HALEGAIA

6章:悪魔トランス - 10 -

 広々としたリビング。白木のテーブルの真ん中に置かれているカラフのなかの赤ワイン。大きな窓の向こうに、エメラルドグリーンの海が広がっている。
 もう見慣れた、ミラの別荘だ。
「なんで?」
 陽一は戸惑った顔でミラを見た。熱を灯した瞳に射すくめられて、ドキリとする。
「頑張ったご褒美をください」
「今かよ? まだ文化祭やってるのに」
 出口を探すように視線を彷徨わせる陽一の頬を、ミラはするりと掌で撫でて目をあわせてきた。
「バンド演奏は終わりましたよ。もういいでしょう? 毎晩毎晩、健全にバンド練習ばかりして、本当に不健全でした。悪魔に我慢を強いるなんて酷い。陽一は極悪人だと思います」
「えぇ!? いや、だってラストスパートだったし」
 狼狽える陽一に、ミラは妖艶な笑みを向けた。
「ねぇ、陽一。ご褒美をちょうだい?」
 誘惑に搦め捕られて、陽一は黙りこむ。プレーヤーから高らかに流れる、ベートーヴェンの田園交響楽の調べが際立って聴こえた。
「……明日じゃだめ? 部活の後なら」
 おずおずと、上目遣いにミラを見ると、強い視線が返された。
「だめ。この間“この埋め合わせはする”って約束しましたよね。今、埋めてください。僕も陽一に埋めるから♡」
 お姫様抱っこで運ばれそうになり、陽一は慌ててミラの頭に手を伸ばした。ぽんぽんと艶々の黒髪を撫でる。
「ミラ、えらい! よく頑張りました! やるときは、やる子。やればできる子!!」
 ミラは歩みを止めてじっと陽一を見つめた。
「……そうだよ、陽一のために頑張ったんだ。だからご褒美がほしい。陽一は? 僕が欲しくないの?」
 熱情のこもった声と視線に、心臓がドクンと鳴った。
 腕のなかで硬直している陽一を、ミラはすたすたと寝室まで運び、ベッドのうえに丁寧におろした。靴を脱がせて、自分も脱ぎ捨て、当然のように乗りあげてくる。
「陽一がほしい」
 ミラの雰囲気がかわった。
 焔のようなオーラが彼を包みこむ。獲物を見るような、強い眼差しに陽一は怯んだ。腕を伸ばして、硬い胸を押し返そうとしたが、弱弱しい抵抗でしかなく、美しい顔がゆっくり近づいてくる。肌からたちのぼる微熱を感じた瞬間、くちびるが重なった。感触を楽しむように表面をこすりあわせ、押し当て、軽く引っ張るように優しく吸われると、ぞくっとするような官能が躰の芯を貫いた。
「ん、ふぅ……っ」
 じゅっとくちびるを吸ってから、ミラは少し顔を引いた。恐る恐る目をあわせると、菫色の瞳は、蜂蜜をとかしたみたいに甘く煌めいていた。
「好きだよ」
 愛しさ、くすっぐたいような、嬉しいという気持ちがこみあげて、陽一はくちびるがむずむずするのを感じた。彼の真心に応えてあげたかった。
「……俺も好き」
 嬉しそうに、幸せそうに、ミラは笑った。愛おしげに陽一の頬を撫で、ちゅっとかわいいキスをする。少し顔を離して、ふたたび迫ってくる。その前に、陽一はミラのくちびるに指を押し当てた。
「……友達じゃくて、恋愛の好き、だから」
 念を押すと、ミラはくすぐったそうに笑った。ちゅっと人差し指にキスをして、
「かわいいなぁ、もう……僕も宇宙で一番、骨と肉体と魂まで、永劫に愛していますよ、陽一」
 重すぎる悪魔の愛の告白に、陽一は頸からうえが燃えるように熱くなった。病んでいるといっても過言ではないのに、嬉しい!! という迸るような歓喜を感じてしまうのだから重症だ。
「っ、じゃ……その……つ、きあう?」
 緊張して声が震えた。視線は泳ぐし、心臓は破裂しそうなほど動悸している。想われていると知っていても、告白とはこれほど勇気がいるものなのかとおののいていると、ぎゅっと抱きしめられた。
「ああ、もぉかわいいっ! つきあう、陽一とつきあいます。もう絶対に離さない。陽一の全部がほしい……っ」
 激情に駆られたみたいにミラは陽一のくちびるを奪い、何度もキスをしながら陽一の制服、ネクタイを緩めてシャツを脱がせた。ベルトにかけられた手を、陽一は焦って掴んだ。
「待って、シャワー」
