HALEGAIA

7章:楽園コペリオン2 - 10 -

 約束の日曜日。
 陽一はミラと共に楽園コペリオンのビーチで遊んでいた。
 魔界ヘイルガイアの陽射しがさんと降り注ぐなか、エメラルドグリーンの海に飛びこみ、泳いで、もぐって、鯨に乗ったり、ビーチバレーを楽しんだりした。
 疲れたら椰子の木陰で一休み。優雅なラタンの寝台に横になり、打ち寄せる波の音を聴きながら、ココナッツをくりぬいた器でジュースを飲んでいる。
 遠く、白い雲の合間を、悠々と鯨が泳いでいる。魔界ヘイルガイアの鯨は、空も海も森も泳ぐのだ。
「そろそろ泳ぎにいく?」
 体力の回復してきた陽一は、目をきらきらさせて、隣で寝そべるミラを見た。
 無邪気でかわいい。ミラは微笑しながら、そろそろ陽一を誘惑したくなった。
「それより陽一、魔界ヘイルガイア式のマッサージをしてあげますよ」
魔界ヘイルガイア式?」
「全身の筋肉をほぐして、血流をよくするマッサージです。気持ちいいですよ。さぁどうぞ、うつ伏せになって」
 いわれるがまま、陽一は体勢を変えようとして……腰に違和感を覚えた。ぱっとしたを見ると、トロピカル柄のハーフパンツから、同じ柄の小さな紐パンに変わっていた。
「えっ、何これ?」
 水着と呼ぶにはあまりに卑猥だ。布面積が小さすぎて、尻が半分見えてしまっている。
魔界ヘイルガイア式マッサージの正装です」
「はぁ?」
「ほらほら、うつぶせになって♪」
 強引にミラに転がされ、陽一は仕方なくうつ伏せになった。尻がまる見えで落ち着かないが、左右を見る限り人はいない。
「見られたら恥ずかしんだけど」
「心配いりませんよ。今日はふたりきりですから」
 ミラは掌にココナッツオイルをのばすと、陽一の背中に押し当てた。甘みのある、ふくよかで芳醇な香り、頭の芯をとろけさせるような香りに包まれた。
「いい匂い……」
 陽一はうっとりして、目を閉じた。
 アロマのしたたる掌が、肩から腕にかけて心地よい圧をかけながら、ゆっくりと移動していく。日頃から整体には通っているが、アロマのマッサージは初めてだ。想像以上の心地よさである。
「不思議ですね。こんな華奢な肉体のどこに、あれほどの意思と走力を秘めているのでしょう」
 背中を揉みほぐしながら、ミラがいった。
「そこまで華奢じゃないだろー?」
 これでも陸上で鍛えているのだ。全身にバランスよく筋肉はついている。身長も一七〇センチを超えているし、最近さらに伸びている気がする。
「僕から見れば人間は、か弱くて儚い生き物です」
「そりゃ悪魔と比べたらさぁ……」
 ミラはくすりと微笑したが、黙ってマッサージを続けた。
 ココナッツの甘い香りと、陶然とした気分があわさり、なんだか夢を見ているような気がしてくる。
 心地よい微風、優しい木漏れ日の光、波の音。
 自然の賛歌に浸されながら、指と掌をつかって優しく丁寧にアロマを塗り拡げられるのは、まるで極上の絹に全身を撫でられているように感じられた。甘い恍惚の気持ちが血管をめぐり、躰のうちから温まっていく。
 波の音……
 風の音……
 波の音……
 快い指圧のとりこになって、そのままとろりとした眠りに引きこまれかけたが、大腿の内側に指が触れると、ぎくりとした。
「もう少し、脚を開けますか? 肩幅くらいに」
 ミラは手を止めて、そっと訊ねた。陽一がそろそろと脚を開くと、掌がもぐりこみ、大腿から尻のしたまで刻みこむように指圧がかけられた。決して性的な触れ方ではないのに、じんと股間に響いた。
(ぅわ、ヤバいかも……っ)
 身を強張らせたのが伝わったのか、ミラは陽一の顔をのぞきこんだ。
「気持ちいい?」
 悪戯めいた笑顔が生意気で、たまらなく官能的だ。
 ミラは、視線をそらして頷く陽一の頬にちゅっとキスをすると、マッサージを再開した。掌を脚首まですべらせ、足裏、指のひとつひとつまで、丁寧に揉みほぐしていく。
