BLIS - Battle Line In Stars -
episode.1:BEGNING - 2 -
土曜日。
秋葉原のe-Sports GGGには六百名以上が集まっていた。既に満席で、立見も出ている。
運営関係者用のネームタグを下げた昴は、列にも並ばず、顔パスで中へ通された。
やはり、オフライン会場の空気はいい。
ここにいる大勢の人間がBLISを知っているのかと思うと、日常では得られない高揚感と親近感を味わえる。
e-Sportsはサッカーや野球のように、観戦しても楽しめる、まさしくスポーツだ。ある程度ルールを知っている必要はあるが、一度覚えてしまえば会場と一帯となって楽しむことができる。
今日の試合は、春季リーグ四位、新MID FIELDERを迎えたHell Fireと、春季リーグ五位で終えたGIGA Forceの二軍との練習試合だ。
Hell Fireは日本を代表するチームの一つだが、ここ数年は酷い成績を記録している。
原因は、三年前にACEでありながらチームの司令塔を務めた、Soma(当時高校一年生の日本人)が抜けたことによる。更に、彼を盲信するSUPPORTのdogmaも後を追うように抜けた。
最高のプレーヤーを同時に二人も失い、韓国とEUからSoloqueトップランカーを連れてきて後釜に据えたが、再建ならず。
Somaが抜けた後のHell Fireは、あまりにも戦略的に脆く、チームプレイの品質は低迷し、おまけに司令塔も定まらないままで、かつての栄光が嘘のように失速した。
今年の春季リーグを五勝-五敗、六チーム中四位で入れ替え戦をギリギリ免れる成績で終えた絶不調のHell Fire。
世界大会予選 ――International Wild Card Invitational――へ進出するには、これから始まる夏季リーグで、格上の三つのチーム――春季三位のStylish Logic Style、二位のInner Infinity Impact、一位のTeam Deadly Shot――を倒さなければならない。
特に現在一位のTDSは圧倒的な強さを誇り、他の追従を許さない。こんな下剋上が成立するわけがない。正直なところ、ここにいる誰もが思っているだろう。
だが、周囲を見渡してみれば皆笑顔だ。試合を楽しみにしている証拠だろう。
「どっちが勝つかな」
「Hell Fireに期待。こないだDouble Faceの配信見たけど、めちゃめちゃうまいよ」
すれ違った高校生達の楽しそうな会話を耳に拾い、昴はなんとなく嬉しくなった。そうかと思えば、
「大丈夫かね? こんな人集まってるけど、Somaもいないし、二十分試合なんじゃね?」
後部座席から聞こえてくる会話にムッとした。
確かに、世界No1.ACEの脱退は痛すぎるほどに痛かったが、何もここでいうなよ、と思う。
「Double Faceってプロ経験はないんだろ? よくMIDに抜擢されたよな。顔はいいから、負けてもファンが守ってくれそうだけど」
無責任な軽口に、昴は危うく振り向きかけた。文句をいいたい衝動をぐっと堪えて、無言でイヤフォンを耳にさす。
(フンッ。そういうことは、テメーもスターゲート・ランクになってからいえよ)
悔しいが、Hell Fireの評判はよろしくない。かつて、世界に最も近いと賞賛されたチームなのに、
“SomaのいないHell Fireなんて、クソだ”
それが、Hell Fireに対する世界評価に変わってしまった。
個人技では全員がトップ・プレイヤーでも、チームとしての実力は最低に落ち込んでしまった。
趣味と競技シーンはまるで違う。シビアな世界に挫折をし、或いはスポンサーからクビを申し渡され、もしくは人生の岐路に立ち、大勢のプレイヤーがHell Fireを通り抜けていった。
だが、ファンは多い。
あの栄光のIWCI ――International Wild Card Invitational――の準優勝を、何千万というファンが今も忘れられずにいるのだ。
今シーズンでどう立ちあがるのか、最も注目されているチームといっても過言ではないだろう。
『ご来場の皆さま、ようこそe-Sports GGGへ』
試合に想いを馳せていると、照明が落ちて、部屋の隅にスポットライトが当てられた。
『20XX年。Battle Line In Stars Japan League Summer Seasonの前哨戦に相応しい、Hell Fire VS GIGA Forceの試合が、間もなく始まります』
司会の解説に、会場はシンとなる。昴も食い入るように入り口を見つめた。
『盛大な拍手でお迎えください。選手達の入場です』
揃いのユニフォームを着用した選手が現れると、女性のひときわ高い歓声が上がった。
「キャ――ッ!」
耳を聾 する黄色い悲鳴が谺 する。
「JORKER~!」「Fan君、応援してます!」「頑張って、Ash――ッ!!」「MIDっ!」
歓声は鳴りやまない。大半は女性の声だ。なにしろHell Fireのメンバーは揃いも揃ってイケメンなのだ。
(連だ……)
メンバーの中には、手を振る者もいるが、やはりというか、連は無表情だった。
