アッサラーム夜想曲
第2部:シャイターンの花嫁 - 5 -
石柱の回廊を抜けて針葉樹の中庭へ出ると、泉に囲まれたペール・アプリコットカラーの美しい邸の一部が遠くに見えた。
「あれが私達の家ですよ」
ジュリアスは前方を指して光希に笑みかけた。
「えっ、家? あれが!?」
「はい」
「はいって……家? だって、すごく大きいですよ?」
「そうですか? 二人で住むにはちょうどいいくらいですよ。光希の好きな浴場も中に二つ、中庭に一つ作らせました。気に入ってくれると良いのですが……」
唖然とする光希を見て、ジュリアスにしては浮き足立ったようにはにかんでいる。
完全に想像の範疇を越えている……中庭に風呂?
茫然としながら歩いていると、やがて背の高い針葉樹の並木道を抜けた。視界が晴れて、ようやく邸の全貌が見えた。
「うわぁーっ」
美しい景観に、思わず歓声を上げた。
家だと紹介された邸の正門には、長方形の泉が真っ直ぐ続いており、陽を浴びて煌めく邸が映り込んでいる。
「すごく綺麗です」
「喜んでもらえて良かった」
感激する光希を見て、ジュリアスも、先導する神殿仕えの二人も、嬉しそうにほほえんでいる。
ここでも帯状の頭布を巻いた召使達が、左右に列をなして迎えてくれた。正面玄関の扉が左右に大きく開かれ、光希はそっと足を踏み入れた。
「今日からここが貴方の家です。やっと連れてくることができた……」
ジュリアスは光希の背中に腕を回すと、噛みしめるように小さく呟いた。
「僕、本当にここに住みますか?」
「もちろん」
正面玄関に立つと、優美な弧を描く左右の螺旋階段が視界に飛びこんできた。
美しい装飾の階段を視線で追いかけながら顔をあげると、光の降り注ぐふきぬけの天井が視界いっぱいに広がった。色硝子が陽に透けて、柔らかな光を床に映している。
言葉も忘れて見惚れる光希の背中を、ジュリアスは優しく押した。
「さあ、二階に上がりましょう。部屋に案内します」
螺旋階段を上り、広い廊下を奥まで進むと、飴色の扉をルスタムが開いてくれた。
室内は白を基調とした落ち着いた内装で、天井がとても高く、大きな一面の硝子窓が天井まで伸びていた。
そよ風を感じて視線を彷徨わせると、テラスに続く硝子扉が開いていた。誘われるように外へ出ると、蒼天の空に、豊かな緑、輝くアール川の水面が視界に飛びこんできた。
テラスには心地良い寝椅子に絨緞、鎖紐で吊るされたブランコが設置されていた。
『わーブランコだ』
早速、座ってみた。大人三人が座れそうな横長のブランコには、毛織絨緞が敷かれており、とても座り心地が良い。
「ジュリ」
後ろを振り向いて手招くと、ジュリアスは隣に腰を下ろして腕を回してきた。熱っぽく、こちらを見下ろす。急に甘い空気が流れて、戸惑っているうちに……唇が重なった。
「ん……」
触れるだけのキスは、次第に深くなる。不安定なブランコの上で、落ちないようにジュリアスにしがみついた。
「ずっとこうしたかった……」
甘い、掠れた声に背筋がぞくぞくする。身体を引こうとすると、逃がさないとばかりに、堅牢な腕の中に閉じ込められた。後頭部を丸く包みこまれて、水音の立つ深い口づけが再開される。
「ん……んぅ、ふっ」
キスしながら、身体をゆっくりと倒された。ブランコが揺れて、光希は不安げに青い瞳を覗きこんだ。
「危ないよ……」
「もう少しだけ」
そういいながら、ジュリアスは身をかがめて、熱い舌を光希の首筋に這わせた。
「うわ、駄目! 汗かいてる」
「平気だよ」
「んっ……ジュリってば」
詰襟の留め金に指をかけられ、思わず不埒な手を両手で掴んだ。
「やだ、汗かいてる。お風呂入りたい」
不服そうに光希が呟くと、ジュリアスは身体を起こして、天使のようなほほえみを浮かべた。
「いいですね。一緒に入りましょう」
「あれが私達の家ですよ」
ジュリアスは前方を指して光希に笑みかけた。
「えっ、家? あれが!?」
「はい」
「はいって……家? だって、すごく大きいですよ?」
「そうですか? 二人で住むにはちょうどいいくらいですよ。光希の好きな浴場も中に二つ、中庭に一つ作らせました。気に入ってくれると良いのですが……」
唖然とする光希を見て、ジュリアスにしては浮き足立ったようにはにかんでいる。
完全に想像の範疇を越えている……中庭に風呂?