「待たない」
 菫色の瞳は爛と光り、頭部には二本の雄々しい角が突きでて、悪魔の片鱗が顕れている。
 抗いようのない力で乱暴にベルトをはずされ、あっという間に下着ごと制服を脱がされた。
「あっ!」
 思わず躰を丸めようとすると、両腕をシーツに縫い留められた。
「待って! 汗かいてるから!!」
「いい匂い……」
 ミラは妖艶な視線で陽一をベッドに縛りつけた。緊張を煽るように、ゆっくりとした動作でジャケットを脱いでネクタイをゆるめると、シャツを脱いで、美しい上半身を顕にする。ベルトを緩めてスラックスを脱ぐと、硬く屹立した性器が灰色のボクサーパンツを押しあげ、先端を濡らしている様が見てとれた。
 知らず、陽一の喉が鳴る。
 ミラは艶めかしい仕草で下着を脱ぐと、見せつけるように勃起を手で掴み、何度か扱いてみせた。
「はぁ、すっごく興奮する……早く陽一に挿れたい。気持ちいいところをいっぱい突いてあげる。とろとろにしてあげるからね」
 そういって陽一の頸筋に顔をうずめると、べろぉっと舐めあげた。びくびくと震える陽一の反応を愉しむように、柔らかいところを食んで、吸いついてくる。
「ん……はぁっ」
 くちびるに触れられたところが燃えるように熱い。時折強く吸われると、甘美な痛みが腰にまで響いた。鎖骨にいくつも啄むようなキスをおとして、ゆっくり顔をさげていき……胸の尖りへと近づいていく。
 期待と緊張と羞恥と、いろんな気持ちが綯交ぜになって、陽一は顔を横に倒した。見ていられない――乳首を優しく指で摘まれた瞬間、喉を仰け反らせた。
「んっ、ぁ、あぁ」
 片方を指でこよられながら、もう片方をくちに含んでねぶられる。熱く濡れた舌に愛撫されて、中心がぐっと昂るのを感じた。ミラも硬く濡れた下半身を押しつけてくる。のしかかる男の重み、官能の匂いに、頭がくらくらする。
「美味しい。陽一の乳首、かわいい……ん……ずっと舐めていたい……ミルクがでるまで」
「でねぇよっ……ふぁっ、ン!」
 じゅっと吸われて、陽一は胸を差しだすように仰け反った。舐めまわされ、美味しいといわれながら何度も吸いあげられると、ほんとうに授乳しているような気がしてくる。少し怖くなって、ミラの腕を掴んで力をこめるが、ミラはやめようとしない。乳首からくちを離したと思ったら、もう片方の乳首をくちに含んだ。
「っ、ミラ、あんま吸うなよ……っ」
「んー? ……美味しいね、陽一。ん……かわいいよ、陽一の乳首。はぁ……ちゅ……ずっと舐めたかった。いつも、汗を光らせながら、ン、シャツを押しあげる乳首が煽情的すぎて、衝動を堪えるのが大変だった」
 ミラは恍惚とした表情で、身もだえる陽一を押さえつけながら、ちゅぱちゅぱっと乳首をしゃぶる。
 ――彼の視線に気づいていた。部活やジョギングしているとき、布をわずかに押しあげる乳首に、舐めるような視線を感じるようになってから、そこが敏感になってしまった。色の薄いTシャツは着るのをやめたが、熱視線は変わらなかった。居心地が悪いと思う反面、欲望の対象にされていることを強く意識させられて、躰が熱くなることに苦慮していた。
 陽一だって健全な男子高校生だ。性欲くらいある。ミラに、触れたいと思う。胸に両掌を這わせると、そうしやすいように、ミラは少し身を起こした。
 引き締まった肢体。無駄な脂肪はいっさいない、鍛えぬかれた、完璧な肢体。しっとりと筋肉をまとい、胎は引き締まり横に筋が入っている。
 男の肌に欲望など抱いた試しがないが、ミラに限っては別だった。天鵞絨ベルベッドのように滑らかな肌に桜色の乳首が固く際立っている。そこを舐めてみたいと思っていると、ミラは陽一を抱き起して、対面座位の姿勢をとった。
「キスをして」
 欲にかげった菫色の瞳に命じられ、陽一はぞくぞくとした快感が腰に響くのを感じた。夢中でキスをしながら、白い素肌からたちのぼる熱と香りに、頭がくらくらする。痛いほどミラを意識している。これが初めての経験ではないのに、童貞に戻ったみたいに心臓がバクバクしている。
「ん、んっ」
