アッサラーム夜想曲

栄光の紋章 - 8 -

 腰を引き寄せ、強引に両足を割り開いた。
「やめてったら!」
 暴れる腰をきつく押さえつけて、下肢に顔を寄せる。屹立に息を吹きかけると、光希は刺激を散らすように身体を揺らめかせた。
 裏筋に舌を這わせて、ゆっくりと舐めあげ……先端のくびれにぐるりと舌を這わせてから、口腔に含んだ。
「あぁっ」
 艶めいた声に下腹部がたぎる。衝動的に、丸い亀頭の形が歪むくらい強く吸いあげた。
「んぁッ! あ、あ、あ……ッ」
 早くも極めようとしている光希は、焦ったように身じろぎ、ジュリアスを押しのけようとした。
「離して!」
「……なぜ? 良いのでしょう?」
「でちゃう! ぁ、離してったら……ッ!」
「だして。このまま、私の口に」
 言葉の卑猥さに、光希が狼狽えるのが判る。金髪を掴む手を好きにさせながら、強く吸引すると、光希は息を呑んだ。
「ぃや……も、でちゃっ……あ、あぁ……ッ」
 思い知ればいいのだ。この身を炙る焔の熱さを――狂おしいほどの愛しさを――光希も思い知ればいいと、酷く荒れた心が囁く。
 だが、まぎれもない本音だった。ジュリアスが光希を望むように、光希にもジュリアスを求めて欲しかった。
 容赦なく追い詰めると、光希は躰を切なく震わせて達した。
 喉の奥に吐きだされた精液を、ジュリアスはあますことなく嚥下する。えもいわれぬ恍惚感。心を蕩けさせる媚薬だと思った。
「ぅ……飲まないでよ……」
 顔をあげると、光希は羞恥と罪悪感をない混ぜたような目で、ジュリアスを見つめていた。
「足りません。もっと……足を開いて」
 口元を拭いながら、閉じようとする足に手をかけると、光希は泣きそうな顔をした。
「ジュリ、やめて」
「……ほら、舐めてあげる」
「厭だっ」
 強引に割リ開いて、ぼろぼろと涙をこぼす肉茎に舌を這わせながら、窄まりへ指を滑らせた。
「や、だって……ッ!」
 か細い声で哀訴されても、手加減する気になれない。
 濡れた水音をたてながら、容赦なくしゃぶりたてる。敏感に撥ねる腰を押さえつけながら、香油をまとった指で秘めた隘路あいろを撫であげた。
「そこ、だめ……っ」
 光希は涙声で訴えた。
「力を抜いて。乱暴にするつもりはありません」
 ゆっくりと蕾に指を沈めると、ぬぷっと水音を跳ねさせながら、着実に呑みこんでいく。
「あ、ぁんっ……」
 揺らめく媚態を目に愉しみながら、指を深く沈めてゆく。肛壁をさするように、指を前後させると、光希はびくびくと躰を撥ねさせた。
 ひくつく蕾に、二本、三本……指を増やしていく。
 香油の入った瓶を傾けて、尻のあわいに、たっぷりと垂らす。下肢はとろりとした蜜に濡れそぼり、照明の光を浴びて淫靡に燦めいた。
 部屋を満たす甘い芳香に、ジュリアスは目を細める。光希は嗚咽にも似たくぐもった声を漏らしているが、まだこれからだ。尻を左右に鷲掴み、割拡げられた後孔の口が押し開く。ひくつく蕾に顔を埋めると、舌先で突くようにそこを押した。
「ひゃぁ! ん……やぁ……ッ」
 大腿を両腕で抱えて、孔を舐めしゃぶる。奥処おくかまで舌を伸ばすと、光希はすすり泣きをもらした。
「もぉ、やだぁ……っ」
 本格的に光希が泣き始めると、ジュリアスは身を起こした。涙に濡れた顔を覗きこみ、頬にくちづけようとしたが、光希はそれを拒み顔を反対側に倒した。
「触らないで……っ」
 髪をかき分け、耳朶を齧ると、拒絶は甘い声に変わる。
「逃げないで。拒んだところで、私はやめたりしませんよ……判っているでしょう?」
 優しいくちづけを繰り返すと、光希も半ば諦めたように躰を弛緩させた。
 再び蕾に手を伸ばすと、紅い唇から甘い声がもれ始めた。繋がる為の経路を優しく広げていくと、やがて三本の指も滑らかに動き始めた。
「ぁ、や……っ、あぁ!」
 淫らな水音がひっきりなしに聞こえてくる。光希は筒状のクッションに噛みついて、声を押さえんとしている。