茫然としながら歩いていると、やがて背の高い針葉樹の並木道を抜けた。視界が晴れて、ようやく邸の全貌が見えた。
「うわぁーっ」
美しい景観に、思わず歓声を上げた。
家だと紹介された邸の正門には、長方形の泉が真っ直ぐ続いており、陽を浴びて煌めく邸が映り込んでいる。
「すごく綺麗です」
「喜んでもらえて良かった」
感激する光希を見て、ジュリアスも、先導する神殿仕えの二人も、嬉しそうにほほえんでいる。
ここでも帯状の頭布を巻いた召使達が、左右に列をなして迎えてくれた。正面玄関の扉が左右に大きく開かれ、光希はそっと足を踏み入れた。
「今日からここが貴方の家です。やっと連れてくることができた……」
ジュリアスは光希の背中に腕を回すと、噛みしめるように小さく呟いた。
「僕、本当にここに住みますか?」
「もちろん」
正面玄関に立つと、優美な弧を描く左右の螺旋階段が視界に飛びこんできた。
美しい装飾の階段を視線で追いかけながら顔をあげると、光の降り注ぐふきぬけの天井が視界いっぱいに広がった。色硝子が陽に透けて、柔らかな光を床に映している。
言葉も忘れて見惚れる光希の背中を、ジュリアスは優しく押した。
「さあ、二階に上がりましょう。部屋に案内します」
螺旋階段を上り、広い廊下を奥まで進むと、飴色の扉をルスタムが開いてくれた。
室内は白を基調とした落ち着いた内装で、天井がとても高く、大きな一面の硝子窓が天井まで伸びていた。
そよ風を感じて視線を彷徨わせると、テラスに続く硝子扉が開いていた。誘われるように外へ出ると、蒼天の空に、豊かな緑、輝くアール川の水面が視界に飛びこんできた。
テラスには心地良い寝椅子に絨緞、鎖紐で吊るされたブランコが設置されていた。
『わーブランコだ』
早速、座ってみた。大人三人が座れそうな横長のブランコには、毛織絨緞が敷かれており、とても座り心地が良い。
「ジュリ」
後ろを振り向いて手招くと、ジュリアスは隣に腰を下ろして腕を回してきた。熱っぽく、こちらを見下ろす。急に甘い空気が流れて、戸惑っているうちに……唇が重なった。
「ん……」
触れるだけのキスは、次第に深くなる。不安定なブランコの上で、落ちないようにジュリアスにしがみついた。
「ずっとこうしたかった……」
甘い、掠れた声に背筋がぞくぞくする。身体を引こうとすると、逃がさないとばかりに、堅牢な腕の中に閉じ込められた。後頭部を丸く包みこまれて、水音の立つ深い口づけが再開される。
「ん……んぅ、ふっ」
キスしながら、身体をゆっくりと倒された。ブランコが揺れて、光希は不安げに青い瞳を覗きこんだ。
「危ないよ……」
「もう少しだけ」
そういいながら、ジュリアスは身をかがめて、熱い舌を光希の首筋に這わせた。
「うわ、駄目! 汗かいてる」
「平気だよ」
「んっ……ジュリってば」
詰襟の留め金に指をかけられ、思わず不埒な手を両手で掴んだ。
「やだ、汗かいてる。お風呂入りたい」
不服そうに光希が呟くと、ジュリアスは身体を起こして、天使のようなほほえみを浮かべた。
「いいですね。一緒に入りましょう」