 息を喘がせると、ほんの少し休憩させてくれるが、すぐにまたくちびるを奪われる。舌をまさぐり、自信と征服欲に満ちたキスが惜しみなく与えられる。いつまでも終わらないので、次第に頭がぼうっとしてきた。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
 ようやく解放されたとき、陽一は肩を上下させながら、荒い呼吸を繰り返していた。
 ミラも頬を薔薇色に染めて、額に汗を滲ませている。荒々しく己のくちびるを手でぬぐうと、陽一を押し倒し、ギラギラした捕食者のような目で眺めおろした。濡れたくちびる、愛撫されて尖っている乳首、赤く染まった肌……それから昂りに視線をとめた。陽一が身動ぐ前に、膝に手をかけて強引に割り開いた。
「あぁ、美味しそう……陽一の精液、ひさしぶり」
 ミラは恍惚と呟いた。陽一は羞恥に襲われたが、キスの余韻でぐったりとしている。吐息が、そこに触れるのを、期待と緊張と、僅かな恐れを抱きながら、ただじっと待っていた。
 ミラは愛おしげに亀頭にちゅっとキスをして、濡れた蜜口をごくそっと、優しく吸った。
「ぁん……」
 えもいわれぬ悦楽に、思考が蕩けていく――
 甘く濡れた声を聴きながら、ミラはゆっくり、焦らすように、屹立に舌を這わせた。うえからしたへ、したからうえへねっとりと舐めあげ、舐めおろし……睾丸を優しく揉みしだく。
「っ、ヤバ、イくっ」
 いくらなんでも早いと思うが、こらえられそうにない。腰を引かせようとするが、逆に腰を引き寄せられ、がっちり固定された。
「ミラッ、でちゃう!」
 ミラは絶対に放さないとばかりに陽一の性器をすっぽり飲みこみ、烈しく顔を前後させた。じゅぷじゅぷっと濡れた水音が響く。喉奥で絞られて、陽一は弾かれたように顎を仰け反らせた。
「ぁあッ! ン~~――ッ……」
 どくっどくっと脈打つたびに、熱いくちのなかに放った。ミラは喉を鳴らして飲みこむと、ゆっくりと頬をすぼめて蜜口を吸いあげた。精管の残滓までも吸いあげて、最後にちゅっとキスをする。
「はぁ……美味しかったぁ。久しぶりの陽一の精液、とっても濃くて、童貞に生まれ変わったみたい夢中になっちゃった。ごちそうさまでした」
 ミラは頬を薔薇色に上気させて、うっとりした顔で睾丸をふにふにともて遊びながら、陽一に笑みかけた。
「……ぅん」
 ツッコミどころ満載で、どう反応すればいいか判らない。気持ち良かったといえば喜ぶのかもしれないが、なにもいわなくても、ミラは幸せそうだ。
「今度は陽一の番。たっぷり飲ませてあげるからね」
 尻を撫でられると、陽一は、ぼんやりしていた思考が少し冷えるのを感じた。不埒な腕を掴んで身を起こそうとするが、肩を押さえつけられて動けない。
「……綺麗にしないと」
 少し困ったように申しでると、ミラはふっと微笑した。
「僕に任せて。綺麗にしてあげる」
 おずおずと、陽一はされるがまま、あられもなく脚を割り開いた。尻が少し浮かびあがる。ミラの白くて長い指が蕾に触れると、ふわっと熱くなった。何度も経験してきた、繋がるための隘路あいろを清浄にしてくれる熱だ。下腹部がすっきりとして、それでいて蕩けていく感覚がする。
「ん……ありがと」
「どういたしまして」
 ミラはさらに尻をもちあげると、顔をそこに埋めた。
「ミラッ」
 陽一は咄嗟に頭を押し返そうとするが、ミラは強い意思をもって、夢中でそこを舐めまわした。じゅるじゅるっと音をたてて後孔を舐めまわし、吸いついて、舌をもぐらせてきた。
「んぁッ! 待っ……んんっ、ミラ! 汚いからっ」
「ふ、ン、今綺麗にしたよ、いい匂い、んっ、美味しい、陽一の味がする……っ」
「ミラ~~ッ」
 さすがに陽一も真っ赤になって抵抗する。けれども巧みに押さえこまれて、孔を吸われまくる。太腿のやわらかな内側にも吸いつかれ、甘噛みされて、揺れる睾丸もしゃぶられた。
「はぁんっ! やぁ、も、やめっ……ミラ、みらぁ」