(気持ちいぃ……)
 指の合間を指圧されると、甘い痺れを感じた。
 つま先までアロマに塗れると、掌はふたたび脚頸、ふくらはぎをたどり、太腿を撫であげた。尻のつけねまで、ぐっぐっと指圧していき、大胆に尻を揉みしだかれた。
「んっ?」
 思わず陽一は振り向こうとしたが、肩を押さえられた。
「臀部もマッサージしますから、そのまま寝ていて」
 真面目な口調でいわれたので、陽一は疑問に思いつつも、姿勢を元に戻した。力を抜いて身を任せる。
 けれども、掌が大きく円を描くように尻を揉みこみ、小さな紐パンが尻にくいこむと、躰の奥処おくかがとろりと潤う錯覚がした。
「っ、ふぅ」
 今度こそ振り向くと、目があった。菫色の瞳に、ありありと欲望が顕れている。
「……気持ちいい?」
 ぞくりとした震えを覚えながら陽一は頷いていた。
「今度は仰向けになって」
 既にマッサージのとりこになっていたが、その指示には躊躇いを覚えた。股間がきざしてしまっているのだ。仰向けになれば、小さな布を押しあげている性器がまる見えになってしまう。
「……あの……」
 もじもじしていると、ミラは陽一の腕に触れた。
「見せて」
 魔性の囁きだった。
 陽一は催眠にかけられたように躰を反転させた。小さな布のなかで膨らんだ股間が窮屈そうにしている。亀頭は見えてしまっているが、ミラは指摘しなかった。
 魅惑のアロマがとろりと胸に垂らされると、陽一は期待と羞恥を同時に噛み締めた。目をとじていると、指先がこめかみに触れてびくっとした。
「大丈夫、力を抜いて」
 いわれた通りにする。
 ミラは、陽一の上半身を揉みほぐし始めた。こめかみから首筋、鎖骨と肩、両腕を撫でおろし、手首から掌……指先まで、アロマに濡れた掌が優しく丁寧に行き来し、心地よくて思わず手脚が伸びる。
 一瞬、張り詰めている股間のことを忘れかけたが、胸を揉みしだくように撫でられると、再び緊張を覚えた。
「肌がピンク色になっている、かわいい」
「んっ……」
 ミラは寝台にあがり、戸惑う陽一に覆いかぶさった。いつの間にか、彼の全身もアロマに濡れていた。何も身につけておらず、剥きだしの股間が硬く滾ってる。
 びっくりして、ぱっと視線をあげた陽一は、くちびるを塞がれた。
「っ、ん……」
 くちびるが重なると、躰と同じように心も溶けあった。ミラの舌が少しずつ陽一のくちびるを突き、下唇を、尖ったもので甘く食まれた。そっと開いて受け入れると、舌を淫らに動かしてくちのなかを探り、陽一の刻印スティグマを舌でなぞった。
「ぁ、ふっ……ン」
 気持ちよすぎて、脳が蕩けそうになる。
 ミラがくちびるを引くと、陽一の方から追いかけた。心と躰をとろかす官能の味が、舌に拡がる。ミラはしばらく陽一の好きにさせていたが、じれったくなったのか、すぐに激しいキスに変えて、舌を何度も陽一のなかにいれ、腰を強く押しつけてきた。漲る股間を、陽一のふっくらもりあがった睾丸に押しつけてくる。
「んっ、ン、ふっ」
 もどかしい熱が堪らない。陽一も夢中になって、キスの合間にあえぎながら互いの躰をこすりあわせた。
 くちびるをほどいたとき、ふたりとも呼吸は荒く、アロマに浸された肌に汗が浮かんでいた。じっとしているだけで、甘い疼きが、腹の底から湧きあがってくる。
「……続きをしましょうか」
 ミラは膝立ちになり、アロマを両手に垂らし、陽一の胸にはわせた。硬く主張する乳首に指をかけると、陽一はのけぞって、ぱっと目を開けた。
「力を抜いて」
 ミラは囁くと、赤く腫れたくちびるに触れるだけのキスを落とした。優しいキスで陽一を落ち着かせながら、胸とわきの骨を優しく撫でた。ぷっくりした赤い蕾の片方をくちに含み、舌で円を描いてから、強く吸いあげた。
「ふぁっ、ン」
 躰に電流がはしったみたいに感じた。
 ミラは、痙攣する躰を自分の躰で押さえつけて、愛撫をつづけた。
