アッサラーム夜想曲
第1部:あなたは私の運命 - 32 -
「僕、外にいきます。砂漠、天幕、空……見ます。勉強します」
「コーキ、********、******危険です。****ない」
ジュリアスは諭すように光希の肩に手を置いた。光希はその手に自分の手を重ねると、真っ直ぐにジュリアスを見つめた。
「危険……『だとしても』、僕は外にいきます」
「駄目、****ない。天幕の外は***危険**です。*****もう少しだけ待って。*****」
「明日? 明後日?」
「*******……」
「明日? 明後日?」
「コーキ……」
「明日? 明後日?」
「……判りました。外へ出ることは****ない**、ここ*勉強する*****しましょう」
小さなため息をついて、ジュリアスは根負けしたように苦笑を漏らした。勉強と聞いて、光希は瞳を輝かせた。
「勉強? 明日?」
「****」
ジュリアスは指を三本立ててほほえんだ。
「……明日、明日、明日?」
明日という度に指を折って数えると、ジュリアスは肯定するようにほほえんだ。
光希も満面の笑みで頷いた。欲をいえば、自由に天幕の外を歩きたいが、ここが戦場であることは理解している。勉強を見てもらえるだけでも万々歳だ。
交渉成立に達成感も得られた。言葉で苦労する分、時には多少強引でも、伝える努力が必要なのだ。
三日後。
昼食を終えた光希の元を、ジュリアスは訪れた。昼間に訪れるのは初めてのことだ。
これから勉強を見てくれるのかと思いきや、頭に紗をかけさせられ、外へ連れ出された。
天幕から歩いてすぐの、丸い天幕を訪れると、気品のある五十前後の紳士が迎えてくれた。
「こんにちは、******ました。シャイターン、***ロザイン」
知的で優しそうな紳士は、胸に手を当てて優雅に一礼した。
彼も長身で、ここでは一般的な灰銀髪に、淡い青灰色の瞳をしている。
額には青い涙滴 形の石が輝いていた。ジュリアス以外で、額に石を持つ人物を見るのは初めてだ。
「コーキ、****サリヴァン・アリム・シャイターン。*************です。サリヴァン、****私の******、コーキです」
ジュリアスから人を紹介されるのは初めてのことで、光希は興味津々でサリヴァンを見つめた。名前に“シャイターン”が入っているということは、彼はジュリアスの血縁者なのかもしれない。
壁一面の本棚に囲まれた室内といい、学者然とした佇まいといい、もしかして彼が光希の勉強を見てくれるのだろうか?
「*****ロザイン、私はサリヴァン・アリム・シャイターン*****ます」
「こんにちは。僕は光希です。貴方が勉強を?」
「はい、ムーン・シャイターン****ロザイン***、言葉を*****ます」
「ありがとうございます!」
光希は勢いよく頭を下げると、ジュリアスを仰いで嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
ジュリアスは優しい手つきで、光希の黒髪を撫でた。あまり時間がないらしく、光希の額に唇を落とすと、サリヴァンに会釈をして天幕を出ていった。ジャファールは室内に残り、扉前の警備をしている。
「****ロザイン、*****」
サリヴァンは絨緞の上に腰を下ろすと、光希を見つめて隣をぽんぽんと叩いた。誘われるまま近寄り、隣に胡坐を掻いて座る。
彼は、光希の前に大きな本立てを置いて、黄ばみの大きな羊皮紙を広げた。
(地図だ……)
判っていたことだが、光希の知っている世界地図とはまるで違う。
東西に大きな二つの大陸があり、それぞれの中腹あたりから、細長い陸が続いている。架け橋のような細長い陸の周囲には、無数の島々が点在している。見たこともない地形だ。
無言で地図を凝視していると、サリヴァンは掌と同じくらいの大きさの羅針盤を取り出して、地図の上に置いた。縁に彫られた、北と思わしき記号を指でトントンと指し、地図上の同じ記号を差す。
「***は北、***は南……」
サリヴァンは言葉を切って、じっと光希を見つめた。
「東、西。これは大陸、*****は海。海の***に二つの大陸があり、東の大陸をバルヘブ東大陸、西の大陸をバルヘブ西大陸と**ます」
「はい!」
光希は夢中で頷いた。
「****。ここはバルヘブ西大陸の***、スクワド砂漠です」
