると、ルカは瞳にきらりと光りを灯した。

「昴はどうなの?」

「俺は~……自信喪失しかけてたけど、よくないなと思って、どうにかしたいと考えているところ」

「昴さ、いちいち僕にびくつくの止めなよ」

「え……」

「僕はそんなに器用じゃないんだ。BLISで真剣に勝とうとしている時に、言葉遣いや声の大きさまで気を回せないよ。だから、昴も遠慮しないで、僕にぶつかってきて」

 言葉を探してもくす昴を、静かな眼差しでルカは見つめた。

「僕の顔色を窺っても、いいプレイはできないよ。指示を待つだけなら、プログラムされたNPCと同じだ」

「判ってる。ルカのメカニクスやイニシエート開戦合図は本当にすごいと思ってる。即時に動けないのは、俺の問題なんだ」

「間違っていいよ。その為に練習してるんだから。遠慮や我慢はいらない。チームの成長を妨げるだけだ」

「うん……正直にいうと、俺はチキンだし、ルカの態度が怖いんだよ」

 ルカは気まずげに視線を逸らした。

「そこは、慣れてくれるとありがたいんだけど……」

「でも恐すぎる。あとちょっとでいいから、優しくしてほしい。俺は褒められて伸びるタイプなんです」

 率直にいうと、ルカは小さく吹き出した。

「昴って素直だね。Leeは僕に噛みつかないと気が済まないタイプだったから、なんだか新鮮だよ」

「Leeさんは話しやすかった?」

 ルカは嫌そうな顔をした。

「はっきりいって、僕とLeeの相性は最悪だったよ。チームの成長を阻害していた。彼と組んだ一ヵ月は完全に無意味だった」

「Oh……はっきりいうね……」

「いうよ。Leeは優秀なACEかもしれないけど、僕とは徹底的に合わなかった。彼にうんざりしていたから、僕がいうのもなんだけど、今度のACEは温厚な人がいいって、コーチにはオーダーしていたんだ」

「そうなの?」

「実をいえば、昴もBlakerも、最初は従順そうなところが気に入ったんだ」

 Blakerは椎名奏汰のHNだ。ルカと椎名は、お互いのことをHNで呼び合っている。

「俺も椎名さんも、そんな簡単じゃないよ」

 昴がムッとしていうと、判ってる、とルカは決まり悪そうに頷いた。

「これでも反省してるんだ。Blakerに、僕とはやっていけないって、はっきりいわれたよ」

「え……」

「彼は、採用試験トライアウトを辞退するかもね」

「そうなの!?」

「うん。コーチは引き留めてるみたいだけど、どうかな……」

 初耳である。ルカは、少し憂鬱そうにため息を吐いた。

「僕からすれば、声をかけるな、って排他的な雰囲気を出しているのは、Blakerの方なんだけどね」

「うーむ……」

「でも昴は、勝つためのプロセスを模索して、コミュニケ―ションも努力してくれるようとしている。だから、僕も努力が必要だなって思う」

 静かな言葉は、昴の心にストンと落ちてきた。ルカも同じだ。チームのことを考えて思い悩んでいる。

「苛立つのはお互い様だ。俺が苛々する何倍も、ルカは俺に苛々していると思う。どう考えても、俺の方がプレイでもコミュニケーションでも努力が必要だからね」

「昴のプレイスタイルは嫌いじゃないよ。委縮しないで、指示に逆らってでも、苦境を打破するようなACEでいて欲しいんだ」

「サンキュ」

 面映ゆげに昴がいうと、ルカもほほえんだ。

「あとは、もうちょっと僕に慣れてくれたらなぁ……」

「おう……」

「どうすれば遠慮が消えるのかな? 僕にも、連にするように話してみてよ」

「連とは付き合いが長いからなぁ」

「時間は関係ないよ」

 ルカは椅子から立ち上がると、ソファーの方にやってきて、昴の隣に腰を下ろした。

「……ルカ?」

 首の後ろに手を回されたとかと思えば、唐突に口を塞がれた。
 何が起こったのか理解できない。ちゅ、と唇を食まれて、昴は慌てて身体を離した。

「っ!?」

「スキンシップだよ。連としてるんでしょ? 僕にも少しは慣れてよ」

「はあぁッ!?」

 口を手で押さえる昴を見て、ルカは口角を上げた。
 十六歳の少年にあるまじき優艶さ。怪しげな色気におののき、ソファーの端に逃げる昴を見て、ルカは獲物を追い詰めるように、にじり寄った。

「……警戒してる?」

「お、おい」

 綺麗な顔がゆっくり降りてきて、思わず形の良い唇を、両手で押さえた。