ステージに上がっても、涼しい顔をしている。無数に突き刺さる視線など、何とも思っていなさそうだ。
久しぶりに連を見たら、それだけでなんだか胸が詰まってしまった。じっと見つめていると、連は吸い寄せられるように昴を見つけた。
互いに見つめ合ったまま、視線を外そうとしない。連は、着席を促されるまで昴を見続けていた。
秋葉原のe-Sports GGGには六百名以上が集まっていた。既に満席で、立見も出ている。
運営関係者用のネームタグを下げた昴は、列にも並ばず、顔パスで中へ通された。
やはり、オフライン会場の空気はいい。
ここにいる大勢の人間がBLISを知っているのかと思うと、日常では得られない高揚感と親近感を味わえる。
e-Sportsはサッカーや野球のように、観戦しても楽しめる、まさしくスポーツだ。ある程度ルールを知っている必要はあるが、一度覚えてしまえば会場と一帯となって楽しむことができる。
今日の試合は、春季リーグ四位、新MID FIELDERを迎えたHell Fireと、春季リーグ五位で終えたGIGA Forceの二軍との練習試合だ。
Hell Fireは日本を代表するチームの一つだが、ここ数年は酷い成績を記録している。
原因は、三年前にACEでありながらチームの司令塔を務めた、Soma(当時高校一年生の日本人)が抜けたことによる。更に、彼を盲信するSUPPORTのdogmaも後を追うように抜けた。
最高のプレーヤーを同時に二人も失い、韓国とEUからSoloqueトップランカーを連れてきて後釜に据えたが、再建ならず。
Somaが抜けた後のHell Fireは、あまりにも戦略的に脆く、チームプレイの品質は低迷し、おまけに司令塔も定まらないままで、かつての栄光が嘘のように失速した。
今年の春季リーグを五勝-五敗、六チーム中四位で入れ替え戦をギリギリ免れる成績で終えた絶不調のHell Fire。
特に現在一位のTDSは圧倒的な強さを誇り、他の追従を許さない。こんな下剋上が成立するわけがない。正直なところ、ここにいる誰もが思っているだろう。
だが、周囲を見渡してみれば皆笑顔だ。試合を楽しみにしている証拠だろう。
「どっちが勝つかな」
「Hell Fireに期待。こないだDouble Faceの配信見たけど、めちゃめちゃうまいよ」
すれ違った高校生達の楽しそうな会話を耳に拾い、昴はなんとなく嬉しくなった。そうかと思えば、
「大丈夫かね? こんな人集まってるけど、Somaもいないし、二十分試合なんじゃね?」
後部座席から聞こえてくる会話にムッとした。
確かに、世界No1.ACEの脱退は痛すぎるほどに痛かったが、何もここでいうなよ、と思う。
「Double Faceってプロ経験はないんだろ? よくMIDに抜擢されたよな。顔はいいから、負けてもファンが守ってくれそうだけど」
無責任な軽口に、昴は危うく振り向きかけた。文句をいいたい衝動をぐっと堪えて、無言でイヤフォンを耳にさす。
(フンッ。そういうことは、テメーもスターゲート・ランクになってからいえよ)
悔しいが、Hell Fireの評判はよろしくない。かつて、世界に最も近いと賞賛されたチームなのに、
“SomaのいないHell Fireなんて、クソだ”
それが、Hell Fireに対する世界評価に変わってしまった。
個人技では全員がトップ・プレイヤーでも、チームとしての実力は最低に落ち込んでしまった。
趣味と競技シーンはまるで違う。シビアな世界に挫折をし、或いはスポンサーからクビを申し渡され、もしくは人生の岐路に立ち、大勢のプレイヤーがHell Fireを通り抜けていった。
だが、ファンは多い。
あの栄光の
今シーズンでどう立ちあがるのか、最も注目されているチームといっても過言ではないだろう。
『ご来場の皆さま、ようこそe-Sports GGGへ』
試合に想いを馳せていると、照明が落ちて、部屋の隅にスポットライトが当てられた。
『20XX年。Battle Line In Stars Japan League Summer Seasonの前哨戦に相応しい、Hell Fire VS GIGA Forceの試合が、間もなく始まります』
司会の解説に、会場はシンとなる。昴も食い入るように入り口を見つめた。
『盛大な拍手でお迎えください。選手達の入場です』
揃いのユニフォームを着用した選手が現れると、女性のひときわ高い歓声が上がった。
「キャ――ッ!」
耳を
「JORKER~!」「Fan君、応援してます!」「頑張って、Ash――ッ!!」「MIDっ!」
歓声は鳴りやまない。大半は女性の声だ。なにしろHell Fireのメンバーは揃いも揃ってイケメンなのだ。
(連だ……)
メンバーの中には、手を振る者もいるが、やはりというか、連は無表情だった。
ステージに上がっても、涼しい顔をしている。無数に突き刺さる視線など、何とも思っていなさそうだ。
久しぶりに連を見たら、それだけでなんだか胸が詰まってしまった。じっと見つめていると、連は吸い寄せられるように昴を見つけた。
互いに見つめ合ったまま、視線を外そうとしない。連は、着席を促されるまで昴を見続けていた。