アッサラーム夜想曲
第2部:シャイターンの花嫁 - 6 -
「僕一人で入りたいです……」
「どうして?」
「え? だって……狭くない?」
「いいえ、十分広いから心配いりませんよ」
「……だめ、恥ずかしい」
ふいと視線を逸らすと、思わず、といった風にぎゅっと抱きしめられた。
「かわいいことを」
「かわいくない。一人で入りたいです。いい?」
「そんなことをいわないで。コーキの為に設計したのです。一緒に入りたい」
姿勢を正し真摯に告げると、ジュリアスは光希の手の甲に唇を落とした。そのままの姿勢で上目遣いに、ね? と囁く。
『なッ、何すんだよ! お前本当に十六歳か!?』
かぁっと全身が熱くなり、光希は慌てて手を振り払った。
そう……目の前の大人びたジュリアスは、実は光希よりも一つ年下の十六歳なのである。
一年が十三ヵ月ある世界なので、地球換算で考えると同い年に近いのかもしれないが、彼はそんなこと知る由 もないので、光希は十七歳で通している。
アッサラームへの行軍途中、彼の年齢を知った時は驚いたものだ。
以来、年上ぶりたい衝動に駆られることも多々あるが、万能なジュリアスの前で、成功した試 は一度もない。
「子猫みたい。かわいい……」
「こ、子猫? 違う! 風呂は一人で入ります。さようならっ」
ふいと顔を背けると、光希にしては機敏にブランコから降りた。部屋に逃げこもうとしたところを、後ろから抱きしめられる。
「一緒に入りましょう?」
疑問形だが、回された腕からは、絶対に一緒に入るという、強い意志を感じる。柔らかな金髪を頬に感じながら、光希は渋々頷いた。
「判りました。一緒に入るけど、でも、あの……触らないで」
砂漠の英雄は、この上なく綺麗な、それでいて嘘くさい笑みを浮かべた。
部屋を出たあとは、中庭までルスタムが案内してくれた。浴場に入ると、今度はナフィーサが脱衣や湯具の準備をしてくれる。
均整の取れた体躯のジュリアスの前で、それも明るい所で裸になるのは恥ずかしかったが、今更だろうと覚悟を決めて一気に脱いだ。
ちりちりするような熱い視線を無視して中に入ると、心地よい風に肌を撫でられた。
「わぁ、広い……」
巨大な正方形の屋根つき大浴場は、片側がそのまま中庭に通じており、優美な川と空を眺めることができた。そよ風が吹く度に、白い湯煙がゆらゆらと踊っている。
ハーブの良い香りのする湯を手桶にすくうと、光希は頭から勢いよく湯をかけた。
「あー、気持ちいぃー!」
思わずはしゃいだ声を上げると、いつの間にか傍にジュリアスがいて、優しく湯をかけてくれた。
「いいよ、自分でやります。ジュリも浴びなよ、すごく気持ちいい」
「洗ってあげる」
「え……」
だめ、というよりも早く、ジュリアスの指が髪に触れる。そのまま大きな手で頭皮をマッサージされると、心地良くて拒絶の言葉は自然と消えた。
行軍中も贅沢に固形石鹸を使わせてもらっていたが、この大浴場では更に上等な石鹸が幾種も用意されていた。ジュリアスは硝子瓶の一つから蜂蜜色の液状石鹸を手に垂らした。
「いい香り」
「これで髪を洗うと、艶やかな仕上がりになりますよ」
「僕、いつもの石鹸でいいよ」
「遠慮しないで。いい香りでしょう?」
わしゃわしゃと優しく髪を洗われると、何だかむずむずしてきた。
「……もっと力強く洗ってほしい」
「こう?」
『そぉーそーそ~』
絶妙な力加減に、光希はうっとりと瞳を閉じた。人に髪を洗ってもらうのは、気持ちが良いものだ。湯で流し終えると、生まれ変わったように気分爽快であった。
「ありがとう! 僕も洗ってあげます」
「ふふ。では、後で洗ってもらおうかな。先にコーキを綺麗にしてあげる」
楽しそうに笑うと、ジュリアスは光希好みの少し固めの麻布 を石鹸で泡立て、背中を洗ってくれた。