「……すっかり、柔らかくなりましたよ」
 指を抜くと、光希はびくっとした。縮こまろうとする体を仰向かせ、切っ先を蕾に宛がいながら、ジュリアスは光希の閉じた瞼を舐めあげた。
「っ!?」
「……挿れますよ」
 目をあわせながら、ゆっくり、慎重に突き刺していく。うねる媚肉に締めつけられ、喰い千切られそうだ。
 縮こまった下腹を掌で撫で回し、揉みしだくと、光希は甘い息を吐いて力を抜いた。奥深くまで入りこんだところで、ジュリアスも動きを止めた。
 そのまましばらく待ち、光希の呼吸が整うのを見てから、ゆったりとした動きで腰を前後させた。熱く脈打ち、締めつける後孔を穿てば、肉襞が包みこむように蠕動ぜんどうし始めた。
「あ、あぁ……ン」
 強烈な快感がもたらされ、ついにジュリアスは加減のたがを外して、悦楽を穿った。
 しかしあがる嬌声に苦しげな響きを察知した時は、強弱を加減して、光希も良さそうに下肢の強張りを解くのを待った。
「貴方は私のものです。誰にも渡さない」
 返事を拒むように、光希は唇をきつく噛みしめている。
 強情が癇に障り、飛沫で奥を濡らしても、引き抜かずに揺さぶり続けた。
「ぁ、あぁ……っ、嫌……っ」
「……ッ、は、本当に?」
 内壁の反応するところを穿てば、背をしならせて刺激を逃がそうとする。黒い眼差しは、怒りと快感がない混ぜになり、潤んでいる。彼の許容を越えても、貪ることを止めるのは難しかった。
 満ちる空気は、果てなく濃密に深みを増してゆく。
「だめぇ、あ、あ、んぁ、あぁッ!」
 全身の血の恍惚のなかで、光希は息がきれるほど喘いでいる。
 聖衣を纏った清廉せいれんな姿からは想像もつかぬ媚態で、脳を蕩けさせる甘い声で、匂いたつ躰でジュリアスをとりこにする。
 敏感に蠕動ぜんどうする媚肉がうねり、ジュリアスを舐めあげ、舐めおろし、筆舌に尽くし難い凄まじい快楽けらくに翻弄された。
「んぁッ! あ、あぁ~――……っ」
 絶頂を極めた光希のなかが収斂しゅうれんして、ジュリアスをぢゅうっと吸いあげた。
 脳が白くける――
「は、ぁ……っ」
 たまらずに低く呻き、灼熱の焔がぶるりと震えて、最奥に熱い飛沫を放った。
 媚肉が孕んで、光希の全身が妖しく波打つ……小ぶりな性器をひくつかせ、先端から涙の筋のような薄い精液をこぼしていた。
 妖艶な姿に、冷めやらぬ情欲の焔が燃えあがる。
「っ、やぁ……」
 慄く光希を押さえつけたまま、再び腰をゆすると、光希はくぐもった声で啼いた。
 かわいそうだと思う。
 愛おしいと思う。
 だが止まれないのだ。どうしても――
 固く張り切った苦痛のたけりを、欲望の坩堝に突きたてた。
 満足がいくまで揺さぶり、ようやく離す頃には、光希は殆ど口も利けぬほど疲れ切っていた。
 幾度も貫かれた結合部は、波飛沫のように白く泡立っている。
 身勝手で気だるい満足感は、光希と目があって、眉をひそめて反対側に顔を傾けられた瞬間に霧散した。
「……満足した?」
 ぞっとするほど冷たい声で、光希がいった。
 愛しあったとばかりだというのに、またしても彼は自分から離れていこうとしている。苛立ちを覚えて、光希の肩を掴んで、無理矢理こちらを向かせた。
 潤んだ瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。
「……謝りませんよ」
 傲慢な台詞は、力なく響いた。
 燻っていた怒りは一瞬で氷塊し、苦い深淵に変わっていく。
 腕を交差して顔を覆い、欠片も声をだすまいとする光希が、あまりにか弱く、今にもこわれてしまいそうに見えてあまりに愛おしく、ジュリアスの心臓を止血帯のように強く締めつけた。
 愛している。全てを捧げられるほど愛しているのに。何よりも大切にしたいのに。どうして――なぜ――傷つけてしまうのだろう……