アッサラーム夜想曲

再会 - 6 -

 ― 『再会・六』 ―




 包帯に包まれた右肩をそっと撫でていると、手を取られた。

「私も、光希の肌を見たい」

「うん……」

 時間をかけると余計に恥ずかしくなるので、早業のように上を脱ぎ捨てた。機敏な動きの光希を見て、ジュリアスは笑っている。

「子供の着替えみたいでしたよ」

「煩いな」

 会話する余裕は、大きな掌に腹を撫でられた途端に消えた。ただ撫でられているだけなのに、おかしいくらい、身体が敏感に反応してしまう。

「んっ」

 キスをしながら、肌のあちこちに触れられた。肌に吸いつくような掌は、どこまでも滑っていく。やがて少し膨らんだ胸まで辿り着き、先端を指先で転がされた。

「……っ」

「光希は変わらないな。滑らかで、白くて……」

「ん……ジュリだって、変わらないよ」

 傷なんて関係ない。ジュリアスはいつだって、見惚れるほど綺麗だ。淡い褐色の肌は、星明かりに照らされて煌めいている。
 端正な顔が下がり、光希は逃げるように視線を逸らした。吐息が肌にかかる。しこった乳首を指で摘まれ、口に含まれた。

「んぅ、ふ……っ、っ……!」

 刺激に耐えている間に、下履きごと一遍に引きずり下ろされた。

「あ……っ」

 たかぶりが空気に触れて、光希は小さく息を飲んだ。ジュリアスの長い指先が、反り返る屹立の裏筋を撫で上げる。ぬめりを帯びた茎を何度か扱くと、ゆっくり顔を伏せて、形のいい口で――
 見ていられなくなり、視線を泳がせた途端、身体の中心を熱い粘膜に包まれた。

「や、ぁっ」

 圧倒的な悦楽に脳髄まで支配される。
 屹立を舌で愛されながら、秘めやかなすぼまりいじられた。ジュリアスが口や手を動かすたびに、ぬぷ……といやらしい水音が立つ。

「は……ん……っ」

 ジュリアスが口を離した途端、濡れた切っ先が腹につきそうなくらい反り返った。
 あと少しで、ったのに……羞恥よりも快楽に支配されて、昇りつめたい、そう口走りそうになる。光希の事情を察したように、ジュリアスは淡く微笑んだ。

「もう少し我慢して」

「ン……」

 熱を帯びた眼差しは、再び、あらぬところへ落ちる。両足を大きく押し開かれ、光希は息を飲んだ。あわいの奥に、ジュリアスの吐息を感じた途端、熱い舌に後孔こうこうを舐めあげられた。

「ん……っ」

 初めてされることではないが、飛びかけていた理性が戻るくらいには、抵抗を感じる。足を閉じようとしたけれど、ジュリアスは構わず両の親指で、入り口を広げ、舌をねじ込んだ。

「や……っ、あ、ぅ……っ」

 ジュリアスと繋がるみちを、何度も舌で穿たれる。
 後孔が解れてくると、今度は光希の身体を横に倒して、中指を奥に差し挿れた。

「んぅ……っ」

 光希を横から抱えるようにして、舌で乳首を舐めあげながら、指で肉襞を擦り上げる。ジュリアスの愛撫は、相変わらず丁寧で、甘くて、そして労わりに満ちている。
 柔らかな金髪を撫でて、つんと軽く引っ張って合図すると、ジュリアスは首を伸ばして光希の唇を塞いだ。甘い口づけに酔いしれながら、身体中を解されていく。
 三本に増やされた指が、光希を優しく押し広げる。前立腺を刺激される度に、身体は魚のように撥ねた。
 ふわふわと夢見心地でいたが、持ち上げた光希の足を、ジュリアスは平気で右肩に乗せようとするので、慌てて上半身を起こした。

