BLIS - Battle Line In Stars -

episode.2:TRYOUT - 10 -


 五月一日。二十一時。
 ゲーミングハウスで昴の採用試験トライアウトが行われようとしていた。
 内容は、桐生の用意した五人チームと、Hell Fireの五人でのチーム戦だ。全部で三試合闘う。
 勝敗問わず、メンバーとのコミュニケーション、テクニック、メンタル、状況判断、反射速度などが評価される。判断するのは、コーチとチームメンバー全員である。
 この日の為に練習を重ねてきたが、やはり緊張する。
 他のチームメンバーはいつも通りリラックスしているが、昴は雑談する余裕もなかった。

「緊張したっていいことないぞ。肩から力抜け~」

 ルカは、後ろから昴の肩を掴んで軽く揺さぶった。びくっとした昴は、すぐに相好を崩した。

「おう」

 肩から手が離れていかないことを不思議に思い、顔を上げると、綺麗な翠瞳すいとうと眼があった。
 不意に沈黙が落ちる。少々身構える昴を見て、ルカは意地悪く笑った。

「何かされると思った?」

「別に……」

 会話を耳に拾った連は、恐い顔で睨んできた。

「集中しろよ」

「アイアイサー」

 ルカは、おどけたように笑うと自分の席についた。昴もディスプレイを見つめて集中する。
 相手チームも全員ログインしてきて、試合準備は整った。
 一試合目のBAN&PICK。
 昴は、攻撃速度とレンジに優れ、ゲーム序盤から火力を出せるダナークというディオスをPICKした。自分のディオス・リストの中でも、勝率六〇%を超える得意ディオスだ。
 これは非常にうまくいった。シンプルな勝ちだ。
 勝敗は関係ないと聞いているが、やはり勝つと気持ちが違う。
 幸先の良いスタートに手ごたえを感じたが、二試合目は逆に叩きのめされた。
 昴はDashスペルが無い時にHookに捕まり、ルカはスキルがバグって壁を越えられず、アレックスはいつもの病気でソロKILLをやっていて、フォローすべきゾーンにプレッシャーを与えることができなかった。
 結果、強バフをもたらすブラックホールの中立モンスター、ウロボロスを失い、ゲーム後半で五人殲滅インパクトを取られて完全に崩壊した。

「アレックス、Bate(わざと逃げて敵を誘う行為)に釣られすぎ」

 ゲームが終わった後、連が指摘すると、アレックスは肩をすくめた。

「悪い。敵の誘いが巧みで、つい食いついちゃった」

 今回、昴達のディオス構成で、敵が最も衝突を避けたかったのは、ACEでもMIDでもなく、アレックスのアサシンタイプのディオスだった。
 敵はアレックスが単独行動している時を狙って、巧みにBateをしかけ、アレックスが反応している間に、分断された後衛陣を落としにかかっていたのだ。

「アレックスがいくらKILLを伸ばしても、仲間が常に一人欠けている状況じゃ、いつまでたっても五対五を仕掛けられない」

 連の意見に、昴も全く同感だった。
 BLISで集団戦を起こす時、人数差は敗北に直結する。
 最大パフォーマンスを出せない方が、押し負けるのだ。それが判っているから、さっきの試合で連はエンゲージをしたくてもできなかったのである。

「二部リーグといえど、敵もレベルが高い。人数差の有利を許すな。アレックスはゾーンのプレッシャーに集中してくれ」

 連の指示に、了解、とアレックスも表情を引き締めた。
 三試合目は、ディオスのPICKは良かったが、序盤は膠着状態が続き我慢比べを強いられた。
 敵チームの異様なうまさに、昴は舌を巻いた。対戦相手の正体が気になる。敵の危険極まりないHookは、いつでも最大レンジから伸びてくる。
 二試合を経て、昴も三試合目ではかわすようになったが、危ないシーンが何度もあった。
 だがHookはルカも得意だ。昴を引っ張ろうとする敵を、逆にルカが引っ張った。流石によく見ている!

「下がるなッ! 守れるから」

 苦しめられた敵ACEに、ルカは、スタンの入るスキルショットを決めた。

「ナイスッ! アイツは殺す」

 昴はフラッシュインで間合いを詰めると、敵の背後を狙い、KILLを勝ち取った。そのまま、敵陣地を蹂躙して一気にゲートを破壊する。
 GG!――ヘッドセットを外すと、桐生は拍手をしてねぎらった。

「お疲れ様です。いい試合を見せてくれましたね」

「ありがとうございます!」

 昴は席を立って、頭を下げた。まだ試合の余韻が残って、心臓がばくばくしている。やりきった感はある。

「僕としては、十分に及第点に達していると思うけど、皆はどうかな?」

 この場で即採点されるとは思っておらず、昴は緊張気味にチームメンバーの顔を見渡した。

「申し分ありません」

 即答したのは連だ。

「いいゲームだった。体力とメンタルは場数をこなせばついてくるしね。昴君は伸びしろのあるいいACEだ。ぜひ、一緒にリーグを戦ってみたい」

 続けて和也。

「そうだね。正直、ディオス・リストはもっと増やして欲しいけど、ルカともやっていけそうだし、連とのコミュニケーションの高さは武器になるね。リーグで通用すると思う」

 アレックスの評価だ。最後にルカを見ると、不満そうに眼を眇めた。

「相変わらず、ACEが前にで過ぎなんだよ。1st KILLは逃さないでよね。まだまだ粗が酷いから、リーグまでに調整していくよ」

「!」

 つまり――眼を輝かせる昴を見て、ルカはにっこり笑った。

「短期間で、よくここまで成長したね。僕も昴と一緒にリーグで戦ってみたい」

「やった!!」

 ガッツポーズをすると、他の四人が手を伸ばしてきた。昴の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。桐生も笑っている。昴は朗らかな笑い声をあげた。

(やった! やった!)

 高校受験に受かった時よりも嬉しい。
 正式に、Hell Fireの一員になれたのだ! ずっと憧れていた、プロとして競技シーンでプレイできるのだ。連を見ると、切れ長の瞳を優しげに細めた。

「おめでとう」

「おう!!」

 昴は満面の笑みで応えた。