BLIS - Battle Line In Stars -

episode.2:TRYOUT - 5 -


 食事の後に、連はほうじ茶を煎れてくれた。
 暖かい湯呑を両手で持ちながら、昴は最近の悩みをぽつぽつと話し始めた。

「……思うんだけどさぁ、俺はチームに入れたとしても、ルカのいうがままに動く道具にしかなれないかもしれない」

 チーム練習を始めてからずっと堪えていた弱音を、とうとう連に吐いた。

「誰でも、チームに適応するには時間がかかるものだよ。今はそう思えないかもしれないけど、昴はちゃんと馴染めるよ」

 思い遣りのある言葉だったが、昴は頷く気になれなかった。

「連と二人でプレイしていた頃が懐かしい」

「俺もだよ」

 連は、少し笑った。

「寝る間も惜しんで研究してさ、アホみたいな作戦を試しまくったよな」

「昴の発想は、天才的だったよ」

 昴も、少し笑った。

「ありがと。ランクを昇格していく過程が、本当に楽しかったんだ」

「俺も最高に楽しかったよ。今でも、ストレスが溜まると、あの頃UPした動画を見て、心を落ち着けているんだ」

「ははっ……」

 思わず笑いが込み上げたが、BLISへの情熱や、楽しんでプレイしていた頃を思い出して、気分は再び沈んだ。

「……Soloquoは好きなディオスをPICKして、ACEでTOPゾーンにいったりさ。なんていうか、自由だよね。でもチームに入ったら、俺にそんな自由させてもらえる信用もないし、メタなディオスに限定されて、ルカにああしろ、こうしろ怒鳴られて……」

 その先を続けるのは躊躇われた。連の危惧していた通りだ。このままBLISを仕事にしたら、ずっと情熱を傾けてきたBLISを、嫌いになってしまうかもしれない。
 押し黙る昴の気持ちを読んだように、連は唇を開いた。

「ルカは確かに難しい。だからといって、委縮する必要はないよ。チームが強くなるには、常に新しい挑戦が必要なんだ。既存のやり方を参考にするのはいいけど、縛られる必要は全くないよ」

「はぁ……ルカを御する自信が俺にはないよ。隣で舌打ちされると、マジでびびる。失敗が怖くて、今までやってきた経験とか、自信とか、粉々にされてく感じ」

 がっくりと項垂れる昴の頭を、連は優しく撫でた。

「最初は皆そうだよ。不安なことがあれば、声に出していいんだよ。皆も判ってる」

採用試験トライアウトまで時間がないのに、こんなんで俺は大丈夫なのかな」

「昴ならできる。チームはもっと良くなる。少なくとも俺は、昴がいてくれるなら、司令塔として力を発揮できると確信している」

「……ありがと」

 肩に頭をのせて寄り掛かっていると、連は、手を伸ばして髪や頬に触れてきた。
 慰めるにしては、親密な雰囲気に戸惑ってしまう。
 どうしよう……このまま肩にもたれかかっていて、平気だろうか?
 迷っているうちに、頬を手の甲で撫でられ、軽く上向かされた。この上なく甘い、蕩けるような眼差しが降りてくる。

「ん……」

 唇が軽く重なり、ゆっくり離れた。至近距離で見つめ合ったまま、連は親指で昴の唇に触れてくる。上唇の輪郭をかたどるように、端から端まで移動し、閉じた唇を割って口内にもぐりこんできた。

「んっ」

 逃げようとする舌を、くすぐるように掻き回された。顔を引いて、連の手を掴むと、ようやく指は出ていった。そのまま、濡れた親指を自分の口に持っていこうとするので、

「連っ」

 たまらずに腕を掴んだ。連は何もいわない。昴の瞳を見つめたまま、濡れた親指を口に含んだ。

「――ッ!」

 激しい羞恥に襲われて、昴は顔を逸らした。とても見ていられない。
 逃げるように立ちあがると、自分の部屋に戻り、後ろ手にドアを閉めた。そのまま、背中からずるずると尻餅をつく。

「昴……」

 扉の外から声をかけられて、昴は慌ててドアを開けた。

「あ、違う! 逃げたんじゃなくて、驚いただけ! だから……」

 必死にいい募る昴を見て、連は笑った。

「判ってるよ。驚かせてごめん。BLISする?」

 そういわれて、BLISのことを思い出した。
 さっきまでらちもない念に囚われていたのに、忘れていたなんて信じられない。連のおかげで、欝々としていた心は、幾らかマシになっていた。

「……うん、やろっか」

 昴が笑いかけると、連はほっとしたようにほほえんだ。