 濡れた舌が乳首にからみつき、たえず刺激を与えてくる。繊細でいて激しい刺激に、躰の奥が濡れていく――絶頂の予感に陽一はおののき、ミラを押しのけようと全身を強張らせた。見悶えして腰を振り、せがむように昂りを押しつた。股間への圧迫が増して、どうしようもないほど疼いている。
「ミラぁ」
 ついに甘えた声でねだると、ミラは濡れて肌にはりついた紐パンのなかに両手をもぐらせた。荒々しく尻を揉みしだき、昂りを掴んだ。
「ぁあッ!」
 陽一は喉をさらして喘いだ。
 不埒な手は数秒ほど動きを止めた後、優しく性器を擦りあげ、それから布の外へでていった。
「……かわいいね。先っぽが見えていますよ」
 やっぱりからかわれた。真っ赤になる陽一を、ミラは満足げに眺めおろし、くるくると先端を親指で優しく撫でた。
「ンッ、ふぅ……」
 堪らず陽一はミラの手に股間を押しつけた。脈打つ性器に触れらるたびに、信じがたいほど甘美な感覚に全身を貫かれる。
 もう殆ど理性は溶けていたが、紐をほどこうとする手を、陽一は反射的に掴んだ。
「……ここで、するの?」
「誰も見ていませんよ」
 ミラがいった。
「でも……」
「大丈夫、僕と陽一のふたりきりですよ。誰にも邪魔されないから……」
 とうとう、紐がほどかれた。
 素肌に張りついていた布が、めくられ、はらりと砂浜に落ちた。アロマに濡れて光る勃起に、あまりにも熱い視線が注がれたので、陽一は恥じらい、膝をたてようとした。
「脚を開いて」
 閉じようとした膝頭に手をかけられた。
「なかもマッサージしてあげるから……開いて。ね?」
 甘く命じられると抗うことは不可能で、おずおずと脚を広げた。ねっとりした熱い視線がそこに落ちて、全身が燃えあがるのを感じた。
「綺麗ですよ」
 薔薇色に染まった肌を見て、ミラはうっとりしたように囁いた。
 ミラは陽一の脚をもちあげ、アロマに濡れた指先で秘めた蕾に触れた。固く閉じたそこを優しくマッサージして、柔らかくしてからつぷりと指をもぐらせた。
「綺麗にしてあげる」
 さすがに恥ずかしくて、陽一は黙っていた。下腹部がじんわりと熱くなるのを感じる……悪魔による整腸の秘儀だ。繋がるための隘路あいろを、綺麗にされてしまっている。羞恥をじっと堪えていると、終わったよ、と合図するように敏感な媚肉を指でとんとんと優しく押された。
「っ、ふ……」
 思わず息をつめる陽一を見て、ミラはくすりと笑った。
「ここ、陽一の好きなところ……いつもより感じているでしょう? アロマは気にいった?」
「うん……」
 恍惚のなかで陽一は頷いた。長い指が、浅く深くなかを探り、抜き差しされるたびに淫らな水音を立てる。
「……いい匂い。美味しそう……」
 ミラは股間に顔を沈めると、大腿を両手で持ちあげて、ねっとりと蕾を舐めあげた。尖らせた舌先を、蕾のなかへもぐらせ、丁寧に抜きさしし始めた。
「ぁッ……ん……ふぁ……」
 淫らで官能的で、支配的であり、思い遣りのある愛撫に、陽一はとろとろに蕩けた。もうミラのことしか考えられない。早くひとつになりたい――
 ミラは顔をあげると、陽一の膝裏に手をいれ、覆いかぶさるようにして体重をかけた。
 ぴとっ……ふくれあがった先端が、ひくつく蕾にあてがわされた。痛いほど股間が滾っている。破裂しそうな鼓動を全身で感じながら、貫かれた。
「あぁッ!」
 アロマに濡れた性器が、ぬっぷぅ! と奥まで侵入して、いきなり絶頂に襲われた。勢いよく腹を打った勃起が、ぴゅっ、ぴゅっと精液を噴いている。
「陽一……」
 ミラは動きを止めて、陽一の腹を優しく撫でた。精液を指にすくいとり、恍惚の表情でそれを舐めながら、艶めかしく腰を遣い始めた。最初はゆっくりと、打ち寄せる波の音にあわせるように、押しては引いて、押しては引いて……優しい挿入を繰り返した。
「気持ちいいね……」
「……うん」
