アッサラーム夜想曲

第1部:あなたは私の運命 - 30 -

 湯上がりのジュリアスは壮絶に色っぽかった。
 淡い褐色の肌は上気し、しとどに濡れた金髪から、滴が伝う。完璧な裸体を惜しげもなくさらし、寝椅子の上で体育座りをする光希の隣に堂々と腰かけた。

「……服は?」

 隣を直視できず、光希は前を向いたまま問いかけた。くすりと笑う気配がする。
 ジュリアスは身体を強張らせる光希を抱き寄せると、頬に手を伸ばして上向かせた。
 正視できずに眼を瞑ると、瞼に口づけられた。瞼、頬、鼻、それから唇……触れるだけのキスが顔中に落ちる。
 耐え切れずに顔を背けると、今度は耳朶を食まれた。濡れた音が鼓膜を叩いて、心臓が破裂しそうなほど脈打った。

「離してください」

「いいえ****、*********」

 光希は遠慮がちに、ジュリアスの素肌に手を伸ばした。遠ざけようと触れた身体は、しっとりと濡れていて、驚くほど熱い。二人の間にほんの少し距離が生まれても、すぐに背中に腕を回されて力強く抱きしめられた。
 見下ろす青い瞳には、熱が灯っている。
 ジュリアスが好きだ。好きだけど……どう考えても、光希が受け入れる側だろう。痛い思いはしたくない。知識は無きに等しいのに、無事に彼を受け入れられるのだろうか?
 恐れおののく光希を、ジュリアスは無言で見下ろしている。眼を見つめたまま、顔を傾けて唇を合わせた。酒精の味が舌に広がる――さっと頭が冷えた。

『待て待て、ちょっと待て。ジュリ、酔ってるだろ? 後で後悔してもシャレになんねーぞ!』

「******」

 顔を背けても、追いかけるようにジュリアスは唇を塞いだ。

「ん……っ、離してッ」

「****!」

 厭わしげに光希が叫べば、ジュリアスも強い口調で応じた。勁烈けいれつな眼差しで光希を射抜いて、奪うように唇を塞ぐ。
 覆いかぶさる身体が怖くて、本気で暴れたが、敵わない。鋼のような腕で光希を押さえつけ、角度を変えては、何度も舌を吸い上げる。

「――っ、は、んぅ……っ!」

 ようやく唇が離れると、すっかり息が上がっていた。横抱きにされて、寝台におろされる。光希は上目遣いに見つめた。

「はぁ、はぁ……、ごめんなさい、ジュリ……」

 もう、逃げてしまいたい。許しを請う光希を無言で見下ろし、ジュリアスは顔を下げると、素肌に唇で触れた。
 唇は肌の上をどこまでも滑り、胸まで下りると、乳首を柔く挟み込んだ。先端を舌でねぶりながら、もう片方を指先にいらう。

「は……ぅ、あ……っ、やだ……っ!」

 左右の乳首を丹念に愛されるうちに、混乱と羞恥が涙となって瞳から溢れた。耐えられないと思いながら、同時に気持ちいいと感じている……
 心と身体がばらばらに機能しているようだ。
 逃げたい。逃げられない。熱の浮いた青い瞳に、痴態を見下ろされている。
 光希は涙を零しながら顔を両腕で隠した。ジュリアスは叱るように、光希の腕をぐいっと引き剥がす。

『痛……っ』

 苦痛の表情を浮かべると、手加減するように掴んだ手から力を抜いた。

「ごめんね****」

『もうやめて、やめてくれよ……』

 哀願する光希を見下ろし、ジュリアスは口元に微苦笑を浮かべた。混乱を宥めるように、額や頬に優しく口づけながら、太ももを撫で上げる。
 尻を丸く包みこむように手を滑らせ、身体に纏う絹を全て取り払うと、寝台の下に放った。
口では嫌だといっていても、光希の中心は緩く勃ち上がっていた。薄い紗の前垂れを押し上げていると判る。ジュリアスはそこに視線を落とすと、顔を寄せて布ごと口に含んだ。
 強烈な快楽が走る――
 弓なりに仰け反る光希を押さえつけ、なおも舌を這わせ、濡れた染みを広げていく。