「肩っ」

「平気です」

 ジュリアスは光希を押し倒そうとするが、光希はその手を掴んで、ジュリアスを仰ぎ見た。煩いほど、心臓が早鐘を打っている。

「あの、僕も、しようか?」

 震えながら喋る光希を、ジュリアスは熱の灯った瞳で見下ろした。

「……何を?」

「その、口で、ジュリを……」

 全部は言えずに、視線を泳がせていると、ふ、と笑う気配を感じた。頬を撫でられて、親指で唇をなぞられる。恐る恐る視線を合わせると、思わずドキッとするほど、優しい顔をしていた。

「光希の口で?」

「うん……」

「こんな可愛い口に、私のなんて挿れられない」

「ん……っ」

 そんなことを言いながら、唇に触れていた親指は口内に潜りこんできた。顔を引きかけたが、勇気を出して、ジュリアスの瞳を見ながら舌を絡ませた。
 こんなことをしていても、ジュリアスは未だに光希を神聖視している。光希だって劣情を抱くこともあるのに、彼の瞳に光希は、穢れない聖人に映るらしいのだ。
 情事を連想させるように、顔を前後に動かしてみると、ジュリアスは怖いくらいの真剣さで光希を見つめた。欲情しきった、青い瞳。
 親指を引き抜かれ、荒々しく唇を奪われた。少し乱暴に押し倒され、柔らかなシーツの上で背が跳ねる。
 光希が怪我を気にかける間もなく、大きく足を押し開かれて、熱い切っ先を入り口に宛がわれた。

「――挿れるよ」

 アーモンドに似た甘い香りが漂い、あわいの奥に、ひんやりした液体が垂らされる。挿入を助ける香油だ。用意があるのなら、舌で舐めなくても……と一瞬思ったが、思考はすぐに弾けた。

「んっ、は……っ、あ」

 熱い塊が、ぐぐっと光希に押し入る。久しぶりの挿入は、覚えているよりもずっと、窮屈で、圧迫感があって、そしてよろこびをもたらした。
 好きな人と、結ばれる幸せ。
 ようやく剛直を呑み込むと、ゆったりとした抽挿が始まった。光希の様子を見ながら、熱の塊が肉洞を穿ち、粘膜を擦り上げる。
 最奥を穿たれると、痛みすら走るのに、同時に幸せを感じる。ジュリアスの与えてくれる熱に酔いしれながら、光希は心の中でシャイターンに呼びかけた。

 ――何もいらない、ジュリがいれば、それだけいいっ!!

 宝石を通して見ていると言うのなら――どうか聞き届けて欲しい。
 ジュリアスがいれば、ジュリアスさえいれば、それでいい。他に何もいらないから、どうか、ジュリアスだけは守って欲しい。どんな災厄からも守って欲しい。二度と傷つけないで……!
 不意に、ジュリアスは律動をやめた。
 青い光彩を帯びた双眸が、静かに光希を見下ろしている。ジュリアスの身体は、神々しい青い燐光で煌めいた。

「光希がいれば、それでいい。他に、何もいらない。どんな犠牲も厭わない」

 心に思ったことと、同じ言葉をかけられて、光希は目を見開いた。

「――っ、あ……!」

 光希が言葉を紡ぐ前に、抽挿は再開された。激しい突き上げに、身体を前後に揺さぶられる。肩を気にかける余裕はない。しがみついてないと、吹き荒ぶ嵐のような情熱に攫われてしまう――

「……っ、は……あぁ――っ」

 最奥に、熱いほとばしりを感じながら、光希もまた達した。視界は真っ白に弾ける。猛りを損なわず、ジュリアスはすぐに緩やかな律動を始めた。

「――っ、ひぅ……っ」

 肩で呼吸をしながら、余韻に震えていると、汗の浮いた額に口づけられた。

「まだ放せない……」

「いいよ」

 ジュリアスの好きにして――後に続く言葉を呑み込んで、微笑んだ。
 そもそもジュリアスが一度で満足するとは、思っていない。ジュリアスに手を伸ばして頬を撫でると、猫のように、気持ち良さそうに眼を細めた。
 見惚れるくらい端正な顔が降りてきて、啄むようにキスをされた。
 好き――
 想いがとめどなく溢れてくる。
 愛おしい熱に包まれながら、やがて、夢を見るように眠りに落ちた。隣にジュリアスがいる幸せを、噛みしめながら……