 陽一は素直に認めた。絶頂の余韻が少しずつ引いていき、次の波が始まろうとしている。じれったい快感に煽られて、大きな波が、もっともっと大きな波がやってくる――
 期待に応えるように、ミラは律動を速めていった。陽一はたくましい腕に手をおいて、烈しく打ちつけられる腰と、悪魔の本能と欲望を受けとめ、嬌声をあげた。
「あぅ、んッ、ふ、ぁあッ!」
 炎のような肢体に押さえつけられ、容赦なく攻めたてられた。あられもなく脚を広げ、貫かれる悦び。悪魔の滴る美しさに魅了された。全身を委ねがら、頭をゆっくりと左右に動かしながら、
「ぁ、ふ……イく、イくッ! あ、ぁッ!!」
 脳が白くけて、突き抜けるように絶頂に襲われた。ミラは陽一の腰を掴み、さらに突きあげた。痙攣がきて、最後の一滴をしぼりだすまで、しっかりと自分に繋ぎとめた。
 とろり。躰の奥に、けだるい熱が拡がっていく……
 束の間の無力感に襲われ、息を喘がせる陽一に、ミラはそっとくちびるを重ねた。
「愛している、陽一」
 優しい声で、柔らかいくちびるだった。トットットッ……少し速いミラの鼓動が聴こえる。
「俺も……好き」
 恥ずかしくて、愛しているとはいえなかった。だけど同じくらい速い陽一の鼓動を、きっとミラも感じているはずだ。
 美しく優しい愛の余韻は、間もなくミラが陽一を背中から抱きしめることで終わった。
「おい……っ」
 肩越しに振り向いた陽一に、ミラはちゅっとキスをして、ぴったりと腰を押しつけた。白濁をこぼしている孔に、ぐちゅんっと挿入する。
「や、またっ?」
 離れようともがく陽一を抱きしめたまま、ミラは頸筋、肩と、くちびるの触れるところにキスを落とした。
「何度でもしたいよ」
 さわやかな風に吹かれながら、淫靡な水音がふたりの間から再び立ち始めた。性器を扱かれながら突きあげられ、陽一はすぐに嬌声をあげた。
「あぁッ!」
 やがて寝転んだまま射精し、なかに吐精された。それで終わりとはならず、今度は後ろから四つん這いの姿勢で貫かれた。つんと尖った胸を弄られ、柔らかくなった性器を握りこまれ、ぱんっぱんっと淫らな音を立てながら、陽一を揺さぶった。もう腕で躰を支える力もなく、上半身は寝台に突っ伏している。マッサージで癒されるはずが、疲労困憊しているのはなぜだ。
「もぅ、無理……っ」
 動けない陽一をミラは抱きあげ、裸のまま、波の打ち寄せる砂浜に寝かせた。
「躰が火照っているから、少し冷まそうね」
「えぇ……」
 ぎょっとする陽一にミラは覆いかぶさり、膝をもちあげた。背中に濡れた砂の感触がする。うちよせる波に気をとられていると、あっという間に挿入され、突きあげられた。
「あぅッ、ちょ、ミラ、恥ずかしいよ!」
「誰も見ていないってば。ふたりきりだから、ねっ?」
 ミラは上機嫌だ。普段よりテンションが高い。最近は陽一が陸上に集中していたから、ずっと我慢していたのかもしれない。
(だからって、ヤリすぎだろ~……なにもビーチでしなくたって……)
 涼しげな打ち寄せる波の音に、ぱんっぱんっと腰のぶつかる淫らなが音がいりまじる。
 間もなく陽一も悦楽に浸されたが、波打ち際の行為は想像以上に体力を削られた。愛撫されすぎて赤く腫れた性器は、ミラの腰遣いにあわせて揺れるだけになっている。乳首も舌も、吸われ過ぎてじんじんしている。
(あ、ヤバい……)
 揺さぶられながら、陽一は意識が遠のくのを感じた。
「……陽一?」
 吐精したミラは、ようやく陽一がぐったりしていることに気がついた。慌てて抱き起こすと、両目は硬く閉じられ、意識は落ちている。
「しまった、やり過ぎた」
 しばらく禁欲と忍従の日々だったので、箍が外れてしまった。ずっとこうしたいと思っていたのだ。
(ごめんね)
 くちびるから癒しの精気を与えながら、ミラは少しばかり反省した。
 しかしアロママッサージは良かった。陽一もいつもに増して積極的で、とろとろに蕩けて……最高だった。
 またやろう――性懲りもなく考えるミラだった。