 声に泣きが入り混じっても、ミラの暴走は止まらなかった。ぴくぴくと震える性器を舐めあげ、亀頭にじゅっと吸いついて、わずかに滲む蜜を啜りあげる。小鳥が啄むようなキスを屹立に落としながら、ふっくらとした会陰までおりていき……ふたたび後孔を舌で責めた。
「嗚呼、美味し……陽一のかわいい孔、最高、エモい、すごく美味しい……っ」
 そんなところに情緒的エモーショナルは感じない。
「ふうぅ~っ……も、いいだろぉ、ちんこ溶ける……っ」
 すでに下半身はぐずぐずになっている。持ちあげられた脚が疲れてきたし、腹筋にも腕にも力が入らない。
「陽一、まだ飛ばないで」
 ミラはようやく陽一の窮状を察し、顔をあげた。べたべたになった口元を乱暴に手でぬぐうと、陽一の膝裏に腕をいれ、欲望に滾る勃起を、とろとろに蕩けた蕾に押しあてた。
「挿れてあげる」
 悪魔のほほえみだ。ぐっと腰が押しだされ、一気に貫かれた。
「あぁッ!!」
 陽一は仰け反った。一瞬の躰の強張り。重たく熱い疼きが全身にゆっくり浸透していき……力を抜いた。こらえきれないほどの悦びを感じる。
 ミラはじっと動かず、満足そうに陽一の様子を見ていた。やがて陽一の躰から余計な力が抜けていくのを待ってから、ゆったりとした抽挿を始めた。腰を掴み、たん、たん、と律動を刻む。
「ぁ、あ、あ、あッ、ン、んァッ」
 情欲に蕩けきった喘ぎ声を止められない。
「かわいい、陽一。好き……っ」
 ミラは頬を上気させ、陽一のあえぐ胸、つんと尖った乳首を親指で倒した。
「ひぅっ」
 身もだえる陽一の胸に顔をふせ、熱いくちびるで乳首を挟みこんだ。片方を指先でこよりながら、もう片方を舐めまわし、甘噛みする。舌で乳首を弾いて、焦らすように円を描いては、くちに含んで吸いあげる。
 あまりの快楽に、陽一が痙攣を起こしたように身じろぐと、ミラは腰を力強く押しだし、ぐじゅうっと後孔を串刺しにした。
「ぁあッン! 深いぃ……ンンッ……」
 ミラは震える陽一の頬を両手ではさみこみ、吐息ごとくちびるを奪った。
 舌を搦めながら、艶めかしい腰の動きで貫かれる。陽一は、全身が液状になって溶けていくような錯覚がした。糸を引いてくちびるが離れると、ミラの肩に顔をうめて、彼の腰の動きにあわせて、誘われるように腰を動かした。
「はぁ、はぁ、はぁ、ぁ、あ、んっ」
 内なる炎が掻きたてられ、媚肉びにくがうねる。固い熱塊に突きあげられるたびに、秘孔が喘ぐ。濡れた音に誘われるように大胆になって、自ら足をあげ、ミラの尻と腿にからませた。
 応じられるとミラも夢中になって、破城槌はじょうづちのように烈しく突きはじめると、意図したよりも力がこもってしまったが、陽一もミラの腰の動きにあわせて腰を振った。
 バサッと翼の拡がる音が聴こえた。
 本能のままに羽搏はばたく音が、ミラの興奮を伝えてくる。
 薔薇を煮詰めたような、むせかえるような官能の匂い。
 覆いかぶさる翼に瞼の奥が暗くなって、陽一の興奮はいや増した。痙攣して躰を浮かせ、熱い肢体にしがみついた。
「あ、ンッ、ミラッ、も、やぁッ」
 陽一はもう限界だった。涼しい部屋で、全身ぐっしょり濡れている。突きあげられるたびに躰が撥ねて、もがいて逃げようとしても、圧倒的な膂力りょりょくに押さえつけられた。重い律動にベッドが悲鳴をあげている。
「ぁんっ、はぁ、ん、んぁあっ」
 嬌声を止められない。涙も溢れて、声は掠れている。ミラは宥めるようにキスをしたり、情欲に濡れた深いキスをしながら陽一を求め、容赦なく鳴かせた。
「あ、ぃ、イくッ、イくからぁっ……!」
 陽一は涙声で叫んだ。イきすぎて辛かった。シーツを掴んで絶頂に耐えようとするが、ミラは陽一の尻を鷲掴み、烈しく貫いた。じゅぷッじゅぷッと淫靡な水音が大きくなる。
「あああッ」
 頭のなかが白熱し、腰の奥が熱く溶けた。
 制御できないほどに膨れあがった快楽が爆発し、熱い液体が躰の奥に注ぎこまれる。白熱した思考のなか、首筋にちくんとした痛みが疾り、牙が食いこむのを感じた。
「ひぅッ、あ、あ~~――ッ……」
 悪魔のような恍惚エクスタシー
 えもいわれぬ絶望的なまでに強烈な悦楽に襲われ、思考と視界が、プツンッと弾け飛んだ。