そこまでは良かったのだが、麻布が首筋や腰の際どいところまで滑ると、思わず変な声が出そうになった。
「どうして?」
「え? だって……狭くない?」
「いいえ、十分広いから心配いりませんよ」
「……だめ、恥ずかしい」
ふいと視線を逸らすと、思わず、といった風にぎゅっと抱きしめられた。
「かわいいことを」
「かわいくない。一人で入りたいです。いい?」
「そんなことをいわないで。コーキの為に設計したのです。一緒に入りたい」
姿勢を正し真摯に告げると、ジュリアスは光希の手の甲に唇を落とした。そのままの姿勢で上目遣いに、ね? と囁く。
『なッ、何すんだよ! お前本当に十六歳か!?』
かぁっと全身が熱くなり、光希は慌てて手を振り払った。
そう……目の前の大人びたジュリアスは、実は光希よりも一つ年下の十六歳なのである。
一年が十三ヵ月ある世界なので、地球換算で考えると同い年に近いのかもしれないが、彼はそんなこと知る
アッサラームへの行軍途中、彼の年齢を知った時は驚いたものだ。
以来、年上ぶりたい衝動に駆られることも多々あるが、万能なジュリアスの前で、成功した
「子猫みたい。かわいい……」
「こ、子猫? 違う! 風呂は一人で入ります。さようならっ」
ふいと顔を背けると、光希にしては機敏にブランコから降りた。部屋に逃げこもうとしたところを、後ろから抱きしめられる。
「一緒に入りましょう?」
疑問形だが、回された腕からは、絶対に一緒に入るという、強い意志を感じる。柔らかな金髪を頬に感じながら、光希は渋々頷いた。
「判りました。一緒に入るけど、でも、あの……触らないで」
砂漠の英雄は、この上なく綺麗な、それでいて嘘くさい笑みを浮かべた。
部屋を出たあとは、中庭までルスタムが案内してくれた。浴場に入ると、今度はナフィーサが脱衣や湯具の準備をしてくれる。
均整の取れた体躯のジュリアスの前で、それも明るい所で裸になるのは恥ずかしかったが、今更だろうと覚悟を決めて一気に脱いだ。
ちりちりするような熱い視線を無視して中に入ると、心地よい風に肌を撫でられた。
「わぁ、広い……」
巨大な正方形の屋根つき大浴場は、片側がそのまま中庭に通じており、優美な川と空を眺めることができた。そよ風が吹く度に、白い湯煙がゆらゆらと踊っている。
ハーブの良い香りのする湯を手桶にすくうと、光希は頭から勢いよく湯をかけた。
「あー、気持ちいぃー!」
思わずはしゃいだ声を上げると、いつの間にか傍にジュリアスがいて、優しく湯をかけてくれた。
「いいよ、自分でやります。ジュリも浴びなよ、すごく気持ちいい」
「洗ってあげる」
「え……」
だめ、というよりも早く、ジュリアスの指が髪に触れる。そのまま大きな手で頭皮をマッサージされると、心地良くて拒絶の言葉は自然と消えた。
行軍中も贅沢に固形石鹸を使わせてもらっていたが、この大浴場では更に上等な石鹸が幾種も用意されていた。ジュリアスは硝子瓶の一つから蜂蜜色の液状石鹸を手に垂らした。
「いい香り」
「これで髪を洗うと、艶やかな仕上がりになりますよ」
「僕、いつもの石鹸でいいよ」
「遠慮しないで。いい香りでしょう?」
わしゃわしゃと優しく髪を洗われると、何だかむずむずしてきた。
「……もっと力強く洗ってほしい」
「こう?」
『そぉーそーそ~』
絶妙な力加減に、光希はうっとりと瞳を閉じた。人に髪を洗ってもらうのは、気持ちが良いものだ。湯で流し終えると、生まれ変わったように気分爽快であった。
「ありがとう! 僕も洗ってあげます」
「ふふ。では、後で洗ってもらおうかな。先にコーキを綺麗にしてあげる」
楽しそうに笑うと、ジュリアスは光希好みの少し固めの
そこまでは良かったのだが、麻布が首筋や腰の際どいところまで滑ると、思わず変な声が出そうになった。