アッサラーム夜想曲
第3部:アッサラームの獅子 - 11 -
その日の夜。
光希が寝入ってしばらく経った頃、シーツをめくる気配に起こされた。
「お帰り……」
寝惚け眼 で声をかけると、傾けている頬にキスされた。
「ただいま、光希」
眠りたいのに、耳朶に唇で触れたり、悪戯するように髪をつんと引っ張ってくる。
「ん……」
彼にしては珍しく、寝入る光希を起こそうとする。唇に触れる指を払い、ジュリアスに背を向けると、隣で身体を起こす気配がした。
「光希、今日……」
どうやら会話をしたいらしい。
仕方なく眼を開けると、光彩を放つ青い瞳にぎくりとする。ジュリアスは覆いかぶさるように、両腕を光希の顔の横についていた。
「どうしたの……?」
「合同演習でユニヴァースの名を呼んだって本当?」
「誰が?」
「光希が呼んだと聞きましたけど?」
「……?」
「答えてください」
一瞬、何のことか判らなかったが、昼間のことを思い出して、慌てて頷いた。
「うん、本当だよ」
「どうして、そんなことを?」
「つい、面白くて……いけなかった?」
「良くはありませね。大勢の前で、貴方が一兵士を応援すれば、贔屓しているように映ります。彼も余計な妬みを買って、集団生活に支障をきたすかもしれませんよ」
そんなことをいわれては不安になる。眠気はどこかへ飛んでいった。
「そう思う? ユニヴァース、大丈夫かな」
「もうしないで」
「判った」
「……今度、私の執務室にもきてくれますか?」
「え……」
つい嫌そうな声が口を突いてしまい、ジュリアスは不服そうに眉をひそめた。
「いいって、言ってください」
「三階から上は怖くて行けないよ。ジュリの個室ならいいけど……」
上目遣いにいうと、ジュリアスはそっと光希を抱きしめた。体勢を調整して、光希も眼を瞑る。
背に感じる穏やかな鼓動に誘 われて、深い眠りへと落ちていった。
二日後。
金古美、銀古美のチャームを五件ずつ、合わせて十件の制作を、どうにか期日前に完了させた。
その日の夕方、紙面でしか知らなかった依頼者達が工房を訪ねてきた。二十代から三十代の若い兵士ばかりた。光希が手渡すと、嬉しそうに表情を綻ばせた。
「ありがとうございます!」
「僕こそ、依頼していただいて、ありがとうございました」
喜んでもらえてよかった。胸を撫で下ろす光希を見て、若い兵士は恐縮したように敬礼をした。
「お礼を申し上げるのは、私のほうです。これがあれば、どこにいても帰れる気がいたします。本当にありがとうございました」
作ったものを喜んでもらえる。そのことに、光希は想像以上に満たされた。清涼な高揚感に身体中を包まれる。
この喜びを、真っ先に伝えたい。
いてもたってもいられず、五階にある立派な執務室を訪ねると、ジュリアスは笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃい、光希」
「ちょっと聞いてくれる? 今ね……」
嬉しさの余り、ローゼンアージュの視線も忘れて、自らジュリアスに抱き着いた。溢れんばかりの喜びを伝えると、ジュリアスは我がことのように喜んでくれた。
「良かったですね、光希。私にも作っていただけますか?」
「もちろん!」
光希は満面の笑みで応えた。
光希が寝入ってしばらく経った頃、シーツをめくる気配に起こされた。
「お帰り……」
寝惚け
「ただいま、光希」
眠りたいのに、耳朶に唇で触れたり、悪戯するように髪をつんと引っ張ってくる。
「ん……」
彼にしては珍しく、寝入る光希を起こそうとする。唇に触れる指を払い、ジュリアスに背を向けると、隣で身体を起こす気配がした。
「光希、今日……」
どうやら会話をしたいらしい。
仕方なく眼を開けると、光彩を放つ青い瞳にぎくりとする。ジュリアスは覆いかぶさるように、両腕を光希の顔の横についていた。
「どうしたの……?」
「合同演習でユニヴァースの名を呼んだって本当?」
「誰が?」
「光希が呼んだと聞きましたけど?」
「……?」
「答えてください」
一瞬、何のことか判らなかったが、昼間のことを思い出して、慌てて頷いた。
「うん、本当だよ」
「どうして、そんなことを?」
「つい、面白くて……いけなかった?」
「良くはありませね。大勢の前で、貴方が一兵士を応援すれば、贔屓しているように映ります。彼も余計な妬みを買って、集団生活に支障をきたすかもしれませんよ」
そんなことをいわれては不安になる。眠気はどこかへ飛んでいった。
「そう思う? ユニヴァース、大丈夫かな」
「もうしないで」
「判った」
「……今度、私の執務室にもきてくれますか?」
「え……」
つい嫌そうな声が口を突いてしまい、ジュリアスは不服そうに眉をひそめた。
「いいって、言ってください」
「三階から上は怖くて行けないよ。ジュリの個室ならいいけど……」
上目遣いにいうと、ジュリアスはそっと光希を抱きしめた。体勢を調整して、光希も眼を瞑る。
背に感じる穏やかな鼓動に
二日後。
金古美、銀古美のチャームを五件ずつ、合わせて十件の制作を、どうにか期日前に完了させた。
その日の夕方、紙面でしか知らなかった依頼者達が工房を訪ねてきた。二十代から三十代の若い兵士ばかりた。光希が手渡すと、嬉しそうに表情を綻ばせた。
「ありがとうございます!」
「僕こそ、依頼していただいて、ありがとうございました」
喜んでもらえてよかった。胸を撫で下ろす光希を見て、若い兵士は恐縮したように敬礼をした。
「お礼を申し上げるのは、私のほうです。これがあれば、どこにいても帰れる気がいたします。本当にありがとうございました」
作ったものを喜んでもらえる。そのことに、光希は想像以上に満たされた。清涼な高揚感に身体中を包まれる。
この喜びを、真っ先に伝えたい。
いてもたってもいられず、五階にある立派な執務室を訪ねると、ジュリアスは笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃい、光希」
「ちょっと聞いてくれる? 今ね……」
嬉しさの余り、ローゼンアージュの視線も忘れて、自らジュリアスに抱き着いた。溢れんばかりの喜びを伝えると、ジュリアスは我がことのように喜んでくれた。
「良かったですね、光希。私にも作っていただけますか?」
「もちろん!」
光希は満面の笑みで応えた。