BLIS - Battle Line In Stars -

episode.2:TRYOUT - 4 -


 光の速さで二週間が過ぎた。
 チーム練習は、思った以上に内容が濃く、刺激的で、興奮すると共に、昴は自分のプレイに落ち込まされた。
 今日は日曜日で、久しぶりに予定のない休日なのだが、朝から無気力に襲われていた。採用試験トライアウトまであと一週間なのに、スランプを抜け出せずにる。
 BLISをする気が起こらない……
 なんだかSoloQueを思い出す。ランクが停滞する度に、自分はどうしようもないヘボプレイヤーではないかと錯覚するアレだ。
 こうなった時の心理はメビウスの環のようなもので、先ず自分のあらゆる点を反省する。原因を探り、計算して、次こそはと意気込むのだが、結果に繋がらないと真逆の感情に転じる。何もかもが呪わしくなり、愚かな味方に苛立ち、ふざけたビルドとトロール殺人行為に走るという……
 上位レート者になればなるほど、この反動は大きい気がする。
 彼等にとって、BLISは気晴らしにやるe-Sportsではなく、もっと大きな何か。培ったゲーミングスキルをあますことなく発揮できる、自己表現のステージなのだ。
 昴の場合は、プロとしての道が見え始めている分、尚更だった。
 それなのに……
 せっかく、夢のきざはしに一歩を踏み出したのに、むしろ遠のいているように感じる。
 ひょっとしたら、去年の自分の方が強かったのではないか?
 数字で見れば、ランクレートは上がっているのだが、ルカとプレイする度にミスを連発し、誰も口にしないが、偏ったディオス・リストを責められている気がしてしまう。
 プロなら、敵の構成、作戦に適したディオスを、豊富に扱えることが望ましい。
 けど今のところ、昴が実力を発揮できるのはACEポジションのみで、得意とするディオス・リストは極端に限られている。おまけに、その唯一の存在意義を見出せるゾーンにおいてさえ、ぱっとしないのだ。SoloQueなら勝てるかもね、といった凡人レベル。
 SoloQueで築きあげた自信は粉砕されてしまった。
 年内にSoloQueでも最高峰のスターゲートランク、TOP100位圏内に食い込むつもりでいたのに。今は、それも難しい気がしている。
 やれやれ――うまくいかないものだ。
 昴が部屋で無気力に過ごしている一方で、連は甲斐甲斐しく働いている。
 洗濯機を回し、ざっと掃除機をかけて、布団まで干している。
 一緒に暮らしてみて実感したが、連は家事全般においても卒なくこなす器用な男だ。昴が手伝うことといえば、ゴミ出しと日用品の買い出しくらいである。食事の準備や片付けまで、連は手際よく済ませてしまう。おかげで、BLISに熱中していても、時間になれば湯気の立つ食事が用意されるのだ。
 部屋にいてもBLISをする気が起こらず、昴はとりあえず連の姿を探した。ベランダで洗濯物を干している姿を見つけて、窓を開けた。

「連、何か手伝おうか?」

「どうした?」

「別に、ちょっと気分転換」

「じゃあ、この後、昼飯一緒に作る?」

 首を傾ける連を見て、昴は笑って頷いた。

「チャーハンが食べたい」

「いいよ。好きだね」

「俺の世界で一番好きな食べ物は、米だからね」

 豪語する昴を見て、連は笑った。昴は昔から和食が好きで、一日一回は味噌汁と白いご飯を食べなくては気が済まないのだ。
 先に台所に立ち、冷蔵庫の中身をチェックしていると、洗濯籠を片付けた連が戻ってきた。

「チャーハンに何を入れる?」

 昴が問いかけると、連は冷蔵庫の中を覗いた。

「セリと卵と玉ねぎ、ベーコン」

「いいね」

 昴が頷くと、連は手際よく野菜を取り出し、洗い始めた。連ほどではないが、昴も一応、包丁を扱える。一緒に暮らす前は、自炊していたのだ。

「味噌汁は茄子入れよう。昴、任せていい?」

「オッケー」

 刻んだ野菜が、フライパンの上でジュワッと音を立てた。ゴマ油の香ばしい匂いが漂ってくる。食欲を刺激されて、昴はうきうきと鍋を火にかけた。

「食べたらBLISやる?」

 チャーハンを炒めながら、連が訊いてきた。

「……うん」

 あまり気は乗らないが、練習しないわけにもいかないだろう。

「無理しなくていいよ。休日なんだし」

「でも、練習しないと」

「じゃあ、久しぶりにDuoQueueする?」

「うん」

 お玉で味噌をすくいとり、鍋に落とした。その間に、簡単なサラダを作る。セロリとわさび菜を刻み、玉ねぎをスライスして混ぜる。市販のイタリアンドレッシングと黒湖沼で味付けしておしまい。
 毎日は面倒だが、たまに料理をすると良い気分転換になる。
 お皿にチャーハンを盛りつけて、味噌汁を二人分よそうと、昴はエプロンを外して席についた。対面に連も座る。

「「いただきます」」

 手を合わせて、二人で唱和した。

「うめー」

 昴がもごもごいうと、連は嬉しそうに笑った。できたてのチャーハンはとても美味しかった。