サリヴァンは地図の上、バルヘブ西大陸の最東端を差した。光希は初めて、自分が地図上のどこにいるのかを理解した。
「コーキ、********、******危険です。****ない」
ジュリアスは諭すように光希の肩に手を置いた。光希はその手に自分の手を重ねると、真っ直ぐにジュリアスを見つめた。
「危険……『だとしても』、僕は外にいきます」
「駄目、****ない。天幕の外は***危険**です。*****もう少しだけ待って。*****」
「明日? 明後日?」
「*******……」
「明日? 明後日?」
「コーキ……」
「明日? 明後日?」
「……判りました。外へ出ることは****ない**、ここ*勉強する*****しましょう」
小さなため息をついて、ジュリアスは根負けしたように苦笑を漏らした。勉強と聞いて、光希は瞳を輝かせた。
「勉強? 明日?」
「****」
ジュリアスは指を三本立ててほほえんだ。
「……明日、明日、明日?」
明日という度に指を折って数えると、ジュリアスは肯定するようにほほえんだ。
光希も満面の笑みで頷いた。欲をいえば、自由に天幕の外を歩きたいが、ここが戦場であることは理解している。勉強を見てもらえるだけでも万々歳だ。
交渉成立に達成感も得られた。言葉で苦労する分、時には多少強引でも、伝える努力が必要なのだ。
三日後。
昼食を終えた光希の元を、ジュリアスは訪れた。昼間に訪れるのは初めてのことだ。
これから勉強を見てくれるのかと思いきや、頭に紗をかけさせられ、外へ連れ出された。
天幕から歩いてすぐの、丸い天幕を訪れると、気品のある五十前後の紳士が迎えてくれた。
「こんにちは、******ました。シャイターン、***ロザイン」
知的で優しそうな紳士は、胸に手を当てて優雅に一礼した。
彼も長身で、ここでは一般的な灰銀髪に、淡い青灰色の瞳をしている。
額には青い
「コーキ、****サリヴァン・アリム・シャイターン。*************です。サリヴァン、****私の******、コーキです」
ジュリアスから人を紹介されるのは初めてのことで、光希は興味津々でサリヴァンを見つめた。名前に“シャイターン”が入っているということは、彼はジュリアスの血縁者なのかもしれない。
壁一面の本棚に囲まれた室内といい、学者然とした佇まいといい、もしかして彼が光希の勉強を見てくれるのだろうか?
「*****ロザイン、私はサリヴァン・アリム・シャイターン*****ます」
「こんにちは。僕は光希です。貴方が勉強を?」
「はい、ムーン・シャイターン****ロザイン***、言葉を*****ます」
「ありがとうございます!」
光希は勢いよく頭を下げると、ジュリアスを仰いで嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
ジュリアスは優しい手つきで、光希の黒髪を撫でた。あまり時間がないらしく、光希の額に唇を落とすと、サリヴァンに会釈をして天幕を出ていった。ジャファールは室内に残り、扉前の警備をしている。
「****ロザイン、*****」
サリヴァンは絨緞の上に腰を下ろすと、光希を見つめて隣をぽんぽんと叩いた。誘われるまま近寄り、隣に胡坐を掻いて座る。
彼は、光希の前に大きな本立てを置いて、黄ばみの大きな羊皮紙を広げた。
(地図だ……)
判っていたことだが、光希の知っている世界地図とはまるで違う。
東西に大きな二つの大陸があり、それぞれの中腹あたりから、細長い陸が続いている。架け橋のような細長い陸の周囲には、無数の島々が点在している。見たこともない地形だ。
無言で地図を凝視していると、サリヴァンは掌と同じくらいの大きさの羅針盤を取り出して、地図の上に置いた。縁に彫られた、北と思わしき記号を指でトントンと指し、地図上の同じ記号を差す。
「***は北、***は南……」
サリヴァンは言葉を切って、じっと光希を見つめた。
「東、西。これは大陸、*****は海。海の***に二つの大陸があり、東の大陸をバルヘブ東大陸、西の大陸をバルヘブ西大陸と**ます」
「はい!」
光希は夢中で頷いた。
「****。ここはバルヘブ西大陸の***、スクワド砂漠です」
サリヴァンは地図の上、バルヘブ西大陸の最東端を差した。光希は初めて、自分が地図上のどこにいるのかを理解した。