『よせ……よぉっ! ん……っ』

「*****……?」

 ジュリアスは口を離すと、屹立をつぅっと撫で上げた。堪らずに声を上げると、前垂れをはぎ取り、形の良い唇で直に咥えこんだ。

「ああっ、あ……あぁ――ッ!」

 熱い咥内に含まれると、頭の中が真っ白になった。えもいわれぬ快楽に支配されて、何も考えられない。
 根元を指で愛撫されながら、舌で何度も擦られる。喉の奥まで咥えこまれて、先端を強く吸われると、堪えきれずに白濁を噴き上げた。

「ジュリッ! ご、ごめんなさいっ!」

 我に返り、ジュリアスを押しのけようとするが、腰を抱きこまれて離してくれない。喉を鳴らす音が、鼓膜を叩いた。

(えぇッ、飲んだ!?)

 吐いた精を、嚥下された。
 信じれない思いで、肩を上下させていると、ジュリアスは尻のすぼまりに、香油で濡らした指を滑らせた。
 慄いたものの、大した抵抗もできないまま、指を挿し入れられた。そこはすんなりと長い指を呑み込んでゆく。
 痛みや嫌悪は感じない……
 けれど、入り口を広げるように指が動いて、終いには三本の指が中を探るように蠢くと、この先の展開に恐怖が芽生えた。

「ふっ……、くぅ、うぅ……っ」

「シィー……大丈夫***」

 涙する光希に気づいて、ジュリアスはあやすように肌に触れた。光希の混乱が落ち着いてくると、優しくうつぶせにした。
 されるがまま、光希は頭を枕に押し当てて、尻を高く上げた。
 やはり怖い。ジュリアスは、震える背中にいくつもキスを落とし、尻の割れ目に顔を埋めて……舌を這わせた。
 羞恥のあまり、顔から火が出そうだ。尖らせた舌で孔を抜き差しされると、未知の快感を堪えるのに必死になった。
 後ろを解されながら、前をいじられる。先端から、射精の残滓ざんしが垂れて太ももを濡らしていく……

「あ、あ、あ……っ」

 濡れた水音が沈黙を穿うがつ。尻孔から舌が抜ける頃には、身体中の力が抜けきっていた。
 仰向けに転がされ、視線を合わせながら股関節が引きつるくらい脚を大きく開かされた。膝裏に手を入れられて、膝を深く折り曲げられると、浮いた腰の下に丸いクッションが挟みこまれた。
 恐い――
 顔を倒して、あらゆる恐怖を堪えていると、背けた頬に唇で触れられた。

「コーキ*****」

 蕩けた尻孔に、熱い亀頭を押し当てられる。
 頂上で止まったジェットコースターに乗っているみたい。
 息をつめて、煩いくらい心臓の音が聞こえる。
 捕まっていないと、まっさかさま――

「ああ……っ!」

 熱い肉塊が、ぐぐっ……と中に押し入ってきた。圧迫感に息が止まりそうだ。潤んだ視界の先で、ジュリアスが見下ろしている。
 様子を見ながら全てを納めると、ジュリアスはゆったりと腰を揺らし始めた。
 始めは恐怖しかなかったが、たゆたうように揺すられるうちに、じわじわと快楽が身体に拡がり出した。
 優しい挿入をじれったく感じる。刺激が欲しくて腰を揺らすと、視線が絡んだ。

「****」

 途端に、貪るように唇を奪われた。最奥までねじ込んだ猛りを、引き抜かれ、粘膜を擦られる刺激に腰に甘い痺れが走る。

「はぁ、はぁ……、ああ……っ」

 限界まで抜いては、ゆっくり光希の中に入ってくる。ジュリアスは慎重に腰を打ちつけた。光希が快感を拾って震えると、同じ場所を何度も擦りあげる。
 突き上げは早くなり、腰の合間から聞くに堪えない粘着な水音が響いた。

「んっ、あ……っ、んっ、んぅ――!」

「コーキ*****」

 意識は曖昧模糊にぼやけていく。
 昇りつめる度に吐精は減ったが、快楽は増して、最後は痙攣けいれんが止まらなくなった。
 最奥に熱い飛沫ひまつが注がれるのを感じると、殆ど気絶するように眠りに落ちた。